とうに公爵令嬢であることを捨てた身なので、義妹が何をしでかそうが興味はありません

 公爵令嬢アデレードの人生は、最初から苦難の連続だった。

 
 7歳のころ、母が病死。

 母の喪が明ける前に父は長年の愛人を屋敷に連れ込み、周囲の反対を押し切って結婚した。
 
 継母となった下品な女とその娘は、前妻の子どもである2人をないがしろにし、嘲笑する。

 自分たちがまるで一番かのように振舞う横暴な彼女たちを、父は見て見ぬふり。
 
 それどころか、実の娘であるアデレードよりも義理の娘の方を心底可愛がり、事あるごとにアデレードの容姿を馬鹿にしていた。


 10年。

 その苦しみに耐え続けてきた彼女は、婚約者の第一王子の一言によって何かがぷつっと切れた。


「俺は公爵令嬢アデレードと婚約破棄し、その義理の妹と結婚する!」

「嫉妬し彼女を虐めた罪で、公爵令嬢アデレードはその地位を剥奪し庶民に――」

「あらそう。承知しましたどうぞお幸せにー」


 17年。

 産まれてこの方貴族であったことを一度も良かったと思ったことのない彼女は、王子の言葉を聞くや否やさっさとその身分を捨てた。


「お、お前……! 公爵家の身分が惜しくはないのか」

「いりません。ついでにあなたの婚約者という地位もいりません。どうぞお古で良ければ義妹に差し上げてくださいませ。それではごきげんよう」


 その場を去った彼女は、以前より親交のあった大商人の手助けにより、市街地でカフェをオープンさせた。

 自分を受け入れてくれた優しい市民との交流を心より楽しんでいるアデレードの元に、元婚約者や貴族たちがやってくる。


「あの女をどうにかしてくれ! もう宮廷はめちゃくちゃだ」

「俺が悪かった。本当に愛していたのはお前だったんだ」


 そんな連中に、彼女は吐き捨てるように言った。


「私はとうに公爵令嬢であることを捨てた身ですので」

「義妹が何をし出来そうが興味はありませんわ。さっさと帰ってくださいまし」
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