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第1章

急接近

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 そう言えば、とふと思い出す。


 ストーリー上の殿下がなぜ歪んだ人間となってしまったのか。


 悪役令嬢であるハリエットに虐められたのがその理由なんだけど。

 直接の原因は、この事件だった。
 

 殿下は複数人の令嬢に手を出されそうになる。

 それを止めたのは、作中では大人たちだったが。


 その令嬢たちは殿下を辱めようとした理由について、私――公爵令嬢ハリエットの名前を出したのだ。


「ハリエット様が私たちにやれってお命じになったの」


 もちろんそんなことは嘘っぱちだったが。

 それを聞いた殿下はますますハリエットを嫌いになり、ハリエットは殿下の気を引こうと虐めを繰り返すようになる――。


 私はゾッとした。

 じゃあ私がもしあそこで止めなければ、私は殿下に思いきり嫌われることになっていたわけだ。

 友人などなれるはずもない、修復不可能レベルに。


 しかも私が全く関与していない、完全なる濡れ衣によって。


 ちょっと前の私、ナイスプレーだわ。


 そのちょっと前の私の功績によって、私は殿下に気に入られるようになった。


 あの超絶塩対応の殿下が、私に話しかけたり笑いかけたりするようになったのだ。

 本当に良かった。


 マクシミリアン殿下は、私を、

「ハリエット」

 と、呼び、

「ハリエット。花は好きか?」

「ハリエット。今日は本を一緒に読もう」

 と、にこやかな表情で私に話題を振る。


「ええ、殿下」

「良いですわ」


 私もいつも通りの調子で殿下に対応した。


 ひとまず安心だ。

 殿下は私に懐いてくれたし、実際関係も進歩している。


 良い友人関係には持っていけそうな感じだ。


 物凄く冷たかった小さな子どもに好かれるのも、なんだか悪い気はしないし。

 両親の心配事もこれで払しょくできそうだ。



 
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