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第1話 クラスで3番目に可愛い三間坂さん
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授業中だというのに、ついつい彼女を見てしまう。
後ろ姿しか見えなくても、それで十分。その長いストレートの黒髪を見ているだけでも心が満たされる。できることならその髪の匂いでも嗅げればいいが、これだけ席が離れていればそれはかなわない。
後ろの席のやつが羨ましい。運がよければ、彼女の髪の毛だって拾えるかもしれないのだから。
彼女の名前は、一ノ瀬雫。
間違いなくこのクラスで一番の美少女だ。
好き嫌いは容姿だけで決まるのではないだろうが、個人的な好き嫌いを別として、単純に容姿だけでランキングを行えば、誰もが彼女を一位にするだろう。
かくいう俺は、高居宙。高校一年生。容姿でいえば、まぁ、自己評価ならクラスで10番目といったとろこか。まぁ、真ん中だ。うん、きっとそのあたりに位置しているはずだ。……してるよね?
まぁ、でも、人は見掛けじゃない。これでも俺は、中身はイケメンだ。今この教室にテロリストが飛び込んできたら、身を挺してみんなを守るくらいに中身イケメンだ。
そんな俺なら、きっと一ノ瀬さんにだって釣り合うはずだ!
「また一ノ瀬さんのこと見てるでしょ」
俺が一ノ瀬さんとの世界に浸っているのに、それを邪魔をするように、隣から女の子の声が飛び込んできた。
ちっ、見てたことを気付かれていたのか!
とはいえ、それを認めるわけにはいかない。
……だって、なんか恥ずかしいじゃないか。
「見てないよ」
「いや、絶対見てたって。しかも、いやらしい目で」
「待ってくれ! いやらしい目なんかでは見てない! あくまで普通の目で見ていただけだ!」
「やっぱり見てたんじゃない」
しまった……。まさかこんな手に引っ掛かるとは。
俺は右の席の女子に目を向ける。
彼女の名前は三間坂雪。少し茶色がかった髪をサイドテールにした、猫を思わせるちょっと上がった大きな目が特徴的な女子だ。
もっと違う言い方をするなら、クラスで3番目に可愛い女子といったところか。
とはいえ、それはあくまで客観的に容姿を評価した場合の話だ。
入学してから最初の席替えでたまたま隣の席になったのだが、俺は三間坂さんのことがちょっと苦手だった。
清楚でおしとやかな女子が俺の好みのタイプなのだ。
そう、たとえば黒髪清楚系女子の代表のような一ノ瀬さんのような女子が。
でも、三間坂さんはちょっと気が強いとこがあり、なにかにつけてグイグイくるし、いちいち俺にちょっかいをかけてきたりもする。
容姿は多少いいのかもしれないが、俺の好みとはだいぶ外れている。
「確かに見ていた……でも、それは黒板の方に一ノ瀬さんがいるからそっちを見ることになっただけで、決して一ノ瀬さん目的で見ていたわけじゃないんだ」
「はいはい」
三間坂さんはなぜか勝ち誇ったような顔で俺を見てくる。
くそっ! この目だ! この目がいつも頭に引っ掛かる!
だから苦手なんだよ。
この目を向けられると、こっちもなにかやり返してやりたい気になってしまう。
「そういう三間坂さんこそ、俺が見ていたことに気付くなんて、俺の方をいやらしい目で見てたんじゃないのか?」
ふふっ、どうだこの切り返し! 三間坂さん、今度は君がうろたえる番だ!
「そうだよ、見てたんだよ」
「なっ……」
なんだって!?
その返答は想定外!
三間坂さんは俺のことを、その、なんだ、いやらしい目で見ていたというのか!?
俺が一ノ瀬さんに対して想像するようなことを、俺に対して想像していたと!?
まさか、三間坂さんは俺のことを、す、好きだったりするのか!?
その気持ちは嬉しいが、俺には一ノ瀬さんがいる。だいたい、三間坂さんと俺は合わないと思うし……。
「なわけないでしょ! なに本気にしてるのよ」
見れば三間坂さんは口角を上げて俺を見ながらニヤついている。
くっ! なんて奴だ! 男子高校生の純情な心を弄ぶなんて! だから俺は三間坂さんのことが苦手なんだ!
「ほ、本気になんてしてないから! 変なこと言わないでくれるかな!」
「おい、高居! 授業中に何をしゃべってるんだ! この問題の答えを言ってみろ。話を聞いていたのならわかるはずだぞ」
最悪だ。先生に怒られてしまったじゃないか。
言うまでもなく先生の話なんて聞いていなかった。今の俺に答えられるはずがない。
だいたい、授業中喋っていたのは三間坂さんも同じなのに、俺だけ注意されるのはあまりにも不条理ではないだろうか?
俺は恨めし気に三間坂さんを睨むように目を向ける。
そんな俺の視線を受け、三間坂さんの唇が動いた。
「炭酸水素ナトリウム」
ん? 小声でよく聞こえなかったが、今、炭酸水素ナトリウムって言ったのか? 何の暗号だ?
俺が呆けていると、少し眉を吊り上げてもう一度同じ言葉を繰り返し、先生の方を指さしている。
……ああ、そういうことか。
俺はようやく三間坂さんが何を伝えようとしているのか理解した。
「炭酸水素ナトリウムです」
俺は先生に向かって、はっきりとそう口に出して言った。
「なんだ、聞いていたのか。……次からはもっと静かに聞くように」
「はい、すみません」
どうやら俺は助かったらしい。
しかし、俺は先生の話なんて全然耳に入っていなかったのに、俺と喋っていた三間坂さんはどうして先生の話を聞いていたんだ?
俺は助けてくれた三間坂さんの方に顔を向ける。
……む。なんだこの恩着せがましそうな勝ち誇った顔は。
「貸し一つね」
ちょっと待ってくれ!
もとはと言えば、三間坂さんが俺にちょっかいをかけてきたのが原因ではないのか? これで貸しを作られるのは不条理だ。特に三間坂さん相手に貸しを作るのはまずい気がする。
抗議の声を上げようとしたが、三間坂さんはもうすでに俺の方を見ないで黒板を見ていた。下手に声を出せば、今度こそ先生の雷を受けることになるだろう。
うぐぐぐ……。
今日もまた三間坂さんに負けたような気がする。
後ろ姿しか見えなくても、それで十分。その長いストレートの黒髪を見ているだけでも心が満たされる。できることならその髪の匂いでも嗅げればいいが、これだけ席が離れていればそれはかなわない。
後ろの席のやつが羨ましい。運がよければ、彼女の髪の毛だって拾えるかもしれないのだから。
彼女の名前は、一ノ瀬雫。
間違いなくこのクラスで一番の美少女だ。
好き嫌いは容姿だけで決まるのではないだろうが、個人的な好き嫌いを別として、単純に容姿だけでランキングを行えば、誰もが彼女を一位にするだろう。
かくいう俺は、高居宙。高校一年生。容姿でいえば、まぁ、自己評価ならクラスで10番目といったとろこか。まぁ、真ん中だ。うん、きっとそのあたりに位置しているはずだ。……してるよね?
まぁ、でも、人は見掛けじゃない。これでも俺は、中身はイケメンだ。今この教室にテロリストが飛び込んできたら、身を挺してみんなを守るくらいに中身イケメンだ。
そんな俺なら、きっと一ノ瀬さんにだって釣り合うはずだ!
「また一ノ瀬さんのこと見てるでしょ」
俺が一ノ瀬さんとの世界に浸っているのに、それを邪魔をするように、隣から女の子の声が飛び込んできた。
ちっ、見てたことを気付かれていたのか!
とはいえ、それを認めるわけにはいかない。
……だって、なんか恥ずかしいじゃないか。
「見てないよ」
「いや、絶対見てたって。しかも、いやらしい目で」
「待ってくれ! いやらしい目なんかでは見てない! あくまで普通の目で見ていただけだ!」
「やっぱり見てたんじゃない」
しまった……。まさかこんな手に引っ掛かるとは。
俺は右の席の女子に目を向ける。
彼女の名前は三間坂雪。少し茶色がかった髪をサイドテールにした、猫を思わせるちょっと上がった大きな目が特徴的な女子だ。
もっと違う言い方をするなら、クラスで3番目に可愛い女子といったところか。
とはいえ、それはあくまで客観的に容姿を評価した場合の話だ。
入学してから最初の席替えでたまたま隣の席になったのだが、俺は三間坂さんのことがちょっと苦手だった。
清楚でおしとやかな女子が俺の好みのタイプなのだ。
そう、たとえば黒髪清楚系女子の代表のような一ノ瀬さんのような女子が。
でも、三間坂さんはちょっと気が強いとこがあり、なにかにつけてグイグイくるし、いちいち俺にちょっかいをかけてきたりもする。
容姿は多少いいのかもしれないが、俺の好みとはだいぶ外れている。
「確かに見ていた……でも、それは黒板の方に一ノ瀬さんがいるからそっちを見ることになっただけで、決して一ノ瀬さん目的で見ていたわけじゃないんだ」
「はいはい」
三間坂さんはなぜか勝ち誇ったような顔で俺を見てくる。
くそっ! この目だ! この目がいつも頭に引っ掛かる!
だから苦手なんだよ。
この目を向けられると、こっちもなにかやり返してやりたい気になってしまう。
「そういう三間坂さんこそ、俺が見ていたことに気付くなんて、俺の方をいやらしい目で見てたんじゃないのか?」
ふふっ、どうだこの切り返し! 三間坂さん、今度は君がうろたえる番だ!
「そうだよ、見てたんだよ」
「なっ……」
なんだって!?
その返答は想定外!
三間坂さんは俺のことを、その、なんだ、いやらしい目で見ていたというのか!?
俺が一ノ瀬さんに対して想像するようなことを、俺に対して想像していたと!?
まさか、三間坂さんは俺のことを、す、好きだったりするのか!?
その気持ちは嬉しいが、俺には一ノ瀬さんがいる。だいたい、三間坂さんと俺は合わないと思うし……。
「なわけないでしょ! なに本気にしてるのよ」
見れば三間坂さんは口角を上げて俺を見ながらニヤついている。
くっ! なんて奴だ! 男子高校生の純情な心を弄ぶなんて! だから俺は三間坂さんのことが苦手なんだ!
「ほ、本気になんてしてないから! 変なこと言わないでくれるかな!」
「おい、高居! 授業中に何をしゃべってるんだ! この問題の答えを言ってみろ。話を聞いていたのならわかるはずだぞ」
最悪だ。先生に怒られてしまったじゃないか。
言うまでもなく先生の話なんて聞いていなかった。今の俺に答えられるはずがない。
だいたい、授業中喋っていたのは三間坂さんも同じなのに、俺だけ注意されるのはあまりにも不条理ではないだろうか?
俺は恨めし気に三間坂さんを睨むように目を向ける。
そんな俺の視線を受け、三間坂さんの唇が動いた。
「炭酸水素ナトリウム」
ん? 小声でよく聞こえなかったが、今、炭酸水素ナトリウムって言ったのか? 何の暗号だ?
俺が呆けていると、少し眉を吊り上げてもう一度同じ言葉を繰り返し、先生の方を指さしている。
……ああ、そういうことか。
俺はようやく三間坂さんが何を伝えようとしているのか理解した。
「炭酸水素ナトリウムです」
俺は先生に向かって、はっきりとそう口に出して言った。
「なんだ、聞いていたのか。……次からはもっと静かに聞くように」
「はい、すみません」
どうやら俺は助かったらしい。
しかし、俺は先生の話なんて全然耳に入っていなかったのに、俺と喋っていた三間坂さんはどうして先生の話を聞いていたんだ?
俺は助けてくれた三間坂さんの方に顔を向ける。
……む。なんだこの恩着せがましそうな勝ち誇った顔は。
「貸し一つね」
ちょっと待ってくれ!
もとはと言えば、三間坂さんが俺にちょっかいをかけてきたのが原因ではないのか? これで貸しを作られるのは不条理だ。特に三間坂さん相手に貸しを作るのはまずい気がする。
抗議の声を上げようとしたが、三間坂さんはもうすでに俺の方を見ないで黒板を見ていた。下手に声を出せば、今度こそ先生の雷を受けることになるだろう。
うぐぐぐ……。
今日もまた三間坂さんに負けたような気がする。
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