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第134話 初めてのライブ
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電車に揺られながら、俺とクマサンはライブ会場のある駅へと向かった。
一人で電車に乗るときは、たいていスマホをいじるか、目を閉じて半分眠ったような状態で時間を潰す。そんな単調な移動時間に、特別感なんて生まれるわけがない。けれど、今日は違う。隣にはクマサンがいる。それだけで、いつもとはまるで別の空間になった。
とはいえ、車内でずっと喋っていたわけでもない。アナザーワールドで毎日のように会っている俺達に、新鮮な話題なんてそうあるものじゃない。ただ彼女が隣にいて、窓の外を流れるどこにでもある景色を一緒に眺め、時折なんでもない会話を交わす。
――それだけで特別な時間と空間に思えるのが不思議だった。
駅に到着し、改札を抜けて外に出ると、初めて見る街の景色が目の前に広がった。
スマホのない時代なら、辺りを見回しながら目的地を探すことになるが、スマホのナビを見れば迷うことはない。歩いて五分ほどでたどり着けるだろうが、開場の18:30まではまだ時間がある。
「何か食べておく?」
クマサンが提案してくる。
確かに、ライブ中にお腹が鳴るような事態は勘弁だ。
とはいえ、しっかりしたお店に入ってディナーをとるほど時間に余裕があるわけでもない。だが、世の中にはそういう時に素早く食事が出てきて食べられるお店というものが存在している。
「そうだね。マクドでどうかな?」
「りょーかい。マックならすぐに食べられるしね」
一瞬、視線が絡む。
「…………」
「…………」
静かな空気が流れる中、微妙な違和感が胸をよぎる。
「あそこにマクド、あるね」
「そうだね、あそこのマックでいいね」
マクドかマックか、この問題を突き詰めると戦争になりかねない。
お互いにその気配を感じ取り、俺達は自分の主張を飲み込んで、マクドナルドへと向かった。
簡単に食事を済ませ、程よい時間になったところで、俺達はライブハウスへ向かった。
「あそこじゃない?」
並んで歩いていたクマサンが前方を指さした。
彼女の細くて柔らかそうな指の先を目で追うと、確かに目立たない場所に看板が掲げられている。それほど大きくもなく、意識して探さなければ見落としてしまいそうな控えめな存在感だ。だが、それが間違いなく目的地であることはわかった。
「ナイス、クマサン。あそこみたいだね」
看板の下に到着すると、地下へと続く階段が目に入った。
コンクリートむき出しの壁と、狭い空間に漂う独特の空気感。ライブハウスが地下にあることが多いのは、音漏れ対策だとか、賃料が安いからだとか聞いたことがある。
だけど、初めて足を踏み入れようとする者にとって、この地下への階段は、まるでアンダーグラウンドへの入り口のようで、足を踏み出すのを躊躇してしまう。
「どうしたの?」
立ち止まる俺にクマサンが声をかけてきたが、その声に臆した様子はない。俺よりもよほど度胸がすわっているのか、あるいはこういう場所に慣れているのか……。
「いや、なんでもないよ」
彼女の前で格好悪いところは見せたくない――そんな微妙なプライドに背中に押され、俺は先頭に立った。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
コツコツと靴音を響かせて階段を降りていく。
階段を降りきると、目の前にライブハウスの扉が立ちはだかる。
まだ演奏が始まっているわけではないのに、扉の向こうから外界とは異質な気配を感じてしまう。まるで、この扉の向こうは異世界かのようだ。
俺はごくりと喉を鳴らしながら、その扉に手をかけた。
扉を開けると、受付のカウンターには目を引く女性が座っていた。髪は鮮やかな赤に染められ、耳にはいくつものピアスが輝いている。俺が今まで関わってこなかったタイプの女性なので、ちょっと――いや、かなり気後れしてしまう。
「すみません。ショウと申します。このライブに出るメイに、二人分の置きチケしてもらってると思うんですが……」
ここまで来て、何かの手違いで俺達のチケットが用意されてなかったらどうしよう――そんな不安を今さら感じながら、お姉さんに声をかけた。
なにしろ俺達は二人ともまだチケットを持っていない。この人に話が通ってなかったら、俺達二人はこのままとんぼ返りすることになるかもしれない。
「はい、ショウさんですね。聞いてますよ。お二人分で3400円になります」
俺のぎこちない言葉に、彼女は慣れた様子で微笑んだ。
――ちゃんと話が通っていて良かった。
ほっと胸を撫で下ろしながら、俺達は料金を支払い、ライブホールの中へと進んでいく。
コンサート会場とは違って、ライブホールは決して広くはない。決められた座席もなく、立ち見が基本だ。100人も入れないくらいの規模だが、その分ステージとの距離が近く、演者の息遣いさえ聞こえそうな緊張感がある。
開場時間からある程度経っていることもあって、フロアにはすでに何人ものお客さんが入っていた。談笑しているグループや、スマホをいじる一人客。特別な様子はないのに、それぞれから、これから始まるイベントへの期待感のようなものが感じられる。
その独特な雰囲気に俺は緊張感を抱きながら、隣に立つクマサンに尋ねる。
「俺、こういうところ初めてなんだけど、クマサンは来たことある?」
「ううん。私も初めてだよ」
目を合わせると、彼女の表情にもわずかな緊張が見えた。改めて彼女を見れば、俺と同じでライブハウスの雰囲気に慣れていない様子で所在なさげだった。
――クマサンも俺と同じ気持ちだったんだ。
その気づきが、不思議と俺の胸の中の不安をやわらげてくれた。
「今のうちにドリンクでも頼んでおこうか」
「うん、そうだね」
カウンターでドリンクを受け取り、軽く喉を潤したところで、俺は今日のプログラムを確認する。
出演するのは3組のバンド――ダンシングドール、バーニング・サン、そしてメイの所属するメイルシュトロームだ。
メイルシュトロームというバンド名を聞いた時は、メイの名前から取ったのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。メイルシュトロームは、ノルウェーのモスケネス島の周辺海域に生まれる大渦潮の名前で、ゲームなんかでは強力な技や魔法の名前に使われることもある。メイ曰く、「音楽界に大きな渦を巻き起こしたい」という思いで、バンドのみんなが決めたとのことだ。
だけど、俺はひそかに思っている。バンドメンバーが敢えてこの名前を選んだのは、どこかでメイを称える気持ちがあったんじゃないかと。なにしろ、メイルシュトロームの楽曲の作曲をすべて引き受けているのは彼女だ。彼女の才能を信じ、労をねぎらう意味で、メイの名が重なるこのバンド名を選んだのでは――そんな考えがあってのことだったらいいな、と。
「そろそろ始まりそうだね」
時計を見ると、開演時間の19時を示している。
ステージに視線を向けると、最初のバンド「ダンシングドール」のメンバーが準備を終え、観客に向かって軽く一礼していた。
男一人に女三人という構成で、ヴォーカルが男性、ギター、ベース、ドラムを女性が担当している。俺はバンドについて詳しいわけじゃないが、この編成はかなり珍しいんじゃないだろうか?
男性ヴォーカルが少し高めの声で軽く挨拶をすると、すぐに演奏が始まった。
アップテンポなリズムに、柔らかさを持った歌声が絡む。決して迫力があるわけじゃないが、耳に心地よい。女性陣のパフォーマンスも目を引いた。小柄で可愛らしいギター担当、明るい笑顔でノリの良いベース担当、そしてクールでキリッとした雰囲気のドラム担当。それぞれのビジュアルがステージ映えしていて、彼女達の演奏技術は俺には判断できないが、人気が出そうなビジュアルに思えた。
六曲の演奏を披露してくれたダンシングドールがステージを降りると、次のバンドの準備のための転換時間が訪れる。次は「バーニング・サン」で、メイのバンド「メイルシュトローム」は三番目、つまりトリを務めることになる。もしかして、この中だとメイ達が一番人気あるのかな? そう思うと、自分のことじゃないのに誇らしい気持ちが湧いてくる。
「今のバンドはどうだった?」
すでに今からメイの出番を楽しみにしていると、隣のクマサンが尋ねてきた。
メイ以外のバンドにもちゃんと関心を持つ彼女は偉いと思う。
俺だって演奏はしっかり聞いていたので、正直な感想を口にすることにした。
「曲は好きだったよ」
「曲はってことは、ほかにダメなところがあるの?」
クマサンは俺の答え何か引っかかるものを感じたようで、視線で続きを促される。
「んー、なんていうか、曲はいいんだけど……あのバンド、近いうちに恋愛問題で揉めそうだなって思ったんだ」
「どうしてそう思うの?」
「バンド構成が、男一人に女の子三人というのが、まずよくない。特にあのヴォーカルの男は、メンバーの女の子全員にいい顔して、その気にさせてそうな感じがする。恋愛するなら、ちゃんと一人に決めて、ほかの娘には誠実な態度を取ることができれば、バンドとしては続けていけるとは思うんだけど、どうもあの男はそういうタイプじゃない気がする。それどころか、ほかのバンドの女の子とも仲良くしてそうな気さえする。曲は好きなんだけど、この先続いていかないんじゃないかって気がするんだ。まあ、全部俺の勝手に想像なんだけどさ」
ここまで話して、ふと隣を見ると、クマサンが俺をジト目で見つめていた。
「……えっと、クマサン、何か言いたそうだよね?」
「別に……。ただ、ほかの人のことはよくわかるんだなーと思って」
…………?
どういう意味だろうか。
「よく知らない人達のことなのに悪く言うのはよくない」と責められるのならわかる。正直、俺は陰口叩くような人間じゃないのに、随分とひどいことを言ってしまったと、後悔しているくらいだ。自分でも、なぜそんなふうに思って、口にまで出してしまったのかよくわからない。
だが、クマサンはそういった悪口を言ったことに対して不快に感じたわけではなさそうだ。しかし、彼女の真意は俺にはよくわからない。
「クマサン、今のってどういう意味?」
「ほら、次のバンドの用意ができたみたいだよ」
促されてステージに目を向けると、準備を終えた「バーニング・サン」のメンバーが立ち位置につき、ヴォーカルがマイクを手に取っていた。このタイミングで私語を続けるのはマナー違反だ。俺はそれ以上の詮索を諦めることにした。
一人で電車に乗るときは、たいていスマホをいじるか、目を閉じて半分眠ったような状態で時間を潰す。そんな単調な移動時間に、特別感なんて生まれるわけがない。けれど、今日は違う。隣にはクマサンがいる。それだけで、いつもとはまるで別の空間になった。
とはいえ、車内でずっと喋っていたわけでもない。アナザーワールドで毎日のように会っている俺達に、新鮮な話題なんてそうあるものじゃない。ただ彼女が隣にいて、窓の外を流れるどこにでもある景色を一緒に眺め、時折なんでもない会話を交わす。
――それだけで特別な時間と空間に思えるのが不思議だった。
駅に到着し、改札を抜けて外に出ると、初めて見る街の景色が目の前に広がった。
スマホのない時代なら、辺りを見回しながら目的地を探すことになるが、スマホのナビを見れば迷うことはない。歩いて五分ほどでたどり着けるだろうが、開場の18:30まではまだ時間がある。
「何か食べておく?」
クマサンが提案してくる。
確かに、ライブ中にお腹が鳴るような事態は勘弁だ。
とはいえ、しっかりしたお店に入ってディナーをとるほど時間に余裕があるわけでもない。だが、世の中にはそういう時に素早く食事が出てきて食べられるお店というものが存在している。
「そうだね。マクドでどうかな?」
「りょーかい。マックならすぐに食べられるしね」
一瞬、視線が絡む。
「…………」
「…………」
静かな空気が流れる中、微妙な違和感が胸をよぎる。
「あそこにマクド、あるね」
「そうだね、あそこのマックでいいね」
マクドかマックか、この問題を突き詰めると戦争になりかねない。
お互いにその気配を感じ取り、俺達は自分の主張を飲み込んで、マクドナルドへと向かった。
簡単に食事を済ませ、程よい時間になったところで、俺達はライブハウスへ向かった。
「あそこじゃない?」
並んで歩いていたクマサンが前方を指さした。
彼女の細くて柔らかそうな指の先を目で追うと、確かに目立たない場所に看板が掲げられている。それほど大きくもなく、意識して探さなければ見落としてしまいそうな控えめな存在感だ。だが、それが間違いなく目的地であることはわかった。
「ナイス、クマサン。あそこみたいだね」
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コンクリートむき出しの壁と、狭い空間に漂う独特の空気感。ライブハウスが地下にあることが多いのは、音漏れ対策だとか、賃料が安いからだとか聞いたことがある。
だけど、初めて足を踏み入れようとする者にとって、この地下への階段は、まるでアンダーグラウンドへの入り口のようで、足を踏み出すのを躊躇してしまう。
「どうしたの?」
立ち止まる俺にクマサンが声をかけてきたが、その声に臆した様子はない。俺よりもよほど度胸がすわっているのか、あるいはこういう場所に慣れているのか……。
「いや、なんでもないよ」
彼女の前で格好悪いところは見せたくない――そんな微妙なプライドに背中に押され、俺は先頭に立った。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
コツコツと靴音を響かせて階段を降りていく。
階段を降りきると、目の前にライブハウスの扉が立ちはだかる。
まだ演奏が始まっているわけではないのに、扉の向こうから外界とは異質な気配を感じてしまう。まるで、この扉の向こうは異世界かのようだ。
俺はごくりと喉を鳴らしながら、その扉に手をかけた。
扉を開けると、受付のカウンターには目を引く女性が座っていた。髪は鮮やかな赤に染められ、耳にはいくつものピアスが輝いている。俺が今まで関わってこなかったタイプの女性なので、ちょっと――いや、かなり気後れしてしまう。
「すみません。ショウと申します。このライブに出るメイに、二人分の置きチケしてもらってると思うんですが……」
ここまで来て、何かの手違いで俺達のチケットが用意されてなかったらどうしよう――そんな不安を今さら感じながら、お姉さんに声をかけた。
なにしろ俺達は二人ともまだチケットを持っていない。この人に話が通ってなかったら、俺達二人はこのままとんぼ返りすることになるかもしれない。
「はい、ショウさんですね。聞いてますよ。お二人分で3400円になります」
俺のぎこちない言葉に、彼女は慣れた様子で微笑んだ。
――ちゃんと話が通っていて良かった。
ほっと胸を撫で下ろしながら、俺達は料金を支払い、ライブホールの中へと進んでいく。
コンサート会場とは違って、ライブホールは決して広くはない。決められた座席もなく、立ち見が基本だ。100人も入れないくらいの規模だが、その分ステージとの距離が近く、演者の息遣いさえ聞こえそうな緊張感がある。
開場時間からある程度経っていることもあって、フロアにはすでに何人ものお客さんが入っていた。談笑しているグループや、スマホをいじる一人客。特別な様子はないのに、それぞれから、これから始まるイベントへの期待感のようなものが感じられる。
その独特な雰囲気に俺は緊張感を抱きながら、隣に立つクマサンに尋ねる。
「俺、こういうところ初めてなんだけど、クマサンは来たことある?」
「ううん。私も初めてだよ」
目を合わせると、彼女の表情にもわずかな緊張が見えた。改めて彼女を見れば、俺と同じでライブハウスの雰囲気に慣れていない様子で所在なさげだった。
――クマサンも俺と同じ気持ちだったんだ。
その気づきが、不思議と俺の胸の中の不安をやわらげてくれた。
「今のうちにドリンクでも頼んでおこうか」
「うん、そうだね」
カウンターでドリンクを受け取り、軽く喉を潤したところで、俺は今日のプログラムを確認する。
出演するのは3組のバンド――ダンシングドール、バーニング・サン、そしてメイの所属するメイルシュトロームだ。
メイルシュトロームというバンド名を聞いた時は、メイの名前から取ったのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。メイルシュトロームは、ノルウェーのモスケネス島の周辺海域に生まれる大渦潮の名前で、ゲームなんかでは強力な技や魔法の名前に使われることもある。メイ曰く、「音楽界に大きな渦を巻き起こしたい」という思いで、バンドのみんなが決めたとのことだ。
だけど、俺はひそかに思っている。バンドメンバーが敢えてこの名前を選んだのは、どこかでメイを称える気持ちがあったんじゃないかと。なにしろ、メイルシュトロームの楽曲の作曲をすべて引き受けているのは彼女だ。彼女の才能を信じ、労をねぎらう意味で、メイの名が重なるこのバンド名を選んだのでは――そんな考えがあってのことだったらいいな、と。
「そろそろ始まりそうだね」
時計を見ると、開演時間の19時を示している。
ステージに視線を向けると、最初のバンド「ダンシングドール」のメンバーが準備を終え、観客に向かって軽く一礼していた。
男一人に女三人という構成で、ヴォーカルが男性、ギター、ベース、ドラムを女性が担当している。俺はバンドについて詳しいわけじゃないが、この編成はかなり珍しいんじゃないだろうか?
男性ヴォーカルが少し高めの声で軽く挨拶をすると、すぐに演奏が始まった。
アップテンポなリズムに、柔らかさを持った歌声が絡む。決して迫力があるわけじゃないが、耳に心地よい。女性陣のパフォーマンスも目を引いた。小柄で可愛らしいギター担当、明るい笑顔でノリの良いベース担当、そしてクールでキリッとした雰囲気のドラム担当。それぞれのビジュアルがステージ映えしていて、彼女達の演奏技術は俺には判断できないが、人気が出そうなビジュアルに思えた。
六曲の演奏を披露してくれたダンシングドールがステージを降りると、次のバンドの準備のための転換時間が訪れる。次は「バーニング・サン」で、メイのバンド「メイルシュトローム」は三番目、つまりトリを務めることになる。もしかして、この中だとメイ達が一番人気あるのかな? そう思うと、自分のことじゃないのに誇らしい気持ちが湧いてくる。
「今のバンドはどうだった?」
すでに今からメイの出番を楽しみにしていると、隣のクマサンが尋ねてきた。
メイ以外のバンドにもちゃんと関心を持つ彼女は偉いと思う。
俺だって演奏はしっかり聞いていたので、正直な感想を口にすることにした。
「曲は好きだったよ」
「曲はってことは、ほかにダメなところがあるの?」
クマサンは俺の答え何か引っかかるものを感じたようで、視線で続きを促される。
「んー、なんていうか、曲はいいんだけど……あのバンド、近いうちに恋愛問題で揉めそうだなって思ったんだ」
「どうしてそう思うの?」
「バンド構成が、男一人に女の子三人というのが、まずよくない。特にあのヴォーカルの男は、メンバーの女の子全員にいい顔して、その気にさせてそうな感じがする。恋愛するなら、ちゃんと一人に決めて、ほかの娘には誠実な態度を取ることができれば、バンドとしては続けていけるとは思うんだけど、どうもあの男はそういうタイプじゃない気がする。それどころか、ほかのバンドの女の子とも仲良くしてそうな気さえする。曲は好きなんだけど、この先続いていかないんじゃないかって気がするんだ。まあ、全部俺の勝手に想像なんだけどさ」
ここまで話して、ふと隣を見ると、クマサンが俺をジト目で見つめていた。
「……えっと、クマサン、何か言いたそうだよね?」
「別に……。ただ、ほかの人のことはよくわかるんだなーと思って」
…………?
どういう意味だろうか。
「よく知らない人達のことなのに悪く言うのはよくない」と責められるのならわかる。正直、俺は陰口叩くような人間じゃないのに、随分とひどいことを言ってしまったと、後悔しているくらいだ。自分でも、なぜそんなふうに思って、口にまで出してしまったのかよくわからない。
だが、クマサンはそういった悪口を言ったことに対して不快に感じたわけではなさそうだ。しかし、彼女の真意は俺にはよくわからない。
「クマサン、今のってどういう意味?」
「ほら、次のバンドの用意ができたみたいだよ」
促されてステージに目を向けると、準備を終えた「バーニング・サン」のメンバーが立ち位置につき、ヴォーカルがマイクを手に取っていた。このタイミングで私語を続けるのはマナー違反だ。俺はそれ以上の詮索を諦めることにした。
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