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解決策②

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「それ、良いじゃないですか」


 ウィルは私の軽く口にしたぼやきを、なぜか拾った。

「えっ」

「王族に、例えばセオドリック殿下なんかにお願いして婚約者になってもらえば――」

「ちょっと待って」


 私はウィルの言葉を遮った。

「そんな簡単に言えることではないでしょ?」


 なぜなら、相手は貴族ではない。

 王族だ。

 しかも、次期国王である。


「相手は次期国王なのよ? そんな方においそれとお願いなんて」

「あなた、してたじゃないですか」


 ウィルは真顔に戻る。

「私、忘れてませんよ。学園に入学するかどうかについて殿下に一言お願いしたのを――」

「あー、ごめんごめん! あのときは失礼しました!」


 これ以上放置すると、変なタイミングでお説教が入る。


 私はすぐに謝罪し、話をもとに戻した。


「そ、それに。殿下の気持ちもあるじゃない」

「殿下は聖女様のことが好きなんですよ」


 ウィルの言葉を聞いて、私は思いっきりせき込む。

「な、何言ってんのよ!?」

「事実ですよ」


 私の焦っている様子を見ても、ウィルは涼やかだ。

「セオドリック殿下は、あなたのことが好きなようです。実際、デートに誘われていたではありませんか」

「そ、それは……」


 だけどそのことを、第三者であるウィルは言うことではない。

「で、でも」


 私は食い下がる。

「そもそも、最大の問題があるじゃないの」


 教会と王家の関係性だ。


 簡単に説明すると、この国は大まかに3つの権力が存在する。


 王家、貴族、そして教会だ。


 当然王家が一番上ではあるものの、それぞれに権力は分散し、お互いがお互いに過干渉することなく、独立した一個体として存在している。


 特に教会と王家の関係なんかそうで、私たち教会側は王家に対し、つかず離れずの関係を築いていきたいと考えている。


 そんな状況下で、聖女と王子が婚約すれば。


 それはもう、大問題だ。

 教会と王家の権力が集中し、バランスが崩れてしまう。


「そうですか」

「そうですかって……。一体どうしたの? ウィル」


 私は心配になる。

「本来のあなたなら、そんな向こう見ずなこと言わないのに」

「本来の私?」

「そうでしょ」


 だって、普段なら私の行動を堅物なウィルが訂正するという一連の流れが出来ていたのに。

 なぜか今日は、それの正反対だ。


「風邪? 病気?」


 だが、彼は私の質問には答えず、腕を組んでしばし考えているふうな仕草を見せたあと――。

「それでは、逃げてみます?」

「えっ」

「私と一緒に、です。聖女の座を捨て、市井へ下りますか?」
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