竜人族の末っ子皇女の珍☆道☆中

秋月一花

文字の大きさ
52 / 131
1章:旅人として

海の近くの街で ☆14☆

しおりを挟む
「ありがとう、いただくよ」

 右手で湯呑みを持ち、左手を糸底に軽く添えて口元に近付ける。

 甘く清らかな香りに口角を上げ、一口飲みその爽やかな味に息を吐く。

 見た目も香りも味も、シュエ好みのお茶だ。

「やはり美味じゃな」
「それは良かったですね」

 リーズも自分の分のお茶を注ぎ、こくりと飲み込む。

「……それにしても、洋室で和風のものを飲む、とはなかなか趣がありますね?」
「本当に。探せば和室の宿屋もあったんじゃろうけど、ここも良い部屋ではないか!」
「『細波さざなみの間』ときて、洋室なので……名前を付けた人の遊び心も感じますね」
「うむ、そういう心、わらわは好ましく感じるのぅ」

 お茶を飲み終えてはリーズが注ぎを繰り返し、満足するくらい飲んだシュエはうとうととし始めた。

「姫さま、眠るのでしたらベッドへどうぞ」
「……そうする……」

 しょぼしょぼとする目をこすろうとしたら、リーズに止められる。

「目を擦るのはいけませんよ」
「むぅ……」

 シュエは唇を尖らせながらも、椅子から降りてベッドに向かう。

 ふかふかのベッドに飛び込んで――あっという間に眠りについた。

 ◆◆◆

 次に目が覚めたとき、薄暗くて驚いた。

 辺りを見渡すと、リーズもうたた寝をしていたようで、椅子に座ったままだ。

(リーズも疲れているんじゃな)

 それもそうだろうと肩をすくめる。

 それこそシュエが赤ん坊の頃からの付き合いだが、自身を守ろうとしてくれていることを身に染みて理解している。

(――わらわたちの力は、人間にとって『恐怖』の対象なんじゃろうな)

 リーズもルーランも、旅をしてきたときにそういう思いを経験してきたのだと思う。

 だからこそ、シュエが同じ経験をしないように気遣っていたのだ。

 それはきっと、竜人族の末っ子皇女という肩書を持つシュエではなく、一人の女の子としてのシュエを心配してのこと。

 むくりとベッドから起き上がると、リーズがぴくりと動いた。

 起き上がるときの小さな音を聞き取ったらしい。

「姫さま、お目覚めですか?」
「うむ、よく寝たぞ」

 ぐーっと腕を伸ばして背伸びをする。

 朝食をたらふく食べたからか、それともただ単に歩き疲れたのか、もしくはその両方で眠くなったのだろう。

「夕食はどうしますか?」
「うーん、昼に結構食べたからのぅ。軽くにしようかの」
「……食べるんですね」

 シュエはにんまりと口元に弧を描いてうなずく。

「かるーくじゃよ。果物が食べたいのぅ。桃ってあったか?」

翠竜すいりゅう国産でよければ、持ってきていますよ」
「食べる!」

 リーズの言葉に勢いよく被せるシュエ。

 彼は肩をすくめて、緑牡丹茶を取り出したときと同じように人差し指と親指で輪を作り、淡く白い光から桃を取り出した。

「切ってきます」
「任せた!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

特技は有効利用しよう。

庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。 …………。 どうしてくれよう……。 婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。 この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

処理中です...