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1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 9-1

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「さっきからなんか騒がしいと思ったら……、なんでここに陛下がいらっしゃるんでしょうか」

 座長であるクレマンが、警戒心するように彼を見た。クレマンの口から出た『陛下』の言葉に、アナベルは自分の予想が当たっていたことに驚く。

「待っておくれよ、『陛下』ってことは……、この人が『エルヴィス陛下』なの?」
「ああ。何度か見たことがあるから間違いない」
「……え、一体いつ……?」

「それは……まぁ、追々話すとして。どうして陛下がこんなところに?」

 アナベルのイメージとしては、国を治める陛下は城の中で仕事をしているとばかり思っていたから、こうして外に出ていることが不思議だった。

「久しいな、クレマン。……ミシェルは?」

 緩やかに首を横に振るクレマンに、エルヴィスは「そうか」と目を伏せた。

「……ミシェルさんとも知り合いなの?」
「ああ、昔、少しな。それにしても……、噂には聞いていたが、本当に美しい女性を連れているな?」

 からかうような口調だったので、アナベルはエルヴィスとクレマンのふたりを交互に見て、「本当にどういう関係なのさ……」と呟いた。

「……クレマン、そしてそこの女性。協力して欲しいことがある」

 その真剣な眼差しに、アナベルはもちろん、クレマンも息を飲んだ。

「……協力?」
「先日、私に宛がわれた寵姫ちょうきたちが、何者かによって殺された」
「……寵姫が?」

 クレマンが驚いたように目を丸くした。エルヴィスはこくりとうなずいて真剣な表情でクレマンを見た。クレマンの表情が変わるのを見て、アナベルが自分はここに居ても良いのだろうかと悩んでいると、エルヴィスはちらりとアナベルに視線を向けてから話を続けた。

「そうだ。名ばかりの寵姫で、一度も触れたことのない女性たちだったが……。その全員が、イレインよりも若く、美しい女性だったのだ」
「王妃サマが関係あるのかい?」
「恐らくな。……そこで、だ。私は彼女を貸して欲しいと願っている」
「……彼女? って、まさかアナベルを!?」

 もう一度、こくりとうなずくエルヴィスに、クレマンだけではなくアナベルも絶句してしまった。それは、あまりにも突拍子のない申し出だったからだ。

「ま、待ってください。踊り子を寵姫にするおつもりですか?」
「そうだ。イレインよりも若く美しい、そして――度胸のある女性だ」
「え、えええっ?」

 クレマンも、アナベルも困惑していた。どうしてエルヴィスがここに居るのかを尋ねたら、旅芸人の一座にとても美しい女性がいると噂になっていたらしく、イレインよりも早く彼女に接触したかったから、と言われた。

「……ちょ、ちょっと、それは……」

 クレマンが咄嗟に断ろうとしたが、アナベルが制した。

「……それ、あたしにメリットがあるの?」
「危険は伴うだろうが……、充分な報酬を約束しよう」
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