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第1章
婚約破棄
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「……えっ」
思わず乾いた声が漏れた。
突然の宣言。
戸惑う一同。
騒めきがどんどん大きくなり、私の思考はそれらに覆いつくされていった。
しかし、妙にはっきりとあの2人の声は聞こえる。
「公爵令嬢アデレードは不義の子の分際で、本来俺の婚約者となるはずだったニナの地位を奪ったのだ!」
ヴィクター王子は、大きな声でわけのわからないことを言い出す。
「その後も可愛いニナを鬼の如く虐め抜き、人としての尊厳を奪った。なんて非道な女か!」
王子の後ろに隠れるようにして立っている義妹は、勝ち誇ったような顔で私を見下ろしている。
私の勝ちよ、お義姉様。
ざまあみろ。
とでも言いたげな表情で。
「はあ」
しかし、私の心には何1つ響かなかった。
今まで散々苦労してきたせいか、多少の問題であれば特になんとも思わず受け入れるようになったのだ。
どうしよう。
婚約破棄したら、私の立場が危うくなるな。
誰か私を貰ってくれる人はいるだろうか。
妃教育は受けているから、婚約者としては申し分ない人間だとは自分でも思っているけれど。
でも、第一王子に婚約破棄された令嬢と新たに婚約するのは醜聞だとして嫌う人たちもいるかもしれない。
ゆっくりと思考が回り出す私。
しかしほとんど表情を崩さない私は、第一王子の神経を逆なでしたらしい。
「アデレード!」
先ほどよりも一段階アップした怒号を私に浴びせる。
「なんだその態度は! 罪人としての自覚はあるのか!」
「罪人? 一体なんの話です?」
一体何をもってこの王子は私を「罪人」だと呼ぶのだろうか。
王子は顔を真っ赤にし、とうとうあの言葉を叫ぶ。
「一切反省していないようだなアデレード! であれば、俺はお前から公爵令嬢の地位を剥奪し、ここから追放する! お前は一生庶民として――」
ぷつっと、何かが切れた音がした。
それは一瞬のことで、私にも何がなんだか理解が出来なかった。
しかしそれは、後になって考えてみれば、貴族としての自分を守っていた最後の砦だったのだろう。
私は無意識のうちに、2人に向かって言葉を発した。
「あらそうですか。承知しましたどうぞお幸せにー」
思わず乾いた声が漏れた。
突然の宣言。
戸惑う一同。
騒めきがどんどん大きくなり、私の思考はそれらに覆いつくされていった。
しかし、妙にはっきりとあの2人の声は聞こえる。
「公爵令嬢アデレードは不義の子の分際で、本来俺の婚約者となるはずだったニナの地位を奪ったのだ!」
ヴィクター王子は、大きな声でわけのわからないことを言い出す。
「その後も可愛いニナを鬼の如く虐め抜き、人としての尊厳を奪った。なんて非道な女か!」
王子の後ろに隠れるようにして立っている義妹は、勝ち誇ったような顔で私を見下ろしている。
私の勝ちよ、お義姉様。
ざまあみろ。
とでも言いたげな表情で。
「はあ」
しかし、私の心には何1つ響かなかった。
今まで散々苦労してきたせいか、多少の問題であれば特になんとも思わず受け入れるようになったのだ。
どうしよう。
婚約破棄したら、私の立場が危うくなるな。
誰か私を貰ってくれる人はいるだろうか。
妃教育は受けているから、婚約者としては申し分ない人間だとは自分でも思っているけれど。
でも、第一王子に婚約破棄された令嬢と新たに婚約するのは醜聞だとして嫌う人たちもいるかもしれない。
ゆっくりと思考が回り出す私。
しかしほとんど表情を崩さない私は、第一王子の神経を逆なでしたらしい。
「アデレード!」
先ほどよりも一段階アップした怒号を私に浴びせる。
「なんだその態度は! 罪人としての自覚はあるのか!」
「罪人? 一体なんの話です?」
一体何をもってこの王子は私を「罪人」だと呼ぶのだろうか。
王子は顔を真っ赤にし、とうとうあの言葉を叫ぶ。
「一切反省していないようだなアデレード! であれば、俺はお前から公爵令嬢の地位を剥奪し、ここから追放する! お前は一生庶民として――」
ぷつっと、何かが切れた音がした。
それは一瞬のことで、私にも何がなんだか理解が出来なかった。
しかしそれは、後になって考えてみれば、貴族としての自分を守っていた最後の砦だったのだろう。
私は無意識のうちに、2人に向かって言葉を発した。
「あらそうですか。承知しましたどうぞお幸せにー」
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