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第57話 やったぜ! S級召喚士
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俺は手元に残されたエクスカリバーを繁々と見つめていた。
あのドジっ子女神様、今度はエクスカリバーを回収するのを忘れていきやがった。
ラッキー~~~~~!
て、ことはだよ。俺、聖剣を持ったS級召喚士ということで、勇者と召喚士の能力を併せ持つ、異世界最強の男ということになる。いまだかって、誰もが到達しえない境地に到達したことになる。
やったぁ! やっと異世界物の主人公らしくなってきた!
俺は虚空を睨み、まだ見ぬ雲の人の好敵手にエクスカリバーを突き付けた。
おい、ルーデウス、スバル、タカフミ、タクマ、トウヤ、イチロー、それにサトル×2! 待ってろよ。おまえらの素っ首、まとめて叩き落としてやる!
伏〇「おや、どこかで負け犬の遠吠えが」
丸〇「いや、わたしには聞こえませんな。まったく」
サトル×2がラオウとカイオウに見えたのは、俺の目の錯覚だろうか?
■■■
傍らでは、おねえさんが治療を終えて立ち上がった。
「これでよしっと。放っときゃそのうち気が付くだろ」
勇一のやつ、負けたことを根に持って、目を覚ましたら、また俺と勝負しろだなんて騒ぎ出すかもしれねえな。
まあ、聖剣を携えたS級召喚士の俺様とじゃ、端から勝負にならねえけどな。それにあいつのアロンダイト折れてるし。
いや~、俺も出世したもんだ。
さて、いよいよここからが本番!
俺は握り締めた右手に念を込めると、思い付くまま呪文を唱え始めた。
「マハリクマハリタ、テクマクマヤコン、ハニーフラッシュ、テクニカテクニカ、ベララルラ~。素っ飛ばして、ディユアルスピリチュアルパワー~~~~~!」
あれ、右手が光らない?
試しに右手を地面に押し当ててみたが、何の変化も見られなかった。
上手く行けば地面に魔法陣が浮かび上がり、その中から東映系魔法少女がわんさか出て来るんじゃねえかと、そう期待していたんだけど。
ジャンプ系美少女に続いて、第二のハーレムを形成できるんじゃねえかと、淡い期待を抱いていたんだが。そうは問屋が卸さなかった。
バッコ~ン!
突然、頭を引っ叩かれた。
後頭部を押さえて背後を振り向くと、そこに怖い顔したおねえさんが立っていた。
「おまえなぁ、いつまでそんな下らねえことやってるんだ? さっさと黄泉の国から仲間を呼び戻すんだ!」
「で、でも、いったいどうやったら?」
「方法ならある!」
不意に背後で声がした。
あっ、葉巻の代わりにパイプを咥えた魔導士さん。
「いいか、仲間のことを思い出すんだ。非業の死を遂げた仲間のことを」
「仲間……」
「君を支えてくれた仲間たちだ。君が支えてあげた仲間たちだ。君が愛した仲間たちだ。君を愛してくれた仲間たちだ。蘇れと強く念じるんだ」
「愛ですか?」
「愛だとも!」
「愛って、そんなに凄いんですか?」
「たぶん、これ以上の強力な魔法はこの世に存在しないだろう。これさえあれば何でも出来る! 今の君ならヒノカミ神楽だって打てる!」
「わかりました。俺、全力でやってみます!」
俺はエクスカリバーを正眼に構えると、父親が御幣を握って、神に奉納舞いを捧げている姿を思い浮かべながら、いや、違った。父親(社長)が会社の部下と一緒に、札びら切ってキャバクラを豪遊している様を思い浮かべながら、みんな、蘇れ、蘇ってくれ! と念じ続けた。
すると剣尖からライターの+最大のレベルの炎が立ち上った。
おっ、やった!
俺はまた最強への階段を一歩登り詰めたのだ。
よし、行くぜ!
「ヒノカミ神楽 円舞、いや、違った。円舞!」
「今はいいから! さっさと召喚術を発動したまえ」
「……」
俺は不満だった。
ヒノカミ神楽さえ身に付ければ、SS級ランクが手に入るかもしれねえのに。
仕方ねえか。
俺は飽くなき権勢欲と色欲を胸に、いい加減に掌を地面に叩き付けた。
おおっ、やった! 地面が光った!
直後、青白い光の中から魔法陣が浮かび上がった。それはどんどん拡大して、直径五メートルほどの円を成した。その中から、ぴょんぴょん跳ねながら姿を現したのだ。ゴブリン共が。
やったぜ! 成功だ!
でもゴブリンのやつら、俺に感謝の言葉もなく走り去っていきやがった。
なんでえ、せっかく助けてやったのに。
するとそのうちの一匹がぴょこんと俺の右肩に乗って、頬をぺろんとひと舐めして走り去った。
くそっ、舐めやがって!
「怒らないで。あれは彼らなりの感謝の印なんだから」
ふと左肩を見ると、なんとサキュバスさんが妖艶な笑みを浮かべて腰を下ろしていた。
「サキュバスさん!」
「秀一、あなたのお陰で蘇ることが出来ました。ありがとう」
「でも俺が巻き込んだせいで、あなた方は……」
「あなたのせいではないわ。あの勇者は遅かれ早かれわたしたちを虐殺したでしょうから。秀一、あなたには感謝しています」
サキュバスさん、俺の頬にチュッとキスすると、蘇った仲間と共に洞窟の方角へ飛んで行った。
ありがとう、サキュバスさん。
俺はサキュバスさんの背中を感謝を込めて見送った。
それと入れ替わるように地平線の彼方から……、ありゃ、オークの集団が。長老と若い衆の一団だ。
全員、着流しで、片手にドスを握ってやがる。
長老が俺の前に立った。
「助けに来たぜ、と言いたいところだが。どうやらその必要はなかったようだな」
その瓶底メガネの奥から、小粒な丸い瞳で勇一を見た。
あれ、長老さん、流暢な日本語、話し始めたよ。
若い衆が、おねえさんに付き添われた勇一を見て一斉にドスを抜いた。
「あの野郎、仲間の仇だ! 叩き斬ってやる!」
「待て!」
長老が若い衆を制したその時、奇跡が起こった。
魔法陣が光り輝いて、中から数十匹のオークの群れが這い上がって来たのだ。
長老の陰から幼い女の子が飛び出して、蘇った一匹のオークにしがみ付いた。
あれは女の子の父親か。
長老が俺の肩に蹄をかけた。
「おまえさん、あいつを赦してやったのかね?」
俺は長老の視線を追って、横たわる勇一に目をやった。
「俺にもよくわかりません。でも仲間の仇を討ちたいという気持ちは薄れました。召喚術で仲間を蘇らすことが出来ましたし」
「そうか、ならばよい」
長老が背後の若い衆を振り返った。
「聞いたか、若い衆。おめえらも召喚士さんを見習って、もうドスは収めるんだ」
長老の言葉は不要だった。
抱き合って再会を喜び合うオークたちに、最早、復讐の観念は不要だった。
背後に魔導士さんが立った。
「オークの肉屋襲撃事件だが、やはりハーケン・クロイツァーが裏で画策したものだった。森でオークを斬り殺すと、雇った手下を使って肉屋まで運搬させたのだ。肉屋の主人は何も知らずにオークの遺体を引き取った。その血臭を追って、行方不明の仲間を探しに来た三匹のオークと、肉屋の主人との間で揉め事が起こったのだ」
「なるほど、そうだったんですか」
「ゴブリンの一件はずっと単純で、金で雇った女に、ゴブリンに襲われたと偽証させただけだった。先の一件の男共々、警察に突き出しておいたから。間もなく警察も動き出すだろう」
俺は横たわる勇一を見た。
拝金主義の取り付かれた青年の哀れな末路。
S級勇者という強大な力が、彼の第二の人生を誤らせた。
魔導士さんが紫煙を吐いた。
「いつしか彼の目的は親孝行から収入そのものに変わってしまったのだ。コンビを組んだ半年の間に、わたしは彼の心が移ろいゆくのを間近に見ていたからね。今回の一件を鑑みると、一抹の悔いが残るのだよ」
勇一を見つめる魔導士さんの目は、どことなく悲し気だった。
あのドジっ子女神様、今度はエクスカリバーを回収するのを忘れていきやがった。
ラッキー~~~~~!
て、ことはだよ。俺、聖剣を持ったS級召喚士ということで、勇者と召喚士の能力を併せ持つ、異世界最強の男ということになる。いまだかって、誰もが到達しえない境地に到達したことになる。
やったぁ! やっと異世界物の主人公らしくなってきた!
俺は虚空を睨み、まだ見ぬ雲の人の好敵手にエクスカリバーを突き付けた。
おい、ルーデウス、スバル、タカフミ、タクマ、トウヤ、イチロー、それにサトル×2! 待ってろよ。おまえらの素っ首、まとめて叩き落としてやる!
伏〇「おや、どこかで負け犬の遠吠えが」
丸〇「いや、わたしには聞こえませんな。まったく」
サトル×2がラオウとカイオウに見えたのは、俺の目の錯覚だろうか?
■■■
傍らでは、おねえさんが治療を終えて立ち上がった。
「これでよしっと。放っときゃそのうち気が付くだろ」
勇一のやつ、負けたことを根に持って、目を覚ましたら、また俺と勝負しろだなんて騒ぎ出すかもしれねえな。
まあ、聖剣を携えたS級召喚士の俺様とじゃ、端から勝負にならねえけどな。それにあいつのアロンダイト折れてるし。
いや~、俺も出世したもんだ。
さて、いよいよここからが本番!
俺は握り締めた右手に念を込めると、思い付くまま呪文を唱え始めた。
「マハリクマハリタ、テクマクマヤコン、ハニーフラッシュ、テクニカテクニカ、ベララルラ~。素っ飛ばして、ディユアルスピリチュアルパワー~~~~~!」
あれ、右手が光らない?
試しに右手を地面に押し当ててみたが、何の変化も見られなかった。
上手く行けば地面に魔法陣が浮かび上がり、その中から東映系魔法少女がわんさか出て来るんじゃねえかと、そう期待していたんだけど。
ジャンプ系美少女に続いて、第二のハーレムを形成できるんじゃねえかと、淡い期待を抱いていたんだが。そうは問屋が卸さなかった。
バッコ~ン!
突然、頭を引っ叩かれた。
後頭部を押さえて背後を振り向くと、そこに怖い顔したおねえさんが立っていた。
「おまえなぁ、いつまでそんな下らねえことやってるんだ? さっさと黄泉の国から仲間を呼び戻すんだ!」
「で、でも、いったいどうやったら?」
「方法ならある!」
不意に背後で声がした。
あっ、葉巻の代わりにパイプを咥えた魔導士さん。
「いいか、仲間のことを思い出すんだ。非業の死を遂げた仲間のことを」
「仲間……」
「君を支えてくれた仲間たちだ。君が支えてあげた仲間たちだ。君が愛した仲間たちだ。君を愛してくれた仲間たちだ。蘇れと強く念じるんだ」
「愛ですか?」
「愛だとも!」
「愛って、そんなに凄いんですか?」
「たぶん、これ以上の強力な魔法はこの世に存在しないだろう。これさえあれば何でも出来る! 今の君ならヒノカミ神楽だって打てる!」
「わかりました。俺、全力でやってみます!」
俺はエクスカリバーを正眼に構えると、父親が御幣を握って、神に奉納舞いを捧げている姿を思い浮かべながら、いや、違った。父親(社長)が会社の部下と一緒に、札びら切ってキャバクラを豪遊している様を思い浮かべながら、みんな、蘇れ、蘇ってくれ! と念じ続けた。
すると剣尖からライターの+最大のレベルの炎が立ち上った。
おっ、やった!
俺はまた最強への階段を一歩登り詰めたのだ。
よし、行くぜ!
「ヒノカミ神楽 円舞、いや、違った。円舞!」
「今はいいから! さっさと召喚術を発動したまえ」
「……」
俺は不満だった。
ヒノカミ神楽さえ身に付ければ、SS級ランクが手に入るかもしれねえのに。
仕方ねえか。
俺は飽くなき権勢欲と色欲を胸に、いい加減に掌を地面に叩き付けた。
おおっ、やった! 地面が光った!
直後、青白い光の中から魔法陣が浮かび上がった。それはどんどん拡大して、直径五メートルほどの円を成した。その中から、ぴょんぴょん跳ねながら姿を現したのだ。ゴブリン共が。
やったぜ! 成功だ!
でもゴブリンのやつら、俺に感謝の言葉もなく走り去っていきやがった。
なんでえ、せっかく助けてやったのに。
するとそのうちの一匹がぴょこんと俺の右肩に乗って、頬をぺろんとひと舐めして走り去った。
くそっ、舐めやがって!
「怒らないで。あれは彼らなりの感謝の印なんだから」
ふと左肩を見ると、なんとサキュバスさんが妖艶な笑みを浮かべて腰を下ろしていた。
「サキュバスさん!」
「秀一、あなたのお陰で蘇ることが出来ました。ありがとう」
「でも俺が巻き込んだせいで、あなた方は……」
「あなたのせいではないわ。あの勇者は遅かれ早かれわたしたちを虐殺したでしょうから。秀一、あなたには感謝しています」
サキュバスさん、俺の頬にチュッとキスすると、蘇った仲間と共に洞窟の方角へ飛んで行った。
ありがとう、サキュバスさん。
俺はサキュバスさんの背中を感謝を込めて見送った。
それと入れ替わるように地平線の彼方から……、ありゃ、オークの集団が。長老と若い衆の一団だ。
全員、着流しで、片手にドスを握ってやがる。
長老が俺の前に立った。
「助けに来たぜ、と言いたいところだが。どうやらその必要はなかったようだな」
その瓶底メガネの奥から、小粒な丸い瞳で勇一を見た。
あれ、長老さん、流暢な日本語、話し始めたよ。
若い衆が、おねえさんに付き添われた勇一を見て一斉にドスを抜いた。
「あの野郎、仲間の仇だ! 叩き斬ってやる!」
「待て!」
長老が若い衆を制したその時、奇跡が起こった。
魔法陣が光り輝いて、中から数十匹のオークの群れが這い上がって来たのだ。
長老の陰から幼い女の子が飛び出して、蘇った一匹のオークにしがみ付いた。
あれは女の子の父親か。
長老が俺の肩に蹄をかけた。
「おまえさん、あいつを赦してやったのかね?」
俺は長老の視線を追って、横たわる勇一に目をやった。
「俺にもよくわかりません。でも仲間の仇を討ちたいという気持ちは薄れました。召喚術で仲間を蘇らすことが出来ましたし」
「そうか、ならばよい」
長老が背後の若い衆を振り返った。
「聞いたか、若い衆。おめえらも召喚士さんを見習って、もうドスは収めるんだ」
長老の言葉は不要だった。
抱き合って再会を喜び合うオークたちに、最早、復讐の観念は不要だった。
背後に魔導士さんが立った。
「オークの肉屋襲撃事件だが、やはりハーケン・クロイツァーが裏で画策したものだった。森でオークを斬り殺すと、雇った手下を使って肉屋まで運搬させたのだ。肉屋の主人は何も知らずにオークの遺体を引き取った。その血臭を追って、行方不明の仲間を探しに来た三匹のオークと、肉屋の主人との間で揉め事が起こったのだ」
「なるほど、そうだったんですか」
「ゴブリンの一件はずっと単純で、金で雇った女に、ゴブリンに襲われたと偽証させただけだった。先の一件の男共々、警察に突き出しておいたから。間もなく警察も動き出すだろう」
俺は横たわる勇一を見た。
拝金主義の取り付かれた青年の哀れな末路。
S級勇者という強大な力が、彼の第二の人生を誤らせた。
魔導士さんが紫煙を吐いた。
「いつしか彼の目的は親孝行から収入そのものに変わってしまったのだ。コンビを組んだ半年の間に、わたしは彼の心が移ろいゆくのを間近に見ていたからね。今回の一件を鑑みると、一抹の悔いが残るのだよ」
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