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第10章 運営イベント「チャリオット」編
第176話 乱戦
俺達とルシフェル達は、王、攻撃者、防衛者という同じ構成。ならば、勝負を分けるのは、俺とルシフェル、攻撃者同士の力の差だろう。
相手は何十人を束ねるHNMギルドのギルドマスター。それに比べて、俺は四人しかいないギルドのしがないギルドマスター。普通なら、ルシフェルのほうが格上と考えるだろう。
だけど、俺は決して負けているとは思わない。ギルドとしても、アタッカーとしても!
「もう少しで攻撃範囲だ! メイ、ラストスパート!」
「任せろ!」
メイの手綱が鋭くしなる。チャリオットがわずかに速度を増し、車輪が風を切る音が高まる。
その間も、ルシフェルからは範囲魔法が次々と降り注いでいた。体力を削られるたびにミコトさんが範囲回復で対応してくれているが、おかげでミコトさんのSPは削られている。
だが、向こうのチャリオットに追いつきさえすれば、対等な殴り合いだ。今までやられてきた分、お返ししてやる!
――そして、ついに俺達のチャリオットがルシフェルのチャリオットに追いついた。
狙うべきは、女王のミカエルか、それとも攻撃者のルシフェルか――。
一瞬の思考の末、俺は金髪の女騎士――女王ミカエルへと視線を送る。
それに気づいた防衛者のガブリエルが反射的に動きを見せるのを視界の端に捉えながら、俺は渾身のスキルを叩き込む。
「みじん切り!」
同時にルシフェルの声が響く。
「青き刃の一突き」
俺の包丁が振り下ろされる刹那、氷の槍が空間を貫いて交錯した。
【ガブリエルはミカエルをかばった】
【ショウはルシフェルにみじん切り ダメージ457】
【ルシフェルはミコトに青き刃の一突き ダメージ302】
敵の攻撃を見てからクマサンが動く。
【クマサンはミコトをかばった】
これで範囲攻撃以外では、しばらくはミコトさんがダメージを受けることはない。単体魔法に比べて一人あたりへのダメージの落ちる範囲魔法で、ミコトさんを削り切るのは難しい。
一方、向こうはどうだ。
俺の視線に誘われたガブリエルが、定石通り女王を守りに動いたことで――攻撃者のルシフェルが無防備なまま俺の刃を受けた。
狙い通りだ。
先ほどのねーさん達との戦いで得た経験が、ここで生きた。
「もらったぞ、ルシフェル! 乱切り!」
俺はさらにスキルを畳みかける。ルシフェルもまた、標的を俺に変えて口元を歪める。
「くっ! 断罪の杭」
ミコトさんをクマサンがかばったため、ルシフェルは俺を狙うしかなくなった。
ここからは攻撃者同士、そしてギルマス同士の殴り合いだ。
【ショウはルシフェルに乱切り ダメージ398】
【ルシフェルはショウに断罪の杭 ダメージ315】
――ちっ! 倒し切れなかったか。
一瞬、勝利の手応えを期待したが、ルシフェルの体力はわずかに残った。
すぐさま、俺にはミコトさんから、ルシフェルにはガブリエルからヒールが飛ぶ。
とはいえ、どちらも全快にはほど遠い。
そして、最初の一撃で削った差がある分、体力の残量は確実にこちらの方が多い。
――この勝負、勝てる!
俺は再び包丁を振りかぶる。
対するルシフェルも、鋭く右手を掲げた。
その時だった――。
「ショウ、このままだと乱戦の中に飛び込むぞ!」
メイの警告に、ちらりと前方を確認する。
その先には、複数のチャリオットが入り乱れる混沌とした戦場が広がっていた。作戦や立ち回りよりも運の要素が重要になる乱戦など、本来なら避けていくべきエリア。だが、ルシフェルのチャリオットがその中に突っ込んでいく以上、俺達が引くわけにはいかない。
「メイ、ここは勝負継続だ!」
俺は覚悟を決めて叫び、包丁を振り下ろす。
「ぶつ切り!」
「零の嘆き」
二人の攻撃が再度炸裂する。
切りつけた感触が、確かにルシフェルの体力を削ったのを感じた。
あと少し、もう一手――そう思ったときだった。
乱戦の渦の中、俺達とルシフェルの二台のチャリオットの前に、別のチャリオットが突然飛び出してきた。
「っ――!」
避ける間もなく、正面から衝突。そして急停止。車輪が軋む甲高い音とともに、チャリオットが激しく揺れた。
衝撃に膝を落としかけながらも、俺は辛うじて柵をつかんで体勢を保つ。視界が乱れ、ぐらつく足元を押さえたそのとき、ぶつかった相手から、低く迫力のある声が響いた。
「誰がぶつかってきたのかと思えば……ルシフェル、お前か!」
声の主に目を向けた俺は、思わず息を呑む。
停止したチャリオットの台座に立つのは、迷彩柄の鎧に身を包んだ仮面の戦士。その男こそ、三大HNMギルドの一角「異世界血盟軍」のギルドマスター、ソルジャーだった。
そして、彼とともにチャリオットに乗車しているのは、同じく異世界血盟軍の精鋭達。
王ザ・ニンジャ、攻撃者アシュラ、御者バッファロー、そして攻撃者のソルジャー。王に回避特化型タンクを据えた、超攻撃的編成だ。
どうやら、混戦の中で暴れ回っていた彼らと、俺達の進路が最悪の形で交差してしまったらしい。
「ソルジャーか!? こんなところで出会うとは……!」
ルシフェルが困惑の声を上げる。
だが、考えようによっては、これは俺達にとってはチャンスかもしれない。二人はHNMギルドのギルマス同士だ。少なからず因縁があるだろう。このまま二人がやりあえば、その隙を突いて、両者をまとめて叩くことだって可能かもしれない。
今は黙って存在を消すのが得策だ――そう思った矢先だった。
「むっ……そっちは『三つ星食堂』のショウか?」
仮面の下から、ソルジャーの視線が俺を捉える。
……え? 俺のことを知ってるの?
静かにしていたつもりだったのに、そうは問屋が卸さなかった。
俺自身、有名人になったつもりはまったくないのに……一体いつの間にHNMのギルマスにまで知られるようになったんだか……。
「おもしろい! 二人まとめてここで狩らせてもらう!」
ソルジャーの叫びが戦場に響き渡る。
そして次の瞬間、「異世界血盟軍」の連中が、俺達とルシフェル達の両方に、迷いのない攻撃を仕掛けてきた。
一点集中が戦術の基本だろ……!
何を考えてやがる、この連中!
イベントでの勝利よりも、戦うこと自体を楽しんでいるのか……?
完全にイカれてやがる。
だが――だからこそ怖い。常識に縛られない存在ほど、予測不能で、最も脅威となる。
俺達三組は、チャリオットを停止させたまま、三つ巴のような地獄の混戦へと突入した。
「くそっ……! どっちを狙えばいいんだよ!?」
口ではそう言いながらも、俺の思考は冷静だった。
こういう混乱の中こそ、軸を見失ってはいけない。
最初に倒すと決めた相手は誰だったか――すぐに答えが浮かぶ。
「――ルシフェル、まずはお前を倒す!」
状況がどう変わろうと、狙うべき敵は変わらない。
混戦の中では、女王のミコトさんに気を配る余裕などない。そちらはクマサンに任せた。
俺はただ、目の前の強敵を、確実に仕留めることに集中する。
異世界血盟軍の攻撃は、俺達だけじゃなく、ルシフェル達にも容赦なく飛ぶ。
だが、ルシフェルはガブリエルのヒールに支えられ、なおも踏みとどまっている。
しかも奴は、反撃の範囲魔法を放ち、俺達やソルジャー達の体力をまとめて削りにきてやがる。
そして俺はといえば――高火力の料理スキルのクールタイムがまだ明けない。
くそ、頼む……早く、再使用可能になってくれ!
そう願っているうちに、俺達のもとへ向かってくる新たな影に気づく。
さらに周囲のチャリオットまでもが、この乱戦に引き寄せられていた。
当然だ。ここには、三大HNMギルドのギルマスが二人も揃っている。
このイベントの最後まで勝ち残れなくても、彼らの首を取れば、またとない思い出と、話のネタを手に入れることができる。この機を逃すまいと、普段は目立たないプレイヤー達までもが、手に飢えた獣のように押し寄せてきていた。
――最悪だ。
この乱戦状態こそ、俺が最も避けようとしていた状況にほかならない。
「みんな、まずは落ち着こ――」
仲間に声をかけようとした瞬間、横からの衝撃で身体が傾いた。
周囲のチャリオットが、次々とぶつかってきている。
ルシフェルやソルジャーを狙う連中の余波で、俺達まで巻き込まれ始めていた。
このままでは、本当に修羅場になる。
「メイ! なんとかこの場から離脱を!」
「わかってる! わかってるけど――」
メイが必死に手綱を操るが、すでに周りには複数のチャリオットが重なり合うように止まっている。前をチャリオットや馬体で遮られ、この場から離れることすら容易ではない。
ただ、わずかに幸運だったのは、俺達がルシフェルやソルジャーより知名度が低いということだった。
この場に殺到してきたプレイヤー達の多くは、明確に彼らの首を狙っている。それだけに、俺達は比較的狙われにくい立場だった。
しかし、あのルシフェルはというと――
ガブリエルの献身的なヒールに守られ、なおも執念のごとく生き残っていた。
それどころか、逆に範囲魔法で周囲の敵をまとめて蹴散らしている。
「――くそっ! せめてここでルシフェルだけは落としておきたいのに!」
苛立ちを押し殺すように唸る。
だが、ルシフェル達のチャリオットと俺達の間には、別のチャリオットが入り込んでいた。こちらの攻撃はルシフェルに届かない。
ならば――せめて、目の前の邪魔者だけでも排除しておくか。
そう思った矢先、さらに別のチャリオットが突っ込んできた。
正面からぶつかり、俺達のチャリオットは大きく弾き飛ばされる。
「――っ!」
体勢を崩しつつも、反射的に柵をつかんで踏みとどまる。
その瞬間、揺れる視界の中に、見覚えのある姿が飛び込んできた。
――金髪の騎士ミカエル。ルシフェルチームの女王だ。
彼女の体力はすでに大きく削られている。防衛者ガブリエルの「かばう」効果はとうに切れていた。そのうえ、ガブリエルの意識は、狙われているルシフェルの方に向けられ、今の女王は単独で無防備な姿をさらしている。
――これって、もしかして……チャンスじゃないか?
心臓が跳ねる。
俺は即座に包丁を振り上げる。
「運がなかったな!」
俺は再使用可能になったばかりの「みじん切り」をミカエルに向けて放った。
【ショウはミカエルにみじん切り ダメージ455】
【ショウはミカエルを倒した】
――決まった!
ずっとルシフェルばかりを意識していたせいで忘れかけていたが、本来の勝利条件は「王を倒すこと」だ。ルシフェルを直接倒さずとも、女王であるミカエルが討たれた時点で、彼はこのイベントから脱落する。
俺の攻撃が決まった直後、ルシフェルがこちらに目を向けた。
怒りと悔しさと、ほんのわずかな驚愕が混ざった瞳。
……おおこわっ!
思わず背中に冷たい汗が伝う。だが、その時――
「前が開けた! 離脱する!」
メイの力強い声が響いた。
チャリオットが大きく揺れ、再び駆動する。
視界の先、ミカエルを失ったルシフェル達はチャリオットごと色が薄れ、半透明に変わっていく。間違いなく脱落の証だ。
俺達は勝ち取った手柄を胸に、危険な乱戦地帯を離脱する。
胸に燃えるような熱を残しつつ、俺達は入り乱れるチャリオットから遠ざかっていった。
相手は何十人を束ねるHNMギルドのギルドマスター。それに比べて、俺は四人しかいないギルドのしがないギルドマスター。普通なら、ルシフェルのほうが格上と考えるだろう。
だけど、俺は決して負けているとは思わない。ギルドとしても、アタッカーとしても!
「もう少しで攻撃範囲だ! メイ、ラストスパート!」
「任せろ!」
メイの手綱が鋭くしなる。チャリオットがわずかに速度を増し、車輪が風を切る音が高まる。
その間も、ルシフェルからは範囲魔法が次々と降り注いでいた。体力を削られるたびにミコトさんが範囲回復で対応してくれているが、おかげでミコトさんのSPは削られている。
だが、向こうのチャリオットに追いつきさえすれば、対等な殴り合いだ。今までやられてきた分、お返ししてやる!
――そして、ついに俺達のチャリオットがルシフェルのチャリオットに追いついた。
狙うべきは、女王のミカエルか、それとも攻撃者のルシフェルか――。
一瞬の思考の末、俺は金髪の女騎士――女王ミカエルへと視線を送る。
それに気づいた防衛者のガブリエルが反射的に動きを見せるのを視界の端に捉えながら、俺は渾身のスキルを叩き込む。
「みじん切り!」
同時にルシフェルの声が響く。
「青き刃の一突き」
俺の包丁が振り下ろされる刹那、氷の槍が空間を貫いて交錯した。
【ガブリエルはミカエルをかばった】
【ショウはルシフェルにみじん切り ダメージ457】
【ルシフェルはミコトに青き刃の一突き ダメージ302】
敵の攻撃を見てからクマサンが動く。
【クマサンはミコトをかばった】
これで範囲攻撃以外では、しばらくはミコトさんがダメージを受けることはない。単体魔法に比べて一人あたりへのダメージの落ちる範囲魔法で、ミコトさんを削り切るのは難しい。
一方、向こうはどうだ。
俺の視線に誘われたガブリエルが、定石通り女王を守りに動いたことで――攻撃者のルシフェルが無防備なまま俺の刃を受けた。
狙い通りだ。
先ほどのねーさん達との戦いで得た経験が、ここで生きた。
「もらったぞ、ルシフェル! 乱切り!」
俺はさらにスキルを畳みかける。ルシフェルもまた、標的を俺に変えて口元を歪める。
「くっ! 断罪の杭」
ミコトさんをクマサンがかばったため、ルシフェルは俺を狙うしかなくなった。
ここからは攻撃者同士、そしてギルマス同士の殴り合いだ。
【ショウはルシフェルに乱切り ダメージ398】
【ルシフェルはショウに断罪の杭 ダメージ315】
――ちっ! 倒し切れなかったか。
一瞬、勝利の手応えを期待したが、ルシフェルの体力はわずかに残った。
すぐさま、俺にはミコトさんから、ルシフェルにはガブリエルからヒールが飛ぶ。
とはいえ、どちらも全快にはほど遠い。
そして、最初の一撃で削った差がある分、体力の残量は確実にこちらの方が多い。
――この勝負、勝てる!
俺は再び包丁を振りかぶる。
対するルシフェルも、鋭く右手を掲げた。
その時だった――。
「ショウ、このままだと乱戦の中に飛び込むぞ!」
メイの警告に、ちらりと前方を確認する。
その先には、複数のチャリオットが入り乱れる混沌とした戦場が広がっていた。作戦や立ち回りよりも運の要素が重要になる乱戦など、本来なら避けていくべきエリア。だが、ルシフェルのチャリオットがその中に突っ込んでいく以上、俺達が引くわけにはいかない。
「メイ、ここは勝負継続だ!」
俺は覚悟を決めて叫び、包丁を振り下ろす。
「ぶつ切り!」
「零の嘆き」
二人の攻撃が再度炸裂する。
切りつけた感触が、確かにルシフェルの体力を削ったのを感じた。
あと少し、もう一手――そう思ったときだった。
乱戦の渦の中、俺達とルシフェルの二台のチャリオットの前に、別のチャリオットが突然飛び出してきた。
「っ――!」
避ける間もなく、正面から衝突。そして急停止。車輪が軋む甲高い音とともに、チャリオットが激しく揺れた。
衝撃に膝を落としかけながらも、俺は辛うじて柵をつかんで体勢を保つ。視界が乱れ、ぐらつく足元を押さえたそのとき、ぶつかった相手から、低く迫力のある声が響いた。
「誰がぶつかってきたのかと思えば……ルシフェル、お前か!」
声の主に目を向けた俺は、思わず息を呑む。
停止したチャリオットの台座に立つのは、迷彩柄の鎧に身を包んだ仮面の戦士。その男こそ、三大HNMギルドの一角「異世界血盟軍」のギルドマスター、ソルジャーだった。
そして、彼とともにチャリオットに乗車しているのは、同じく異世界血盟軍の精鋭達。
王ザ・ニンジャ、攻撃者アシュラ、御者バッファロー、そして攻撃者のソルジャー。王に回避特化型タンクを据えた、超攻撃的編成だ。
どうやら、混戦の中で暴れ回っていた彼らと、俺達の進路が最悪の形で交差してしまったらしい。
「ソルジャーか!? こんなところで出会うとは……!」
ルシフェルが困惑の声を上げる。
だが、考えようによっては、これは俺達にとってはチャンスかもしれない。二人はHNMギルドのギルマス同士だ。少なからず因縁があるだろう。このまま二人がやりあえば、その隙を突いて、両者をまとめて叩くことだって可能かもしれない。
今は黙って存在を消すのが得策だ――そう思った矢先だった。
「むっ……そっちは『三つ星食堂』のショウか?」
仮面の下から、ソルジャーの視線が俺を捉える。
……え? 俺のことを知ってるの?
静かにしていたつもりだったのに、そうは問屋が卸さなかった。
俺自身、有名人になったつもりはまったくないのに……一体いつの間にHNMのギルマスにまで知られるようになったんだか……。
「おもしろい! 二人まとめてここで狩らせてもらう!」
ソルジャーの叫びが戦場に響き渡る。
そして次の瞬間、「異世界血盟軍」の連中が、俺達とルシフェル達の両方に、迷いのない攻撃を仕掛けてきた。
一点集中が戦術の基本だろ……!
何を考えてやがる、この連中!
イベントでの勝利よりも、戦うこと自体を楽しんでいるのか……?
完全にイカれてやがる。
だが――だからこそ怖い。常識に縛られない存在ほど、予測不能で、最も脅威となる。
俺達三組は、チャリオットを停止させたまま、三つ巴のような地獄の混戦へと突入した。
「くそっ……! どっちを狙えばいいんだよ!?」
口ではそう言いながらも、俺の思考は冷静だった。
こういう混乱の中こそ、軸を見失ってはいけない。
最初に倒すと決めた相手は誰だったか――すぐに答えが浮かぶ。
「――ルシフェル、まずはお前を倒す!」
状況がどう変わろうと、狙うべき敵は変わらない。
混戦の中では、女王のミコトさんに気を配る余裕などない。そちらはクマサンに任せた。
俺はただ、目の前の強敵を、確実に仕留めることに集中する。
異世界血盟軍の攻撃は、俺達だけじゃなく、ルシフェル達にも容赦なく飛ぶ。
だが、ルシフェルはガブリエルのヒールに支えられ、なおも踏みとどまっている。
しかも奴は、反撃の範囲魔法を放ち、俺達やソルジャー達の体力をまとめて削りにきてやがる。
そして俺はといえば――高火力の料理スキルのクールタイムがまだ明けない。
くそ、頼む……早く、再使用可能になってくれ!
そう願っているうちに、俺達のもとへ向かってくる新たな影に気づく。
さらに周囲のチャリオットまでもが、この乱戦に引き寄せられていた。
当然だ。ここには、三大HNMギルドのギルマスが二人も揃っている。
このイベントの最後まで勝ち残れなくても、彼らの首を取れば、またとない思い出と、話のネタを手に入れることができる。この機を逃すまいと、普段は目立たないプレイヤー達までもが、手に飢えた獣のように押し寄せてきていた。
――最悪だ。
この乱戦状態こそ、俺が最も避けようとしていた状況にほかならない。
「みんな、まずは落ち着こ――」
仲間に声をかけようとした瞬間、横からの衝撃で身体が傾いた。
周囲のチャリオットが、次々とぶつかってきている。
ルシフェルやソルジャーを狙う連中の余波で、俺達まで巻き込まれ始めていた。
このままでは、本当に修羅場になる。
「メイ! なんとかこの場から離脱を!」
「わかってる! わかってるけど――」
メイが必死に手綱を操るが、すでに周りには複数のチャリオットが重なり合うように止まっている。前をチャリオットや馬体で遮られ、この場から離れることすら容易ではない。
ただ、わずかに幸運だったのは、俺達がルシフェルやソルジャーより知名度が低いということだった。
この場に殺到してきたプレイヤー達の多くは、明確に彼らの首を狙っている。それだけに、俺達は比較的狙われにくい立場だった。
しかし、あのルシフェルはというと――
ガブリエルの献身的なヒールに守られ、なおも執念のごとく生き残っていた。
それどころか、逆に範囲魔法で周囲の敵をまとめて蹴散らしている。
「――くそっ! せめてここでルシフェルだけは落としておきたいのに!」
苛立ちを押し殺すように唸る。
だが、ルシフェル達のチャリオットと俺達の間には、別のチャリオットが入り込んでいた。こちらの攻撃はルシフェルに届かない。
ならば――せめて、目の前の邪魔者だけでも排除しておくか。
そう思った矢先、さらに別のチャリオットが突っ込んできた。
正面からぶつかり、俺達のチャリオットは大きく弾き飛ばされる。
「――っ!」
体勢を崩しつつも、反射的に柵をつかんで踏みとどまる。
その瞬間、揺れる視界の中に、見覚えのある姿が飛び込んできた。
――金髪の騎士ミカエル。ルシフェルチームの女王だ。
彼女の体力はすでに大きく削られている。防衛者ガブリエルの「かばう」効果はとうに切れていた。そのうえ、ガブリエルの意識は、狙われているルシフェルの方に向けられ、今の女王は単独で無防備な姿をさらしている。
――これって、もしかして……チャンスじゃないか?
心臓が跳ねる。
俺は即座に包丁を振り上げる。
「運がなかったな!」
俺は再使用可能になったばかりの「みじん切り」をミカエルに向けて放った。
【ショウはミカエルにみじん切り ダメージ455】
【ショウはミカエルを倒した】
――決まった!
ずっとルシフェルばかりを意識していたせいで忘れかけていたが、本来の勝利条件は「王を倒すこと」だ。ルシフェルを直接倒さずとも、女王であるミカエルが討たれた時点で、彼はこのイベントから脱落する。
俺の攻撃が決まった直後、ルシフェルがこちらに目を向けた。
怒りと悔しさと、ほんのわずかな驚愕が混ざった瞳。
……おおこわっ!
思わず背中に冷たい汗が伝う。だが、その時――
「前が開けた! 離脱する!」
メイの力強い声が響いた。
チャリオットが大きく揺れ、再び駆動する。
視界の先、ミカエルを失ったルシフェル達はチャリオットごと色が薄れ、半透明に変わっていく。間違いなく脱落の証だ。
俺達は勝ち取った手柄を胸に、危険な乱戦地帯を離脱する。
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実技試験に落ちて旧図書棟の掃除をさせられていた彼は、謎の遺物(管理デバイス)に触れたことで、世界の最高管理者権限(デバッガー権限)を手に入れてしまう。
「魔法」とは環境中の魔素を操作する事象。そして「神の奇跡」とは環境管理AIの気まぐれであるこの世界において。
アッシュの目には、相手の放つ魔法が単なる『不正なプロセスのエラーログ』として映り、頭の中で『YES(強制終了パッチ)』を選択するだけで完全に消去できるようになったのだ!
一切の詠唱も魔力発生も伴わずに、同級生の最大魔法をフッと消し去り、暴走する巨大魔物をワンボタンで光の粒子に還元するアッシュ。
本人はただ「うるさい警告文が出たからOKを押してデバッグ(人助け)しているだけ」のつもりなのだが……。
これは、エラーログを消しているだけの落ちこぼれ少年が、王都の至高魔法学園で「神の奇跡を下す聖者」として盛大に勘違いされながら成り上がっていく、痛快無双ファンタジー!
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした
暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。
役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。
だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。
倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。
やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。
一方、病の裏で糸を引いていたのは………。
“無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。