初対面の悪魔に「君の快楽を味わわせて」と言われて断ったら家に居付かれ、定期的に美味しく戴かれて困ってます(悪魔×少年/R-18)

宇晴ハル(原稿中)

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[X(Twitter)再録]

赤を纏う(R-18)

 今夜の食事は、たいそう豪華であったと言う他ない。
 宰が私用で外出してから、ほぼ一日中仕込んでいたと思しき手づくりの料理の数々。雰囲気作りを優先したのか、賑やかなテーブルセットの上には二人前の食事が用意されていた。
 普段はヒトの食事を摂らないくせに「一人で卓に着くのも寂しいだろう?」と、意味の分からない気を利かせてきた最上位級の悪魔・麻葉。彼がニッコニコな笑顔で席に着いたかと思えば、食事の間、ずっとこちらの幼少期の思い出話を根掘り葉掘り聞かれ、語り尽くした頃には目の前にあったクリスマスディナーをすっかり完食していた。

(しかし、クリスマスも効力が無いとはな……)

 世界的に有名な神――イエス=キリストの生誕を祝う祭日・クリスマス。
 聖なる祝祭の名を冠するこの数日は、神聖とは縁遠い――特にヒトに害を成す邪悪な者たちにとって非常に居心地の悪いイベントのはずだ。
 それだというのに、我が家に勝手に居付いた悪魔はまったく影響を受けていないように見られる。
 体調が悪い、などの弱音ひとつ吐かないどころか、普段と何も変わらない様子で日々を過ごす麻葉。
 彼がただの悪魔ではなく最上位級の実力を持っているせいか、あるいは祭りとイベントが大好きなこの国独自のクリスマスが確立し、ただの年末イベントとして見なされているせいか、どちらにせよ今日も今日とて彼の弱体化が望めないことが分かった。
 食後、宰は満たされた腹を擦りながら、ソファに寝転んでテレビを見ていると、キッチンを片付け終えた麻葉が二人分のマグカップをローテーブルの上に置いた。たらふく食べた胃を刺激しない優しい香りが鼻腔を掠める。

「ケーキは後にした方がいいかな?」
「ああ。今は入らない」

 まさかケーキまで用意しているとは。このヒトならざる者は毎年この調子でイベントを人一倍楽しんでいるのかと疑問に近いツッコミを心中で放つ。
 最高の世界かんきょうに溶け込んだ高位の悪魔は、どうやら祓魔師こちらの予想を軽々しく越えてくるようだ。魔を祓うための知識や常識など、何の役にも立たない。
 少年の断りに「分かった」と一つ頷いて一度キッチンへ戻った麻葉。一方、宰はテーブルに置かれたマグから彼が再び戻ってくることを見越して上体を起こす。
 香ばしい匂いと一緒に薄く揺らめく蒸気。一口含んでコクリと飲むと程よい温度が喉から胃へ、じんわりと伝わっていく。
 ふう、と一息吐いたタイミングで、空けたスペースに麻葉が腰を下ろした。

「はい、これ。宰にプレゼント」

 横から差し出されたのは、厚みがありつつもどこか見覚えのあるサイズ感のラッピング。

「―――……え、っ?」

 数秒遅れて掠れ出た声。あらゆる考えが一気に脳内を駆け巡る。
 料理にケーキでは飽き足らず、イベントに合わせてわざわざプレゼントまで準備していたのか、とか。
 自分は何一つとして用意していないぞ、とか。
 世間の色と同じく賑やかな包装紙と直面した瞬間に抱いた感情は〝嬉しい〟より〝マズい〟という焦り。
 小さな驚嘆を発して固まった少年を不思議に思ったのか、青年は手にしたギフトを左右に振ってみせた。

「どうかした?」
「あ…、いや、すまない。ありがとう……」

 両手で程よく収まる包みを受け取ると、手に馴染む重みに小さな期待が高まる。

「……開けても?」
「もちろん。それはもう君の物だからね」

 リボンを解き、包みを裏返すと、包装紙を留めていたのは店舗のロゴ入りのテープではなく、一般のラッピング用で売られているシールだった。

「自分で包んだのか?」
「そうだよ。誰かに贈り物をするなんて久しぶりだから、あまり綺麗じゃないけど」
(どこが……?)

 紙は弛んでいないし、リボン掛けもズレていなかった。どこの店で買ったのかと気になるくらいには遜色ない出来栄えだと宰は思う。
 丁寧に包みを剥がしていくと、まず顔を覗かせたのは細かなエッチング加工が施されたメタリックのブックマーカー。四季を問わずに使える和柄のデザインは齢14の少年には渋いものの、煌く光沢は少年心を忘れない男子にとにかく刺さる。和と金という宰の好みを把握されている気がしたことは言うまでもない。
 その後ろにあったメインのプレゼントは先週発売したばかりの文庫本だ。好きな作家の新作ということもあり、以前からリサーチしていたのだが、何かと出費が重なるこの季節。本屋を訪れる機会もなく、いつか行ったときにと先延ばしにしていたところ、この悪魔が上下巻を揃えて贈ってくれたのだ。
 わあ、と素直に喜びが溢れて胸が高鳴る。さすが、ヒトを上げて落とすのが上手い悪魔。女性への接し方に長けている彼らにとっては、趣味の少ない宰の好みなど手に取るように分かるのだろう。

「それにしても、新刊をまだ買ってないってよく分かったな」
「そう? だって君、読みかけの本はいつもこのテーブルの上に置いておくだろう?」
「……確かに」

 言われてみればそうだ。
 学校の休み時間に読み終わらなかった場合は、自宅に持ち帰って続きを読んでいる。
 自室に居るより、リビングから各部屋へ移動することがラクであると気付いてから、宰は様々なものを部屋から持ち込んでいた。
 それは本も然り。読み終えた本は自室の本棚へと戻すので、テーブルの上に置かれたままの本が現在どのような状況であるのか、同居人ならば当然分かる情報だった。

「――というわけで、ハイ」
「?」

 にこやかに横から差し出された手のひら。頭の上には一瞬だけ疑問符が浮かぶ。
 何かを求めるようなポーズに意味を察した少年は「それが……」と初めは言葉を濁すものの、正直に打ち明けた。

「すまない……。お前から貰えると思ってなくて、プレゼントは用意してないんだ」
「うん、そうだと思ってた」

 明日まで待ってもらえないか、と相談しても、返ってくるのはその言葉と笑みだけで。少年からのプレゼントを求める手は引っ込まない。

「明日必ず渡すから」
「オレは今日欲しいな」
「この時間だぞ。どの店もとっくに閉まってる」
「わかってる。でもオレは今日がいい」

 せいぜい行けてコンビニだ。
 クリスマスプレゼントと言ったって、ケーキがあるのにわざわざ追加で買ってくるのもおかしな話だ。未成年だから酒は買えないし、他に喜ばれそうなものは思い浮かばない。
 仕方ない。こうなったらコイツを連れてその場で選んでもらうしかないと徐に腰を上げると、差し出されていた麻葉の手が少年の手首を緩く掴む。そのまま同じ場所にすとんと座らされ、ますます多くの疑問符が飛んだ。

「何も買わなくていいよ」
「プレゼントが欲しいって自分で言ったんだろうが」
「言ったよ。でも、オレは物が増えるより、何かしてもらえる方が嬉しいな?」
「ハッ、まさか『プレゼントは僕♡』とでも言ってほしいのか?」

 仲睦まじい関係でもあるまいし。そんなお決まりのセリフを求めているわけではないことを知りつつ、鼻で笑いながら言い放つ――が。

「フフ」
「―――……」

 思わぬフレーズが出たことに驚くわけでもなく、そんなもの欲していないと否定するわけでもなく。
 麻葉はにこやかに笑んだままで、表情は崩れない。唯一選ばれなかった選択肢が思考の中に堂々と残り続け、宰は断崖絶壁に立たされたような焦燥感を味わいながら頬を引き攣らせた。

「……………冗談だよな?」
「そう? 性夜に相応しいと思うけど?」

 ありえない、と拒否できないのは、今日が25日だからだ。
 悪魔と交わした約束の日。この後に起こる行為と関連付けた要求であることを悟り、宰は瞬時に脳内を言い訳モードに切り替えた。
 プレゼントを用意できなかったという不利な立場。普段通りにただ法力や精力を渡すだけでは彼は満足しないだろう。ならば、どこまで妥協できるか。どの程度まで許せるか――。口を閉ざし、保守的な判断を巡らせるも、黙れば黙るほどタイムリミットが縮んでいく気がして、言い様のない焦りに駆られる。

「そうそう。プレゼントと言ったら、こんなのも余ってるよ」

 そんな言葉と共に悪魔のポケットから出てきたのは、宰のプレゼントに使ったらしい赤色のリボン。
 他に用途など無いだろうに、わざわざ10メートルのものを買ったらしく、ほぼ新品に近い状態で綺麗に巻かれていた。

「そんなもの、一体何に使えと言うんだ」
「分からない? それとも分からないフリをしているのかな。今夜君がプレゼントになると言うなら、これほどラッピングに向いた資材はないだろう?」
「……このスケベジジイめ」

 令和の世に昭和のノリを持ち込む輩が何処にいるというのだ。
 外見年齢が二十代の青年に向けて恨みの籠った眼差しを向けると、彼は「まだ若い方なんだけどな」とやや不満気な顔をしていた。思えば、麻葉は中世ヨーロッパ時代に――言い換えれば、日本では雅な国風文化が流行していた頃に生まれた悪魔だ。何百年も生きてきた彼がたかだか直近50年の変遷に追いつけるはずがないと一人納得してしまう。
 今は昔に比べて時代の移ろいが目まぐるしい。価値観のアップデートをしておけと指摘すると「君より今の社会情勢に詳しいと思うけどなー」となどと何故か得意げに言い返された。

「まあいいや。じゃあ、オレのような老いぼれに教えてほしいな。宰はどんな方法でプレゼントをくれるつもりなのかを、さ」
「そ、れは……」

 物ではなく行動で示せと言われても、具体例が思い浮かばない。
 自分で動くか? ……いや、麻葉はそれだけじゃ首を縦に振らないだろう。
 いっそ、快楽漬けを許してみるか? ……それはダメだ。戻れない域に達したあとが想像できない。
 麻葉の好きなようにさせるか? ……言わずもがな、待ち受けているのはアレを使った遊びだ。

「5、4、3……」
「お、おい! 考え中なんだ、急かすな!」

 言葉尻が途切れ、沈黙が下りると。
 考える暇など与えないと突然カウントダウンが始まり、強制的に選択肢が狭められていく。

「2、1……――」

 他にプレゼントになりそうな案は思い浮かばない。
 愉快そうに細められた虚無のグリーンは獲物を完全に捕らえた目付きで、こちらを逃してくれそうにない。麻葉に掴まれたままの手のひらにリボンが乗せられ――そして、カウントはゼロになった。

「答えは?」
「……………いい、だろう」

 そう、頷くしかなかった。
 リボンで縛られるなんて、本当は嫌で仕方ないけれど。
 今日は元より彼の頼みを断りにくい日だ。加えて、クリスマスというイベントに悪魔は便乗しないという偏見で、麻葉へのプレゼントの用意を怠ったこちらにも非はある。

(見た目がどうであれ、結局やることは同じなんだ。今さら恥ずかしがる必要がどこにある)

 すでに幾度となくあられもない姿を目の前の悪魔に晒しているし、この後も散々弄ばれるのだ。リボン縛りごときで怖気づいている場合ではないと、ぐっと腹を括って今一度深く頷く。
 マグカップのコーヒーを底が見えるまで飲み干し、コンと音を立ててテーブルへ置いた。

「覚悟は決めた。かかってこい」
「あっはは。勇ましくて何よりだ。そういうトコ、本当に君らしくていいね」

 クスクスと笑いながら、少年の体躯を軽々しく抱き上げた麻葉。
 そのまま寝室へと連行され、ベッドに下ろされる。
 持たされたリボンは再び彼の元へと渡った。

「準備する間、自分で脱いでおいて」
「ヘンな痕は残すなよ。それから、さっきまでお前が浮かれきって腕を奮った夕飯を食べてたんだ。激しく揺すったら、問答無用でお前の顔面に全部還元するからな」
「痕は宰が暴れなければきっと大丈夫だよ。後者は――なるべくそうならないよう努力する」
「ふん。ならいい」

 宰は言われた通り、テキパキと上着のボタンを外してインナーも脱いで上裸になる。
 これから行われる情事など寸分も匂わせない――むしろ、日常と何も変わらないラフな会話。宰はズボンも下着ごと大雑把に両足から引き抜くと、リボンを台紙から外していた麻葉が物言いたげな表情でこちらを見遣った。

「さっきまでの戸惑いはどこに行ったんだか……。それとも、案外ノリ気になってきた?」
「馬鹿を言え。避ける選択肢を寄こさなかったのはお前だろう」
「それにしたってさあ……。もう少し躊躇ったりするものじゃないの? 腹括るの早くない?」
「協力すればした分だけ早く終わるからな」

 それに、無為に長引かせるほどコイツの嗜虐心を煽ることになる。何事も引き際を弁えてことが一番なのだと、宰は過去数回に亘る抵抗を経てさすがに学んだのだ。
 そう断言すると、麻葉は「確かにね」と相槌を打ちながら、外したリボンを片手に少年の前へ身を乗り出した。両の手首を胸の前で合わせるよう促され、その通りにしてみせると、束ねられた二本の腕に赤いリボンが緩く絡められていく。
 いよいよ退けなくなってしまった――。目の前の光景を見つめつつ、宰は心の中でそっと呟く。
 腹を括ったことに後悔はない。が、普通に生活をしていれば起こり得ない事態を受け入れるのは気分的にもそう簡単なものではない。

「―――……」

 いつでも外せるよう腕を束ねたリボンの先を余らせていることも、あえて首は避けて巻いていることも、安全に配慮していることが縛り方から伝わってくる。
 これから危険な目に遭うわけでもないし、過激なプレイを楽しむわけではないようだ。――けれど。
 自分は何に不安を抱いているのか。何が気がかりなのか。どこか割り切れないと心が密かに訴える。

「緊張してる?」
「そう、なのかもな」

 緊張。言われてみればそれに近い感覚だ。
 まだ数メートル以上残っているリボンが、ゆとりを持たせて自分の体に一周、また一周と巻かれていく様子を宰はただただ静かに見つめる。
 暖房は点いているが、窓際から流れ込む冷気がひんやりと冷たい。上半身に纏ったサテン生地のリボンが素肌を撫で、冷えなのか肌ざわりなのか、どちらともつかない鳥肌が立つ。

「かなり余裕は持たせたけど、暴れると締めつけたり、食い込んだりするから気を付けてね」
「お前にこんな趣味がなければ、僕もこういう目に遭わなくて済んだんだがな」
「はいはい、自分の準備不足を責任転嫁しない。――さ、寝転がって」

 悪態を吐いたのに軽く受け流され、おまけに腕の結び目から垂れ下がっていた先端をベッドのヘッドボードに括り付けられた。
 ひとまとめにされた腕は頭上に掲げられ、いよいよ半身はほぼ身動きが取れなくなる。
 固定されたリボンにも充分な長さを確保しているようで、仰向けの状態からうつ伏せになることは可能だ。しかし、体勢を変えようにも肘を突いて支えるしかなく、無理に体を捩じろうとすれば腕から胴へ繋がる一本が体の動きを拒む。

「うわあ、スゴい恰好……」
「ようやく自分のセンスのなさに気付いたか」
「いいや? 君の白い肌に赤はよく映えると感心したんだ。このまま足まで巻いていくからね」
「……このヘンタイめ」

 悪趣味だと真正面から言い放ってやりたいが、そもそもヒトと悪魔の価値観は大いに異なる。ヒトの常識を身に着けている彼は、そのように振舞うことが得意なだけで根本的な感覚は宰とかけ離れている。どうやら芸術の感性においてもそれは例外ではないらしく、少なくともコイツと相容れることはなさそうだと心の中で舌打ちをした。

「腰、あげて」

 言われるがまま腰を浮かせて、麻葉の好きなようにさせる。
 両足は肩幅以上に開いてと要望があったので、そちらも言われた通りにすると、足の付け根から腿へ、腿から脛へ――要所で部位をぐるりと一周囲んで結び目を作り、解けないように互い違いに縛られていく。締めは踝に大きなリボン結びが作られ、大満足の笑みを浮かべている悪魔とは対照的に宰は思いっきり顔を顰めた。

「どう? なかなか上手にできたんじゃない?」
「何から何まで最悪だ」
「フフ、そう言うと思った」

 達成感に浸っている自己肯定感を挫いてやりたくて、心からの感想をダイレクトに伝えてやると、彼は想定通りの回答だと笑う。

「痛いとかキツいとかないなら続けるけど――いい?」
「お前の感性がイタすぎる以外は、どこも」
「今の発言は聞かなかったことにしておくよ」
「んっ」

 行為の始まりを軽いキスで告げられる。
 ただの合図に過ぎない、重なっただけのそれはしかしすぐに離れ、ぬめる舌先が首筋へと下りていく。脈を辿っていたのだろうか。そこで数回リップ音を立てたかと思えば、唇で挟むように甘く食まれた。

「……、僕は本当にこのままでいいのか?」

 そう問いかけてしまうのも無理はない。
 祓魔師を生業とする宰の精神力は高い方だと最上位級悪魔の麻葉が認めるほどで、快楽への耐性がある一方で感度は極端に低いのだ。並大抵の淫魔族サキュバス魅了チャームはもちろん効かないし、理性を保てているなら麻葉の甘言に揺さぶられることもない。
 つまるところ、今の状況では彼が求める〝快楽の味〟を提供できないのだ。
 クリスマスプレゼントとしてこのようなまでされたのに、メインが用意できないのは本末転倒。かといって両手が縛られている状態では何かをしてやることもできない。

「いいよ。プレゼントの自覚さえ持っていてくれれば、それで」
「わか、った」

 舌を絡める濃厚な口付けも、催淫効果を含む唾液を摂取させることも、今はあえてしない、ということらしい。
 そのままで良いと言われたなら受け身でいるだけだ。
 特にやることのない宰は、全身を愛撫しながら夢中で舌を這わせるラテ色の頭頂部を見下ろし、小さく溜息を吐く。

「あまり美味そうには見えないが」
「これはあくまで下ごしらえさ」
「下ごしらえ?」

 リボンの掛かっていない素肌をくまなく舐めている麻葉は「そう」と短く相槌を打つ。
 水気をたっぷり含んだ唾液をあちこちに舌で塗り広げられている身としては、そのベタつきが不快でならないというのに。少年がまったく反応を示していないことなど意にも介していないらしい悪魔は、挨拶がてらのキスを左足の爪先に落としてから、弛んだリボンを避けて両足の間に収まる。

「手間をかければかけるほど美味しくなるからね。特別なディナーを食べたなら、デザートもやっぱり特別でないと」
「どうせいつもと変わらないだろう」
「それはどうかな」

 急所に近い内腿に吸い付つかれ、ピクリと筋肉が強張った。
 愛おしそうに口付けを施され、時折肉質を楽しむように軽く歯を立てて甘噛みをされ。
 表面を這うだけの愛撫では得られない刺激と、ぴちゃぴちゃとわざとらしい唾液の水音。頭では気色の悪い舐め方をするな、と文句が出てくるのに、すぐそばにある秘部は与えられた刺激で僅かばかりの反応を示していた。

「……っ」

 鼠径部付近は重要な神経が集中する部位だ。刺激をされれば必然的に周辺にも影響を及ぼす。
 己の中心が芯を持ち始めたのは、決して気持ち良さを感じたからではない。これはただの生理現象だと、芽生えた羞恥心を押し込むように自分に言い聞かせる。

「若さのハリがあって、肉厚で……。このままかぶりつけたらいいのに」
「は…っ、痺れを切らして、もう喰らうか?」
「まだ頃合いじゃないな。君はもっと味わい深くなる可能性を秘めてるんだから」

 もう少し熟れさせないと、と白い肌を再び吸った麻葉は足のあらゆる箇所にキスを落とす。右足の膝から先は麻痺で感覚がなく、自分ですら偶にぞんざいに扱うのに、そちらも丁寧に扱われて宰は困惑した。

「そんなところ舐めたって、僕は感じてやれないぞ」
「もちろん、わかってる」

 両足ともに同じことをしているのだろうか。足の甲に唇が触れ、それからぬめった舌が足の裏や指の間を擽っていく。

「……汚いのは嫌いなんじゃなかったのか」
「誰がこの家を毎日掃除してるのか、お忘れかな? それに、さっきお風呂に入ったんだから汚いはずがないよ」
「はぁ……そうか」

 溜息を吐いて天井を見上げる。部屋の灯りが煌々と点くなか、聞こえるのは麻葉の口から発せられる唾液が絡む音と、ほんの僅かな吐息――。それと、一瞬だけ乱れて以降、落ち着きを取り戻した自分の呼吸だけ。
 本当に、されるがままだ。
 けれど、麻葉は文句ひとつ零さない。

「はは、そんな恰好でもリラックスできるんだ?」
「どっかの誰かが強引に発情させてこないからな。今日はその分、落ち着いていられる」
「そう。それは良かった」

 他愛ない会話を続けるなか、彼は優しい手付きで後孔を解し始めた。
 唾液が絡んだ指が慎重に挿入ってくる。異物を押し込まれる不快感に宰は柳眉に皺を刻んだ。
 ぬち、ぬち、と適当に出し入れしているだけの動きだが〝解す〟という意図は感じられない。
 どちらかと言えば、行為の表面をなぞっているだけで、他の目的は別にあるような――そんな違和感を覚えた。

「そろそろ馴染んだかな」
「はあ? まだ指一本しかしてないだろ、…っ」

 浅いところにある筋肉を弄っていただけの指が、ゆっくりと、根元まで、埋められる。
 異物感がより顕著に感じられて一瞬息を呑むと。麻葉はこちらの体内に指を沈めたまま、少年の顔を覗き込むように身を乗り出す。ギシ、とスプリングの軋む音がした。
 虚無を宿したグリーンの瞳。そこから彼の意思を汲み取ることができず、宰の胸中には一抹の不安が過る。

「それで慣らしたつもりじゃないよな……?」
「うん? ――ああ、違うよ。そんな乱暴なことしないって」

 どうやら今の状態で規格外のサイズを突っ込む気はないらしい。麻葉の返答に安堵するも、ならば何をするつもりなのかと相手の表情を窺う。光を宿さない緑が、薄く細められた。

「君の体が柔らかくなって、甘さが引き立つ頃合いを待ってたんだ」
「頃合いって……、――ひ、ぁッ、」

 彼のもう片方の手が、腹部をそっと撫でた瞬間。わけも分からないまま腰がビクンと跳ねた。

「ぇ、…? なん、で…こんな――あ゙ぅ、っ」
「さっきまで感じてなかったのに、急に敏感な反応しちゃったから混乱してるんだ?」
「ん゙…ッ」

 するり、と、ひと撫で。ただそれだけなのに。
 ぞくぞくとした感覚が、触れられた箇所から爪先まで、光の速度で全身に広がっているようだった。

「ま、待て!! 一旦触るな……!!」
「それは無理」
「ムリ、じゃ…なッ……い゙、ぁッ」

 制止の声も虚しく、麻葉はわざと厭らしい手付きで下腹部を撫でてくる。
 なんてことのない、柔らかなタッチとスキンシップ。にもかかわらず、意識に反して背が浮き、思考が疑問符で埋め尽くされる。

(な、んで……)

 確かにコイツは嫌と言うほど全身を舐めていた。
 だが、普段のように、粘液の触れた箇所が疼くわけでも、体が火照るわけでもなく、ヒトと同じ前戯の真似事だと思っていたのに。

「あーあ。ちょっと触れるだけでこんなビクビクしちゃって。ナカも、きゅって締まってる」
「待て…、まって――待てって!! 頼む、いったん、止め――ん゙んッ」
「だめ。待たない」
「ゃ、だ…って……、ん、ぁ…ッ」

 脇腹のラインを、下から上へなぞられるだけで腰が弾ける。
 体内に留まったままの麻葉の指を反射的に締め付けてしまい、悪魔の思惑通りの反応を見せる身勝手な体が憎らしく思う。たかが触られたくらいで快楽に打ち震えるなど、祓魔師にはあってはならない失態。どうにか耐えようと心の中で自分自身に喝を入れた。

「っ……、は…ぁ……っ、んッ……ん゙ん…」

 少し体温の低い、骨ばった手がリボンの上から胸を撫でる。
 迫りくる、ぞくぞくとした感覚を止める術などなくて。背中が勝手にしなることも止められず、宰は少しでも快楽から逃れようと、額に自分の二の腕を押し当て、必死に頭を左右に振った。
 冷静な頭と快楽を生み出す体にギャップがあるせいで、脳の処理が追いつかないのだ。

「キモチイイ?」
「っ――…」

 囁くような問いかけにふるふると首を横に振る。
 頭がパニックに陥っていることは紛れもない事実だ。けれど、身体から発せられる信号を脳が快楽として受け取っていないのだから、否定するしかない。

「さすが宰。カラダは素直でも、理性は呑まれてないみたいだ」
(く、そ……ッ、だからか……!)

 コイツがキスで舌を絡めなかった理由にようやく合点がいく。
 身も心も蕩けさせ、甘美に浸ける、一つの行為。それを避けることで宰の理性――精力の苦味は保たれ、しかし同時に体から生じる甘味も麻葉は喰らうことができるのだ。
 リボン縛りなどというふざけた遊びに付き合いながら、いつも通りに精力を提供すればいいと考えていた自分が甘かった。
 食にこだわりが強いこの悪魔の表現を用いるなら、今の状況はさながらデコレーション前のケーキそのものだ。宰というメインがあって、行動の選択というトッピングを取りながら、口の中で味がどのような調和を生み出すかを一手順ずつ考えている。

「とん…でもない、…強欲、だな……っ」
「そう? 苦くて甘い味はみんな好きだろう? ――もちろん、君もね」
「く、……ッ」

 後孔に収められた指が増え、行為の果てに向かう準備に体が強張る。
 そそり立った体の中心に触れられることはない。代わりに再び胴を大きな手が這い、呼吸が乱れた。

「っ…は、……ッ…、ん……」
「ちょっと触っただけでこの反応かあ。感じやすいトコを弄ったらどうなるんだろうね?」
「感じやすいとこ…なんか、ない……っ」
「あっはは。それは普段の話だろう? そのカラダで、同じことが言えるかな」

 伸ばされた指先が、鎖骨のラインを優しく撫でる。

「ない、……ない、から…ッ」

 次はどこに触れるのか。明確な宣言がなくても、素肌を滑る指の動きが、彼の目線が、胸に巻かれたリボンを押し上げて主張している箇所へ辿っていく。

「だめ…、だめだ……! 待て、触るな――さわ、んッ、ああッ!」

 カリ、と生地の上から爪で掻かれた瞬間。
 電流に似た鋭い刺激が全身に奔り、宰の体は抵抗の意思も虚しく大きく仰け反った。
 激しく身を捩ったせいか、腕や胴体に巻き付いたリボンが緩く締まる。これ以上動くと紐が食い込む――理性がそう判断したことで、緊張状態に陥った筋肉はすぐに弛緩した。もちろん、駆け巡った感覚は中途半端に残したままで。

「ああ…、とってもいい反応……。今ので甘イキしちゃったんだ?」

 またナカがきゅーって締まったとわざわざ報告してくる麻葉は秘所へ指を増やし、難なく咥えられるほど解れていることを知らしめる。本番までの準備を整え、内壁を擦りながら指を抜かれると、吐息交じりの甘い声が鼻から抜けた。

「こっちはまた後で、ね。――宰が感じているトコ、もっと見せて」
「も…、むり……。ぃゃ、だ……っ」

 何が嫌なのか、自分でも言語化できないけれど。
 背中に差し込まれた腕に抱き寄せられて、拒むように首を振る。
 己の中心に集まった熱が、欲の解放を望んでジンジンと疼く。理性なのか、リボンなのか、あるいはその両方に阻まれて、イけそうでイけなかったもどかしさを再びこの身に刻まれるのが嫌なのかもしれない。
 麻葉は悪魔だ。どんなにヒトのように振舞っていようと、どんなに献身的な姿に映ろうと、彼が隠し持つ本質は変わらない。欲しいものを得るためならば自分の苦労すら獲物に差し出すことも厭わない性格で、〝こだわり〟なんて冗談めいた言葉の裏に潜むのは、法力と精力の味への執着そのものだ。

「もう少し、頑張れそう?」

 なんてズルい問いだろう。
 負けん気の強い少年が己の限界を素直に認めないことを分かっていて、彼はそう尋ねたのだ。
 はくはくと荒い呼吸を繰り返す。肯定も否定も、今はしない。

「できない、って言わないと、このまま続けるよ……?」

 最終確認だ。ここで断らなければ、コイツから与えられる快楽に溺れることになる。

「、……っは…、……ぁ」

 これ以上の刺激を受けたらおかしくなってしまう。
 できない、と一言呟くだけでいい。引き際を弁えることも時には必要だと自分に言い聞かせる。

「……、………」

 体はいつの間にか内側から熱く昂っていて、先程まで感じた冷気などとうに気にならなくなっていた。
 瞼を伏せ、乱れた吐息を整える。その間、麻葉は何も言わずに――いや、少年の第一声を聞き逃すまいと、ただ静かに待っている。
 唱えるべきは、たった一言。

「言った、はずだ……。『かかってこい』って」

 グリーンの眼差しと視線がかち合った瞬間、失望の滲んでいたそれは微かに驚愕の色へと変化した。

「宰……」

 誰が弱音を吐くものか。
 誰が逃げたりするものか。
 耐えて、抗って、受け入れなければ、いつまで経ってもコイツには敵わない。
 《契約の締結エンゲージ》を交わした関係で、自分が下僕であったとしても。
 その立場を甘んじて受け入れたまま、いつまでも飼い馴らされる心算は毛頭ない。

「……まったく、強情だなあ」

 呆れたように呟く麻葉。しかしその口元は笑みを隠せていなかった。
 少年の淡い金髪を掻き上げ、露わになった額に唇がそっと落とされる。

「だけど――最高の煽り文句だ」
「……ふん。プレゼントの自覚を持てと言ったのはお前だからな、……ん、っ」
「ふふ。そうだったね」

 目尻に、頬に、そして唇を避けて喉元へ。優しく触れるだけのキスが下りていく。

「あ、…はぁ……ッ」

 すーっと撫でられた肌がビクビクと震える。
 再びベッドへ全身を沈めると、麻葉は今になってようやく自身が纏っていた衣類を脱ぎ始めた。

「後のことは気にせずに、たくさん乱れていいからね」

 そう、甘い声音で囁かれて、宰は内心で己の覚悟を自嘲する。

(……何をやってるんだろうな、僕は)

 あのときNOと素直に言えていれば、足腰立たなくなる状況を免れることができただろうに。
 明らかに間違いである意地が、正しい判断を下した理性を上回ったのだ。

「ほら、ちゃんと集中して」
「ぅ…、ん゙ッ……あ、あぁッ」

 生地の上から片方の乳首を舌で弄られ、もう片方は空いた手で捏ねられる。
 気持ちいいどころじゃない。暴力的な甘い刺激がひっきりなしに襲い掛かってくる。
 何度も何度も仰け反って。もっと触ってと主張するように胸の尖りを突き出して。
 上擦った嬌声を止める方法も分からず、宰はギリギリで達せないもどかしさに腰を揺らす。

「こっちもそろそろ触ってあげないとね。勃ちっぱなしで辛かっただろう?」
「バッ…カ……! おま、何…して……ッ!?」

 麻葉はそう言いながら足の間にあえて弛ませていたリボンを掬ったかと思うと、しとどに濡れた宰の中心をそのままゆるゆると扱き始めた。絶妙な力加減と肌ざわりの良い生地に敏感なそこを何度も擦り上げられると、元より薄れていた我慢がいっそう瓦解する。

「ン…あ゙ッッ! ――、れ、……やめ、ッ……あ…、くッ――ィ、ク……ッ!」
「いっぱい出していいよ」

 溢れ出る透明な液が染み込んだ生地に鈴口を擦られると、ガクガクと小刻みに全身が震えた。
 軽く歯を立てながら胸を吸われ、同時に射精を促されて。甘美がこの身を包み、どうしようもない感覚に襲われる。
 快楽を逃そうと身を捩っても、腕の先から足首に至るまで絡められたリボンの締め付けが増すばかり。摩擦から生じた刺激なのか、あるいは雁字搦めになった状況に興奮を覚えてしまったのか――どちらにせよ、それがトドメとなって、これまで溜めていたものが勢いよく麻葉の手の中に放たれた。

「あ゙、ぅ……ッ、…は…あッ……、は……」
「すっごい……。こんなにびしょ濡れにして……――そんなに気持ち良かった?」
「…る、さぃ……。見れば、わかる…、だろ……っ」

 彼の手を汚した白濁を内腿に塗り付けられ、そのぬめりにすらビク、と再び小さく跳ねる。
 肩を上下させながら、足の間に移動した彼を目で追うと、猛々しく育った怒張が後孔に宛がわれた。
 その熱と大きさに、宰の喉がヒュッと鳴る。間違いなく絶望的な表情だったに違いない。

「そんな顔してもやめてあげられないよ」
「ひ…ぅ、……ッ」

 ゆっくりと腰が進められ、すでに慣らされていた箇所に先端が埋まっていく。

「大丈夫? 痛くない?」
「ヘ…キ、……ッ」

 こちらを気遣うなら、せめてワンサイズ小さくしてくれないか。できない相談を心の中で零した宰は、この後に訪れる奥への侵入に備えてゆっくりと息を吐く――のだが。

「…? ど、した……?」

 カリまで沈めた麻葉は動かない。
 アクシデントでもあったのかと相手の様子を窺うと、どうやら彼はこちらの準備が整うのを待っていたようだった。

「最後の仕上げは宰自身にしてもらいたくて」
「し、あげ……?」
「どれくらい気持ちよくなりたいか、自分で決めて」
「決めてって言われても……」

 互いの認識に多少のズレが生じるのだから、度合いを言葉で伝えたところで意味がないように思う。
 それとも、抱かれながら「もっと激しく」とか「もっと突いて」とか、そのように指示を出せということだろうか。
 難しい要求をしてきたものだと戸惑って顔を顰めると、麻葉はやや強めに宰の下腹部を押した。
 一度快楽に呑まれた体は、そんな刺激さえも甘い痺れに変えてしまう。

「ん゙ん、ッ」

 反射的にナカも締め付けてしまい、収められた熱棒の先からじわりと熱いナニかが溢れる。
 これは彼の精液ではない。獲物の理性を蕩けさせ、ヒトを本能と欲望の解放へと誘う、催淫効果のある体液だ。

「宰が締め付ける度に少しずつ注いでいくから」
「そんなの、無理に決まって――ゃ、っ…あ…!」

 固い芯の先端が、ぬぷ、ぬぷ…、と一定のリズムを刻みながら外と内の境目を行き来する。
 指でも散々に弄られた箇所は敏感になっていて、押し広げられればその形を受け入れようと咥え込み、引き抜かれる直前には体内に留めようと無意識に吸い付いてしまう。
 つまるところ、締め付けるなと言われても手遅れなのだ。
 排泄に使われるべき場所が刺激を受けて物欲しそうに収縮を繰り返す度に、少しずつ温かいナニかが内壁を伝ってじんわりと広がっていくのが分かる。

「あッ、……ん、んッ…、だから…ッ、…だめ、だっ…て……ッ」

 浅い呼吸に呼応するように下半身の反応の頻度も増していき、絶頂の波がすぐそこまで押し寄せる。
 腰を掴まれているせいで身を捩ることも、快楽の波を緩和させる方法もなく、間もなく限界を迎えようとしている己の体に「どうにか耐えろ」と無意味な指示を言い聞かせる。

「今夜くらいはもうちょっと素直になってもいいのに」
「じゅう、ぶん……、素直…だ、ろ……ッ」
「そうかなあ?」
「ぁ、あッ…!? バカ、ひっかけン、なッ――」

 ずり、と何かが擦れた瞬間。「ああ、だめだ」と心に反して脳内で白旗が上がった。

「――ん、くッ、~~~~~ッ」

 喉で声を押し殺すも、堪えきれなかった嬌声が再び高みへ到達したことを告げてしまう。
 腰を浮かせ、一際強く締め付けながら達したというのに、余裕たっぷりの悪魔は甘美を齎す体液を与えた程度にしか思っていないらしい。
 解放の余韻に浸る少年の様子を愉しそうに眺めていた麻葉は、こちらの都合などお構いなしに熱で張りつめた楔を奥へと沈めていく。

「そうそう、その調子」
「ひ、あッ! バカ…、挿入って、くんな……!!」

 抱擁を交わすように、ぎゅーっと締め付けると、それに応えてさらに多くの淫液が注がれる。
 彼は淫魔族インキュバスではなくとも、最上位級に君臨する悪魔なのだ。催淫効果は本職の彼らに匹敵するほどで、そんな体液をこんなにも吸収したら、自分が自分でなくなってしまう。
 蕩けきったナカを指の届かないところまで擦られて――いや、塗りこめられて、の方が正しいか。最奥の手前のポイントを狙ったようにぬこぬこと押し付けられると、全身が小刻みに震えた。欲を放ち、散った悦びが再び腹の底に萌芽する。

「あーあ、そんなに絞って……。カラダが言うこと聞かなくなっちゃってるんだ?」
「ッ…、も、…ムリ……ッ」

 激しくしたら吐くと最初に脅したからだろうか。
 普段の行為でガン突きしている奥を穿つ気はないらしい。けれども、ゆっくりと、確実に宰を内側から高めていく動きにナカの収縮が止まらない。

「だめ、…だ、め……、ま、た……ッ」

 イってしまう、と。緩やかに理性を削られて露わになった本心から弱々しい声が零れる。

「いいよ。オレ、甘いの大好き」

 それはまるでケーキのクリーム量に言及するように。
 にこやかに、そして嬉しそうに笑んだ麻葉は、昂る自身を何度も少年の中へ収めながら、「いくらでも搾り取って」とひどく優しい声で告げた。
 先程まで見せていた嗜虐心は鳴りを潜め、今はただ、捕食することだけを考えている腰の動き。

「…ッ、…く……ッ…! ぁ、ああッ!」

 とにかく執拗なまでに一点を抉られ、宰の意識は快楽とともに深みへと誘われていく――ものの。
 絶頂の間際。反射的に身を縮こまらせると、ヘッドボードに繋がれた腕が引っ張られた。同時に、堕ちようとする理性を現実に引き戻すように、体中に巻かれたリボンが全身をきつく締め上げる。

(イ、…け、ない……っ)

 頭の片隅に残り続けるなけなしの理性が、欲に呑まれてはならないと特大の警鐘を響かせる。

「…っ…は……。いい、ね……。蕩けた甘さと…、上品な…苦味が……、最高に、美味しい……」

 麻葉の限界も近いのだろう。軽口が熱を帯びた吐息へと次第に変わっていく。組み敷いた少年に覆いかぶさるように背を丸めて、うわ言の如く何かを呟きながら腰を打ちつけている。

「ッ…は……っ、……ん、ん……っ、…あッ…、は……ぁ…っ」

 静けさのなか、淫らな水音と互いの呼吸だけが重なり合う。
 気を静める方法など有りはしない。何度もビクつく体はその度に快楽の反動を逃そうとして、幾度となく赤に絡めとられていく。

「あ、さは…っ、……うで…、ほどいて、くれ……ッ」

 行為が始まってからずっと頭上で掲げていたせいで痺れが生じ始めたのだ。さらに、腕全体へ紐が食い込むようになったことを喘ぎ混じりに伝えると、麻葉は相槌も打たず、そして結び目を一瞥することもなく片手で解いてみせた。
 端を引くだけでたちまち拘束が緩み、宰はそこから片腕を引き抜いて逞しい背中に回す。

「ん…あッ、…あ…っ……、も、ち……ぃぃ…ッ」

 すべてを差し出す気概があるかと問われるとその限りではないのだが。
 極限に陥った体は解放と自由を得て、慣れた体勢への安堵を求めてしまう。艶めいた声と苦悶の表情で縋った少年に煽られたのだろうか。収められた楔が脈打ち、それが敏感な一点を強く抉る。

「あ゙ぅッ! ――ん゙、ん゙んッ」

 法力も、精力も、そして体力すらも貪り尽くさんと噛みつくようなキスを交わされ、あまりの息苦しさに、ハッキリと相手の形が分かるくらいナカが締まる。
 麻葉の律動は止まることなく、口内を蹂躙されながら下から突き上げられると、潰れた声が揺さぶられるたびに口の端から零れた。

「ん゙んッ……ん゙、…んっ……ん、ん゙……ッ!」

 ――気持ちいい。
 忙しなく舌の表面をなぞられる感覚も。余裕なく唾液と吐息が混ざり合う淫らな音も。
 彼から与えられるものに全身が悦んで思考回路が焼き切れていく。脳が敗北を認めて、蕩けていく。

「ぁ゙ッ…、も……イ、く……ッ」
「イイ、よ……。すべて曝け出して、果てて」

 それは命令なのか、ただの容認なのか。
 忍耐力などとうに失せた宰が何度目か分からない絶頂を迎えることを告げると、麻葉は薄く色づいた白い肌をまさぐる。全身が歓喜に震え、痛みに近い暴力的な感覚の波が一気に脳天を貫いた。

「ッッ、――く、ッ…~~~~~!」

 先端から白濁が溢れ出る腰を浮かせて。乱れた呼吸に上下する胸を突き出して。下品な喘ぎを抑え込んだ喉を目の前の悪魔に晒して。そんな醜態を見せつけながら、体内で膨張した欲望が爆ぜる。
 同時に腹の中もアツい熱が広がり、麻葉が達したことを察した。

「……っ……は、……ぁ…っ」

 余韻が抜けてベッドに沈むと、間髪を入れずにずっしりとした倦怠感に包まれる。
 あの短時間で法力も精力も存分に喰らわれたらしく、指先を動かすことさえ億劫に感じるほどだ。

「はー…おいしかったー」

 繋がったまま、深く息を吐き出して少年を潰さないよう体を重ねた麻葉。
 細身ながらも筋肉のついた彼を抱きしめた宰は、互いの呼吸が整うまで緑のグラデーションがかった相手の毛先を何気なく梳いた。

「満足、したか」
「すっごい満足……。最高のプレゼントだったよ」
「ん……」

 ごちそうさま、と食事の終了を告げる挨拶と共に触れるだけの軽いキスを受け入れる。
 どうやらプレゼントの代わりは無事に果たせたようで、二人の間を流れる穏やかな空気に宰は妙な達成感を覚えていた。

「突くたびに苦味と甘味の比率が変わっていくから――……。もっと欲しくなって、止まらなくなっちゃった」
「そのせいで喰われた僕はクタクタなんだがな」
「はは、そうだね。シャワーを浴びて、コーヒーでも飲み直す?」
「……ああ。一緒にケーキもいただこう」

 楔の抜かれた後孔から、とろりと粘液が溢れ出る。
 リボンを使用した拘束は麻葉の希望ではあったが、彼の行いは終始優しかった。もしも、恋人同士の関係が築けていたなら、さぞかし甘い時間になっていたことだろう。
 だがしかし。祓魔師の宰と悪魔の麻葉はそんな関係になり得ることはありえない。というのも、二人は《契約の締結エンゲージ》を交わした下僕と主人でしかないからだ。彼が触れる手つきが優しかったのも、丁寧に事を運んでいたのも、すべては自身の欲の渇望を満たすためであることを宰は知っている。
 ――そう。どれだけ快楽に溺れようと、それだけは決して忘れてはならない。

「……ぅ、」

 浴室へ向かうため、麻葉に抱き上げられて腹から押し出された白濁が重力に従って尻を伝う。
 体を何度重ねても慣れない感覚に顔を顰めた宰は、甘い痺れも蕩けるような快感も薄れていく現実を噛みしめて胸中をポツリと零した。

「……やっぱり僕は苦いほうが好きかもしれない」

 それはコーヒーなのか、ケーキなのか。
 少年が呟いた味の好みを、この悪魔がどう受け取ったのか分からないけれど。
 風呂場の椅子に座らされ、火照りの引いた素の自分が鏡に映る。疲労を滲ませているものの、こちらを見つめる縹色の瞳はいつもと変わらず力強い。
 麻葉は小さく笑いながら「知ってる」とだけ答え、全身に巻き付いていたリボンを外した。

「そうだろうと思ってザッハトルテ風のチョコレートケーキを用意したよ」
「はあ? ディナーでは飽き足らず、ケーキでもそんな手間をかけたのか?」
「もちろん。宰にも美味しいものを食べてほしいからね」
「……あっそ」

 下僕の味の質を保つことに執着している彼は、日々の料理にも手間暇をかけることを惜しまない。
 そんな食生活を続けている宰は、すでに己の胃袋がこの悪魔に掴まれていることは自覚しており、こちらの好みに合わせたケーキがあると言われると、口ではそっけない返しをしつつも本心では少しだけ興味と期待を抱いてしまう。

「まあ、仮にケーキの話じゃなかったとしても、君は甘い夢快楽より苦い現実矜持の方を選ぶ気がしてたよ」
「ふん、当然だろう」

 シャワーの水がお湯に変わったのを確認して、熱湯を頭から被る。
 宰は思春期真っ只中の少年といえど、一人の祓魔師だ。
 情欲に流されず己を律せていることが、魔を祓う者としてあるべき姿なのだから、夢より現実を選択するに決まっている。
 確固たる意志を以て断言してみせると、背後で想定通りだと頷かれた気がした。
 髪と体を洗って泡まみれになった全身を洗い流し、身も心もサッパリと清めて風呂場から出る。


 時計が0時を刻むまでまだ数時間ある。
 その間、宰はひと切れのチョコレートケーキと一杯のコーヒーを麻葉とともに堪能し、初めてのクリスマスは幕を閉じたのだった。
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