竜人族の末っ子皇女の珍☆道☆中

秋月一花

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1章:旅人として

海の近くの街で ☆3☆

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「おお、あれはなんじゃ?」

 街を歩いていて、最初にシュエが興味を示したのは、香ばしい匂いを漂わせている貝の網焼きだった。

「この香ばしい匂い、たまらんのぅ……」

 口の中にじゅわっと唾液が溢れるシュエ。

 絶対に美味しいと確信を持ち、その店に引き寄せられるように近付き、売られている貝を眺めた。

「ほう、帆立ホタテハマグリ、なんとアワビまであるとな!?」
「お嬢ちゃん、貝を見ただけでわかるのかい?」

 店主に問われて、シュエは胸を張ってうなずく。

「うむ。美味しそうな匂いに誘われてきたのじゃ。バター醤油の香りに誘われては、断れん!」
「ははっ、お嬢ちゃん、さては食いしん坊だな? それに見ない顔だし。よぉし、おじさんが特別に美味しいものを選んであげよう!」
「任せた! あ、リーズの分も頼む!」
「任せとけ!」

 人間でいえば中年くらいの男性が袖なしの服を着て、額にねじり鉢巻きを巻いて貝を焼いていた。どうやら彼の後ろに貝が用意してあるようで、ごそごそと選んでいた。

「この蛤はどうだい?」

 店主に見せられたのは、殻につやのある大きな蛤で、シュエは翠色の瞳をきらきらときらめかせながら、何度も首を縦に振る。

「新鮮な蛤じゃの! これは期待大じゃ!」
「まだ寒くないのに、こんなにつやのあるものが獲れるんですね」
「なんか流れ込んでくるみたいなんだよね、不思議なことに」

 器用に蝶番の部分を切ってから、焼き網の上に蛤を置く店主。

「蝶番を切ったのはなぜじゃ?」
「こうすると、大事な汁が飛び出さないんだよ」
「ほう、そんな工夫があったのか……」

 感心したように蛤を見つめるシュエ。

 蛤が焼けていくのを、わくわくとした表情で眺めていると、店主が慣れた手つきで開いた蛤にバターと醤油で味をつける。

 食欲を刺激する匂いが彼女に向かい、ぐぅぅぅ、と大きくお腹の虫が鳴いた。

「腹ペコかい、お嬢ちゃん。もうちょっと焼けるから、これでも食ってな。兄さんも良かったら食べてくれ。うちの親戚から届いたにんじんだよ」

 にんじんを細長く切ったものを差し出され、シュエは「よいのか?」と小首を傾げる。

「子どもが遠慮するもんじゃないよ。それとも、にんじんは嫌いかい?」
「いーや、大好きじゃよ! では、ありがたくいただくことにしよう」

 細長く切られたにんじんを一本手にすると、ぱくりと一口かじった。

 口内に広がるにんじんの味に、シュエは目をみはる。味が濃く、甘みの強いにんじんにうっとりと頬に手を添える。

「うーん、この味とこの食感。なんと美味なにんじんじゃ!」
「この切り方も絶妙ですね。食べるのにちょうどいい歯ごたえがあります」

 もぐもぐと幸せそうに表情を緩ませているシュエを見て、通りかかった人たちがそんなに美味しいのなら……とにんじんを求め始めた。
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