偽りの僕を君は求めて

くれと

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文字を超えた繋がり

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「今日も誰かと会ってるの?」

彼のことを縛り付けたい、自分だけを見て欲しいなんて思ってはいない。そう望んでいないというよりも、したくても自分にはそんなことはできないと思っているというところだろうか。自分にはそんな魅力はない。彼を惹きつけておくなんて自分には無理だ。

例え恋人のような関係にはなれなかったとしても、彼の優しさに触れることさえできれば、そんな日々が続けば俺はそれでいいのだ。

それでも彼が日々をどう過ごしているのかとか誰と会っているのかとかそんなことがものすごく気になってしまう。

「会ってないよ」

今日も返信はすぐに返ってきた。

「そうなんだ」
「気になる?笑」
「うん」

俺は隠さずに素直に答えた。伝えてどうこうしようという気はないが、もう既に彼のことをどう思っているのか隠す必要もなくなってきた。

「俺に惚れてる?笑」
「惚れてるよ」

こんな恥ずかしいことも文字でなら簡単に伝えられる。スマホを使わずに直接では絶対に言えないような内容だ。

「なに勝手に惚れてるの笑」
「悪いの?」
「いや、別に」

彼は自分も惚れてるとは返してくれない。惚れてるのは俺だけだ。そんなことはわかってる。彼は他にも繋がっている人がいて、俺はその中の一人だ。それに実際に会っている人は俺なんかよりも強い繋がりがあるはずだ。俺のことなんて彼が本気で惚れてくれるなんて思ってはいない。それほど深くお互いを知っているわけでもないし、当然だ。でも、それでも十分なのだ。

「通話してみる?」
「え?」

通話?通話って、電話で話をするということか?俺と?

「嫌なの?」
「嫌じゃないけど」
「じゃあ、何?」
「緊張する」
「かわいいね」

彼と自分の声で直接話すなんて、考えただけでも震えてくる。彼とのTMのやり取りも、実際にはなんて返そうかをものすごく考えて返信をしている。返すだけで数十分かかってしまうことだってある。

それなのに、考える猶予もなく即座に返事をしなければならないような通話でのやり取りをするなんて俺にできるのだろうか。ものすごく緊張する。

でも、彼と話してみたい。彼の声を聞いてみたい。彼の肉声で俺を求めて欲しい。

そんな思いから俺は彼の誘いを了承し、夜に通話をするということで話をつけた。





ー - - - - - - - - - - - -





午後十九時。

俺はベッドの上で横になってスマホをいじったりして時間を潰していた。

夜になっても彼からの通話はかかってきていない。

ていっターには通話機能はない。通話をするということになってから通話もできるSNSアプリ「ココア」をインストールして連絡先を交換していた。いつでも彼と通話ができる状態で、いつかかってきてもおかしくはない。だが、一向に通話がかかってくる気配はない。

「まだしないの?」

どうにも落ち着かなくて、ていっターで彼に聞いてみた。

「今牛丼食べてるから待って」
「何時くらいになる?」
「家帰ってからだから二十二時過ぎるくらいかな」

彼は夜にかけると言っていたから、てっきり十九時とか二十時とかそれぐらいだと思っていた。十七時くらいからそわそわしていたというのに、彼の夜という時間帯はそんなに遅いのか。やはり大学生だけあって遅くまで起きている夜型の生活をしているようだ。

「そんなに遅いの笑」

そう打って俺はまたそわそわしながら部屋で時間を潰していた。

だが、そう過ごしているとスマホが鳴り出した。いつものスマホの音じゃない。新しく入れた通話アプリのココアの着信音だ。

「もしもし」
「お待たせ」

Tからだった。彼の声は若い男の声だが社会人と言っても通用しそうなしっかりした声だ。想像しているよりも低くて、少し怖い印象も感じられた。まだ二十時にもなっていないが、どうしたのだろうか。

「急かすやん」
「ごめんね」

スマホからは彼の声の他に大勢の人の声や車のクラクションの音などが聞こえてきて騒がしい。まだ外にいるようだ。歩きながら話しているらしい。彼の息遣いも聞こえてくる。てっきり家からかけてくるのだと思っていたのだが、それとも俺が待っていると思って出先からかけてくれたのだろうか。俺のために急いでくれたのならすごく嬉しい。

「声かわいいね」
「え?そんなことないよ」

彼も俺の声を聞くことを密かに楽しみにしてくれていたのだろうか。彼にかわいいなんて言われて体が熱くなる。通話だから知られることはないが緊張で手汗もすごい。

「何してた?」
「別に何も」
「何もしてないわけないやろ」
「緊張してそわそわしてたから」
「なにそれ」

緊張していて上手く話せない。でも、話す前は不安で仕方なかったが、いざ話してみるとすごく嬉しい。話してよかったと思う。

彼の声は低くて怖い印象もあったが、文字ではない肉声でのやり取りは笑っていたりとかそういう感情の動きも伝わってくる。「笑」なんて文字も使う必要はない。話している内に緊張も解けてきて、彼に対して怖いという印象も薄くなってきた。

「そっちは何してたの?」
「講義終わった後は友達と遊んでた」
「誰かとえっちなことしてたんじゃなくて?」
「ばか」

彼に対して自然と冗談も言えるようになってきた。

「それで、どこに住んでるの?」
「またそれ?」
「ええやん別に」
「何でそんなに知りたいの?」
「仲良くなりたいやん」

彼が俺のことを探ってくるのはもっと仲良くなるためにお互いのことを知り合いたいということだったのか。今まで疑問に思っていたがようやく腑に落ちた。それに、もっと仲良くなりたいと思ってもらえていることも嬉しい。

「そっか」
「いつ会う?」
「え?」
「いつ会う?」
「そんな急に言われても」
「急やないやん。前からずっと言ってたし」

確かに彼には前から会おうと言われていた。でも、毎度はぐらかしていたら最近は彼から会おうと言われることもなくなり他愛もない会話を楽しむことができていた。もしかしたらもう聞いてくることはないのかもしれないと思って安心していたのだが。

「そうだけど」
「会う気ない?」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあ、いつ会う?」
「それは…」

さっきまで優しかった彼がすごく強引だ。声の低さも相まって俺は若干圧倒されていた。文字でのやり取りとは違って逃げ場もない。一度スマホから離れるということもできないのだ。

俺は何も言えずにスマホを手に持ったまま固まってしまっていた。

「会う気ないならもう関わらない」
「え?」

やはり彼も他と同じなのだろうか。結局は出会うことしか頭にないのだろうか。

「会う気になったらいつ会うか教えて」

俺は何も返言えなかった。

「連絡待ってるから」
「うん」

彼との通話は終わった。

まさかこんなことになるとは。いよいよ決断をしなければならないらしい。

もう彼のことは忘れて関わらないのか、それとも会うのか。

一体、俺はどうすればいいのだろうか。

どうすべきなのか、自分がどうしたいのかもう俺には全くわからない。

俺は暗い寝室のベッドに顔を埋めて暫く横たわっていた。
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