異世界最弱のニート様 敵は異世界最強の勇者様? 俺 死亡フラグ回避するために棚ぼた勇者めざします!

風まかせ三十郎

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第45話 打倒勇者! 新たなる誓い

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 それは俺を断罪するための夢だったに違いない。
 
 ある小春日和の一日。
 俺は牧場で牝牛ちゃんたちと戯れていた。
 牝牛ちゃんたち、自分でロンバースのファスナーを下げると、巨乳を露にして、俺に--搾乳して、搾乳して、と迫ってくるのだ。

 おおっ、なんてナイスな光景なんだ!

 俺は迫り来る数多あまたの巨乳にぷにぷにされながら、手近にいる一頭を抱き寄せた。

 おおっ、おまえは優子ちゃん!

 なぜか、死んだはずの優子ちゃんが目の前でほほ笑んでいた。

 なんだ、おまえ、生きてたのか。
 
 俺は嬉しくなって優子ちゃんを笑顔で抱きしめた。
 優子ちゃんがエヘッと小首を傾げた。
 そして……、その可愛らしいピンク色の乳首を、俺のお口に含ませたではないかぁ~!
 その瞬間、大量のミルクが俺の咽喉に注ぎ込まれた。

 うおっ、止めて、お願い、苦しい!

 上目遣いに見上げれば、いつしか優子ちゃんの顔は、春子ちゃんに変わっていた。

 は、春子!

 勇者に斬られて死んだはずの春子が、俺の目の前にいた。
 その顔が、夏子、秋子、冬子へと、次々に変わっていく。
 その間にも、大量のミルクが容赦なく咽喉の奥まで注がれてゆく。
 佳子、阿子、良子、蘭子、京子、桜子……。
 俺の目の前に現れては消える美少女たち、いや、違った。牝牛ちゃんたち。
 もう、俺のお腹は一杯だった。

 いい加減、やめてくれ! 俺が、俺が悪かったぁ~!

「おい、起きろ。目を覚ませ!」
「う~ん、助けて。もう牛乳飲めません」
「おい、なに寝ぼけてるんだ! 早く目を覚ませ!」

 彼方から、目覚めよと呼ぶ声が聞こえてきた。
 その蓮っ葉な口調は、目覚めればそこが楽園ハーレムであることを絶対に否定しているのだが、まあ、それが麗しのおねえさんの声であれば、喜んで目を覚ますのも物の道理。
 目を見開くと、そこには不安げに俺を見つめるおねえさんの顔が。

「お、おねえさん……」

 そこには久し振りに眺める美しきおねえさん、フェイさんの姿があった。
 おねえさんが安堵のため息を漏らした。

「やっと目を覚ましたか。それにしても勇者のやつ、とんでもねえことしやがったな」

 おねえさんの視線を追って、俺もそこへ視線を向けた。
 するとカンテラの薄ぼんやりした光の中に、地面に横たわる桜子と京子の遺体が浮かび上がった。
 
「桜子、京子!」

 駈け寄ろうとして、俺は激痛に片腹を押さてうずくまった。
 おねえさんが俺を抱え込んだ。

「おい、まだ動くな。肋骨にひびが入ってやがる。今、治してやるから」
「桜子、涼子!」

 俺は構わず桜子ににじり寄った。
 
「桜子、桜子……」

 俺は彼女の肩を揺さぶり続けた。
 桜子は目を覚まさなかった。そして京子も。
 全身から力が抜けた。

 痛て!

 緊張と恐怖が弛緩した瞬間、再び脇腹に激痛が走った。
 
「だから動くなって言ってんだろ。ほら、横になれ。いま治してやるから」

 おねえさん、俺の身体を横たえると、右手から淡い光を照射した。
 患部の痛みが和らいでいく。
 でも心の痛みは治まらなかった。

 クソッ、クソッ、クソッ、俺が弱いばかりに。

 牝牛ちゃんを救えなかった悔悟の念が、俺を苛む。
 傷が治癒してゆく間にも、俺は滔々と涙を流し続けた。

「おねえさん、ゴブリンの洞窟は……、あいつら、無事でしたか?」

 おねえさんが力なく首を振った。

「あの野郎、あたしの大切なお得意さんを片っ端から潰しやがった。とんでもねえ野郎だぜ。まったく!」

 おねえさんの治癒魔法ヒールが途絶えた。
 俯いたまま両肩を震わせていた。

「パトラの墓見てきたぜ。生き残ったオークたちが、仲間の遺体を後回しにして、最初に埋めてくれたんだ。子供を助けてくれたからって。あの子、長老さんのお孫さんだそうだ」
「オークが」

 俺の涙が乾いた。
 おねえさんが濡れた瞳で俺を見た。

「可哀そうだよな、パトラ……。なんの罪もねえのに、勇者に斬られて死んじまうんだから」

 俺は湧き上がる怒りを抑えることが出来なかった。

「でもパトラは駆除指定外の魔生物だから、殺せば相手の罪を問えるはずです!」
「動物愛護法違反に問えるだろうが、もしそうなっても罰金刑だ。しょせん、パトラは人じゃねえから」
「そ、そんな!」
「勇者の仕事を邪魔したとなりゃ、罪に問われない可能性が大だ。なんせ請け負ったのが行政の仕事だからな。でもそうなったら、パトラは……、永遠に浮かばれねえ」

 おねえさんが悲しみを抑え切れずに俯いた。
 滴る涙が地面を濡らしてゆく。

 俺は、俺は……、拳を握り締め立ち上がった。

「おねえさん、俺、勇者が、ハーケン・クロイツァーが許せません! 行政がやつを罰しないというのなら、俺がこの手でやつを罰してやります!」

 おねえさんが驚いて顔を上げた。
 
「だって、おめえ、相手はS級勇者だぞ? 勝てる訳ねえだろ」
「じゃあ、見過ごせっていうんですか! パトラを殺した犯罪者を!」

 おねえさんが難しい顔して立ち上がった。

「おめえな、なにする気か知らねえけど、もし武器を持って立ち向かえば、あいつだって容赦はしねえぞ。最悪、殺されたらどうするって話だ!」
「俺は絶対引きません。倒せなくったっていいんだ! せめて死んだパトラのために、オークやサキュバスやスライムやゴブリンのために、俺はやつに一発入れてやりたいんだ! ニート級素人パンチなんかじゃねえ、本物の一撃を!」

 俺の脳裏に、田中さんの勇姿が蘇った。
 最後の一矢で勇者の頬を切り裂いた、B級弓使いアーチャーの意地の一撃を。

「おめえ、そこまで」

 おねえさんが俺の肩へ手をかけた。
 そのとき、

 モゥ~! 

 突然、牝牛ちゃんの声がした。
 二人して同時に振り返った。

「おっ、おまえは咲子ちゃん!」

 そこには咲子が、どこかへ隠れていたのか無事な姿を現した。
 
「咲子ぉ~、生きていたのかぁ! よかった、よかった」

 俺は彼女の首へ喜び勇んで抱き付いた。

 おや、これは?

 咲子がなにかを咥えている。
 カンテラの明かりに浮かび上がるそれはダガーナイフ。俺が以前、サキュバスの洞窟に侵入したとき紛失したダガーナイフだった。

「おまえ、これで仲間の仇を討てっていうのか?」

 モゥ。

 咲子ちゃんが決意を秘めた表情で頷いた。
 俺は彼女の頭をなでなですると、ダガーナイフを手に立ち上がった。

「おめえ、とうとうやる気になったか!」

 おねえさんも遅れて立ち上がった。

「あたしも協力するぜ。お得意さんを大勢殺されたんだ。それに親友のパトラも殺されたんだ。お縄にして警察に突き出さなきゃ気が済まねえ」
「おっ、おねえさん」
「だがその前にだ。彼女たちの遺体を荼毘だびに付さなきゃな。このままだと牝牛ちゃんたち、肉屋に降ろされちまうから。おまえだって、そんなこと望まねえだろ?」

 俺は牝牛ちゃんの遺体を、おねえさんはサキュバスさんの遺体を、洞窟の奥へと集めた。
 おねえさん、人差し指を突き立てると、

「これ、使うの初めてなんだ。上手くいくといいんだけど」

 そう呟くと、無詠唱で指先から赤い炎を迸らせた。
 初めて見る、S級魔法使いの火炎魔法だった。
 炎は山と積まれた遺体に着火して、瞬時にどす黒い煙を立ち昇らせた。

「おい、煙に巻かれる前に早く逃げるぞ」

 俺とおねえさん、それと咲子。二人と一頭は一目散に走って洞窟の外へと躍り出た。
 一息つくと、俺はおねえさんを顧みた。

「おねえさん、やっぱ治癒師ヒーラーじゃなくて、魔法使いだったんですね?」
「あれ、おまえ、この格好見て、あたしのこと治癒師だと思ってたのか?」

 黒い三角帽子に黒いローブ、それに黒いマント。
 まあ、どう見ても魔法使いの恰好そのものなんだけど。

「最初に出会ったとき、治癒魔法使ってましたから。だから治癒師かと」
「あたし、治癒魔法も使える魔法使いなんだ。どうだ、超便利だろ?」
「ええ、これで鬼に金棒です!」

 俺はおねえさんと堅い握手を交わした。
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