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第9話 ハイタッチ

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「高居君、私達も負けていられないね!」

 開始早々、一ノ瀬さんと下林君が和気あいあいとしているところを見せられて俺が意気消沈しているのに、なぜか三間坂さんはやる気に満ちて楽しそうだった。
 ……まぁ、これからゲームをするんだから普通はそういうものか。勝手に悶々としている俺の方がおかしいのかもしれない。
 俺の気持ちなど知る由もない三間坂さんは、11ポンドのボールを手にしてレーンに立った。

 ……なんというか、こうやって後ろから三間坂さんの姿をまじまじと見るのは初めてだが、綺麗な脚をしているんだなぁ。
 後ろから見た方がふくらはぎや太ももの肉付きもよくわかるというか……。
 黒ニーソのせいで、よりくっきりと脚の形が出てしまっているような気がする。
 細いけど適度に柔らかな膨らみをもったふくらはぎ、そして細めのふくらはぎに比べるとボリューミーな太もも。太ももとの境目にあるニーソが、むっちりした太ももに食い込んでるがはっきり見えて、興奮すると言うか、何というか……。

 いや、これは決して俺が三間坂さんに興奮しているというわけではなく、同級生女子のそんなゴムに虐げられた太ももを見せられれば、その女子が誰であったとしても健全な高校生なら興奮するというかなんというか……

 俺が一人でテンパっているうちに、意外にも女子としては迫力のあるフォームから三間坂さんが一投目を投げた。
 なかなかいいコースで転がっていったボールは、これまたヘッドピンを捉えて、白いピン達が派手に崩れていく。

「ああ! 惜しい!」

 俺は思わず声に出していた。
 ストライクが取れたかと思えたが、残念ながら右端のピンが1ピンだけ残ってしまっている。

「いい感じだったんだけどね。高居君、後はお願いね」

 戻ってきた三間坂さんが少し申し訳なさそうな顔を向けてきた。
 いやいや、女子でこれだけやってくれたら十分だ。そんな顔をする必要なんて全くない。
 下林君のように、「後は任せろ」とでも言えると俺も格好がつくのだろうが……

「……やれることはやってみるよ」

 俺に言えたのはそのくらいが限界だった。
 だって、任せろとか言ってスペア取れなったら、恥ずかしいじゃないか。

 俺は12ポンドのボールを手に、レーンの方へと進み出た。

 ……やばい。思ったより緊張する。
 チーム戦って自分一人でやるよりずっとプレッシャーがかかるぞ。

 残っているのは一番右端のピン1つだけ。
 こういう場合、一般的には対角線で左側から右に向かって斜めにボールを投げるのがセオリーなんだろう。
 だけど、俺はレーンのまっすぐな木目が目についてしまい、斜めに投げて狙うのは苦手だ。
 だから俺は右端から投げる。狙いは右端をまっすぐに転がせてそのまま右端のピンを倒すこと。

 俺はまっすぐになら投げられるんだ。
 自分にそう言い聞かせて、ボールを構えた。

 俺は力でボールを投げたりしない。このボーリングの位置エネルギーを横方向への運動エネルギーに変えるだけ。まっすぐ後ろに振った手を、まっすぐ前に出すだけ。余計な力は加えない。俺はこのボールにベクトルを与えるだけ!

 俺の迫力のないフォームから放たれたボールは、三間坂さんのボールの速さと変わらないか下手すれば遅いくらいの速度で、レーンの右端をまっすぐに転がっていく。

 そのままいけ! ガターに落ちるなよ!

 まるで綱渡りを見ているようだが、俺のボールは右に逸れることなくまっすぐに進んでいき、そしてコツンという小さな音を立てて右端のピンを倒した。

 よっしゃあ! スペアだ!

 派手なガッツポーズなどできない俺は、ガッツポーズの代わりに右手を強く握りしめる。
 振り向けば、三間坂さんの満面の笑みが目に入った。
 立ち上がって広げた両手をこっちに向けて出している。
 俺は自分でも知らないうちに走り寄り、三間坂さんのその手に自分の手を合わせに行く。

「ナイススペア!」
「うん」

 心の中ではもっと派手に喜んでいるのに、どうしてもそれを表に出すのはちょっと苦手だ。
 でも、三間坂さんの方に出した手に、勢いよく三間坂さんの手が触れてきて、大きな音が響いた。
 三間坂さんの手の感触がはっきりと俺の手に伝わってくる。
 三間坂さんの手は、俺が思っているより小さく、そしてびっくりするほど柔らかだった。

 女の子の手ってこんな感じだったんだ……
 俺はスペアを取ったことよりも、そのことに驚き興奮していたかもしれない。
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