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1章:旅人として
困っている人を見かけたら? ☆2☆
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「シュエ、勉学はなんのためにするのでしょう?」
「え、えーっと? 国のため?」
皇女であるシュエが教わることはたくさんあった。
だが、そのほとんどを食について調べ学んだのは、彼女のワガママでもあった。そのワガママを家族はすんなりと了承したので、食に対しての時間はたっぷりと取れた。
が、その時間が長引けば長引くほど、他の勉学がおろそかになった自覚は、シュエの中にきちんとある。
今リーズに問われ、首を傾げた彼女に対し、彼は再び足を止め、視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。
「いいですか、シュエ。勉学は『己』のためにするものです」
「……わらわ自身の?」
「そうです。知識はシュエの武器になりますからね」
幼い子に言い聞かせるように、穏やかで力強い声。
「武器?」
「ええ。食にだって、毒になるものがあるでしょう? それこそ、花椒が小児や妊婦は避けたほうが良いように」
シュエは目から鱗が落ちたかのようにリーズを見た。
「……考えたことがなかった」
彼の言葉は、彼女にとって晴天の霹靂だった。ただ、食について調べていた時間は幸福に満ちていたことを覚えている。
料理のことを知り、自分で作り、食べること。
六十歳のときに初めて料理をしてから四十年。それなりに作れるようになったし、食に対しての知識は増えた。だが、ただそれだけだ。
「楽しく学べるのが一番じゃと思っていたが……。興味のあることについての知識は増えたがの、他はさっぱりじゃな、わらわは」
「気付けましたね。では、この旅の中でいろいろ学べることがあるでしょう」
最初は目的のない旅――いや、正確にいえば『内なる世界』の食事が目的だった――が、それだけではダメだとリーズは伝えているのだろう。
「――ふむ。学ぶことが多い旅になりそうじゃの」
「そうでしょうね。特に姫さまは決まった人たちとしか会話をしていませんから」
シュエが翠竜国にいた百年、彼女に深く関わった人は両手で足りるほどだ。
彼女を溺愛する両親と兄が三人、乳母、料理長、リーズくらいなので、こうして国を出て人々と交流することで、彼女は大きく成長するだろうと彼は考える。
だが、シュエはどんな人々がいるのか、はっきりと想像はできないだろうとも考えた。
なぜなら、翠竜国にいたときは、自分のことを大切にしてくれる人たちだけだったからだ。
シュエの周りの人たちは親切だった。親切な人しかいなかった。
それは彼女が皇女だからでもあり、家族からとても愛されていたからだ。シュエを大切にし過ぎているので、彼女は本当に自由に育ったとリーズは目元を細め、立ち上がる。
「旅を終えたら、勉学の時間の見直しをしないといけませんね」
「ま、まだ帰らんぞ! 絶対に!」
「わかっていますよ、姫さま」
ぎゅうっと強くリーズの袖を握りしめて、自分の気持ちを主張するシュエに、彼は小さくうなずく。
呼び名も『姫さま』に戻っていることに気付き、シュエはホッとしたように表情を緩ませた。
「え、えーっと? 国のため?」
皇女であるシュエが教わることはたくさんあった。
だが、そのほとんどを食について調べ学んだのは、彼女のワガママでもあった。そのワガママを家族はすんなりと了承したので、食に対しての時間はたっぷりと取れた。
が、その時間が長引けば長引くほど、他の勉学がおろそかになった自覚は、シュエの中にきちんとある。
今リーズに問われ、首を傾げた彼女に対し、彼は再び足を止め、視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。
「いいですか、シュエ。勉学は『己』のためにするものです」
「……わらわ自身の?」
「そうです。知識はシュエの武器になりますからね」
幼い子に言い聞かせるように、穏やかで力強い声。
「武器?」
「ええ。食にだって、毒になるものがあるでしょう? それこそ、花椒が小児や妊婦は避けたほうが良いように」
シュエは目から鱗が落ちたかのようにリーズを見た。
「……考えたことがなかった」
彼の言葉は、彼女にとって晴天の霹靂だった。ただ、食について調べていた時間は幸福に満ちていたことを覚えている。
料理のことを知り、自分で作り、食べること。
六十歳のときに初めて料理をしてから四十年。それなりに作れるようになったし、食に対しての知識は増えた。だが、ただそれだけだ。
「楽しく学べるのが一番じゃと思っていたが……。興味のあることについての知識は増えたがの、他はさっぱりじゃな、わらわは」
「気付けましたね。では、この旅の中でいろいろ学べることがあるでしょう」
最初は目的のない旅――いや、正確にいえば『内なる世界』の食事が目的だった――が、それだけではダメだとリーズは伝えているのだろう。
「――ふむ。学ぶことが多い旅になりそうじゃの」
「そうでしょうね。特に姫さまは決まった人たちとしか会話をしていませんから」
シュエが翠竜国にいた百年、彼女に深く関わった人は両手で足りるほどだ。
彼女を溺愛する両親と兄が三人、乳母、料理長、リーズくらいなので、こうして国を出て人々と交流することで、彼女は大きく成長するだろうと彼は考える。
だが、シュエはどんな人々がいるのか、はっきりと想像はできないだろうとも考えた。
なぜなら、翠竜国にいたときは、自分のことを大切にしてくれる人たちだけだったからだ。
シュエの周りの人たちは親切だった。親切な人しかいなかった。
それは彼女が皇女だからでもあり、家族からとても愛されていたからだ。シュエを大切にし過ぎているので、彼女は本当に自由に育ったとリーズは目元を細め、立ち上がる。
「旅を終えたら、勉学の時間の見直しをしないといけませんね」
「ま、まだ帰らんぞ! 絶対に!」
「わかっていますよ、姫さま」
ぎゅうっと強くリーズの袖を握りしめて、自分の気持ちを主張するシュエに、彼は小さくうなずく。
呼び名も『姫さま』に戻っていることに気付き、シュエはホッとしたように表情を緩ませた。
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