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第2章
泉
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「は? なんなのあれ!」
私は家の前で地団駄を踏む。
「こっちは頼まれてきたのに!」
「落ち着け」
ゼロに窘められる。
「ここで騒いだって仕方がない。ちょっとこの村から離れるぞ」
「……わかったわ」
私はゼロとともに、一旦村を離れることにする。
「にしてもさ、あり得ないでしょ!」
私たちは村の外を出た辺りにある泉にやって来た。
森の中でポツンと存在するこの泉は、とても幻想的だった。
濁り1つない水によって、泉の底は、はっきりと透けてみえる。
その水面は、時折風に踊らされ、キラキラと日の光を反射して光った。
前世じゃ、こんな場所ついぞ見かけたことがない。
この泉の美しさに感嘆したいという気持ちもあるが、私の怒りはそれどころではなかった。
「百歩譲って、よ。百歩譲って、まだよそ者が村に入るのを嫌がる気持ちはわかるわ」
私の住んでいた日本は、割とそういう風潮があった。
「でもさ、あの言い方はなくない? 酷くない? せっかく退治しようと思ってやって来た人間に対して、あの態度はなくない? マジでふざけんな!」
「お前なあ……」
ゼロは嘆息した。
「お前、貴族だろ? もうちょっとまともな口調で喋ったらどうだ?」
「うるさい! 私はもう貴族じゃないのよ。別に良いでしょ!」
「貴族じゃなくても、人間としての尊厳をまずどうにか守れよ。綺麗な言葉遣いをしろとは言わねぇから、そういう行動は取るな」
「どういう行動?」
「自分の足を見ろ」
「あっ」
最近買った冒険者用のキュロットが、めくれあがっていた。
さすがにその下にはちゃんとスコートを履いていたが、キュロットがめくれているのには変わりない。
「これは失礼」
私は両手でキュロットの形を整える。
「頼むから、その辺で変な恰好だけはするなよ」
「……ごめんなさい」
ちゃんと頭を下げた。
「いや、もう良い。それより、すまん。俺も悪かったな」
「何が?」
ゼロはバツの悪そうな顔で、私から視線を逸らす。
「その、俺がこの依頼を選んだろ? だから、あんたに迷惑をかけてしまったというか」
「あー」
私は言う。
「あなたのせいじゃないでしょ。だって、依頼を受ける時点でこうなるとは誰も想像できないだろうし」
「だが、費用が」
「お金のことは気にしないで良いわよ。どうせ、武器は買うつもりだったわ」
お金は無限ではないが、そこそこある。
それに、追放されるときに身に着けていた宝石やドレスなんかも、売れば良い値段はしそうだし。
「そうか」
「それより、どうする?」
「一旦中央都市に戻るぞ。このことはちゃんとあのギルド協会に言わなきゃなんねぇ」
「そうね」
私たちがその場を離れ、また元来た道を戻ろうとしていると、
「す、すみませんっ! すみませーん!」
と、若い男の声が後方から聞こえてきた。
私は家の前で地団駄を踏む。
「こっちは頼まれてきたのに!」
「落ち着け」
ゼロに窘められる。
「ここで騒いだって仕方がない。ちょっとこの村から離れるぞ」
「……わかったわ」
私はゼロとともに、一旦村を離れることにする。
「にしてもさ、あり得ないでしょ!」
私たちは村の外を出た辺りにある泉にやって来た。
森の中でポツンと存在するこの泉は、とても幻想的だった。
濁り1つない水によって、泉の底は、はっきりと透けてみえる。
その水面は、時折風に踊らされ、キラキラと日の光を反射して光った。
前世じゃ、こんな場所ついぞ見かけたことがない。
この泉の美しさに感嘆したいという気持ちもあるが、私の怒りはそれどころではなかった。
「百歩譲って、よ。百歩譲って、まだよそ者が村に入るのを嫌がる気持ちはわかるわ」
私の住んでいた日本は、割とそういう風潮があった。
「でもさ、あの言い方はなくない? 酷くない? せっかく退治しようと思ってやって来た人間に対して、あの態度はなくない? マジでふざけんな!」
「お前なあ……」
ゼロは嘆息した。
「お前、貴族だろ? もうちょっとまともな口調で喋ったらどうだ?」
「うるさい! 私はもう貴族じゃないのよ。別に良いでしょ!」
「貴族じゃなくても、人間としての尊厳をまずどうにか守れよ。綺麗な言葉遣いをしろとは言わねぇから、そういう行動は取るな」
「どういう行動?」
「自分の足を見ろ」
「あっ」
最近買った冒険者用のキュロットが、めくれあがっていた。
さすがにその下にはちゃんとスコートを履いていたが、キュロットがめくれているのには変わりない。
「これは失礼」
私は両手でキュロットの形を整える。
「頼むから、その辺で変な恰好だけはするなよ」
「……ごめんなさい」
ちゃんと頭を下げた。
「いや、もう良い。それより、すまん。俺も悪かったな」
「何が?」
ゼロはバツの悪そうな顔で、私から視線を逸らす。
「その、俺がこの依頼を選んだろ? だから、あんたに迷惑をかけてしまったというか」
「あー」
私は言う。
「あなたのせいじゃないでしょ。だって、依頼を受ける時点でこうなるとは誰も想像できないだろうし」
「だが、費用が」
「お金のことは気にしないで良いわよ。どうせ、武器は買うつもりだったわ」
お金は無限ではないが、そこそこある。
それに、追放されるときに身に着けていた宝石やドレスなんかも、売れば良い値段はしそうだし。
「そうか」
「それより、どうする?」
「一旦中央都市に戻るぞ。このことはちゃんとあのギルド協会に言わなきゃなんねぇ」
「そうね」
私たちがその場を離れ、また元来た道を戻ろうとしていると、
「す、すみませんっ! すみませーん!」
と、若い男の声が後方から聞こえてきた。
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