私が聖女だからって舐めてもらっちゃ困りますわ、婚約者様

プロローグ

  ミアこと私はイライラしていた。


  私は3代目聖女だ。

  出身は貧乏子爵だったが、教会で行われた「聖女選別会」にて最優秀の成績を取り、聖女になって数年が経っている。

  かなり聖女の仕事にも慣れ、多額の給料や家族の出世と、昔が考えれないほどの裕福な生活を送れるようになっていた。

  が、我慢出来ないものが一つだけあった。

  それは、


  婚約者ピートの存在である。


  現に、この目の前ーー私の前にいるピートと他の令嬢は、学園という公然の場でイチャイチャしているのだ。

「ハハ、君は本当に可愛いな」

「やだ、ピート様ったら」


「……」

「あ、あの……。聖女様？」

  私が奴らを見て微動だにしないのを、学園の中を案内している教師は恐る恐るというふうに声をかけてくる。

「大丈夫でしょうか？」

「ええ、大丈夫ですわ」

  私はそう返事をしながら、なおのこと二人の行動を凝視する。一挙一動を見つめている。

「た、確かあれは公爵子息のピートでしたな」

  同じく、私を案内している校長が、その教師に尋ねる。

「え、ええ」

「そうですね。そして、私の婚約者でもあります」

  私の一言に、二人はすっかり黙り込んでしまった。


  正直に言おう。

  私は、あのスケコマシ変態野郎について、恋情もクソも持ち合わせていない。

  だけど、婚約者を差し置いて他の女とイチャイチャするあのアホが、私を馬鹿にしているあのアホが、ものすごくムカつくのだ。


  イライラする。


  私は地団駄を踏み、それが聖女らしくない行いだと神官のウィルから注意される。

「聖女様、何やってるんですか」

「あれ見てよ！」

「はいはい。あのアホは放っておいて、仕事ですから」

「……仕方がないわね。わかったわよ」

  私は渋々ウィルの言うことを聞く。

  私が聖女の仕事を全うするのか不安だったからか、それともピートの不貞の責任を擦り付けられると思って心配していたのか、二人の教師は一様に安堵のため息をついた。

「さあ、参りましょう。聖女様」

  教師に促され、私は歩みを進める。


  が、今回の件で私の方向性は定まってしまった。


  絶対にあの馬鹿に仕返ししてやる。