【本編完結】期限つきの恋

こうらい ゆあ

文字の大きさ
27 / 42
期限つきの恋

25.『番』*

しおりを挟む
「愛している」
 愛の言葉と同時にうなじに口付けを落とされ、ガリっと犬歯が食い込むのを感じた。
 細胞ひとつひとつに甘い電流が走ったような感覚に、悲鳴をあげそうになる。
「ふぁっ!ァッ……ぁっ……」
 ゾクゾクと震える身体。
 その瞬間、オレの心は悠真さんと完全に繋がったような幸福感に満たされ、時間が止まったようにも感じた。

 悠真さんのモノに身体が作り変えられる感覚に、快楽と多幸感で満たされていく。
 幸せで、嬉しくてしかたない。
 本当に悠真さんの『番』にしてもらえたんだ。
 こんなオレでも、『番』ができたんだ……
 人生で一番幸せな瞬間だった。
 ギュッと抱きしめてくれる彼の腕が力強くて、包み込んでくれる熱が彼の存在を強く感じる。
 嬉しくて、自然と笑みが零れた。
「ゆ、ぅま……ぁ、りが……んぐっ!うぅっ……」
 
 それなのに、幸せは一瞬で崩れ落ちる。
 さっきまで、悠真さんだけの身体に作り変わっていたはずのオレの身体が、否定するように痛みを発する。
 悠真さんに噛んでもらった『番』の証が、自らのフェロモンを、彼のフェロモンを拒絶するように激痛が全身に走る。

 内臓を焼かれるようなグズグズと融かされるような痛み。
 全身の骨が砕けるような苦痛。
 叫びたいのに、痛すぎて声が出ない。
「あ゙がっ……ァ゙ッ、イ゙っ!ぁ……」
 呼吸をしているはずなのに、空気が身体に入ってこなくて苦しくてたまらない。
 胸がギュゥッと締め付けられ、両手で押さえていても、痛みが止まらない。
「葵っ!」
 悠真さんの焦ったような悲痛な声を聞いて、安心させようと無理矢理笑みを浮かべるが、痛すぎて歪んだ表情にしかならない。
「あ゙ぐっぅ……ッ、だ……じょ、ぶ……。だ、じょ……ぶ、だ……か、ら……」
 浅い呼吸を繰り返し、なんとか言葉にするも、消え入りそうな声しか出せなかった。
 引き裂かれるような全身の痛みに、冷や汗が滲んでしまう。

 痛い。痛い。イタイ…… 
 身体がバラバラになるんじゃないかって思ってしまう痛みに、無意識に涙が零れ落ちた。
 痛みを耐えようと、小さくうずくまって悠真さんの白衣を握り締める。
 彼の匂いを嗅いでいれば、また痛みが和らぐと思った。
 苦しくても、彼のフェロモンの香りを嗅げば、呼吸ができると思った。
 だが、オレの思惑はすべて裏目に出てしまい、全身を襲う痛みは増すばかりだった。

 噛んでもらった『番』のしるしが、悠真さんのフェロモンの匂いを拒絶するように激痛をもたらす。
 呼吸をしているはずなのに、肺にまでちゃんと酸素が行っていないせいで苦しくてしかたない。
 酸欠になっているのか、頭が割れそうなくらい痛い。
 目の前が霞んでしまい、悠真さんの顔が見えない。 
 ヤダ……ヤダ……嫌だ……
 このまま死にたくない。
 ちゃんと、悠真に「愛してる」って言いたい。
「番にしてくれてありがとう」って、ちゃんとお礼を言いたい。
 もっと「好き」って言いたい。
 ずっとそばにいたい。
 一緒に生きていたい……
 オレの細やかな願いを心の中で叫び続けているのに、身体はそれに応えてくれない。
 ただ痛みだけが増していき、『番』のしるしがグズグズと膿んでいくのを感じる。

「っ!葵!待ってろ、すぐ楽にしてやるから!」
 慌ててオレのナカから悠真さんのモノが引き抜かれる。
 せっかくいっぱいナカに出してもらえたのに、ドロリと白濁が溢れ出てしまう。
「ぁっ……ゃ、だ……ゆ、ま……ゃだ、よぉ……」
 悠真さんが用意してくれていた酸素吸入器のマスクを付けられそうになり、小さく首を横に振って拒む。
 コレを付けられたら、悠真さんのフェロモンを感じられない。
 アレを付けちゃったら、キスもしてもらえない。
 もう抱いてもらえない。
 終わりになんてしたくない。

「葵……」
 唇を噛み締めて何かを耐えているような悠真さんの顔を見て、ズキリと胸が痛んだ。
 引き裂かれる身体の痛みではなく、悠真さんにあんな顔をさせてしまったことへの罪悪感から、胸が痛んだ。
 
「ッ……はっ……はっ……ごめ、なさ……」
 震える手で、彼の手に自ら手を添え、マスクを付けることを促す。
 機械によって送られてきた酸素のお陰か、呼吸が少しだけ楽になるも、もう彼の匂いを感じることができない。
 もっと触れていたいのに、コレが邪魔でキスもできない。
 ちゃんとお礼を言いたいのに、上手く言葉を発することができない。
「ゆ、ま……手、にぎって……」
 マスク越しに掠れた声でお願いごとを口にする。
 機械音とオレの小さな声では、多分悠真さんには声は届かなかったんだと思う。
 それでも、悠真さんはギュッと手を握ってくれた。
 泣くのを堪えているような、苦し気な表情を浮かべながら、オレの手をしっかりと握り締めてくれた。
 悠真さんの力強い手に、彼の愛と後悔が混じった感情が伝わってくる。

 まだ身体は内側から壊れそうなくらいの痛みが断続的に続いている。
 でも、悠真さんが手を握ってくれて、抱きしめてくれているから、少しだけ痛みがマシになった気がする。
「葵!葵……すまない……本当に、ごめん」
 ポロポロと彼の頬を伝って落ちる綺麗な雫。
 オレの大好きなダークグレーの瞳が、涙で濡れて月みたいで綺麗だった。
 泣かないで欲しいな……
 オレはこんなに幸せなんだから……
 Ωとして、『番』になんてなれないって思っていたのに、悠真さんはオレの願い事を叶えてくれた。
 うなじに残る甘い痛みと、身体が中から焼かれているような激しい痛みが、オレが彼のモノになったのを教えてくれる。
 
 泣かないで欲しいなぁ……
 いつもクールでカッコいい彼が、顔をくしゃくしゃに歪めて泣いている。
 こんな顔、初めて見た……
 いつも自信に満ち溢れた悠真さんの目には、後悔の色が見て取れる。
 後悔しないで……否定しないで……
 オレは幸せなんだよ。

 あぁ、泣いてる悠真の顔、描いてみたかったなぁ……
 もっと、もっと違う表情も描いてみたかった。


「へ、いき……ゆう、ま……あいして、る」
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

カフェ・コン・レーチェ

こうらい ゆあ
BL
小さな喫茶店 音雫には、今日も静かなオルゴール調のの曲が流れている。 背が高すぎるせいか、いつも肩をすぼめている常連の彼が来てくれるのを、僕は密かに楽しみにしていた。 
苦いブラックが苦手なのに、毎日変わらずブラックを頼む彼が気になる。 今日はいつもより温度を下げてみようかな?香りだけ甘いものは苦手かな?どうすれば、喜んでくれる? 「君の淹れる珈琲が一番美味しい」
苦手なくせに、いつも僕が淹れた珈琲を褒めてくれる彼。 照れ臭そうに顔を赤ながらも褒めてくれる彼ともっと仲良くなりたい。 そんな、ささやかな想いを込めて、今日も丁寧に豆を挽く。 甘く、切なく、でも愛しくてたまらない―― 珈琲の香りに包まれた、静かで優しい記憶の物語。

この運命を、あなたに。

皆中透
BL
オメガが治める国、オルサラータ。この国は、王がアルファを側室に迎える形式で子孫を残し、繁栄して来た。 イセイは現王ジュオの運命のつがいとの間の息子で、ジュオの二番目の子供にあたる。彼には兄が一人と弟が二人いるのだが、その弟の父であるイファに長年恋心を寄せていた。 しかし、実父の側室であり、弟たちの父親である人を奪ってまで幸せになる事など出来ないと思い、一度もその想いを告げたことはなかった。そして、成人後には遠くの領地をもらい、イファから離れる道を選ぶと決めている。そうして想いに蓋をしたまま、彼は成人の日を迎えた。 祝宴の日の朝、正装をした四兄弟は杯を交わし、これからも変わらずにいることを誓い合おうとしていた。すると、その杯を飲み干したイセイは、そのままその場に倒れ込んでしまう。 暗殺かと思われたその出来事は、イセイが翌日目を覚ましたことで杞憂に終わったのだが、目覚めたイセイはなぜかオメガになっていて……。 秘めた想いが絡まり合い、真っ直ぐに繋がれない恋。 不器用な二人が番うまでの日々を綴る、訳ありオメガバース。

【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末

竜也りく
BL
物腰柔らか、王子様のように麗しい顔、細身ながら鍛えられた身体、しかし誰にも靡かないアルファの中のアルファ。 巷のお嬢さん方を骨抜きにしているヴァッサレア公爵家の次男アルロード様にオレもまたメロメロだった。 時に男友達に、時にお嬢さん方に混ざって、アルロード様の素晴らしさを存分に語っていたら、なんとある日ご本人に聞かれてしまった。 しかも「私はそういう人の心の機微が分からなくて困っているんだ。これからも君の話を聞かせて欲しい」と頼まれる始末。 どうやら自分の事を言われているとはこれっぽっちも思っていないらしい。 そんなこんなで推し本人に熱い推し語りをする羽目になって半年、しかしオレも末端とはいえど貴族の一員。そろそろ結婚、という話もでるわけで見合いをするんだと話のついでに言ったところ…… ★『小説家になろう』さんでも掲載しています。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ 久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。 パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。 オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?

(完結)冷徹アルファを揺さぶるオメガの衝動

相沢蒼依
BL
 名門・青陵高校に通う佐伯涼は、誰もが一目置く完璧なアルファ。冷静沈着で成績優秀、規律を重んじる彼は、常に自分を律して生きてきた。だがその裏には厳格な父と家の名に縛られ、感情を抑え込んできた孤独があった。  一方、クラスの問題児と呼ばれる榎本虎太郎は自由奔放で喧嘩っ早く、どこか影を抱えた青年。不良のような外見とは裏腹に、心はまっすぐで仲間思い。彼が強さを求めるのは、かつて“弱さ”ゆえに傷ついた過去がある。  青陵高校1年の秋。冷徹で完璧主義の委員長・佐伯涼(α)は、他校の生徒に絡まれたところを隣のクラスの榎本虎太郎(Ω)に助けられる。だがプライドを傷つけられた佐伯は「余計なことをするな」と突き放し、二人の関係は最悪の出会いから始まった。 《届かぬ調べに、心が響き合い》 https://estar.jp/novels/26414089 https://blove.jp/novel/265056/ https://www.neopage.com/book/32111833029792800 (ネオページが作品の連載がいちばん進んでおります)

さよならの向こう側

よんど
BL
【お知らせ】 今作に番外編を加えて大幅に加筆修正したものをJ庭58で販売しました。此方の本編を直す予定は御座いません。 BOOTH https://yonsanbooth-444.booth.pm/items/7436395 ''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様 (無断転載×)

処理中です...