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第4章 ファレンの花
28話
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生き方は一つではないから——。ノアにはそう言われたものの、ヴェル自身、急に気持ちを切り替えて生きていけるわけでもない。
ノアは、あの場だけの話としてくれたものの、シュリス側の人間に正体がバレたのだ。必要とあればカイたちにも伝えられるはずである。
そもそも、ずっと村人を騙しながら暮していた引け目はずっとある。
「……ここ追い出されたらどうしようかな……」
カイとしても、何らかの事情で村に帰せないだけなのだ。事情が解決すればきっとここからヴェルは追い出される。
きっともう、村に戻るべきではない。かといって、ザディオスに戻る気はない。脱走兵として咎められるか、運が悪ければ実験動物としてあの施設に入れられるかもしれない。
中立国であるエテンに亡命するか。それともシュリスの港町から別の大陸へ渡って、全く違う名前で生きていくか。
そんなことを悶々と考えつつ、池のほとりにしゃがんでファレンを眺めていたヴェルは、ふと、人の気配を感じて振り向いた。
そこには、何やら呆けた様子のカイが佇んでおり、ヴェルは首を傾げる。
「帰ってきてたのか? お疲れ様」
声を掛ければ、カイはどこかぎくしゃくとした様子で「ああ」と答えた。様子がおかしいが、また寝不足のせいだろうか。
少しでも気が紛れれば、と思い、カイに向かって手招きをした。
「見てみなよ。ファレンがそろそろ咲きそうだから」
カイは一瞬躊躇った様子を見せたが、ややあって、ヴェルの隣までやってくる。
例の良い匂いがふわり、と横からしてくるのをなるべく無視しながら、ヴェルは蕾たちを指差した。
「ほら。あの辺なんかは日当たりがいいから、来週には咲きそう」
「そうだな。無事に育って良かった。手入れがいいのだろう」
思ってもない言葉に、先ほどまで悶々としていたヴェルの胸が幾分、弾む。
「いやいや。こいつらの生命力の強さだろ。俺は何も……」
「きちんと池の藻を取り、害虫除けをしている。周りの雑草も抜き、綺麗に手入れしてある。こういう手間暇をかけてくれる人間がいるから、花も無事に咲けるのではないか?」
すらすらと淀みなく言われ、ヴェルの耳が急に熱くなる。さすが、一流の武人は観察眼も違うということか。褒められ慣れていないヴェルは「よ、よく見てるね……」と、思わず言葉がつっかえてしまう。
ここに恩師がいたら、もっと素直に御礼を言いなさい、とでも言われそうだ。
(そうだよな。誰相手であっても、ありがとうとごめんなさいは基本!)
ヴェルはそう心の中で意気込み、ありがとうと言うべく隣のカイを見た。すると、カイもちょうどこちらを見ており、ばちりと視線が合ってしまった。
西日のせいか、カイの赤みがかった瞳はまるでルビーのように深く美しい紅色に染まっている。
思わず、吸い込まれてしまったかのように、その不思議な色合いの瞳を見つめた。
何か言わなくては、と焦る気持ちと、このままただずっと瞳を見つめていたいような気持ちに挟まれ、ヴェルが言葉に詰まっていると、カイの唇が開かれる。
「……お前は、何なんだ」
「へ?」
何なんだ、とは。
まさか、ザディオス人ということについてか?
確かに、ノアがカイにだけは報告していてもおかしくはないし、普通はするだろう。
「あ、えっと……」
「こうして庭の手入れをしたり、俺を恨まないと言ったり、変わっている」
あ、そっちか。と、カイの言葉にどこかほっと胸を撫でおろした。どうやらノアはカイにも伝えていないらしい。
なぜだろう。カイにザディオス人だとバレて、拒絶の視線を向けられるのは、想像するだけで悲しく思えた。
「あ、あんたを恨まないのは別に……。俺自身、人を恨めるような大した人間じゃないっていうか」
「そうか。強いな」
「強くないって」
単純に後ろめたいだけだ。今も、カイは「身を呈して村を守ろうとした男」としてヴェルを見ているのだろう。誤解もいいところである。
そんなに良い人間ではないのだ。カイのように、義を重んじ、自分が加害者側だと認識すれば謝罪をし、相手に対して即座に償おうとする。そんな善人ではないのだ。
思わず苦笑が漏れてしまう。
「あんた、俺のこと買い被り過ぎだよ。本当に俺は小物だから」
心からの気持ちでそう言ったのに、なぜかカイは一瞬きょとんと目を瞬かせる。そしてすぐに、口元をむずむずさせ、笑いをこらえるような顔になった。ヴェルは怪訝そうに眉根を寄せる。
「何笑ってんだよ」
「……笑っていない」
「ほとんど笑ってるだろ」
「まだ笑っていない」
屁理屈を言いつつも、カイはとうとう「ふは」と堪えきれずに笑いを漏らした。
肩を小さく震わせ、くつくつと年相応に笑う顔を見て、ヴェルの鼓動が跳ね、じわりとした朱が頬にさす。それを誤魔化すように「だから何笑ってんの」と問う。
「すまん。笑うつもりはなかったんだが。俺は本当の『小物』を大勢見てきているのでな。彼らに比べたら……」
「本当の小物ぉ?」
「ああ」
ようやく笑みをおさめながら、カイは呼吸を整えるように、ふう、と息を吐く。
「中央貴族たちの保身や騙し合いは中々のものでな。財産のために他者を貶め、蹴落とすことに何のためらいもない。貴族だけではない。王宮も、商人連合も、隙あらば自分の利益だけを優先させようとする」
「……俺が世間知らずって意味?」
「いや。お前に小物の素質と環境がなさすぎるという意味だ」
そして、カイはヴェルを見て僅かに口の端を持ち上げる。
「だからか。お前と話していると安心する。こんな事を俺に言われても、お前にとっては迷惑だろうが」
その言葉に、ヴェルは咄嗟に「違う」と返した。反射的に口をついて出てしまった言葉を補足するように、ヴェルはたどたどしく続ける。
「あ。いや……、その。あんたはそうやって、俺と関わらないようにするけど……俺は全然迷惑って思ってないし。なんなら俺も、あんたと話すと安心する……し……」
だんだん声が小さくなり、視線が下がっていく。何を言っているんだ俺は、という自己嫌悪にも似た重い気分がずしりと頭上から降ってきた。しかし
「安心?」
聞こえてきたカイの声があまりに明るいので、思わずちらりと視線だけでカイを見やる。
「そうか。お前を不快にさせていなかったなら何よりだが。……その、安心とまで思ってもらえたのは有り難い限りだ」
困惑を隠しきれず、だがどこか嬉しそうなカイの顔がそこにあり、ヴェルの頬の熱が耳の方まで伝わってしまう。何か返事をしようとするが、それより前にカイの顔が一瞬で曇る。
「しかし、それはそれで心配だな」
「ん? 何が?」
「攫った加害者に対して安心感を覚えるなど……。お前、他の人間にもそんなに隙だらけなのか」
「だから俺は隙だらけじゃないって! あ、じゃなくて、別にあんたも俺を攫いたくて攫ったわけじゃないんだから、加害者って言うほど加害者じゃないだろ!」
「しかし……」
「俺、警戒心強いから! 大丈夫!」
疑いの眼差しを向けたカイだったが、すぐに相好を崩した。
「……その言葉を信じるとすれば。そうだな。お前に安心感を覚えてもらえたというのが、俺にとっては嬉しい」
ふわり、と微笑まれた瞬間、ヴェルのうなじあたりに不思議な痺れが走った。なぜだかカイの顔を見ていることが気恥ずかしく感じ、俯く。
「……っ」
どくどくと脈打つ鼓動の音が、やたら耳の奥から響いてきた。例の匂いがやけに強く感じられ、顔を上げられない。
(あ、そうか)
ない。絶対にない。と、背を向けてきた感情が、急にすとんと腹の中に落ちてきた。
(俺、この人のこと――……)
義を通そうとし、当たり前のようにこちらを慮る。
英雄と畏れられている一方で、年相応に、笑ったり眠ったりする。そんなアルファのことが――
自覚をした途端、ぎゅう、と胸と喉の間が締め付けられるように苦しくなった。
そんな資格はない。先生が殺され、村が襲われたのは自分の存在があったからだ。そんな自分に、誰かを好きになる資格などあるはずがない。
ザディオス人なのだと、ここで打ち明けてしまおうかと一瞬考えを巡らせた。
もうノアは知っているのだし、これ以上この王子様に嘘を吐くのは後ろめたい。
(さすがに俺だって分かってる)
ノアは「ザディオスはもう敵国ではない」と言った。それはあくまでもノアの感情だ。つい三年前まで戦争をしていた両国間にはまだ溝はあるし、関係は冷ややかだ。
何より、ザディオスからの侵略戦争が国境戦争の発端だ。
ザディオス人を憎むシュリス人は多い。カイも、そうかもしれない。
(早めに打ち明けたほうがいい……)
ヴェルは震える唇を僅かに開いた。蚊の鳴くような声が、喉で引っかかりながら何とか吐き出される。
「あ。あのさ……」
しかし、ヴェルが続けるより早く、カイが「そういえば」と口火を切った。
「お前にここにいてもらわねばならない理由だが。全貌が分かり次第、お前に伝えようと思っている」
「え?」
「城砦内の誰を信用していいか分からなかったのでお前の行動も制限していたが。それもそろそろ見当がついてきた。何より、今、お前を村に帰す方が危険だから帰せないが……。解決したらすぐにでも送り届けよう」
「あ。……ああ」
カイの真摯な言葉に、ヴェルはますます居心地が悪くなる。言わなければ。打ち明けなければ。
村に送り届けられたところで、自分はまたのうのうとあの村で暮らすことなどできないのだ。だって、あの村の人々の家族を殺したのは、自分の国なのだから。
ヴェルは声を震わせながら喘ぐように言う。
「ま、待ってくれ……」
「何だ?」
言え。打ち明けろ。
「え……ええと。あのさ、俺……」
言わなければ、と分かっているのに喉が詰まる。変な汗が滲んで、背を伝う。
「俺……」
もし打ち明けてしまったら、カイは安心感など持ってくれなくなるだろう。こんな風な微笑みをもう自分には向けてくれないかもしれない。
(分かってる。それが普通なんだ。俺にそんな資格……)
でも、もう少しだけ、今のままでいられないだろうか。
別に、この淡い想いを告げたいわけでもなければ、カイとどうこうなりたいわけではない。
ただ、こうして他愛のない話で笑い合うような時間がほしいと思ってしまう。
村に帰るわけにもいかない。ザディオスに戻るわけにもいかない。ここを追い出されたら、もう二度と、こんな穏やかな時間は持てないかもしれない。
ああ、また繰り返すのか。先生の時も。村の人たちの時も。いるべきではない異分子のくせに、浅ましく優しさに縋ってしまった。同じ馬鹿な真似を繰り返そうとしているのか。
(ダメだ。そんなの……。ダメなんだ)
ダメだとわかっているのに。
北方の寒い町で、餓死と凍死の恐怖に怯えて生きていた感覚が蘇る。
腕の中で硬くなっていく恩師の感覚が蘇る。
何年も、道具として扱われ、痛みの中、虚ろな目で白い天井を眺めるしかなかった感覚が蘇る。
怖くて、孤独で、冷たくて。
「あ、のさ……、えっと……」
長い時間じゃない。ほんの少しの間だけ、先延ばしにしたい。この穏やかな感覚に浸りたい。
(ダメだ。言え。早く言え。真実を打ち明けろ)
それが正しい行いだと分かっているのに。きっとカイのような善人であれば、そうするのに。
はく、と動いた口から、乾いた笑いが漏れた。
「あ。はは……、あれ? 俺いま何言おうとしたんだっけ。忘れた……」
冷や汗が滲んで止まらない。きっとひどい顔色をしているのだろうが、この黄昏の陽色が隠してくれていると願いたい。
怪訝そうにカイが首を傾げた。
「言いたいことがあるなら言った方がいいぞ。俺にできる事があれば何でも聞くが」
「ええ? いやいや、王子様優しすぎるだろ。あはは」
とぼけたように言って立ち上がる。今はとにかくこの場にいるのが恐ろしい。これ以上この口が何かを喋る前に立ち去りたい。
「えっと、花のことだったかもしれない。何だっけな……。ごめん。思い出したら言うよ。あ、リウがもう夕飯の支度してると思うから。あんたは館に早く戻ってやれよな」
じゃあそういうことで、と踵を返そうとすると、後ろから「待ってくれ」と声を掛けられる。
「迷惑でないというのなら、またこうして話してもいいか?」
心臓が奇妙な音を立てて跳ねる。そろり、と振り向けば、カイは真剣な面持ちでこちらを見ていた。
思ってもない申し出だ、と喜べばいいのか。苦い感情がじわじわと身体を侵食していく。
ヴェルは躊躇った様子を見せたが、小さく頷いた。途端に、カイはパッと表情を明るくした。
獅子と恐れられた男のはずだが、こうも素直に表情に出るというのはどこか大型犬のようにも思える。少しの微笑ましさと、多大なる罪悪感に押しつぶされながら、ヴェルは引き攣ったへたくそな笑みを返した。
「お、俺もあんたと話せるの、嬉しいよ。……じゃあ。またね」
「ああ。また」
逃げるようにしてその場を後にし、足早に納屋へ駆け込んだ。
心臓が痛むほど鳴っている。これが、騙している後ろめたさからなのか、それとも恋のときめきとやらなのか、何も分からない。
「……っ」
ヴェルはぐしゃりと前髪を掴み、よろけるようにして壁にもたれかかった。
「ごめんなさい……」
奥歯をかみしめたまま漏れたのは、吐息のような声だ。
俯いたまま、ヴェルは何度も「ごめんなさい」と繰り返した。
別に、何か月もこの時間を享受したいわけではない。
別に、好きですと伝えたいわけではない。
ただ、もう少しだけ一緒の時間を過ごしてみたいだけだ。
いっそ、ただの子産みの道具として。無理やりつがわせるために連れて来られたほうがよかったかもしれない。
(それか、結婚相手としての正式なつがいが、ちゃんといればよかったのに。何であんな良い奴がフリーのアルファなんだよ。おかしいだろ)
そういう相手がいれば、こんな分不相応な願いなど持たなくて済んだ。
ただの道具として扱ってもらえれば。
温かい笑みなど向けられなければ。
(俺は卑怯な嘘つきなんだよ。そんな俺に優しくするなよ)
もっとほしくなってしまう。ダメだと分かっていても、この時間を少しでも延ばそうとしてしまう。
(人を好きになる資格なんてない。でも……)
絶対バレないようにするから。だって「話していると安心する」と本人から言われたのだ。
『良き庭師』として会話をするだけならば。それくらいなら――
言い訳じみた言葉がぐるぐると脳内を駆け巡り、ヴェルは壁にもたれたまま乾いた笑みを漏らした。
「ははっ……、卑怯者……」
生まれて初めての恋とやらが、苦すぎて、重すぎて、くるしすぎて、痛すぎて。
ノアには悪いが、ちっとも良いものだなんて思えない。
◇
――……
「カイ王子殿下はどこまで気付いているんだろうね」
「さあ。食えぬお方ですから」
「まったく厄介だ。頭まで筋肉なら良かったのになぁ……。まあいい。例のオメガでいいんだよな?」
「はい」
「ああ。楽しみだ。楽しみだなぁ」
うっとりとした声が、暗い部屋に響いて落ちていく。
ノアは、あの場だけの話としてくれたものの、シュリス側の人間に正体がバレたのだ。必要とあればカイたちにも伝えられるはずである。
そもそも、ずっと村人を騙しながら暮していた引け目はずっとある。
「……ここ追い出されたらどうしようかな……」
カイとしても、何らかの事情で村に帰せないだけなのだ。事情が解決すればきっとここからヴェルは追い出される。
きっともう、村に戻るべきではない。かといって、ザディオスに戻る気はない。脱走兵として咎められるか、運が悪ければ実験動物としてあの施設に入れられるかもしれない。
中立国であるエテンに亡命するか。それともシュリスの港町から別の大陸へ渡って、全く違う名前で生きていくか。
そんなことを悶々と考えつつ、池のほとりにしゃがんでファレンを眺めていたヴェルは、ふと、人の気配を感じて振り向いた。
そこには、何やら呆けた様子のカイが佇んでおり、ヴェルは首を傾げる。
「帰ってきてたのか? お疲れ様」
声を掛ければ、カイはどこかぎくしゃくとした様子で「ああ」と答えた。様子がおかしいが、また寝不足のせいだろうか。
少しでも気が紛れれば、と思い、カイに向かって手招きをした。
「見てみなよ。ファレンがそろそろ咲きそうだから」
カイは一瞬躊躇った様子を見せたが、ややあって、ヴェルの隣までやってくる。
例の良い匂いがふわり、と横からしてくるのをなるべく無視しながら、ヴェルは蕾たちを指差した。
「ほら。あの辺なんかは日当たりがいいから、来週には咲きそう」
「そうだな。無事に育って良かった。手入れがいいのだろう」
思ってもない言葉に、先ほどまで悶々としていたヴェルの胸が幾分、弾む。
「いやいや。こいつらの生命力の強さだろ。俺は何も……」
「きちんと池の藻を取り、害虫除けをしている。周りの雑草も抜き、綺麗に手入れしてある。こういう手間暇をかけてくれる人間がいるから、花も無事に咲けるのではないか?」
すらすらと淀みなく言われ、ヴェルの耳が急に熱くなる。さすが、一流の武人は観察眼も違うということか。褒められ慣れていないヴェルは「よ、よく見てるね……」と、思わず言葉がつっかえてしまう。
ここに恩師がいたら、もっと素直に御礼を言いなさい、とでも言われそうだ。
(そうだよな。誰相手であっても、ありがとうとごめんなさいは基本!)
ヴェルはそう心の中で意気込み、ありがとうと言うべく隣のカイを見た。すると、カイもちょうどこちらを見ており、ばちりと視線が合ってしまった。
西日のせいか、カイの赤みがかった瞳はまるでルビーのように深く美しい紅色に染まっている。
思わず、吸い込まれてしまったかのように、その不思議な色合いの瞳を見つめた。
何か言わなくては、と焦る気持ちと、このままただずっと瞳を見つめていたいような気持ちに挟まれ、ヴェルが言葉に詰まっていると、カイの唇が開かれる。
「……お前は、何なんだ」
「へ?」
何なんだ、とは。
まさか、ザディオス人ということについてか?
確かに、ノアがカイにだけは報告していてもおかしくはないし、普通はするだろう。
「あ、えっと……」
「こうして庭の手入れをしたり、俺を恨まないと言ったり、変わっている」
あ、そっちか。と、カイの言葉にどこかほっと胸を撫でおろした。どうやらノアはカイにも伝えていないらしい。
なぜだろう。カイにザディオス人だとバレて、拒絶の視線を向けられるのは、想像するだけで悲しく思えた。
「あ、あんたを恨まないのは別に……。俺自身、人を恨めるような大した人間じゃないっていうか」
「そうか。強いな」
「強くないって」
単純に後ろめたいだけだ。今も、カイは「身を呈して村を守ろうとした男」としてヴェルを見ているのだろう。誤解もいいところである。
そんなに良い人間ではないのだ。カイのように、義を重んじ、自分が加害者側だと認識すれば謝罪をし、相手に対して即座に償おうとする。そんな善人ではないのだ。
思わず苦笑が漏れてしまう。
「あんた、俺のこと買い被り過ぎだよ。本当に俺は小物だから」
心からの気持ちでそう言ったのに、なぜかカイは一瞬きょとんと目を瞬かせる。そしてすぐに、口元をむずむずさせ、笑いをこらえるような顔になった。ヴェルは怪訝そうに眉根を寄せる。
「何笑ってんだよ」
「……笑っていない」
「ほとんど笑ってるだろ」
「まだ笑っていない」
屁理屈を言いつつも、カイはとうとう「ふは」と堪えきれずに笑いを漏らした。
肩を小さく震わせ、くつくつと年相応に笑う顔を見て、ヴェルの鼓動が跳ね、じわりとした朱が頬にさす。それを誤魔化すように「だから何笑ってんの」と問う。
「すまん。笑うつもりはなかったんだが。俺は本当の『小物』を大勢見てきているのでな。彼らに比べたら……」
「本当の小物ぉ?」
「ああ」
ようやく笑みをおさめながら、カイは呼吸を整えるように、ふう、と息を吐く。
「中央貴族たちの保身や騙し合いは中々のものでな。財産のために他者を貶め、蹴落とすことに何のためらいもない。貴族だけではない。王宮も、商人連合も、隙あらば自分の利益だけを優先させようとする」
「……俺が世間知らずって意味?」
「いや。お前に小物の素質と環境がなさすぎるという意味だ」
そして、カイはヴェルを見て僅かに口の端を持ち上げる。
「だからか。お前と話していると安心する。こんな事を俺に言われても、お前にとっては迷惑だろうが」
その言葉に、ヴェルは咄嗟に「違う」と返した。反射的に口をついて出てしまった言葉を補足するように、ヴェルはたどたどしく続ける。
「あ。いや……、その。あんたはそうやって、俺と関わらないようにするけど……俺は全然迷惑って思ってないし。なんなら俺も、あんたと話すと安心する……し……」
だんだん声が小さくなり、視線が下がっていく。何を言っているんだ俺は、という自己嫌悪にも似た重い気分がずしりと頭上から降ってきた。しかし
「安心?」
聞こえてきたカイの声があまりに明るいので、思わずちらりと視線だけでカイを見やる。
「そうか。お前を不快にさせていなかったなら何よりだが。……その、安心とまで思ってもらえたのは有り難い限りだ」
困惑を隠しきれず、だがどこか嬉しそうなカイの顔がそこにあり、ヴェルの頬の熱が耳の方まで伝わってしまう。何か返事をしようとするが、それより前にカイの顔が一瞬で曇る。
「しかし、それはそれで心配だな」
「ん? 何が?」
「攫った加害者に対して安心感を覚えるなど……。お前、他の人間にもそんなに隙だらけなのか」
「だから俺は隙だらけじゃないって! あ、じゃなくて、別にあんたも俺を攫いたくて攫ったわけじゃないんだから、加害者って言うほど加害者じゃないだろ!」
「しかし……」
「俺、警戒心強いから! 大丈夫!」
疑いの眼差しを向けたカイだったが、すぐに相好を崩した。
「……その言葉を信じるとすれば。そうだな。お前に安心感を覚えてもらえたというのが、俺にとっては嬉しい」
ふわり、と微笑まれた瞬間、ヴェルのうなじあたりに不思議な痺れが走った。なぜだかカイの顔を見ていることが気恥ずかしく感じ、俯く。
「……っ」
どくどくと脈打つ鼓動の音が、やたら耳の奥から響いてきた。例の匂いがやけに強く感じられ、顔を上げられない。
(あ、そうか)
ない。絶対にない。と、背を向けてきた感情が、急にすとんと腹の中に落ちてきた。
(俺、この人のこと――……)
義を通そうとし、当たり前のようにこちらを慮る。
英雄と畏れられている一方で、年相応に、笑ったり眠ったりする。そんなアルファのことが――
自覚をした途端、ぎゅう、と胸と喉の間が締め付けられるように苦しくなった。
そんな資格はない。先生が殺され、村が襲われたのは自分の存在があったからだ。そんな自分に、誰かを好きになる資格などあるはずがない。
ザディオス人なのだと、ここで打ち明けてしまおうかと一瞬考えを巡らせた。
もうノアは知っているのだし、これ以上この王子様に嘘を吐くのは後ろめたい。
(さすがに俺だって分かってる)
ノアは「ザディオスはもう敵国ではない」と言った。それはあくまでもノアの感情だ。つい三年前まで戦争をしていた両国間にはまだ溝はあるし、関係は冷ややかだ。
何より、ザディオスからの侵略戦争が国境戦争の発端だ。
ザディオス人を憎むシュリス人は多い。カイも、そうかもしれない。
(早めに打ち明けたほうがいい……)
ヴェルは震える唇を僅かに開いた。蚊の鳴くような声が、喉で引っかかりながら何とか吐き出される。
「あ。あのさ……」
しかし、ヴェルが続けるより早く、カイが「そういえば」と口火を切った。
「お前にここにいてもらわねばならない理由だが。全貌が分かり次第、お前に伝えようと思っている」
「え?」
「城砦内の誰を信用していいか分からなかったのでお前の行動も制限していたが。それもそろそろ見当がついてきた。何より、今、お前を村に帰す方が危険だから帰せないが……。解決したらすぐにでも送り届けよう」
「あ。……ああ」
カイの真摯な言葉に、ヴェルはますます居心地が悪くなる。言わなければ。打ち明けなければ。
村に送り届けられたところで、自分はまたのうのうとあの村で暮らすことなどできないのだ。だって、あの村の人々の家族を殺したのは、自分の国なのだから。
ヴェルは声を震わせながら喘ぐように言う。
「ま、待ってくれ……」
「何だ?」
言え。打ち明けろ。
「え……ええと。あのさ、俺……」
言わなければ、と分かっているのに喉が詰まる。変な汗が滲んで、背を伝う。
「俺……」
もし打ち明けてしまったら、カイは安心感など持ってくれなくなるだろう。こんな風な微笑みをもう自分には向けてくれないかもしれない。
(分かってる。それが普通なんだ。俺にそんな資格……)
でも、もう少しだけ、今のままでいられないだろうか。
別に、この淡い想いを告げたいわけでもなければ、カイとどうこうなりたいわけではない。
ただ、こうして他愛のない話で笑い合うような時間がほしいと思ってしまう。
村に帰るわけにもいかない。ザディオスに戻るわけにもいかない。ここを追い出されたら、もう二度と、こんな穏やかな時間は持てないかもしれない。
ああ、また繰り返すのか。先生の時も。村の人たちの時も。いるべきではない異分子のくせに、浅ましく優しさに縋ってしまった。同じ馬鹿な真似を繰り返そうとしているのか。
(ダメだ。そんなの……。ダメなんだ)
ダメだとわかっているのに。
北方の寒い町で、餓死と凍死の恐怖に怯えて生きていた感覚が蘇る。
腕の中で硬くなっていく恩師の感覚が蘇る。
何年も、道具として扱われ、痛みの中、虚ろな目で白い天井を眺めるしかなかった感覚が蘇る。
怖くて、孤独で、冷たくて。
「あ、のさ……、えっと……」
長い時間じゃない。ほんの少しの間だけ、先延ばしにしたい。この穏やかな感覚に浸りたい。
(ダメだ。言え。早く言え。真実を打ち明けろ)
それが正しい行いだと分かっているのに。きっとカイのような善人であれば、そうするのに。
はく、と動いた口から、乾いた笑いが漏れた。
「あ。はは……、あれ? 俺いま何言おうとしたんだっけ。忘れた……」
冷や汗が滲んで止まらない。きっとひどい顔色をしているのだろうが、この黄昏の陽色が隠してくれていると願いたい。
怪訝そうにカイが首を傾げた。
「言いたいことがあるなら言った方がいいぞ。俺にできる事があれば何でも聞くが」
「ええ? いやいや、王子様優しすぎるだろ。あはは」
とぼけたように言って立ち上がる。今はとにかくこの場にいるのが恐ろしい。これ以上この口が何かを喋る前に立ち去りたい。
「えっと、花のことだったかもしれない。何だっけな……。ごめん。思い出したら言うよ。あ、リウがもう夕飯の支度してると思うから。あんたは館に早く戻ってやれよな」
じゃあそういうことで、と踵を返そうとすると、後ろから「待ってくれ」と声を掛けられる。
「迷惑でないというのなら、またこうして話してもいいか?」
心臓が奇妙な音を立てて跳ねる。そろり、と振り向けば、カイは真剣な面持ちでこちらを見ていた。
思ってもない申し出だ、と喜べばいいのか。苦い感情がじわじわと身体を侵食していく。
ヴェルは躊躇った様子を見せたが、小さく頷いた。途端に、カイはパッと表情を明るくした。
獅子と恐れられた男のはずだが、こうも素直に表情に出るというのはどこか大型犬のようにも思える。少しの微笑ましさと、多大なる罪悪感に押しつぶされながら、ヴェルは引き攣ったへたくそな笑みを返した。
「お、俺もあんたと話せるの、嬉しいよ。……じゃあ。またね」
「ああ。また」
逃げるようにしてその場を後にし、足早に納屋へ駆け込んだ。
心臓が痛むほど鳴っている。これが、騙している後ろめたさからなのか、それとも恋のときめきとやらなのか、何も分からない。
「……っ」
ヴェルはぐしゃりと前髪を掴み、よろけるようにして壁にもたれかかった。
「ごめんなさい……」
奥歯をかみしめたまま漏れたのは、吐息のような声だ。
俯いたまま、ヴェルは何度も「ごめんなさい」と繰り返した。
別に、何か月もこの時間を享受したいわけではない。
別に、好きですと伝えたいわけではない。
ただ、もう少しだけ一緒の時間を過ごしてみたいだけだ。
いっそ、ただの子産みの道具として。無理やりつがわせるために連れて来られたほうがよかったかもしれない。
(それか、結婚相手としての正式なつがいが、ちゃんといればよかったのに。何であんな良い奴がフリーのアルファなんだよ。おかしいだろ)
そういう相手がいれば、こんな分不相応な願いなど持たなくて済んだ。
ただの道具として扱ってもらえれば。
温かい笑みなど向けられなければ。
(俺は卑怯な嘘つきなんだよ。そんな俺に優しくするなよ)
もっとほしくなってしまう。ダメだと分かっていても、この時間を少しでも延ばそうとしてしまう。
(人を好きになる資格なんてない。でも……)
絶対バレないようにするから。だって「話していると安心する」と本人から言われたのだ。
『良き庭師』として会話をするだけならば。それくらいなら――
言い訳じみた言葉がぐるぐると脳内を駆け巡り、ヴェルは壁にもたれたまま乾いた笑みを漏らした。
「ははっ……、卑怯者……」
生まれて初めての恋とやらが、苦すぎて、重すぎて、くるしすぎて、痛すぎて。
ノアには悪いが、ちっとも良いものだなんて思えない。
◇
――……
「カイ王子殿下はどこまで気付いているんだろうね」
「さあ。食えぬお方ですから」
「まったく厄介だ。頭まで筋肉なら良かったのになぁ……。まあいい。例のオメガでいいんだよな?」
「はい」
「ああ。楽しみだ。楽しみだなぁ」
うっとりとした声が、暗い部屋に響いて落ちていく。
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運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~
水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった!
「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。
そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。
「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。
孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!
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