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3章:紹介の儀
紹介の儀 その後 3-1
しおりを挟むその日はとても、とても丁寧にメイドたちが接してきて、アナベルはエルヴィスの寝室からなかなか出てこなかった。
……起き上がれなかった、ということもある。
「……ねえ、少し質問しても良いかしら」
せっせと自分に対して世話をするメイドのひとりを呼び止めた。
「なんでしょうか、アナベル様」
宮殿に住まう寵姫は現在アナベルだけ。
だからこそ、アナベルはこう口にした――……。
「前の寵姫たちは、どんなことをしていたの?」
驚いたように目を丸くしたメイドは、他のメイドたちに目配せをした。
そして、ベッドにうつ伏しているアナベルの傍に向かい、ベッドの近くに座り込む。
「……どんなことを知りたいですか?」
アナベルは少し考え込んだ。それから、じっとメイドを見つめてこう尋ねた。
「彼女たちが力を入れていたことは、何かしら?」
「力を入れていた、こと……ですか。そうですね……」
メイドたちはそれぞれ考えを巡らせて、アナベルに答えた。
「着飾ること……?」
「宝石を集めていた方もいらっしゃいました」
「音楽に力を注いでいる方も……」
「……みんな、それぞれしっかりと趣味はあったのね……」
実家から冷遇されていた女性たちの楽園。アナベルは宮殿に暮らしていた寵姫のことを思う。
(――貴族の世界って、よくわからないわ……。でも、あたしはあたしらしく、やるしかないわよね)
平民であった自分だけが見つけられることもあるだろう。
そう思い、アナベルは優しく微笑む。
「ありがとう。あたし、いろんなことをがんばるね」
「……アナベル様。どうか、無理はされないでくださいませ。エルヴィス陛下の寿命が短くなってしまいますわ」
メイドの言葉に、アナベルはくすっと笑った。すると、メイドは少し怒ったように目をつり上げた。
「本当ですよ。アナベル様は、エルヴィス陛下が唯一愛した女性なのですから!」
きっぱりと言い切るメイドに、アナベルは首を傾げる。
「唯一……?」
「はい。王妃殿下との結婚は、当時の大臣たちが決めたことですから、彼らの間に『愛』はありませんでした。……それは、今も、でしょうけれど……」
困ったように眉を下げるメイドたち。アナベルはゆっくりと体を起こす。
「……前に、陛下に聞いたわ。王と王妃の関係はビジネスパートナーだって」
こくり、と年長のメイドがうなずいた。そして、アナベルの肩にケープを羽織らせると、言葉を紡ぐ。
「エルヴィス陛下のご両親が亡くなってから、城は様々な混乱に陥りました……」
悲しそうに目を伏せるメイドに、そっと彼女の手に自分の手を重ねるアナベル。
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