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香る、だいだい 三
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涼介よりも幾分か低い体温。いや、涼介の体温が高いだけかもしれない。何も言わずそれを引き剥がす。後ろを振り向くまでもなく、いたずらな笑みを携えのぞき込むその人は、思っていた通りの人物だった。
「高梨子」
涼介は小さな声で名前を呼んだ。
「ふふ、涼介いたからつい、」
やっちゃった。と柔和に笑うこいつは、同じ講義をとっている。
たまたま隣の席になって、気づくと少しずつ絡むようになった。周りより垢抜けた印象で、独特な雰囲気を纏っている。明るく気さくではあるが、あまり群れない。
着ている服も多分どこぞのブランドものだろうが、それをカジュアルに着こなしたおしゃれくんだ。
涼介が今座っている席は、向かい合わせで二人座れる席だ。高梨子は真ん中に置いてあった仕切りを脇に寄せる。涼介の右隣に椅子を持ってくるとそこに座った。机に積んでいた本を手に取りパラパラ眺めると、高梨子はおもむろに鞄からレポート用紙を取り出した。
ペンを取り出して、何か書くとそれを涼介に差し出す。
書かれた文字をみて涼介も返事を書き足していく。
"何してるの?"
"グループ発表の資料さがし"
"ふーん、ココに居てもいい?"
"おかえりください"
"塩"
"帰らないで、ココに居て。一生"
"おも"
"居てもいいけど、一時間いちえん"
"安い"
"甘いが出ねえ"
"おれの隣はおまえだけのもの"
"甘ーーい"
"ざぶとん一枚ください"
"二枚あげる"
"ありがとう"
"高梨子は今日は?"
"涼介に会いに"
"ちげー"
"そろそろおいとまします"
"ばいばい"
"しお"
そこで高梨子が席を立った。紙を持って椅子を元に戻すと涼介に手を振る。
何しに来たんだ、と思いながら涼介も振り返す。
しかし、帰るかと思いきやなぜか戻ってきた。また紙にサラサラ何か書く。それを涼介に見せてきた。
"こんど、のみいこ?"
"いーけど、おれ呑めない"
"どっか遊びいこ"
"いーよ"
涼介の文字に嬉しそうに笑い、今度こそ手を振って去って行った。
高梨子ってまだ謎なとこあんだよな…、遊ぶなら伊藤と与恵も誘いたい。と思いながら涼介は目の前の本にまた手を伸ばした。
◇
ただいまー、と言いながら靴を脱ぎ、自分の部屋に帰ってきた涼介。
弟はまだ帰っていないようだ。
二人になったので、物は増えてはいる。しかし、ひとりの時よりもかなり片付いている。
涼介は片付けが苦手だ。使ったらまた次使うから、とそのままにしておく。それを繰り返していくうちに、ものが出しっぱなしになる。洗い物も結構貯めてからじゃないと洗う気にならない。だが、弟はどうやら違うらしい。同じ血が流れているはずなのに、そこは違う。面白いな、と他人事のように涼介は整頓された部屋を見て思う。
弟が来ると知っていた初日はなるべくキレイにと心がけてはいた。気を付けてはいたが、やはりだんだん元に戻っていく。
弟がいるのはよほど使っていなかったロフトだ。涼介が普段使っているスペースとほぼ変わらない広さ。
下は涼介が占領している為、早くも散らかり始めていた。
それに何か小言をいうでもなく、今のところ文句一つ言わずに家事や掃除を小まめにしている。涼介はそれが不思議だった。
しなくてもいい、と言いたいが、なかなかタイミングが合わずにいる。
ぎこちなくとも、なんとか会話をしよう。これから生活を共にするのだから、と涼介はそう思っていた。
「高梨子」
涼介は小さな声で名前を呼んだ。
「ふふ、涼介いたからつい、」
やっちゃった。と柔和に笑うこいつは、同じ講義をとっている。
たまたま隣の席になって、気づくと少しずつ絡むようになった。周りより垢抜けた印象で、独特な雰囲気を纏っている。明るく気さくではあるが、あまり群れない。
着ている服も多分どこぞのブランドものだろうが、それをカジュアルに着こなしたおしゃれくんだ。
涼介が今座っている席は、向かい合わせで二人座れる席だ。高梨子は真ん中に置いてあった仕切りを脇に寄せる。涼介の右隣に椅子を持ってくるとそこに座った。机に積んでいた本を手に取りパラパラ眺めると、高梨子はおもむろに鞄からレポート用紙を取り出した。
ペンを取り出して、何か書くとそれを涼介に差し出す。
書かれた文字をみて涼介も返事を書き足していく。
"何してるの?"
"グループ発表の資料さがし"
"ふーん、ココに居てもいい?"
"おかえりください"
"塩"
"帰らないで、ココに居て。一生"
"おも"
"居てもいいけど、一時間いちえん"
"安い"
"甘いが出ねえ"
"おれの隣はおまえだけのもの"
"甘ーーい"
"ざぶとん一枚ください"
"二枚あげる"
"ありがとう"
"高梨子は今日は?"
"涼介に会いに"
"ちげー"
"そろそろおいとまします"
"ばいばい"
"しお"
そこで高梨子が席を立った。紙を持って椅子を元に戻すと涼介に手を振る。
何しに来たんだ、と思いながら涼介も振り返す。
しかし、帰るかと思いきやなぜか戻ってきた。また紙にサラサラ何か書く。それを涼介に見せてきた。
"こんど、のみいこ?"
"いーけど、おれ呑めない"
"どっか遊びいこ"
"いーよ"
涼介の文字に嬉しそうに笑い、今度こそ手を振って去って行った。
高梨子ってまだ謎なとこあんだよな…、遊ぶなら伊藤と与恵も誘いたい。と思いながら涼介は目の前の本にまた手を伸ばした。
◇
ただいまー、と言いながら靴を脱ぎ、自分の部屋に帰ってきた涼介。
弟はまだ帰っていないようだ。
二人になったので、物は増えてはいる。しかし、ひとりの時よりもかなり片付いている。
涼介は片付けが苦手だ。使ったらまた次使うから、とそのままにしておく。それを繰り返していくうちに、ものが出しっぱなしになる。洗い物も結構貯めてからじゃないと洗う気にならない。だが、弟はどうやら違うらしい。同じ血が流れているはずなのに、そこは違う。面白いな、と他人事のように涼介は整頓された部屋を見て思う。
弟が来ると知っていた初日はなるべくキレイにと心がけてはいた。気を付けてはいたが、やはりだんだん元に戻っていく。
弟がいるのはよほど使っていなかったロフトだ。涼介が普段使っているスペースとほぼ変わらない広さ。
下は涼介が占領している為、早くも散らかり始めていた。
それに何か小言をいうでもなく、今のところ文句一つ言わずに家事や掃除を小まめにしている。涼介はそれが不思議だった。
しなくてもいい、と言いたいが、なかなかタイミングが合わずにいる。
ぎこちなくとも、なんとか会話をしよう。これから生活を共にするのだから、と涼介はそう思っていた。
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