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第25話 サキュバスの洞窟 そこは闇の楽園?
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俺とパトラはサキュバスの洞窟の前に立った。
賢者としての初陣だ。
華々しい戦果を挙げて、こっちの世界に勇名を轟かせるのだ。
「さあ、行くぞ! パトラ」
「えっ? ぼくも行くんですか?」
「当たりめえだろ! 俺一人でこんな恐怖な洞窟、入れるわけねえだろ? いいか、ご主人様がピンチになったら、命懸けで守るんだぞ!」
「あ、あの、もしぼくがピンチになったら、ご主人様、助けてくれますよね?」
「まあ、死に水くらいは取ってやる。戦って死ね!」
「ええ、そんなぁ!」
「ほら、行くぞ!」
俺はパトラのケツを蹴っ飛ばして、先に入るように促した。
「な、なんでぼくが先頭なんですか?」
「おまえ、”盾成り”って知ってる?」
「なんすか、それ?」
「うん、まあ、つまりだなぁ、戦う勇者様には盾が必要ということなんだ」
「まあ、そりゃ、防具がなければ怖くて戦えませんよね」
「だがパトラよ。俺を見ろ」
「……」
「見ての通り、俺の右手にはダガーナイフ。だが左手には……、あるべきはずの防具がねえんだ」
「引き返します? なんなら町の武器屋で高価な盾でも」
「実は俺もそうしたかったんだが、何分先立つものがなくて……。どこかの居候の大飯喰らいが生活費根こそぎ持っていきやがるから」
「それって、もしかしてぼくのことですか?」
「な~ぜ、疑問符付ける? てめえ、人の世話になっておきながら、ぜんぜん感謝してねえだろ?」
「いえ、そんなこと」
「おまえ、わかるか? いや、わかんねえよな? 俺がだよ、高価な盾を買うためにだよ、爪の先に火を灯すようにして貯めた金がだよ、ペットの餌代に変わり果ててみろ。こんな大飯喰らいの役立たず、飼うんじゃなかった。まあ、そう後悔するのが普通だよな? おめえもそう思うだろ?」
「まあ、思います」
「少しはご主人様のお役に立ちたい。そう思うだろ?」
「はい! 思います」
「買えなかった盾の代わりに、自分がご主人様の盾になりたい。そう思うよな?」
「思います、思います、アッ!」
「わかればいいんだ。わかれば。俺も対サキュバス戦を前にして、事を荒立てる気はねえからよ」
「わかりましたよ。先に行けばいいんでしょ、先に行けば」
「おい、ちょっと待て」
俺は先へ行こうとするパトラを引き止めた。
「なんで美少女形態? そんな非力な恰好じゃ、盾の役割果たせないでしょ?」
「いえ、実はこれには深い訳が」
「なんだ、言ってみろ」
「ぼく、決めたんです。ご主人様への愛を貫くためには、やはり美少女形態が一番かと。今後はたとえ何が起ころうとも、もうこの姿のまま押し通す。決して美少年形態やただのモフモフにはならないと」
「お、おまえ、俺のために、そ、そこまで」
「ご主人様、大好きです! お願いします! ぼくを生涯お側に。最愛の恋人や伴侶のように、永遠の愛を」
「……」
「あの、ご主人様?」
俺、勇者じゃねえけど、このときばかりは右拳にMAXモードの炎の紋章を(心の中で)湛えていたね。
「この痴れ者めがあああああ~~~~~!」
「うわあああああ~~~~~!」
発動した炎の紋章(心の中で)によって、美少女モフモフは高さ三〇メートルも宙を舞い、錐揉み降下しながら地面に激突した。
その衝撃で美少女モフモフのやつ、ポンと破裂して、もとの獣形態に戻りやがった。
やつが起き上がりざま叫んだ。
「ひ、ひどいじゃないですかぁ! ぼくが何をしたって言うんですかぁ!」
「このニート王の俺様がだなぁ、貴様ごときの奸計を見抜けないとでも思ったか!」
「--!」
「おまえの腹ん中は読めてるんだ。俺がサキュバスに襲われてる隙に、自分一人で逃げるつもりだった。美少女形態は己の身の安全を確保するため。なぜなら、サキュバスは男にしか興味を示さねえからな!」
「クッ……」
「さあ、わかったら、さっさと先へ行け!」
モフモフのやつ、よろよろと立ち上がると、ようやく先に立って、洞窟の中へ足を踏み入れた。
俺も懐中電灯片手に後へ続く。
入口から二〇メートルも進むと、辺りは一面真っ暗で懐中電灯の光なしでは何も見えねえ。
まったく、内輪揉めしたおかげで莫大なエネルギー消費しちまったぜ。
全エネルギー量の八〇パーセントは消費したか。
炎の紋章なんていう、慣れねえパンチ繰り出すもんだから(心の中で)、拳と肩が痺れてやがる。
俺とパトラは洞窟の中を黙々と十分ほど進んだろうか。
と突然、何者かが俺の懐中電灯をはたき落とした。
落下した拍子に、懐中電灯の豆電球が砕けたのか、辺り一面一瞬にして暗闇に飲み込まれた。
「ク、クソ! これじゃ何も見えねえ。おい、パトラ、どこにいる!」
「はい、ご主人様、ここです!」
「おまえ、何か見えるか?」
「いえ、何も見えません!」
「おまえ、獣だろ? 少しくらい見えるだろ!」
「無理です! ぼく、猫じゃありませんから!」
俺は激しく後悔したよ。
どうせ飼うなら猫型モフモフにしときゃよかった、って。
そのときまた別の腕が伸びてきて、今度は右手に握ったダガーナイフを叩き落とした。
鈍い金属音と共にダガーナイフもまた闇に飲まれた。
お~い、愛しのダガーナイフちゃん、どこへ消えたんだ~!
早くも戦う術を失った俺。
暗闇の中、慌てて地面をまさぐったが、どこにもダガーナイフは見当たらない。
不意に耳元で何者かが囁いた。
「おにいさん、そんなナイフなんか放っといてさぁ、それよりも二本目のナイフでさぁ、わたしたちと遊びましょうよ」
「て、てめえ~」
抵抗する間もなかった。
四方八方から、何十本ものヌルヌルした手が伸びてきて、俺の全身をもてあそび始めたのだ。
剥がそうにも、そのヌルヌルした手は俺の身体に密着したまま離れねえ。
なんて強靭な性技、いや、攻撃なんだ!
そのとき闇の彼方からモフモフの悲鳴が聞こえてきた。
「ああ~、ご主人様ぁ、助けてぇ~、ああ、いくぅ~」
あ~、あの野郎、まさか飼い主の俺を差し置いて、ど、童貞ちゃんを~!
そのときヌルヌルした手のひとつが、俺の股間をまさぐり始めた。
そして最後の防衛線、ファスナーを下げた。
お、おのれぇ~!
最早、俺に迎撃手段は残されていなかった。
破壊された社会の窓から、数本の指が妙な動きをしながら侵入してきた。
そして数十秒後、我が機動要塞の動力源は破壊された。
あれからいく生辰が過ぎたことだろう。
ふと目を覚ませば、そこはサキュバスの洞窟の入り口だった。
お、俺は助かったのか。
傍らにはモフモフが美少年形態の姿で倒れていた。
「おい、大丈夫か?」
「はい、なんとか」
「おまえ、なんで美少年形態なんだ?」
「あの、あんまり気持ちよかったものですから、つい……」
「前々から訊こうと思ってたんだけど、おまえってさぁ、女の子、それとも男の子?」
「前に話しませんでした? 両性具有だって」
「それって男も女も経験できるんだ? うらやましい体質してんな、おまえ」
心の中に大いなる疑問が残された。
それは俺が無事童貞ちゃんを卒業できたか? と言うことだ。
情けない話だが、動力源を破壊されたあと、俺は気を失ってしまったのだ。
それに異種族のサキュバスとエッチしたからといって、童貞卒業と認定されるのだろうか?
いや、疑問は尽きねえ。
勇者スタンクも人間童貞って噂だし。
でもあいつ、三十過ぎても妖精にならなかったよなぁ。
牧場に帰って、ジイサンにサキュバスとの激闘を語って聞かせたら、
「う~む、そうだな、素人童貞。まあ、そういうことにしておけ。ホッホッホッ……」と訳のわかんねえことほざきやがった。
賢者としての初陣だ。
華々しい戦果を挙げて、こっちの世界に勇名を轟かせるのだ。
「さあ、行くぞ! パトラ」
「えっ? ぼくも行くんですか?」
「当たりめえだろ! 俺一人でこんな恐怖な洞窟、入れるわけねえだろ? いいか、ご主人様がピンチになったら、命懸けで守るんだぞ!」
「あ、あの、もしぼくがピンチになったら、ご主人様、助けてくれますよね?」
「まあ、死に水くらいは取ってやる。戦って死ね!」
「ええ、そんなぁ!」
「ほら、行くぞ!」
俺はパトラのケツを蹴っ飛ばして、先に入るように促した。
「な、なんでぼくが先頭なんですか?」
「おまえ、”盾成り”って知ってる?」
「なんすか、それ?」
「うん、まあ、つまりだなぁ、戦う勇者様には盾が必要ということなんだ」
「まあ、そりゃ、防具がなければ怖くて戦えませんよね」
「だがパトラよ。俺を見ろ」
「……」
「見ての通り、俺の右手にはダガーナイフ。だが左手には……、あるべきはずの防具がねえんだ」
「引き返します? なんなら町の武器屋で高価な盾でも」
「実は俺もそうしたかったんだが、何分先立つものがなくて……。どこかの居候の大飯喰らいが生活費根こそぎ持っていきやがるから」
「それって、もしかしてぼくのことですか?」
「な~ぜ、疑問符付ける? てめえ、人の世話になっておきながら、ぜんぜん感謝してねえだろ?」
「いえ、そんなこと」
「おまえ、わかるか? いや、わかんねえよな? 俺がだよ、高価な盾を買うためにだよ、爪の先に火を灯すようにして貯めた金がだよ、ペットの餌代に変わり果ててみろ。こんな大飯喰らいの役立たず、飼うんじゃなかった。まあ、そう後悔するのが普通だよな? おめえもそう思うだろ?」
「まあ、思います」
「少しはご主人様のお役に立ちたい。そう思うだろ?」
「はい! 思います」
「買えなかった盾の代わりに、自分がご主人様の盾になりたい。そう思うよな?」
「思います、思います、アッ!」
「わかればいいんだ。わかれば。俺も対サキュバス戦を前にして、事を荒立てる気はねえからよ」
「わかりましたよ。先に行けばいいんでしょ、先に行けば」
「おい、ちょっと待て」
俺は先へ行こうとするパトラを引き止めた。
「なんで美少女形態? そんな非力な恰好じゃ、盾の役割果たせないでしょ?」
「いえ、実はこれには深い訳が」
「なんだ、言ってみろ」
「ぼく、決めたんです。ご主人様への愛を貫くためには、やはり美少女形態が一番かと。今後はたとえ何が起ころうとも、もうこの姿のまま押し通す。決して美少年形態やただのモフモフにはならないと」
「お、おまえ、俺のために、そ、そこまで」
「ご主人様、大好きです! お願いします! ぼくを生涯お側に。最愛の恋人や伴侶のように、永遠の愛を」
「……」
「あの、ご主人様?」
俺、勇者じゃねえけど、このときばかりは右拳にMAXモードの炎の紋章を(心の中で)湛えていたね。
「この痴れ者めがあああああ~~~~~!」
「うわあああああ~~~~~!」
発動した炎の紋章(心の中で)によって、美少女モフモフは高さ三〇メートルも宙を舞い、錐揉み降下しながら地面に激突した。
その衝撃で美少女モフモフのやつ、ポンと破裂して、もとの獣形態に戻りやがった。
やつが起き上がりざま叫んだ。
「ひ、ひどいじゃないですかぁ! ぼくが何をしたって言うんですかぁ!」
「このニート王の俺様がだなぁ、貴様ごときの奸計を見抜けないとでも思ったか!」
「--!」
「おまえの腹ん中は読めてるんだ。俺がサキュバスに襲われてる隙に、自分一人で逃げるつもりだった。美少女形態は己の身の安全を確保するため。なぜなら、サキュバスは男にしか興味を示さねえからな!」
「クッ……」
「さあ、わかったら、さっさと先へ行け!」
モフモフのやつ、よろよろと立ち上がると、ようやく先に立って、洞窟の中へ足を踏み入れた。
俺も懐中電灯片手に後へ続く。
入口から二〇メートルも進むと、辺りは一面真っ暗で懐中電灯の光なしでは何も見えねえ。
まったく、内輪揉めしたおかげで莫大なエネルギー消費しちまったぜ。
全エネルギー量の八〇パーセントは消費したか。
炎の紋章なんていう、慣れねえパンチ繰り出すもんだから(心の中で)、拳と肩が痺れてやがる。
俺とパトラは洞窟の中を黙々と十分ほど進んだろうか。
と突然、何者かが俺の懐中電灯をはたき落とした。
落下した拍子に、懐中電灯の豆電球が砕けたのか、辺り一面一瞬にして暗闇に飲み込まれた。
「ク、クソ! これじゃ何も見えねえ。おい、パトラ、どこにいる!」
「はい、ご主人様、ここです!」
「おまえ、何か見えるか?」
「いえ、何も見えません!」
「おまえ、獣だろ? 少しくらい見えるだろ!」
「無理です! ぼく、猫じゃありませんから!」
俺は激しく後悔したよ。
どうせ飼うなら猫型モフモフにしときゃよかった、って。
そのときまた別の腕が伸びてきて、今度は右手に握ったダガーナイフを叩き落とした。
鈍い金属音と共にダガーナイフもまた闇に飲まれた。
お~い、愛しのダガーナイフちゃん、どこへ消えたんだ~!
早くも戦う術を失った俺。
暗闇の中、慌てて地面をまさぐったが、どこにもダガーナイフは見当たらない。
不意に耳元で何者かが囁いた。
「おにいさん、そんなナイフなんか放っといてさぁ、それよりも二本目のナイフでさぁ、わたしたちと遊びましょうよ」
「て、てめえ~」
抵抗する間もなかった。
四方八方から、何十本ものヌルヌルした手が伸びてきて、俺の全身をもてあそび始めたのだ。
剥がそうにも、そのヌルヌルした手は俺の身体に密着したまま離れねえ。
なんて強靭な性技、いや、攻撃なんだ!
そのとき闇の彼方からモフモフの悲鳴が聞こえてきた。
「ああ~、ご主人様ぁ、助けてぇ~、ああ、いくぅ~」
あ~、あの野郎、まさか飼い主の俺を差し置いて、ど、童貞ちゃんを~!
そのときヌルヌルした手のひとつが、俺の股間をまさぐり始めた。
そして最後の防衛線、ファスナーを下げた。
お、おのれぇ~!
最早、俺に迎撃手段は残されていなかった。
破壊された社会の窓から、数本の指が妙な動きをしながら侵入してきた。
そして数十秒後、我が機動要塞の動力源は破壊された。
あれからいく生辰が過ぎたことだろう。
ふと目を覚ませば、そこはサキュバスの洞窟の入り口だった。
お、俺は助かったのか。
傍らにはモフモフが美少年形態の姿で倒れていた。
「おい、大丈夫か?」
「はい、なんとか」
「おまえ、なんで美少年形態なんだ?」
「あの、あんまり気持ちよかったものですから、つい……」
「前々から訊こうと思ってたんだけど、おまえってさぁ、女の子、それとも男の子?」
「前に話しませんでした? 両性具有だって」
「それって男も女も経験できるんだ? うらやましい体質してんな、おまえ」
心の中に大いなる疑問が残された。
それは俺が無事童貞ちゃんを卒業できたか? と言うことだ。
情けない話だが、動力源を破壊されたあと、俺は気を失ってしまったのだ。
それに異種族のサキュバスとエッチしたからといって、童貞卒業と認定されるのだろうか?
いや、疑問は尽きねえ。
勇者スタンクも人間童貞って噂だし。
でもあいつ、三十過ぎても妖精にならなかったよなぁ。
牧場に帰って、ジイサンにサキュバスとの激闘を語って聞かせたら、
「う~む、そうだな、素人童貞。まあ、そういうことにしておけ。ホッホッホッ……」と訳のわかんねえことほざきやがった。
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