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[X(Twitter)再録]
ゆっくりと染まる
「――ん?」
一体何が気にかかったのか分からない。
けれども確かな違和感を覚えて、宰は自室からリビングに戻る最中に視界に入ったキッチンを注視した。
何の変哲もない、とあるマンションのシステムキッチン。
綺麗に片付けられているそこへ自分が立ち入ることはほとんどなく、数ヶ月前までは侍女であるミッシェルが――そして現在は居候の麻葉が主に使用している場所だ。
以前の宰なら、悪魔が率先してキッチンに立つことなど微塵も想像し得なかっただろう。
ヒトに害を成す存在――それも最上位級の悪魔ともなれば自分が世界の中心と言わんばかりの傍若無人な態度でソファーにふんぞり返りそうなものだが、世の中は意外と"異例"というものに溢れているらしい。
少年の家に居付いた片桐麻葉という男は実力のある悪魔だというのに、邂逅を果たした翌日からどういうわけか自ら率先して家事代行をこなしてくれている。理由あって侍女のミッシェルが去り、彼との共同生活が数ヶ月続いたいま、種族の違いなんて些細なことが気にならない程度には二人きりの生活が馴染んでしまっていた。
家人が変われば家も変わる――。我が家のキッチンもまたその例に洩れないのは物の配置から見ても明らかだ。食にこだわりのあるらしい麻葉は宰も知らない様々な調味料を揃えているようで、カウンターの一角には小瓶やキャニスターがズラリと並べられていた。
キッチンにあまり立ち寄る機会のない宰だが、飲み物くらい自分で用意することもある。そんなときは綺麗に整頓された小瓶たちを眺め、見知らぬ容器が増えたことに気付けば「触れない方が良いのだろう」と思いながら、その用途について一人クイズ大会を開催するのが密かな楽しみだ。
クイズの如何は別としても、悪魔の正体を知りたい少年にとって食や味の好みが顕著に出るエリアは貴重な情報源であることは言うまでもない。一人の祓魔師としても興味をそそられる場所に、今日も真新しい"何か"が置かれていた。
(これは何だ……?)
壁を伝いながらキッチンへと足を運ぶと、カウンターの中央には異様に大きなガラスの瓶が一つ。
どうやら違和感を覚えたのはその蓋の部分がチラリと視界の隅に入ったためらしい。
中を埋め尽くす丸々とした青い実は――梅だろうか。それと氷のようなブロック状のものが下半分に詰められており、初めて目の当たりにする緑と白のコントラストに宰はさらに近付いてまじまじと見つめる。
(アイツのへそくり飯か何かか…?)
この大瓶を見て脳裏に過ったのは5日おきにある食事のこと。
宰が悪魔と共に過ごすことになった経緯は割愛するが、少年はとある契約で彼に法力と精力を提供する約束になっている。
――だがしかし。
(……まあ、物足りなさを感じているんだろうな)
ここ数日は初夏や梅雨による倦怠感のせいで、彼が良質と唱える法力が保てていないことは自覚していた。
宰と麻葉――二人の間で取り決めた指定日以外で彼が空腹を覚えた際には、少年の法力に近しい味を求めて悪魔は別の対処法で気を紛らわせている。
その方法とは、一つが好みの質を持つヒトを喰らうこと。しかしながら、人々を魔の手から護ることが使命である祓魔師の宰が看過するはずもなく、それを知る麻葉もヒトの情欲を喰らうことはあっても命を摘み取る行動は取らない。
ともなれば、もう一つの手段を選ぶしかないわけで。
長らく人間社会に溶け込み、ヒトの一般常識を身に着けている彼にとって料理を作ることは朝飯前なのだ。その腕の恩恵を毎日受けている宰がこうして目の当たりにしている物体は、魔界でも〝変わり者〟として知られている麻葉の物理的に空腹を誤魔化す専用飯と少年は憶測した。
(セロリの大量消費じゃないだけマシか)
水洗いしたセロリをそれぞれ両手に携えて頬張る姿を目撃し、ドン引きしたシーンは記憶に新しい。
手間をかけて最高の味を引き出すのが好きと宣う割に野性的な食べ方を選択したのは、5日間のオアズケ――ヒトで例えるならば1日分の食事が抜かれる緊急性があったからだ(2日間の断食も現実問題、不可能ではないのだが)。
悪魔の主食が法力と情欲(もちろん肉食も含む)であるため、麻葉は普段、自分用の料理は作らない。ヒトと同じ食事もする必要がないからこそ、今回の用意に宰は少しの意外性を感じたのだった。
束の間の考察にも飽きてリビングに戻ろうとしたところ、謎の物体を放置したまま出かけていた麻葉が帰宅した。
廊下の角から姿を現したかと思えば、ひょいとキッチンを覗き込んだグリーンの瞳は真っ直ぐに少年を捉える。
「戻ったよー、っと……。キミは本当に好奇心旺盛な猫みたいだなぁ」
6月の蒸し暑さの影響をまったく受けていないほど涼しげな表情の彼は、手にしていたスーパーの袋から買ってきたものを取り出して片していく。
「見覚えのないものに興味を示すのは何も猫に限った話じゃないだろう」
麻葉の傍らで淡々と反論しつつ、宰はカウンターに置かれた紙パックの商品を横目で見遣る。
「ふふ、あくまで例えの一つさ。ヒマだからたまには梅酒でも作ろうかと思ってね」
「梅酒…? ――ああ、そうか」
言われて気付く。氷のように見えた半透明のブロックは氷砂糖だ。
屋奈倉家は自家製で何かを作る家庭ではなかったから梅酒も同様に馴染みが薄いけれど、単語そのものは宰の頭の辞書にもある。
「案外簡単に作れるんだな」
「材料さえあればね。あとは比率を間違えないように注意――かな」
せっかく作るなら自分好みにこだわりたいからさ、と穏やかに笑む麻葉に少年は「分からなくもない」と相槌を打つ。――が、彼の口角が上がったのを視界の端で捉えた瞬間、自分の何気ない返答が誤っていたことを理解した。
「さすが宰。コレが自分と同じだって分かってるんだ?」
虚無を宿す緑の視線が刺さるのを感じて宰は咄嗟にボトルから目を――いや、顔ごと背ける(言わずもがな、後頭部に注がれる視線が痛い)。
先の相槌は間違いなく「妙な嗜好を持つ異端な悪魔のエサとして飼われる生活を享受している」のだと曲解されたに違いない。
すぐにフォローを入れればよかったのに、と後悔の念が滲む。自らの発言を認めない反応を取ったことで否定のタイミングを完全に失ってしまった。
「キミもコレも、時間をかけて少しずつ変化していく様を見るのが楽しみの一つでもあるからね」
「お前には僕と梅酒が同等に見えているんだな」
「まさか。キミの方がどんな物よりも上等に決まっているじゃないか」
「……」
求めていたのはそんな返答じゃない、というツッコミはするだけ無駄だろう。
やれやれと諦めの溜息をわざとらしく吐いて見せると、気紛れな悪魔はクスリと笑って少年を抱き寄せ、淡い金糸に鼻先を埋めた。
「そう拗ねないでよ」
「拗ねるものか。僕は人間なんだ。そのような評価自体が不服だと分からないのか」
「何を言っているのかな。人間だからこそ、だよ。――キミの味はどんなにオレが頑張ったって再現できないほどに複雑な美味なんだ。滅多にお目にかかれない稀少性も評価して手元に置いておきたいと言っているのに、それでも不満?」
ほらな。話が噛み合わないったらありゃしない。
コイツには「エサとして見る」以外の選択肢を最初から持ち合わせていないのだ。宰をヒトの一個体として尊重しているように傍から見えるかもしれないが、結局のところ彼の食料として見なされているのが現実だ。この認識の違いが悪魔とヒトを分けているのだろう。
「不満でなければ文句なんて言わない」
「ははっ、我儘だなあ」
そんな下僕を手厚く囲って甘やかしているくせに、と悪態じみたツッコミを心の中で放つ。
お気に入りの少年の苦言さえも笑って受け入れる麻葉は細い金糸を指で梳いて縹色の瞳を覗き込んだ。虚無に染まるグリーンの瞳を正面から真顔で見つめ返す。
「何だ」
「少し吸っていい?」
「今日が約束の日なら僕に拒否権は無い」
「ふふ。その言い方はズルいなあ」
今日が約束の日ではないと互いに分かっているからこその問答。
怒りもせず、呆れもせず。淡々とした調子で断りを入れれば、口角を上げた悪魔は軽やかに唇を重ねる。
「……」
ちゅ、と小さなリップ音に鼓膜が震え、あからさまに眉を顰めた少年が半眼で睨み返すと気ままな彼は口元に弧を描く。
「そんな顔しないでよ。約束通り、吸ってないよ?」
「別に何も言ってないだろう」
「見るからに何か言いたげな表情に見えたけどなあ」
面白そうに笑う悪魔の反応はシカトすることにして、宰は壁を伝いつつリビングへと戻る。
気を悪くしたわけではないと理解している彼は直前と変わらぬ調子で少年の背に再び声をかけた。
「少し先になるけど、できたら飲んでみる?」
「この国では未成年の飲酒が禁じられているのを知らないわけじゃないだろう」
「ハイハイ、薦めるなってことだね。――まったく、本当に多感な時期とは思えないほどストイックなんだから」
溜息交じりのセリフを宰は鼻であしらう。
誘いに乗らないことを呆れている口調でもなければ、欲に負けぬほどの真面目さを感心するでもない物言い。悪魔から紡がれる言の葉が読めている宰は続きを待つことなく、けれども相槌の一つも返さずにソファーへと腰を下ろした。
「俗世に染まらず、皮相すら滲ませないキミはやはり絶品だね」
幾つもの溺れそうな欲に漬けられたとて、己という矜恃を保ち続け、心身ともに内側を滲ませる隙さえ見せない高潔さ。
長く楽しめそうだ――浮かれた声音でそう呟いた悪魔の言葉を耳にしつつ、宰はリモコンでテレビの電源を入れる。
長期に亘って漬けられたところで、自分が彼に絆されることなどあり得ない。
こちらが喰らう側であることをいつの日か証明するまで、今はただ、置かれた環境でじっと耐え続けるのだった。
一体何が気にかかったのか分からない。
けれども確かな違和感を覚えて、宰は自室からリビングに戻る最中に視界に入ったキッチンを注視した。
何の変哲もない、とあるマンションのシステムキッチン。
綺麗に片付けられているそこへ自分が立ち入ることはほとんどなく、数ヶ月前までは侍女であるミッシェルが――そして現在は居候の麻葉が主に使用している場所だ。
以前の宰なら、悪魔が率先してキッチンに立つことなど微塵も想像し得なかっただろう。
ヒトに害を成す存在――それも最上位級の悪魔ともなれば自分が世界の中心と言わんばかりの傍若無人な態度でソファーにふんぞり返りそうなものだが、世の中は意外と"異例"というものに溢れているらしい。
少年の家に居付いた片桐麻葉という男は実力のある悪魔だというのに、邂逅を果たした翌日からどういうわけか自ら率先して家事代行をこなしてくれている。理由あって侍女のミッシェルが去り、彼との共同生活が数ヶ月続いたいま、種族の違いなんて些細なことが気にならない程度には二人きりの生活が馴染んでしまっていた。
家人が変われば家も変わる――。我が家のキッチンもまたその例に洩れないのは物の配置から見ても明らかだ。食にこだわりのあるらしい麻葉は宰も知らない様々な調味料を揃えているようで、カウンターの一角には小瓶やキャニスターがズラリと並べられていた。
キッチンにあまり立ち寄る機会のない宰だが、飲み物くらい自分で用意することもある。そんなときは綺麗に整頓された小瓶たちを眺め、見知らぬ容器が増えたことに気付けば「触れない方が良いのだろう」と思いながら、その用途について一人クイズ大会を開催するのが密かな楽しみだ。
クイズの如何は別としても、悪魔の正体を知りたい少年にとって食や味の好みが顕著に出るエリアは貴重な情報源であることは言うまでもない。一人の祓魔師としても興味をそそられる場所に、今日も真新しい"何か"が置かれていた。
(これは何だ……?)
壁を伝いながらキッチンへと足を運ぶと、カウンターの中央には異様に大きなガラスの瓶が一つ。
どうやら違和感を覚えたのはその蓋の部分がチラリと視界の隅に入ったためらしい。
中を埋め尽くす丸々とした青い実は――梅だろうか。それと氷のようなブロック状のものが下半分に詰められており、初めて目の当たりにする緑と白のコントラストに宰はさらに近付いてまじまじと見つめる。
(アイツのへそくり飯か何かか…?)
この大瓶を見て脳裏に過ったのは5日おきにある食事のこと。
宰が悪魔と共に過ごすことになった経緯は割愛するが、少年はとある契約で彼に法力と精力を提供する約束になっている。
――だがしかし。
(……まあ、物足りなさを感じているんだろうな)
ここ数日は初夏や梅雨による倦怠感のせいで、彼が良質と唱える法力が保てていないことは自覚していた。
宰と麻葉――二人の間で取り決めた指定日以外で彼が空腹を覚えた際には、少年の法力に近しい味を求めて悪魔は別の対処法で気を紛らわせている。
その方法とは、一つが好みの質を持つヒトを喰らうこと。しかしながら、人々を魔の手から護ることが使命である祓魔師の宰が看過するはずもなく、それを知る麻葉もヒトの情欲を喰らうことはあっても命を摘み取る行動は取らない。
ともなれば、もう一つの手段を選ぶしかないわけで。
長らく人間社会に溶け込み、ヒトの一般常識を身に着けている彼にとって料理を作ることは朝飯前なのだ。その腕の恩恵を毎日受けている宰がこうして目の当たりにしている物体は、魔界でも〝変わり者〟として知られている麻葉の物理的に空腹を誤魔化す専用飯と少年は憶測した。
(セロリの大量消費じゃないだけマシか)
水洗いしたセロリをそれぞれ両手に携えて頬張る姿を目撃し、ドン引きしたシーンは記憶に新しい。
手間をかけて最高の味を引き出すのが好きと宣う割に野性的な食べ方を選択したのは、5日間のオアズケ――ヒトで例えるならば1日分の食事が抜かれる緊急性があったからだ(2日間の断食も現実問題、不可能ではないのだが)。
悪魔の主食が法力と情欲(もちろん肉食も含む)であるため、麻葉は普段、自分用の料理は作らない。ヒトと同じ食事もする必要がないからこそ、今回の用意に宰は少しの意外性を感じたのだった。
束の間の考察にも飽きてリビングに戻ろうとしたところ、謎の物体を放置したまま出かけていた麻葉が帰宅した。
廊下の角から姿を現したかと思えば、ひょいとキッチンを覗き込んだグリーンの瞳は真っ直ぐに少年を捉える。
「戻ったよー、っと……。キミは本当に好奇心旺盛な猫みたいだなぁ」
6月の蒸し暑さの影響をまったく受けていないほど涼しげな表情の彼は、手にしていたスーパーの袋から買ってきたものを取り出して片していく。
「見覚えのないものに興味を示すのは何も猫に限った話じゃないだろう」
麻葉の傍らで淡々と反論しつつ、宰はカウンターに置かれた紙パックの商品を横目で見遣る。
「ふふ、あくまで例えの一つさ。ヒマだからたまには梅酒でも作ろうかと思ってね」
「梅酒…? ――ああ、そうか」
言われて気付く。氷のように見えた半透明のブロックは氷砂糖だ。
屋奈倉家は自家製で何かを作る家庭ではなかったから梅酒も同様に馴染みが薄いけれど、単語そのものは宰の頭の辞書にもある。
「案外簡単に作れるんだな」
「材料さえあればね。あとは比率を間違えないように注意――かな」
せっかく作るなら自分好みにこだわりたいからさ、と穏やかに笑む麻葉に少年は「分からなくもない」と相槌を打つ。――が、彼の口角が上がったのを視界の端で捉えた瞬間、自分の何気ない返答が誤っていたことを理解した。
「さすが宰。コレが自分と同じだって分かってるんだ?」
虚無を宿す緑の視線が刺さるのを感じて宰は咄嗟にボトルから目を――いや、顔ごと背ける(言わずもがな、後頭部に注がれる視線が痛い)。
先の相槌は間違いなく「妙な嗜好を持つ異端な悪魔のエサとして飼われる生活を享受している」のだと曲解されたに違いない。
すぐにフォローを入れればよかったのに、と後悔の念が滲む。自らの発言を認めない反応を取ったことで否定のタイミングを完全に失ってしまった。
「キミもコレも、時間をかけて少しずつ変化していく様を見るのが楽しみの一つでもあるからね」
「お前には僕と梅酒が同等に見えているんだな」
「まさか。キミの方がどんな物よりも上等に決まっているじゃないか」
「……」
求めていたのはそんな返答じゃない、というツッコミはするだけ無駄だろう。
やれやれと諦めの溜息をわざとらしく吐いて見せると、気紛れな悪魔はクスリと笑って少年を抱き寄せ、淡い金糸に鼻先を埋めた。
「そう拗ねないでよ」
「拗ねるものか。僕は人間なんだ。そのような評価自体が不服だと分からないのか」
「何を言っているのかな。人間だからこそ、だよ。――キミの味はどんなにオレが頑張ったって再現できないほどに複雑な美味なんだ。滅多にお目にかかれない稀少性も評価して手元に置いておきたいと言っているのに、それでも不満?」
ほらな。話が噛み合わないったらありゃしない。
コイツには「エサとして見る」以外の選択肢を最初から持ち合わせていないのだ。宰をヒトの一個体として尊重しているように傍から見えるかもしれないが、結局のところ彼の食料として見なされているのが現実だ。この認識の違いが悪魔とヒトを分けているのだろう。
「不満でなければ文句なんて言わない」
「ははっ、我儘だなあ」
そんな下僕を手厚く囲って甘やかしているくせに、と悪態じみたツッコミを心の中で放つ。
お気に入りの少年の苦言さえも笑って受け入れる麻葉は細い金糸を指で梳いて縹色の瞳を覗き込んだ。虚無に染まるグリーンの瞳を正面から真顔で見つめ返す。
「何だ」
「少し吸っていい?」
「今日が約束の日なら僕に拒否権は無い」
「ふふ。その言い方はズルいなあ」
今日が約束の日ではないと互いに分かっているからこその問答。
怒りもせず、呆れもせず。淡々とした調子で断りを入れれば、口角を上げた悪魔は軽やかに唇を重ねる。
「……」
ちゅ、と小さなリップ音に鼓膜が震え、あからさまに眉を顰めた少年が半眼で睨み返すと気ままな彼は口元に弧を描く。
「そんな顔しないでよ。約束通り、吸ってないよ?」
「別に何も言ってないだろう」
「見るからに何か言いたげな表情に見えたけどなあ」
面白そうに笑う悪魔の反応はシカトすることにして、宰は壁を伝いつつリビングへと戻る。
気を悪くしたわけではないと理解している彼は直前と変わらぬ調子で少年の背に再び声をかけた。
「少し先になるけど、できたら飲んでみる?」
「この国では未成年の飲酒が禁じられているのを知らないわけじゃないだろう」
「ハイハイ、薦めるなってことだね。――まったく、本当に多感な時期とは思えないほどストイックなんだから」
溜息交じりのセリフを宰は鼻であしらう。
誘いに乗らないことを呆れている口調でもなければ、欲に負けぬほどの真面目さを感心するでもない物言い。悪魔から紡がれる言の葉が読めている宰は続きを待つことなく、けれども相槌の一つも返さずにソファーへと腰を下ろした。
「俗世に染まらず、皮相すら滲ませないキミはやはり絶品だね」
幾つもの溺れそうな欲に漬けられたとて、己という矜恃を保ち続け、心身ともに内側を滲ませる隙さえ見せない高潔さ。
長く楽しめそうだ――浮かれた声音でそう呟いた悪魔の言葉を耳にしつつ、宰はリモコンでテレビの電源を入れる。
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