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1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 9-2

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「……それよりも、確かめて欲しいことがあるんだ」

 アナベルが真剣な目をエルヴィスに向けた。

「十五年前、この国の北部の村が焼かれた。……なぜ、あの村が焼かれたのか、理由を知りたい」
「……十五年前、北部……」

 確認するようにぽつぽつと言葉を口にしていたが、クレマンがハッとしたようにアナベルに顔を向けた。そして、彼女の肩に触れて、その冷たさに驚く。すぐに自分の上着を掛けてやると、アナベルが「ありがとう」と口にした。

「君は、その村の生き残りか?」
「……そうさ。……悪いね、座長。あたし、本当は記憶を失ってなんかいなかったんだ。……いや、失いたいと願っていたのかもしれない」

 十五年前に見た、あの光景を思い出したくなくて。それでも、脳裏に焼き付いたあの光景は消えてくれることはなかった。
 そして誓った思いを、アナベルはまだ秘めている。

「――それは恐らく、イレインの仕業だろう。あの村が焼けてから数ヶ月後に、イレイン側の貴族であったジョエルが謎の死を遂げている。しかし、イレインは隠すのがうまく、中々尻尾を出さない……」
「……王妃サマが、なんであんな小さな村を襲わせたの……? それに、その『ジョエル』って貴族、あたしを買った貴族だよ」

 えっ? とふたりの視線がアナベルに向けられる。アナベルは、覚えている範囲のことを口にすると、クレマンもエルヴィスも口を閉ざし、なにかを考え込んでいた。

「……城の中に魔女が居るって、本当だったんですね」
「ああ、恐らく……。そうか、君はあの時の子か」
「あたしのことを覚えているの?」

 会ったと言っても時間にして一分そこらくらいのハズだ。自分のことを覚えていることに驚きを隠せないアナベルに、クレマンが「なんだ、お前らも知り合いか?」と声を掛ける。

「知り合いってほどじゃないよ。あたしが王妃サマに声を掛けられた時に、助けてくれたんだ。……ところで、魔女って?」

 クレマンは王妃、イレインの噂を教えてくれた。男性と女性で評価が真っ二つに割れるらしい。イレインの侍女たちはイレインよりも年が若い少女が主だが、高確率で謎の死を遂げる。噂では、王妃イレインが若い侍女から命を吸い取り若返っている……と囁かれているとのこと。
 男性からは概ね好評で、二十代と言っても通じるくらいの美貌とハリのあるしなやかな身体に魅了されているようだ。

「――はぁ……、王妃サマが……ねぇ……」
「自分の美を追求するあまり、国民のことが見えていないようだがな」
「ふぅん……。……で、なんで村が?」
「……君がいたから、だろう。ジョエルに君を買わせた、と言うことは、君のその美貌を失わせたかったから。ジョエルは女性の扱いはかなり酷いと聞いたことがあるからな……」
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