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相談

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「で、どうしようかなと思ってて。殿下とデートするかしないか」

「あら、あの場ではOKしたんじゃないの?」


 カトリーヌ王女の言葉は至極当然のことだ。


 確かに、私はあの場で、

「はい」


 と言ってしまっていた。


 誘導尋問であるとはいえ。


「でもね」

 私は言う。

「よく考えてみれば、私は聖女だし。殿下は殿下だし。完全にデートすることは出来ないんじゃないかと思って」

「完全にってどういうこと?」

「殿下のおっしゃるデートと言うのは、完全2人きりで外に遊びに行くことなわけ。でも、それは出来ない。だって私たちは気軽にそう出来る立場ではないから」

「まあ、確かにそうね」


 カトリーヌ王女は同意した。

「それに、ウィルは私が外出するのを快く思っていないって言ってて。私を狙う連中がいるからって」

「それはそうね。私もよく世話係に言われるわ」

「でも彼に相談したら、いつも言っているのとは違うことを言っていて」

「なんて言われたの?」

「ちゃんと安全を確保出来るなら、別に構わないって」

「なら問題ないじゃない」

「でも……」


 私は口ごもる。

「私たちは、やっぱりその、外に出られない立場で」

「ねえミア」


 カトリーヌ王女の穏やかな声が、鼓膜に響く。

「あなたはね、私に相談を持ちかけているんじゃないの」

「どういうこと?」

「もうあなたの中では、結論は決まっている。お兄様とデートをしたくない。でしょ?」

「えっ」

「だって、あなたの普段の姿は猪突猛進。もしあなたがお兄様とデートをしたいって思っているなら、ウィルを説得したり元老院を説得したりなんなりしてどうにか漕ぎつけるはずだわ。でも、ウィルに許可をもらっているのにそうなんだから、あなたはデートに行きたくないのよ」

「……」

「考えてもみなさい。問題はコストなのよ。あなたがお兄様とデートへ行ったときに起こり得るコストと、行かなかった場合に起こるコストを考えるのよ。で、どっちが大変だと思う?」


 殿下とデートに行けば、誰かに狙われる可能性がある。

 殿下とデートに行かなければ、殿下が傷つくかもしれない。


「もしそこでお兄様が傷つくかもしれないと考えているなら、それはコストじゃない。あなたにとってのね。それはお兄様のコストよ」

 カトリーヌ王女は、子どもを窘めるかのように優しく言った。

「お兄様が傷つくかどうか、あなたが気に病む必要はない。わかるわよね?」

「……うん」

「というか、もし傷つけたくないなら早めに言うことね。むしろこういうのは遅ければ遅いほど向こうの期待が高まるから、比例してショックを受けるのよ」

「そうね。わかった」


 この電話が終わったら、直接殿下に申し上げよう。


 デートをすることは出来ないって。

「まあ、お兄様も失敗したわね」

 カトリーヌ王女は言った。

「強引過ぎたのよ。あなたの気持ちも考えずに」

「あはは……」


 私は苦笑する。

「今日は相談に乗ってくれてありがとう」

「いいえ、どういたしまして。それより、相談相手に選んでくれて良かったわ」

「どうして?」

「だって、それって私のこと、頼りにしてくれているってことでしょう? 嬉しかったわ」

「それは良かった。相談し甲斐があるわね」

「うふふ。じゃあね」

「うん。またね」


 私は電話を切り、ため息をついた。
 
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