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side-琥太郎 5.
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今朝、何ごともなかったことを装い、家を出た。
玄関の荷物は、昨晩守が逃走する際にぐちゃぐちゃに荒らされており、見ているだけでため息が出てくる。
アイツは、出て行ったっきり戻っては来なかった。
どこに行ったのかは、俺にはわからない。
ただ、当たり前のように俺の家の合鍵を持っていた事実に今更ながら寒気を感じる。
あの後、俺の中で色々整理することができたお陰で、はっきりと記憶を思い出すことができた。
俺の恋人は、朝陽で間違いない。
アイツ、守は……朝陽と付き合う前に出会ったのは確かだ。
俺が大学のときに同じゼミにいたアイツ。
電車で痴漢に遭っているのを助けたのも事実だ。
しかし、俺とアイツの関係はそれだけでしかない。
友人でもなければ恋人なんてあり得ない。
アイツには……もう、何度もそのことを伝えている。
マンションの廊下に足音が響き、アイツがどこかで待ち伏せしているんじゃないかと不安が付きまとう。
前々からアイツは俺の周りをうろついていた。
一階にあるポストを荒らされていたことも、ゴミを荒らされたこともある。
仕事帰りに後を付けられることはしょっちゅうだ。
さっさと警察に相談しろって話だが、朝陽に知られるのが嫌でずっと放置してしまっていた。
朝陽のことだから、アイツのことを知ったら激怒するだろうし、心配してくれるのも目に見えている。
だが、アイツに朝陽の存在を知られることの方が嫌だった。
アイツが……朝陽になにかするんじゃないかって、怖かった。
そんな浅はかな俺の考えが、今回の事件に繋がってしまった。
やっと、やっと全ての記憶を思い出した。
思い出したからこそ、自分のしでかした失態の数々に嫌悪感が募る。
今すぐ、朝陽に連絡を取って謝りたい。
あの日、あんな言葉を言ったことを謝りたい。
「俺の恋人は、朝陽ただひとりだ」と、目を見て伝えたい。
朝陽を、この手で抱きしめて、あのときの涙を拭ってやりたい。
でも、今の俺にそれをする資格がない。
あの日、朝陽を傷つけたのは、間違いなく俺自身だ。
アイツに嘘の記憶を植え付けられていたとはいえ、朝陽に向かって酷い言葉を投げかけたのは俺だ。
それに、俺の記憶が戻っていることを、アイツに悟られるのはマズい。
アイツは、朝陽のことを知っていた。
朝陽が恋人ということも、今出張でいないことも知っていた。
そんなアイツが、俺が記憶を取り戻したと知ったら、何をしでかすのかわからない。
スマホ画面に映し出された朝陽の名前を愛おし気に指でなぞる。
思い出してすぐ、ブラックリストに登録していた朝陽のデータを元に戻した。
だが、朝陽からの連絡が一切ない。
あんなことを言ってしまったんだ。連絡がないのは、当然だよな……
『コタ、オレが戻って来たら、一緒に住まないか?その……えっと、オレも……コタとずっと一緒にいたいなぁ~って思って』
恥ずかしそうにはにかみながら言ってくる朝陽の顔を見て、自然と頬が緩んだ。
それと同時に、自分がずっと抱えていた問題に決着を付けなければと思った。
あの日、仕事の帰り道、いつもと違う道を通り、近くに高台のある公園へと向かった。
公園の入口に立つ街灯が薄暗く光り、冷たい風が頬を刺す。
公園の芝生が足元でざわめき、遠くに見える街の灯りがキラキラと輝いて見える。
「琥太郎!今日はどうしたの?もしかして僕とデートしたくてここまで来たの?」
木の影からひょっこりと現れた小柄な青年にゾクッとした寒気を感じる。
「もしかして、やっと僕の気持ちを受け入れてくれる気になったの?ふふっ、嬉しいなぁ~」
目をキラキラと輝かせながら俺に軽やかに駆けてきて、当然のように抱き付いてくるストーカー野郎。
「琥太郎みたいにカッコいい人が、あんな奴と付き合ってるなんておかしいよ。僕みたいに可愛い子がやっぱりいいよね」
何が楽しいのか、ひとりでコロコロと笑いながら俺の胸に擦り寄って来るのが気持ち悪くてしかたない。
彼の髪から香る甘いシャンプーの匂いに顔を歪める。
守の華奢な身体を強く押し退けると、守の足が芝生に滑る。
「え?」
転びそうになるのを俺のシャツを勝手に掴んで耐えたものの、華奢な肩が微かに震えていた。
「何度も言っているが、俺は君と付き合うつもりは一切ない。何度告白されようと、この気持ちは変わらない。むしろ……付きまとわれて、君への嫌悪感が増すばかりだ」
突き放してなお細い指でしがみ付いてくる彼に、嫌悪感を露わにし、冷たく言い放つ。
俺の言葉を聞いた守は、見る見るうちに顔を歪ませ、しがみ付いていた手を離して、拳を握る。
暗くなった夜の公園にいるのは、俺とコイツのふたりだけだ。
公園の木々が風でざわめき、サワサワと葉が擦れる音が聴こえてくる。
「なんで……?なんで、僕じゃダメなの?」
小さく肩を震わせながら、動揺した声で聞いてくる。
「僕はこんなに琥太郎のこと愛してるのに?」
声を震わせながら哀願してくる声に狂気を感じる。
「俺の名前を気安く呼ばないで欲しい。不愉快だ」
俺が拒絶の言葉を口にした瞬間、さっきまで泣きそうだった彼の表情が一転し、キッと睨み付けてくる。
「なんで!なんでダメなの!あんなのより僕の方が可愛いのに!アレがいるからダメなの?アレが居なくなれば、琥太郎は僕のモノになってくれるの!?」
人気のない公園で、ヒステリックな甲高い声が響き渡る。
守の叫び声が公園の静寂を切り裂き、眠っていたはずの鳥が飛び立つ。
守の叫ぶ内容を聞いて、心臓がバクバクと跳ねる。
こいつは、何を言っているんだ?
アレって、なんのことを言っているんだ?
まさか……
「琥太郎、ちょっと待っててね。すぐにアレを消してあげる♡そうすれば、琥太郎は安心して僕のモノになれるでしょ?ふふっ、大丈夫だよ。僕は優しいから、浮気してたのは許してあげるね。その分、アレにはいっぱい苦しんでもらわなきゃ……」
クルクルとその場でダンスでも踊るように回り、楽し気に言いだす彼の言葉に背筋が凍る。
「……まさかと思うが……俺の恋人に指一本でも触れてみろ、お前を絶対に許さないからな」
怒りで目の前が真っ赤になり、握っていた拳が震える。
「ッ!な、なんでっ?どうしてわかってくれないの?琥太郎はボクの恋人になる運命でしょ?今はアレに惑わされてるだけだよ。アイツを消せば、琥太郎の運命の相手はボクだってわかってくれるんだよ?」
甲高い不快な声で喚く彼に嫌気が差す。
怒鳴り散らしたい気持ちを抑え、深く、深く息を吐き出し、冷たい声で言い放つ。
「どんなことを言われようが、俺が愛しているのはたったひとりだ。お前じゃない。もうこれ以上俺たちに関わらないでくれ。俺にも付きまとうな。何かするようなら、警察を呼ぶ」
冷静に警告し、俺はゆっくりと階段を降り始めた。
もうこれで大丈夫だ。
何かあれば、次からは警察に全て相談しよう。
それに、これだけハッキリ言えば、コイツも諦めるだろう。
そう、思っていた。
だが、次の瞬間、その考えが甘かったのだと、コイツの狂気はそんな生易しいものじゃなかったのだと思い知らされる。
「……琥太郎。ボクのモノにならないなら、一緒に死んじゃお?」
背中に何かがぶつかった衝撃のせいでバランスを崩し、甘いシャンプーの香りが鼻につくと同時に、身体が宙を舞い、冷たい風が耳を圧する。
階段の冷たいコンクリートが視界に迫り、背中に鋭い痛みが走る。
痛みと同時に目に入ったのは、歪な笑みを浮かべたストーカーの彼の顔だった。
まさか、自分ごと階段から転落するように抱き着いて来るとは思ってもみなかった。
階段から落ちた衝撃のせいで全身に鈍い痛みが生じ、意識が遠ざかっていく。
「あ、さひ……」
愛しい恋人の顔が脳裏に浮かぶも、なぜか白い霞が朝陽の顔を覆い隠し、白く消していく。
朝陽のダークブラウンの柔らかな髪も、拗ねたように唇を尖らした表情も……
すべてが、白い闇の中に消えていった。
「これで、琥太郎は……僕のモノ。僕、だけの……」
薄れゆく意識の中、狂気に満ち溢れた守の呪いのような声を聞いた。
この後、俺が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
白い天井に、消毒液の匂いが鼻につく。
頭に巻かれた包帯が重く、身体に鈍い痛みが響いた。
病院に一緒に運ばれたストーカー野郎は、俺の記憶が曖昧なことを良いことに、自分を恋人だと言い張った。
俺たちを発見した人も、俺たちが抱き合うように倒れていたことから、恋人同士の痴話喧嘩か事故で脚を踏み外したのだろうと推測したようだ。
俺は、事故のせいとはいえ、あんな奴を恋人だと思い込んでいた。
この世で一番嫌悪している相手に愛を囁き、何度も口付けを交わしてしまった。
一番愛すべき人を傷つけ、泣かせてしまった。
『ご、めん……。琥太郎……ッ、ごめんっ!』
泣きながら走り去った朝陽の震える背中を思い出すだけで、胸が締め付けられる。
俺が、最初から警察にストーカーの相談をしていれば……
朝陽にアイツのことを、少しでも相談していれば……
ひとりでで対処せず、警察に協力を仰いでいれば……
後悔だけが浮かんでは消えていく。
だが、今はこんなことをしている暇はない。
今は、朝陽の安全が確保されることが一番だ。
俺と一緒に簡単に身を投げ出したアイツの行動を考えると、放置することなんてできない。
玄関の荷物は、昨晩守が逃走する際にぐちゃぐちゃに荒らされており、見ているだけでため息が出てくる。
アイツは、出て行ったっきり戻っては来なかった。
どこに行ったのかは、俺にはわからない。
ただ、当たり前のように俺の家の合鍵を持っていた事実に今更ながら寒気を感じる。
あの後、俺の中で色々整理することができたお陰で、はっきりと記憶を思い出すことができた。
俺の恋人は、朝陽で間違いない。
アイツ、守は……朝陽と付き合う前に出会ったのは確かだ。
俺が大学のときに同じゼミにいたアイツ。
電車で痴漢に遭っているのを助けたのも事実だ。
しかし、俺とアイツの関係はそれだけでしかない。
友人でもなければ恋人なんてあり得ない。
アイツには……もう、何度もそのことを伝えている。
マンションの廊下に足音が響き、アイツがどこかで待ち伏せしているんじゃないかと不安が付きまとう。
前々からアイツは俺の周りをうろついていた。
一階にあるポストを荒らされていたことも、ゴミを荒らされたこともある。
仕事帰りに後を付けられることはしょっちゅうだ。
さっさと警察に相談しろって話だが、朝陽に知られるのが嫌でずっと放置してしまっていた。
朝陽のことだから、アイツのことを知ったら激怒するだろうし、心配してくれるのも目に見えている。
だが、アイツに朝陽の存在を知られることの方が嫌だった。
アイツが……朝陽になにかするんじゃないかって、怖かった。
そんな浅はかな俺の考えが、今回の事件に繋がってしまった。
やっと、やっと全ての記憶を思い出した。
思い出したからこそ、自分のしでかした失態の数々に嫌悪感が募る。
今すぐ、朝陽に連絡を取って謝りたい。
あの日、あんな言葉を言ったことを謝りたい。
「俺の恋人は、朝陽ただひとりだ」と、目を見て伝えたい。
朝陽を、この手で抱きしめて、あのときの涙を拭ってやりたい。
でも、今の俺にそれをする資格がない。
あの日、朝陽を傷つけたのは、間違いなく俺自身だ。
アイツに嘘の記憶を植え付けられていたとはいえ、朝陽に向かって酷い言葉を投げかけたのは俺だ。
それに、俺の記憶が戻っていることを、アイツに悟られるのはマズい。
アイツは、朝陽のことを知っていた。
朝陽が恋人ということも、今出張でいないことも知っていた。
そんなアイツが、俺が記憶を取り戻したと知ったら、何をしでかすのかわからない。
スマホ画面に映し出された朝陽の名前を愛おし気に指でなぞる。
思い出してすぐ、ブラックリストに登録していた朝陽のデータを元に戻した。
だが、朝陽からの連絡が一切ない。
あんなことを言ってしまったんだ。連絡がないのは、当然だよな……
『コタ、オレが戻って来たら、一緒に住まないか?その……えっと、オレも……コタとずっと一緒にいたいなぁ~って思って』
恥ずかしそうにはにかみながら言ってくる朝陽の顔を見て、自然と頬が緩んだ。
それと同時に、自分がずっと抱えていた問題に決着を付けなければと思った。
あの日、仕事の帰り道、いつもと違う道を通り、近くに高台のある公園へと向かった。
公園の入口に立つ街灯が薄暗く光り、冷たい風が頬を刺す。
公園の芝生が足元でざわめき、遠くに見える街の灯りがキラキラと輝いて見える。
「琥太郎!今日はどうしたの?もしかして僕とデートしたくてここまで来たの?」
木の影からひょっこりと現れた小柄な青年にゾクッとした寒気を感じる。
「もしかして、やっと僕の気持ちを受け入れてくれる気になったの?ふふっ、嬉しいなぁ~」
目をキラキラと輝かせながら俺に軽やかに駆けてきて、当然のように抱き付いてくるストーカー野郎。
「琥太郎みたいにカッコいい人が、あんな奴と付き合ってるなんておかしいよ。僕みたいに可愛い子がやっぱりいいよね」
何が楽しいのか、ひとりでコロコロと笑いながら俺の胸に擦り寄って来るのが気持ち悪くてしかたない。
彼の髪から香る甘いシャンプーの匂いに顔を歪める。
守の華奢な身体を強く押し退けると、守の足が芝生に滑る。
「え?」
転びそうになるのを俺のシャツを勝手に掴んで耐えたものの、華奢な肩が微かに震えていた。
「何度も言っているが、俺は君と付き合うつもりは一切ない。何度告白されようと、この気持ちは変わらない。むしろ……付きまとわれて、君への嫌悪感が増すばかりだ」
突き放してなお細い指でしがみ付いてくる彼に、嫌悪感を露わにし、冷たく言い放つ。
俺の言葉を聞いた守は、見る見るうちに顔を歪ませ、しがみ付いていた手を離して、拳を握る。
暗くなった夜の公園にいるのは、俺とコイツのふたりだけだ。
公園の木々が風でざわめき、サワサワと葉が擦れる音が聴こえてくる。
「なんで……?なんで、僕じゃダメなの?」
小さく肩を震わせながら、動揺した声で聞いてくる。
「僕はこんなに琥太郎のこと愛してるのに?」
声を震わせながら哀願してくる声に狂気を感じる。
「俺の名前を気安く呼ばないで欲しい。不愉快だ」
俺が拒絶の言葉を口にした瞬間、さっきまで泣きそうだった彼の表情が一転し、キッと睨み付けてくる。
「なんで!なんでダメなの!あんなのより僕の方が可愛いのに!アレがいるからダメなの?アレが居なくなれば、琥太郎は僕のモノになってくれるの!?」
人気のない公園で、ヒステリックな甲高い声が響き渡る。
守の叫び声が公園の静寂を切り裂き、眠っていたはずの鳥が飛び立つ。
守の叫ぶ内容を聞いて、心臓がバクバクと跳ねる。
こいつは、何を言っているんだ?
アレって、なんのことを言っているんだ?
まさか……
「琥太郎、ちょっと待っててね。すぐにアレを消してあげる♡そうすれば、琥太郎は安心して僕のモノになれるでしょ?ふふっ、大丈夫だよ。僕は優しいから、浮気してたのは許してあげるね。その分、アレにはいっぱい苦しんでもらわなきゃ……」
クルクルとその場でダンスでも踊るように回り、楽し気に言いだす彼の言葉に背筋が凍る。
「……まさかと思うが……俺の恋人に指一本でも触れてみろ、お前を絶対に許さないからな」
怒りで目の前が真っ赤になり、握っていた拳が震える。
「ッ!な、なんでっ?どうしてわかってくれないの?琥太郎はボクの恋人になる運命でしょ?今はアレに惑わされてるだけだよ。アイツを消せば、琥太郎の運命の相手はボクだってわかってくれるんだよ?」
甲高い不快な声で喚く彼に嫌気が差す。
怒鳴り散らしたい気持ちを抑え、深く、深く息を吐き出し、冷たい声で言い放つ。
「どんなことを言われようが、俺が愛しているのはたったひとりだ。お前じゃない。もうこれ以上俺たちに関わらないでくれ。俺にも付きまとうな。何かするようなら、警察を呼ぶ」
冷静に警告し、俺はゆっくりと階段を降り始めた。
もうこれで大丈夫だ。
何かあれば、次からは警察に全て相談しよう。
それに、これだけハッキリ言えば、コイツも諦めるだろう。
そう、思っていた。
だが、次の瞬間、その考えが甘かったのだと、コイツの狂気はそんな生易しいものじゃなかったのだと思い知らされる。
「……琥太郎。ボクのモノにならないなら、一緒に死んじゃお?」
背中に何かがぶつかった衝撃のせいでバランスを崩し、甘いシャンプーの香りが鼻につくと同時に、身体が宙を舞い、冷たい風が耳を圧する。
階段の冷たいコンクリートが視界に迫り、背中に鋭い痛みが走る。
痛みと同時に目に入ったのは、歪な笑みを浮かべたストーカーの彼の顔だった。
まさか、自分ごと階段から転落するように抱き着いて来るとは思ってもみなかった。
階段から落ちた衝撃のせいで全身に鈍い痛みが生じ、意識が遠ざかっていく。
「あ、さひ……」
愛しい恋人の顔が脳裏に浮かぶも、なぜか白い霞が朝陽の顔を覆い隠し、白く消していく。
朝陽のダークブラウンの柔らかな髪も、拗ねたように唇を尖らした表情も……
すべてが、白い闇の中に消えていった。
「これで、琥太郎は……僕のモノ。僕、だけの……」
薄れゆく意識の中、狂気に満ち溢れた守の呪いのような声を聞いた。
この後、俺が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
白い天井に、消毒液の匂いが鼻につく。
頭に巻かれた包帯が重く、身体に鈍い痛みが響いた。
病院に一緒に運ばれたストーカー野郎は、俺の記憶が曖昧なことを良いことに、自分を恋人だと言い張った。
俺たちを発見した人も、俺たちが抱き合うように倒れていたことから、恋人同士の痴話喧嘩か事故で脚を踏み外したのだろうと推測したようだ。
俺は、事故のせいとはいえ、あんな奴を恋人だと思い込んでいた。
この世で一番嫌悪している相手に愛を囁き、何度も口付けを交わしてしまった。
一番愛すべき人を傷つけ、泣かせてしまった。
『ご、めん……。琥太郎……ッ、ごめんっ!』
泣きながら走り去った朝陽の震える背中を思い出すだけで、胸が締め付けられる。
俺が、最初から警察にストーカーの相談をしていれば……
朝陽にアイツのことを、少しでも相談していれば……
ひとりでで対処せず、警察に協力を仰いでいれば……
後悔だけが浮かんでは消えていく。
だが、今はこんなことをしている暇はない。
今は、朝陽の安全が確保されることが一番だ。
俺と一緒に簡単に身を投げ出したアイツの行動を考えると、放置することなんてできない。
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