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「ミツ、顔を上げてくれないか?」
ハルくんの声に、恐る恐る顔を上げる。
「俺は、俺の意思でミツを抱いたんだ。ミツが発情期で朦朧としてるのをいいことに、自分の欲を抑えきれなくて……」
泣き出しそうなハルくんと目が合い、胸が痛い。
「だから、ミツが謝ることなんて何1つないんだ。むしろ、ミツは怒っていいし俺のことを恨んでもいいんだ」
ハルくんは何も悪くないのに、何度も謝ってくれた。
「俺の顔なんて見たくもないだろうから出て行くけど、林田を呼ぶから、彼女を側に置いて欲しい。今のミツをひとりになんてできないから……頼む」
いつも優しいハルくん。
優しすぎるハルくん。
僕は、ハルくんに抱かれるのを嫌なんて思わなかった。
むしろ、僕はハルくんに抱いて貰えたことが嬉しかった。
『番』以外に身体を許すなんて、Ωとして最低だとわかっているけど……
でも、僕は好きな人に抱いて貰えて嬉しかったんだよ。
「……ハルくんの、ハルくんのせいだよ……」
汚い僕は、また嘘を付く。
これ以上ハルくんに迷惑を掛けちゃダメだってわかっているのに、離れられない。
我が儘だってわかっているのに、ハルくんに縋りたくてしかたがない。
「ハルくんのせいで、シゲルさんは……来てくれないんだ」
シゲルさんは、ハルくんに僕が抱いて貰ったことなんて知らない。
シゲルさんが来てくれないのは、運命の番であるあの子がいるから……
「ハルくんが、全部……悪いん、だよ……」
ハルくんが悪いことなんて、何1つない。
全部、全部……僕ひとりが悪いってわかってる。
「うん。全部、俺が悪いから……ミツは何一つ悪くない」
ハルくんは寂しそうな表情を浮かべ、僕が言った嘘をひとつひとつ肯定していく。
「……ハルくん、お願い。今は……今だけでいいから、ちょっとだけでいいから……側に、いて……」
縋り付くようにハルくんに抱き着く。
包帯越しでも傷に布が触れただけで、全身が叫びそうになるくらいの痛みが走る。
けど、今はそれ以上にハルくんに抱きしめて欲しかった。
他の誰でもなく、ハルくんだから抱きしめて欲しかった。
番相手じゃないαに触れれば、拒絶反応が出るはずなのに……
今の僕には何の反応も出てこない。
僕は本当にシゲルさんの番だったのかな……?
僕がいきなり抱き付いてしまったから、ハルくんはビックリした様子だったけど、ちゃんと受け止めてくれた。
シゲルさんとは違って、ちゃんと抱き締めてくれた。
「ミツ、痛いんじゃないのか?」
こんな時でも僕のことを心配してくれるハルくんの胸に身体を預ける。
「ハルくん……。『番』って、なんなんだろうね……」
涙と一緒にずっと疑問だった言葉が零れ落ちた。
「運命の番が見つかったら、先に番になった僕って、なんなんだろうね……。ハルくんに抱かれたからかな?もう、僕はシゲルさんの番じゃないって、ことなのかな……?」
ハルくんの両頬に手を添えて包み込み、無理矢理笑顔を作って問いかける。
「こんな近くにハルくんがいるのに……。こんなに触れ合っているのに……拒絶反応がでないんだよ?」
ずっと、我慢していた気持ちが抑えられない。
「ねぇ、ハルくん……助けて。嫌わないで、ひとりに、しないで……。もう、ひとりでいるの、やだよぉ……」
必死に泣かないように我慢していたけど、一度気持ちが溢れ出してしまうと抑えることができなかった。
子どもみたいに泣きじゃくり、ハルくんの胸を濡らしていく。
ハルくんのワイシャツの胸元がしっとりと濡れてしまったのに、ハルくんは僕を叱ることなんてなかった。
ただ静かに抱き締めてくれて、何度も優しく頭を撫でてくれた。
「……ミツ、もう大丈夫だから……。もう、大丈夫だから」
ハルくんの温もりを感じ、僕はそっと目を閉じた。
ハルくんの声に、恐る恐る顔を上げる。
「俺は、俺の意思でミツを抱いたんだ。ミツが発情期で朦朧としてるのをいいことに、自分の欲を抑えきれなくて……」
泣き出しそうなハルくんと目が合い、胸が痛い。
「だから、ミツが謝ることなんて何1つないんだ。むしろ、ミツは怒っていいし俺のことを恨んでもいいんだ」
ハルくんは何も悪くないのに、何度も謝ってくれた。
「俺の顔なんて見たくもないだろうから出て行くけど、林田を呼ぶから、彼女を側に置いて欲しい。今のミツをひとりになんてできないから……頼む」
いつも優しいハルくん。
優しすぎるハルくん。
僕は、ハルくんに抱かれるのを嫌なんて思わなかった。
むしろ、僕はハルくんに抱いて貰えたことが嬉しかった。
『番』以外に身体を許すなんて、Ωとして最低だとわかっているけど……
でも、僕は好きな人に抱いて貰えて嬉しかったんだよ。
「……ハルくんの、ハルくんのせいだよ……」
汚い僕は、また嘘を付く。
これ以上ハルくんに迷惑を掛けちゃダメだってわかっているのに、離れられない。
我が儘だってわかっているのに、ハルくんに縋りたくてしかたがない。
「ハルくんのせいで、シゲルさんは……来てくれないんだ」
シゲルさんは、ハルくんに僕が抱いて貰ったことなんて知らない。
シゲルさんが来てくれないのは、運命の番であるあの子がいるから……
「ハルくんが、全部……悪いん、だよ……」
ハルくんが悪いことなんて、何1つない。
全部、全部……僕ひとりが悪いってわかってる。
「うん。全部、俺が悪いから……ミツは何一つ悪くない」
ハルくんは寂しそうな表情を浮かべ、僕が言った嘘をひとつひとつ肯定していく。
「……ハルくん、お願い。今は……今だけでいいから、ちょっとだけでいいから……側に、いて……」
縋り付くようにハルくんに抱き着く。
包帯越しでも傷に布が触れただけで、全身が叫びそうになるくらいの痛みが走る。
けど、今はそれ以上にハルくんに抱きしめて欲しかった。
他の誰でもなく、ハルくんだから抱きしめて欲しかった。
番相手じゃないαに触れれば、拒絶反応が出るはずなのに……
今の僕には何の反応も出てこない。
僕は本当にシゲルさんの番だったのかな……?
僕がいきなり抱き付いてしまったから、ハルくんはビックリした様子だったけど、ちゃんと受け止めてくれた。
シゲルさんとは違って、ちゃんと抱き締めてくれた。
「ミツ、痛いんじゃないのか?」
こんな時でも僕のことを心配してくれるハルくんの胸に身体を預ける。
「ハルくん……。『番』って、なんなんだろうね……」
涙と一緒にずっと疑問だった言葉が零れ落ちた。
「運命の番が見つかったら、先に番になった僕って、なんなんだろうね……。ハルくんに抱かれたからかな?もう、僕はシゲルさんの番じゃないって、ことなのかな……?」
ハルくんの両頬に手を添えて包み込み、無理矢理笑顔を作って問いかける。
「こんな近くにハルくんがいるのに……。こんなに触れ合っているのに……拒絶反応がでないんだよ?」
ずっと、我慢していた気持ちが抑えられない。
「ねぇ、ハルくん……助けて。嫌わないで、ひとりに、しないで……。もう、ひとりでいるの、やだよぉ……」
必死に泣かないように我慢していたけど、一度気持ちが溢れ出してしまうと抑えることができなかった。
子どもみたいに泣きじゃくり、ハルくんの胸を濡らしていく。
ハルくんのワイシャツの胸元がしっとりと濡れてしまったのに、ハルくんは僕を叱ることなんてなかった。
ただ静かに抱き締めてくれて、何度も優しく頭を撫でてくれた。
「……ミツ、もう大丈夫だから……。もう、大丈夫だから」
ハルくんの温もりを感じ、僕はそっと目を閉じた。
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