【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花

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1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 8-2

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 それから男性が目覚めて、アナベルに対してお礼を伝えてテントから出て行った。夢から覚めた後も、少しの間魔法は続いていて、夢と現実の境目辺りに居る男性は大体大人しく帰ってくれる。

「お仕事おしまいっと」

 ベッドから抜け出て、うーんと身体を伸ばす。
 明日からまた旅が始まるから、今のうちに休んでおいたほうが良さそうだと軽く柔軟をしながら考えていると、アナベルのテントに誰かが入って来た。

「すみません、本日はもう終わり――……」

 とアナベルが言いかけて、言葉を失った。入って来たのは男性だ。どこかで見覚えのある人物だった。アナベルの存在に気付いた男性は、「すまない、匿ってくれ」と隠れる場所を探していたようだ。

「……それならベッドにお入り、早く!」

 男性を急かすようにベッドに入れて、アナベルは自分もベッドに横になった。男性を隠すようにぎゅっと抱きしめると、足音が聞こえて来た。そして、「いたか?」、「いや、こっちにはいない」と声が聞こえる。近付いて来る足音に、アナベルの鼓動が早くなる。

「テントに隠れたか……? すまない、誰かいるだろうか?」
「……こんな時間になんの用だい?」

 テントの外から声を掛けられて、アナベルはドキドキと早鐘を打ちながら平然を装い言葉を返す。そして、ぽんぽん、と彼の背中を叩いてから、ベッドを抜け出して、わざとバスタオルを緩ませて豊満なバストの谷間を強調するようにしてから、テントの外にいる人物に近付いた。

「もう、今、良いところだったのに……」
「も、申し訳ない。その、黒髪で青目の男性を見かけなかったか?」
「いいえ? あたし、お客さんとテントにいたの。……なにかあったの?」
「あ、いや、大したことじゃないんだ。その、本当にすまなかった」

 女慣れしていない人だったのか、そのまま走り去ってしまった。アナベルが肩をすくめて、ベッドに戻るとさっきまで横になっていた男性が起き上がる。

「追われているの?」
「ああ、まぁな」
「指名手配犯ってわけじゃあないよね?」
「まぁ……。ところで、どうして私を助けた?」
「……いやだって、そんな捨てられた子犬のような目をされていたら……」

 それに、美形だったし、とアナベルは続けた。

「なるほど、この顔に助けられたわけだ」
「いやぁ、本当に美形だねぇ。あたし、こんなに綺麗な顔の男の人を見るのは久しぶりだよ」

 十五年前に一度だけ合ったエルヴィスの顔を思い出したアナベルは、マジマジと彼の顔を見た。――似ている、気がする。

「前にも似たような顔を見たことが?」
「……さて、ね」

 アナベルが肩をすくませると、彼はただ小さく笑った。そして、懐からなにかを取り出すと、アナベルに渡した。

「……これは?」
「預かっていてくれ。美しい君にこそ似合うものだろう」

 アナベルは渡された物を見た。綺麗なブローチのようだ。そして、預かるとはどういう意味なのか……。彼は、テントから出ようとしたので、アナベルが声を掛ける。

「……あたし、旅芸人の一座のひとりなんだけど、次の街は王都、ティオールに向かうんだ。そこで会えるかい?」
「……なんだ、目的地は同じだったのか。ならば、私も同行出来るか座長に聞いてみてくれないか」
「……はぁ……」

 アナベルは目を瞬かせて、それから「しばらくそこで待っていて」と言ってテントから抜けて座長の元に向かった。座長に会い、事情を話すと、ぎょっとしたように目を大きく見開かれた。

(ま、当然の反応よね)
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