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3章:紹介の儀
紹介の儀 その後 3-2
しおりを挟む「両親を一気に失ったのです。陛下のことを支える人が必要になったということで、公爵家のイレイン様が選ばれました。……いえ、違いますね、イレイン様を王妃にしたい人たちによって、彼女はエルヴィス陛下と結ばれることになったのです」
淡々とした口調で語る年長のメイドは、ハッとしたように顔を上げて「申し訳ありません」と謝った。
「……なぜ謝るの?」
「聞かれてもいないことを話してしまいました」
「そんなこと、良いのよ。……ねえ、それともうひとつ、聞きたいことがあるの。……あたしみたいな平民が寵姫になるなんて、珍しいことでしょう? しかも未婚で。……そんな人にこんな風に仕えるのって、イヤじゃない……?」
――一ヶ月。
紹介の儀までに掛かった時間だ。
カルメ伯爵夫人から徹底的に教わっていたとはいえ、本来自分の身分は彼女たちよりも低いこと、そしてそんな自分が寵姫となり、宮殿内でこうして暮らしていることに複雑な思いをしているのではないのかと、恐る恐る尋ねるアナベルにメイドたちはふふっと柔らかく微笑む。
「寵姫たちが全員亡くなってから、この宮殿はとても寂しくて……。ですが、エルヴィス陛下が自ら新しく寵姫を迎えることになると聞き、私たちはとても嬉しくなりました」
アナベルの近くにメイドたちは近寄り、それから年長のメイドのいうことに何度もうなずいた。
「ここは私たちにとって、とても良い職場なので離れがたくて……。ですが、主のいない宮殿ですから、王妃殿下に『別の職場を探したほうが良いのではなくて? なんでしたら、私が紹介しましょうか?』なんて言われて、渡されたのは娼館の求人でしたよ!」
当時の怒りが込み上げてきたのか、瞳にめらめらと炎が宿っているように見えたアナベルは、困惑したように眉を下げた。
「娼館の求人って……」
「しかもその後に! 『ああ、あなたのような人では無理かしら』って笑われたんです!」
わっと泣いてしまったメイドを慰めるように頭を撫でた。
「……王妃サマに仕えている人ってどんな感じの人?」
ふと気になって聞いてみると、メイドたちはぴたりと動きを止めた。
「……どんな感じ、というか……。大体王妃殿下よりも若くて美しい人ですね」
「そして気が付けば入れ替わっています。田舎に帰ったとか、盗みをして処罰されたとか……」
「……そんなにころころと?」
同時にうなずくメイドたちに、アナベルは目を瞬かせた。
「どこで見つけたのかわからない人たちも結構いますね」
「……そうなの……」
「とはいえ、その若くて美しい人はどんな扱いを受けているのか……」
何か思うところがあるのか、ひとりのメイドが目を逸らした。
そのことに気付き、アナベルは彼女に対してじっと視線を送る。
「何か、心当たりがあるの?」
アナベルの問いに、メイドはしばらく考えるように視線を巡らせて、小さく首を縦に振った。
「――これは、私の親戚が聞いた話なのですが――」
と、切り出して話してくれた。その内容を聞いて、アナベルたちはゾッとしたように自分を抱きしめる。寒気を感じる話に、絶句するアナベルたちだった。
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