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4章:寵姫 アナベル

寵姫 アナベル 15-2

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 そのうちに、名前を呼ばれた貴族たちは、夜会の会場へと足を踏み入れる。

 アナベルたちも名前を呼ばれ、中へと入る。

 アナベルは、コラリーにひとつお願いをしていた。

 自分たちを呼ぶのは、最後にして欲しい、と。

 アナベルは厚手のコートを脱ぎ、使用人がそれを預かった。

 今日のアナベルのドレスは、体のラインを強調するようなマーメイドドレスだった。

 ロクサーヌたちも、それぞれアナベルと同じようなマーメイドドレスを着ていた。ただひとり、マルトだけは別のドレスだ。

 マルトのドレスは王妃イレインが渡したものであった。

 アナベルたちが会場へ入ると、ざわめいていた会場がしんと静まり返った。

 自分たちに視線が向けられていることに気付き、アナベルはにっこりと微笑みを浮かべた。

「――美しい人魚のようだね、アナベル嬢」
「ありがとうございます、ダヴィド様」

 アナベルに近付いたのは、ダヴィドだった。彼も招待状を渡されていたようだ。

「それに彼女たちも美しい。いやあ、目の保養に良い美女揃いだ。……それにしては、彼女の系統が違うようだが……?」

 ちらり、とマルトを見るダヴィド。マルトはびくっと体を震わせた。

「ご紹介しますわ、ダヴィド様。この子はマルト、王妃殿下がわたくしにくださったのです」
「へえ、王妃殿下が、ねぇ……」

 何かを見極めるようにマルトを見るダヴィドに、アナベルはマルトの肩に手を置き「ほら、デュナン公爵にご挨拶を」とうながした。

「ご、ごきげんよう、デュナン公爵」

 ぎこちなくカーテシーをするマルトに、ダヴィドは「ああ、よろしく頼むよ」と微笑んだ。

「ちなみに、後ろの人たちも紹介してくれるのかい?」
「もちろんですわ。ロクサーヌ、イネス、カミーユ」

 彼女たちの名を呼ぶと、彼女たちはあでやかに微笑みを浮かべてそれぞれ挨拶をした。

 ――蠱惑こわく的な微笑みを見た貴族の男性たちは、思わずというように喉を鳴らした。

「王都にこれだけ美しい人が揃うとは……」

 ダヴィドの言葉に、アナベルは扇子を広げて微笑んだ。

「美しいでしょう? 彼女たちもわたくしの侍女ですの」
「へえ、それは是非とは仲良くしたいね」

 パチンとウインクをするダヴィドに、アナベルはくすくすと声を出して笑った。

「それは、ダヴィド様次第……と言っておきましょう」
「それじゃあ、頑張ってしまおうかな?」

 ちらりとダヴィドが狙いを定めるかのように彼女たちを見た。

 すると、後ろから声が掛かった。

「――デュナン公爵、相変わらず女性に目がないようですわね?」
「おっと、コラリー嬢。本日は招待してくれてありがとう」

 コラリーがダヴィドに視線を向けると、すぐにアナベルへと近付いた。

「ごきげんよう、アナベル様。今日は楽しんで行ってくださいね」
「ありがとうございます、コラリー様。たくさん楽しませていただきますわ」

 アナベルがそう言うと、コラリーはこくりとうなずいた。

 初めての夜会は、様々な視線を受けたが案外と楽しい時間を過ごせた。
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