BL短編書き散らかし

智紗人

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マイ Heart

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 真っ暗な行く道をスマホのライトで照らす。
 初めて歩く藪の中はひっそりとして、今どのあたりにいるのかすら、わからない。虫の音と地面を踏む音、自分たちの息づかいがきこえる。
 たびたび茂みが揺れるので、立ち止まる。注意して見るけど、何もでてこない。肩透かしをくらったような気になる。けれど、この茶番に付き合うことにしたのは自分なので、最後までやり通す。そう柚乃ゆうのは決意する。

 と、そのとき、ほたるが居ることに気付いて柚乃ゆうのは一旦ライトをしまう。
 ひかりが消えて、とたんに辺りは暗くなり先を行くほたるのかすかなあかりがゆっくりと動いている。
 目がだんだんなれてくると、月の青い光に包まれた獣道がうすぼんやりと見えてきた。
 更に進んでいく。
 気づくといつの間にか、小道に数え切れないほどの光がともっていて腰ほどまである草の葉に、ついたり消えたりを繰りかえして、ぽっと淡く光をはなちそこら一面を照らしている。
 その光景にしばらくみとれていたが、佐堂がいることを思い出した。

「ホタル…めっちゃいるな」

「…、あたま、ついてる」

 咄嗟に頭を触る。何がついてるかを言え。

 二人並んで通れるくらいの狭い道で隣に身を寄せ、距離を詰めて取れと言おうとする。

「動くな」
 言われた通り、そのまま固まった。
 両手を伸ばして柚乃が触った方とは反対側の髪に触れる。ほら、と佐堂が手のなかの光をみせてくる。
 すぐに手から飛んで離れていく。

 ぼうっと二人してその光景を見ていたが、柚乃が我にかえって行くぞ、と付かず離れずの距離でまた歩き出した。

 どこに居るんだ恵のやつ。
 果たしてうまく伝えることは出来たのか…と足下の枯れ葉を踏み鳴らして進みながら柚乃は何故か自分が色んな意味で緊張している事に気付く。


 やや速くなる胸の鼓動を感じながら、昨晩のことを思い出す。






「柚乃、あんたいつ言うの?」

 ベットで寝そべる柚乃をのぞき込んで、床に正座をし背筋を伸ばした恵が何か言ってきた。

「言うってなにを…」


「伝えないの、好意」

「…こういって?」

やれやれと言わんばかりに恵は溜息を吐く。
「告白、しないの」

 恵の唐突な言葉に、柚乃は怪訝な表情をして、面倒くさそうに読んでいた漫画から目を離して幼馴染をみた。

「…告白もなにも、べつに言う予定もねーし。てか、前も言ったけど、ただ少し気になるって言っただけで、アイツのこと、好きなのかどうか…わかんねーし、」

 背中をはたかれた。

「ってえ、何でだよっ…!」

 抗議するように恵をみる。

「何をぐだぐたと、ふざけてる?」

 何でお前がキレてんだよ、と柚乃は痛む背中をおさえて恵をみる。

 しかし物を言わさぬオーラを放つので、しぶしぶ座り直し恵に向き合った。
 そして口をもごつかせながら決まり悪そうに言った。

「えー…アイツおれと違うし、そんな風にみられてねーのもわかってるのに言えねーよ」

「逃げてるの…?」

「…」

 恵から放たれた一言に、咄嗟に反論しそうになったが、何も言えず、黙る。

 そんな柚乃を見て視線をそらすと恵は言った。


「明がよく、佐堂くんの事…見てるっていったの覚えてる?」

「……ああ…」

 いつも恵と一緒に居る、穏やかな明を思い出す。

 前に恵が「もしかしたら……佐堂くんの事…」とひどく落ち込み、悲壮感を漂わせていた時があった。

 柚乃は思う。
 …確かに、喋りたそうにしている感じはする、が……。
 そんな風に熱のこもった目で佐堂を見てるかと言われれば、首をかしげるとこだ。

 それを、落ちこんでブツブツ言ってる恵にも伝えはしたが…
 コイツ、きいてなかったな。

 まだ明本人に訊けていないんだな、と思いながら、柚乃は相づちをうった。

「私は言うつもり、明に。…明日」

 静かにそう言った、恵の言葉に柚乃は、何を言うって?と思いながら、それっきり何も言わない恵をみて、やっとわかった。

「あした…?」

 急に打ち明けられて、しかも明日って、と信じられない様子で、真剣な顔をした幼馴染をみながら柚乃はぼやいた。

「そう、明日」

 どこか言い聞かせるように言葉を発した恵に、柚乃はなんだか、置いていかれたような気持ちになった。

 だけど、と柚乃は思う。
 うまくいって欲しいし、出来れば傷ついて欲しくない…。

 今は丸くなっているが、以前は手が付けられないくらい尖りすぎていた。
 恵がこんな風に変わるなどと思っても見なかった。
 明の事を見るときの、あの優しい瞳は本物だ。

 想いが伝わればいい……
 そう柚乃は恵の恋が叶うことを口では言わないが、願っていた。

「それで、柚乃は告白しないの」

「お前、おれの話本当にきいてないな。…アイツのこと好きかどうか、分かんねーって言って「チラチラチラチラ見て、じれったいにも程があるの、目で追ってるのもバレバレ。あと喋ってる時なんか、もう目がきらきらして見てられないの、無自覚?」」

「………」

 と、一息で恵に言い切られ、そんな風に見えているのも嫌だが、なんておせっかいなやつなんだと柚乃は内心ほっといて欲しいと思った。

「これは、ただの感だけど…明、佐堂くんに告白するつもりでいると思う…」

 下を向きながら恵が言う。

「そうお前に言ったのか?」

 また自分の世界に入り込んでいる、と柚乃は思った。

「言われてない…けど、あんなに佐堂くんのこと見て…。今までそんな明みたことなかった…」

「急に話がぶっとんでるぞ。…何もお前に相談とかしてないんだろ?気のせいじゃねーの」

早とちりしてる気がしてならんのだけど。

「気のせいだとして、…もし、いきなり、付き合った。とか言われたら?佐堂くんも何考えてるか今の所謎だし…私は、映画の登場人物みたいに、だまって引き下がれる、…そんな大人になれない」

 言いながら、何かが決壊したみたいにぼろぼろと、涙をこぼし器用に言葉を紡いでいる。
 恵は、明の事になると周りを冷静に見られなくなる所があるんだよな…。と、柚乃は思った。

「お前は一体何の映画を観てそんな事をいってんの……」

 また色々溜め込んでと柚乃は、ティッシュを取りながらきっと不安の中にいるんだろうと恵のことを思った。

 明日言う、と決めていたとしても、それはものすごい勇気がいることだ。

 まっすぐで、柚乃は恵の事を少しうらやましく思った。

 自分の感情がわかっていて、自分とは大違い、と鼻水と涙で濡れた顔を拭いながら。

 だからさ…あんたも言って。
 と涙ごえで恵に言われた。

 だからの使い方を間違えてると、誰かコイツに教えてやってくんねーかな。

「わたしが、…明にふられたとき、一人でいる自信ない…」

 鼻をすすりながら恵は言う。
 どうやら、振られた時の仲間を必要としているらしい。

 おれをお前の傷心なぐさめ用に引きずり込むな、何でおれなんだよ。ふざけんなと柚乃は思った。

 ハナからこのつもりで、佐堂に告らせようとしていたのか……

 さっきお前の成就を心から願ったおれを返せ。と柚乃は思った。

 しかし、そんなこと言われなくても居てやるつもりだ。

 恵に向かって口を開く。

「もしもふられたら、…そばにいるから、それでいいだろ…」

 言ったが返事はせず、だまったまま恵はうなずいたあと、わたしは…と話しだした。

「…自分の事は、自分で決める。…人に、ああだこうだ…言われれたくないし。けど……柚乃、言わなきゃ伝わらないよ」

 柚乃はどうしたい?それでいいの?と恵に言われ、すぐにこたえる。

「佐堂と、どうこうなりたいとか、ない」

 柚乃は言った。

「…自分以外の誰かと、つきあっても?…、少し目閉じて…想像して。柚乃はその時、どう感じる?」

 恵が問いかける。

 …佐堂が他のやつと付き合ったら?

 まあ、そうだよなって思う。

「…からだはあったかい?冷たく感じない?悲しくは…ならない?」

 恵が再び問いかける。

 柚乃はこたえない。

「これは、先輩からの受け売りだけど、…心と身体は繋がってるの。……もう、何にも言わない…けど、これからも、思ったことは言うよ私」

 それから恵が立ち直るのは早かった。

「あー…出すもの出したら、何かすっきりしたな、…やっぱり言う、決めた」

 そう言って腹をおさえ、お腹すいてきた、と部屋から出ていこうと恵は背を向けた。

「じゃ、てるこさんにヨロシク」
 と帰ろうとする恵に、柚乃は「恵」と呼び止めた。

「……おれ佐堂のこと、好きかも…、もしかしたら」
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