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第07話 異世界っぽい? 魔導士と弓使い
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ふと傍らを見ると、シルクハットにステッキ、黒マント、そしてフロックコートを着た金髪の英国紳士? だと思うんだけど、四十代の外国人のおっさんが登録の手続きをとっていた。
何気にその書類をチラ見すると、ーー魔導士ぃ~!
その英国紳士、なんと魔導士だったんだよねえ。
いや、参りました! なんたる風格!
あっちの世界でも、ちょいと小粋な英国紳士って感じなんだけど、こっちの世界では誰が見たって魔導士以外の何者でもないって感じだ。
おまけに流暢な日本語話しているし、書類に記載された文字も達筆な漢字ときた!
いや、ほんと、恐れ入りました!
安易に勇者目指した自分が恥ずかしくなってきたよ。
対応していた女性事務員が立ち上がった折を見て、俺は思わず尋ねちゃったよ。
「あの、日本語お上手ですね? それに漢字も書けるし。あっちの世界で、日本に長期滞在されていたとか?」
英国紳士の魔導士さんが顎髭を捻った。
「うん、日本語? 漢字? わたしは一切知らないよ」
「知らないって、今の会話は? 書類に記載された文字は?」
「ああ、君は知らないのだね。いいかい、この書類を見てごらん」
彼は手近にある一枚の書類を引き寄せた。
「はら、君にはこの文字が日本語に見えるだろ? でもわたしには英文字に見えるんだ」
「……」
「話している言語だってそうさ。君にはわたしが日本語を話しているように聞こえるが、実際は英語を話しているのさ」
「じゃあ、俺の日本語も?」
「ああ、わたしには英語で話しているように聞こえるよ」
いや~、異世界って超便利!
これならコミ障の俺だって、外人さんとコミュニケーションバリバリだよ。
それに学校で英語習う必要もねえし。
そうだ、金貯まったら、外国旅行いこ。
て、その夢だけど、なにも異世界じゃなくても、あっちの世界でも実現可能だよね。真っ当に働いてればの話だけど……。
俺は英国紳士の魔導士さんに礼を述べると、職安をあとにした。
その足で銀行へ行ったんだけど、身分証明書の提示も求められることなく、簡単に口座を開設することができたんだ。
なんでだろ?
そういや当面の生活費のことで頭が一杯だったから、うっかり忘れてたけど、戸籍とか住民票、あれ、どうなってるんだ?
俺はそれとなく受付のおねえさんに聞いてみた。
「あの、身分証明書とか住民票とか必要ないんですか?」
「必要ございません」
「あっちの……、現世? では必要ですよね?」
「異世界へ転生された方は基本的に死亡者なので、除籍された方、つまり存在が認められない方なのです」
なに、その幽霊みたいな扱いは。
まあ、口座も開設できるし、最低限の福利厚生も受けられそうだから、まあ、不満はねえけど。
幽霊かあ。腹も減るし、金も減るんですがね。
転生者の存在の軽さに、なんとなく落ち込んでいると、隣に長弓を携えた黒メガネの弓使いと思しき三十代のおっさんが立っていた。
なんか、めずらしく異世界風だな。
少しは興味があったんで、何気に聞き耳を立てていると、
「あっ、振り込みお願いします」
そうか、ATMねえんだ。ほんと、異世界って不便だぜ。
そして何気に手にした振込用紙を見ると、振込先の欄に……。
東京都奥多摩〇✕銀行。
えっ、なに、それ? あっちの世界の住所じゃん。
俺は思わず尋ねちまったぜ!
「あの、東京都奥多摩って。あっちの、現世の住所ですよね?」
「うん? まあ、そうだけど……」
「まさか、現世に送金できるんですか?」
「君、新人転生者だろ?」
「ええ、昨日、転生したばかりで」
おっさんの話によるとだ、なんと煉獄で資格選択のとき、スマホを選択すると、遺族と会話できたり、仕送りできたりするそうだ。
そ、それってスマホ太郎じゃん!
俺は驚愕に打ち震えたよ。
だってスマホ太郎のこと、思いっ切りバカにしてたもん(アニメ版)。
でも今にして思えば、あいつの選択肢は間違っちゃいなかった。
ごめん、太郎! おまえ、最高だよ!
で、思い付いたんだ。最高の方法を……。
こっちの世界から送金できるなら、あっちの世界からも送金できるはず。
スマホで親に連絡とって、毎月口座に振り込んでもらえば、俺のニートな生活一生安泰じゃん!
いやぁ~、俺って頭いいねえ。
そうだ、俺、こっちの世界で大学通ってることにして、仕送りという形でお願いしてみれば……。
うちの親、学歴に拘るから、案外喜んで仕送りしてくれるかも。
そうと決まれば、さっそく作戦実行だ!
俺は弓使いのおっさんに笑顔で頼み込んだ。
「すみません、そのスマホ、貸していただけません?」
「誰かと連絡とりたいの?」
「現世の両親に息災に暮らしていると」
「悪いけど、ダメなんだ」
「ええ、どうして!?」
「異世界のスマホは肉親としか通話できない仕様になってるんだ」
おっさん自身も妻と二人の娘としか通話できないそうだ。
つまり俺が両親と会話するには、資格選択のとき、スマホを選択する以外に方法はなかったということだ。
「よく資格選択でスマホ選択できましたね?」
「そりゃ、残してきた家族のことは気にかかるからね。俺がそう思ったら、女神様が耳元で囁いたんだ。--だんな、いいブツありますぜって」
「……変わった女神様ですね?」
「俺の担当はそんな感じだったよ」
「それでスマホもらったんですか?」
「異世界でスマホ持ちって、けっこう多いと思うよ。君だって想ったろ? 残してきた家族のことを」
「……まあ」
正直、一ミリ足りとも思い出さなかった。
きっと親のこと、金蔓としか見ていねえんだろうなあ。
これって人としてマズイかな?
(読者の皆さん、盛大に突っ込んでください!)
ふと傍らを見ると、おっさんが目を赤く腫らして涙ぐんでいた。
俺、なんか悪いこと言った!?
「娘がね、娘がね、二人ともまだ小学生なんだけど、なんか怖がっちゃって……。俺のこと、幽霊だと思ったようで……、通話に出てくれないんだ」
「あの、奥さんはあなたのことを」
「ああ、妻は理解しているよ。最初は信じなかったけど、毎月あっちの口座に三十万振り込んでるから」
「三十万!? 弓使いって、けっこう実入りがいいんですね」
「まあ、年収八百万超えてるから、高給取りだとは思うんだけど。生前は年収三百万切ってて、けっこう厳しい生活だった。そこへ毎月三十万も振り込まれるようになったら、妻はこう言ったんだ」
「……」
「あなたが死んでよかった、って……」
俺さ、おっさんが気の毒で思わず言っちゃったよ。
「今度一緒に飲みません? 俺、愚痴を聞くくらいならできますから」
「あ、ありがとう」
二人目の仲間ゲット!
しかも異世界銀行の中で。
しかも腹の出た中年弓使い。
こんなRPG、見たことねえや!
何気にその書類をチラ見すると、ーー魔導士ぃ~!
その英国紳士、なんと魔導士だったんだよねえ。
いや、参りました! なんたる風格!
あっちの世界でも、ちょいと小粋な英国紳士って感じなんだけど、こっちの世界では誰が見たって魔導士以外の何者でもないって感じだ。
おまけに流暢な日本語話しているし、書類に記載された文字も達筆な漢字ときた!
いや、ほんと、恐れ入りました!
安易に勇者目指した自分が恥ずかしくなってきたよ。
対応していた女性事務員が立ち上がった折を見て、俺は思わず尋ねちゃったよ。
「あの、日本語お上手ですね? それに漢字も書けるし。あっちの世界で、日本に長期滞在されていたとか?」
英国紳士の魔導士さんが顎髭を捻った。
「うん、日本語? 漢字? わたしは一切知らないよ」
「知らないって、今の会話は? 書類に記載された文字は?」
「ああ、君は知らないのだね。いいかい、この書類を見てごらん」
彼は手近にある一枚の書類を引き寄せた。
「はら、君にはこの文字が日本語に見えるだろ? でもわたしには英文字に見えるんだ」
「……」
「話している言語だってそうさ。君にはわたしが日本語を話しているように聞こえるが、実際は英語を話しているのさ」
「じゃあ、俺の日本語も?」
「ああ、わたしには英語で話しているように聞こえるよ」
いや~、異世界って超便利!
これならコミ障の俺だって、外人さんとコミュニケーションバリバリだよ。
それに学校で英語習う必要もねえし。
そうだ、金貯まったら、外国旅行いこ。
て、その夢だけど、なにも異世界じゃなくても、あっちの世界でも実現可能だよね。真っ当に働いてればの話だけど……。
俺は英国紳士の魔導士さんに礼を述べると、職安をあとにした。
その足で銀行へ行ったんだけど、身分証明書の提示も求められることなく、簡単に口座を開設することができたんだ。
なんでだろ?
そういや当面の生活費のことで頭が一杯だったから、うっかり忘れてたけど、戸籍とか住民票、あれ、どうなってるんだ?
俺はそれとなく受付のおねえさんに聞いてみた。
「あの、身分証明書とか住民票とか必要ないんですか?」
「必要ございません」
「あっちの……、現世? では必要ですよね?」
「異世界へ転生された方は基本的に死亡者なので、除籍された方、つまり存在が認められない方なのです」
なに、その幽霊みたいな扱いは。
まあ、口座も開設できるし、最低限の福利厚生も受けられそうだから、まあ、不満はねえけど。
幽霊かあ。腹も減るし、金も減るんですがね。
転生者の存在の軽さに、なんとなく落ち込んでいると、隣に長弓を携えた黒メガネの弓使いと思しき三十代のおっさんが立っていた。
なんか、めずらしく異世界風だな。
少しは興味があったんで、何気に聞き耳を立てていると、
「あっ、振り込みお願いします」
そうか、ATMねえんだ。ほんと、異世界って不便だぜ。
そして何気に手にした振込用紙を見ると、振込先の欄に……。
東京都奥多摩〇✕銀行。
えっ、なに、それ? あっちの世界の住所じゃん。
俺は思わず尋ねちまったぜ!
「あの、東京都奥多摩って。あっちの、現世の住所ですよね?」
「うん? まあ、そうだけど……」
「まさか、現世に送金できるんですか?」
「君、新人転生者だろ?」
「ええ、昨日、転生したばかりで」
おっさんの話によるとだ、なんと煉獄で資格選択のとき、スマホを選択すると、遺族と会話できたり、仕送りできたりするそうだ。
そ、それってスマホ太郎じゃん!
俺は驚愕に打ち震えたよ。
だってスマホ太郎のこと、思いっ切りバカにしてたもん(アニメ版)。
でも今にして思えば、あいつの選択肢は間違っちゃいなかった。
ごめん、太郎! おまえ、最高だよ!
で、思い付いたんだ。最高の方法を……。
こっちの世界から送金できるなら、あっちの世界からも送金できるはず。
スマホで親に連絡とって、毎月口座に振り込んでもらえば、俺のニートな生活一生安泰じゃん!
いやぁ~、俺って頭いいねえ。
そうだ、俺、こっちの世界で大学通ってることにして、仕送りという形でお願いしてみれば……。
うちの親、学歴に拘るから、案外喜んで仕送りしてくれるかも。
そうと決まれば、さっそく作戦実行だ!
俺は弓使いのおっさんに笑顔で頼み込んだ。
「すみません、そのスマホ、貸していただけません?」
「誰かと連絡とりたいの?」
「現世の両親に息災に暮らしていると」
「悪いけど、ダメなんだ」
「ええ、どうして!?」
「異世界のスマホは肉親としか通話できない仕様になってるんだ」
おっさん自身も妻と二人の娘としか通話できないそうだ。
つまり俺が両親と会話するには、資格選択のとき、スマホを選択する以外に方法はなかったということだ。
「よく資格選択でスマホ選択できましたね?」
「そりゃ、残してきた家族のことは気にかかるからね。俺がそう思ったら、女神様が耳元で囁いたんだ。--だんな、いいブツありますぜって」
「……変わった女神様ですね?」
「俺の担当はそんな感じだったよ」
「それでスマホもらったんですか?」
「異世界でスマホ持ちって、けっこう多いと思うよ。君だって想ったろ? 残してきた家族のことを」
「……まあ」
正直、一ミリ足りとも思い出さなかった。
きっと親のこと、金蔓としか見ていねえんだろうなあ。
これって人としてマズイかな?
(読者の皆さん、盛大に突っ込んでください!)
ふと傍らを見ると、おっさんが目を赤く腫らして涙ぐんでいた。
俺、なんか悪いこと言った!?
「娘がね、娘がね、二人ともまだ小学生なんだけど、なんか怖がっちゃって……。俺のこと、幽霊だと思ったようで……、通話に出てくれないんだ」
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「ああ、妻は理解しているよ。最初は信じなかったけど、毎月あっちの口座に三十万振り込んでるから」
「三十万!? 弓使いって、けっこう実入りがいいんですね」
「まあ、年収八百万超えてるから、高給取りだとは思うんだけど。生前は年収三百万切ってて、けっこう厳しい生活だった。そこへ毎月三十万も振り込まれるようになったら、妻はこう言ったんだ」
「……」
「あなたが死んでよかった、って……」
俺さ、おっさんが気の毒で思わず言っちゃったよ。
「今度一緒に飲みません? 俺、愚痴を聞くくらいならできますから」
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