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1章
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今日はとってもいい天気。良い儀式日和だ。……なんて、ね。
ここはダラム王国。小国の山奥の神殿。わたしはここで十年くらい過ごしている。
それも――……。
「聖女アクアさま。準備が整いました」
「――ご苦労さまです。すぐに向かいます」
そう、聖女として。
わたし――……アクア・ルックス。聖女としてこの神殿で育った。神殿の近くに捨てられていたらしい。
そして今日は四年に一度の大事な儀式を行う日。
王都の結界の張り直しだ。そのために、神殿に住むわたしたちはその準備に追われていた。この儀式が済んだら一息入れようと、神官たちと一緒に頑張って来たのだ。
王都の結界は、魔物や魔物の行進を防ぐための結界。結界のない国は魔物の脅威に怯えながら過ごしているらしい。残念ながら、わたしはダラム王国の聖女だから、他の国に行ったことはないんだけど……。遠出したことはあるよ、国内だけど。コボルトの集落に行った時はテンションが上がったわ。子どものコボルトがものすっごく可愛かったんだもん!
……まぁ、それは置いといて。準備が整ったのだから、祈りの間に向かわないとね。神官たちを待たせるのもあれだし。神官長に怒られそうだし。そんなことを考えながら、わたしは祈りの間に足を進める。――結界の張り直しをする大事な日に、こんなことになるとは、夢にも思わなかった。
神殿の最上階、祈りの間。ここに入れる人は数多くない。
まず聖女であるわたし。それから神官長と司祭たち三人ほど。他の人たちは別の場所でお祈りしている。
祈りの間に入ると、司祭たちがわたしに対して恭しく頭を下げる。わたしは小さくうなずいて、魔法陣の前に立つ神官長から杖を受け取る。この動作ひとつひとつが儀式なのだ。
魔法陣の中心に立ち、カツン、と杖を床に。うん、良い音。すぅっと息を吸って、杖を上に掲げるようにして、大きな声を出す。
「聖女、アクア・ルックスの名のもとに、儀式を開始する!」
そう宣言して儀式を行い始め――……その途中に、バァンッ! と大きな音を立てて扉が開かれた。ちょっと、扉の前に立っていた神官たちはどうしたの!? でも、ここでわたしが儀式を止めたら……。わたしは何事もないように儀式を行う。この祈りの間に部外者が入るなんて……。
「アクア・ルックス! 貴様は聖女を騙った罰として、国外追放の刑に処す!」
……ナニいってんだ、この人……。なんて、内心思いつつ、こちらに向かって来るのを見て慌てて声を掛ける。
「ちょ、いま、儀式の途中……!」
「ええ、そんなもの、こちらにいらっしゃる本物の聖女が継いでくれるわ! さっさと俺の前から消えろ! 目障りなんだよ!」
神官長と司祭の制止を振り切って、ずかずかと魔法陣に上がり込んできた! あぁぁああ、司祭たちが一生懸命用意してくれた魔法陣がっ! 滅茶苦茶にっ! なんてことしてくれてんの、このバカ殿下っ! そんなに大声を上げて儀式に乱入するなんて、……この国大丈夫?
乱入してきたのが王太子なのも悪い。そして、その後ろに優雅に微笑んでいる清楚っぽい女性。
……あー……、この女性を聖女にするために、わたしはお役御免ってワケですか。神官長たちは知っていたのかな……と思ったけど、この困惑具合、知らなかったっぽいね……。
「な、なにを言っているのですか、オーレリアン殿下! アクアさまは立派な聖女で……! ぐぁっ!」
「殿下! 気が触れましたか!」
オーレリアン殿下を止めようとした司祭のひとりを殴り、別の司祭たちが慌ててわたしを庇うように両腕を広げる。……このままじゃ、儀式なんて出来ない。他の司祭たちも殴られて、魔法陣に血が落ちた。……うん、これはもう……儀式は失敗だわ。
「ああ、その前にお前が使っていた道具すべて、王家に渡してもらうからな! アレだけ王家の金を使ったのだ。恩を返してもらわねば!」
「……勝手に持って来ただけじゃん……」
なりたくてなった聖女じゃない。王家はわたしを縛り付けるために、ほいほいと貢いで来た。もちろん、王家からもらった物は一切使っていない。そもそもドレスをもらっても着る機会がないわ。年に数回、祭りのために出掛けるくらい……。それも、聖女としての公務だから、自由時間なんてないのよ、こっちは。おしゃれを楽しむ余裕なんて、わたしは持っていない!
うら若き乙女が仕事でぐったりしているのに気付いてなかったのかね、この王太子は!
……ああ、なんかイラつかせてくれるわね、この人……!
まったく、恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!
誰のおかげで綺麗な水を飲めて、誰のおかげで魔物が襲って来ないと思っているんだ!
「……いいわ、そんなに言うなら出て行ってあげる! 後で泣きついても知らないから!」
オーレリアン殿下はニヤリと笑みを浮かべて、
「ああ出て行け! この俺の前に二度とその面を見せるな!」
と、とっても偉そうに言われた。……わたし、あんたにそんなに嫌われることをした覚え、ひとつもないんだけど……。ともかく、出て行けという大義名分を手に入れたわたしは、儀式を中止して祈りの間から出て行った。
ここはダラム王国。小国の山奥の神殿。わたしはここで十年くらい過ごしている。
それも――……。
「聖女アクアさま。準備が整いました」
「――ご苦労さまです。すぐに向かいます」
そう、聖女として。
わたし――……アクア・ルックス。聖女としてこの神殿で育った。神殿の近くに捨てられていたらしい。
そして今日は四年に一度の大事な儀式を行う日。
王都の結界の張り直しだ。そのために、神殿に住むわたしたちはその準備に追われていた。この儀式が済んだら一息入れようと、神官たちと一緒に頑張って来たのだ。
王都の結界は、魔物や魔物の行進を防ぐための結界。結界のない国は魔物の脅威に怯えながら過ごしているらしい。残念ながら、わたしはダラム王国の聖女だから、他の国に行ったことはないんだけど……。遠出したことはあるよ、国内だけど。コボルトの集落に行った時はテンションが上がったわ。子どものコボルトがものすっごく可愛かったんだもん!
……まぁ、それは置いといて。準備が整ったのだから、祈りの間に向かわないとね。神官たちを待たせるのもあれだし。神官長に怒られそうだし。そんなことを考えながら、わたしは祈りの間に足を進める。――結界の張り直しをする大事な日に、こんなことになるとは、夢にも思わなかった。
神殿の最上階、祈りの間。ここに入れる人は数多くない。
まず聖女であるわたし。それから神官長と司祭たち三人ほど。他の人たちは別の場所でお祈りしている。
祈りの間に入ると、司祭たちがわたしに対して恭しく頭を下げる。わたしは小さくうなずいて、魔法陣の前に立つ神官長から杖を受け取る。この動作ひとつひとつが儀式なのだ。
魔法陣の中心に立ち、カツン、と杖を床に。うん、良い音。すぅっと息を吸って、杖を上に掲げるようにして、大きな声を出す。
「聖女、アクア・ルックスの名のもとに、儀式を開始する!」
そう宣言して儀式を行い始め――……その途中に、バァンッ! と大きな音を立てて扉が開かれた。ちょっと、扉の前に立っていた神官たちはどうしたの!? でも、ここでわたしが儀式を止めたら……。わたしは何事もないように儀式を行う。この祈りの間に部外者が入るなんて……。
「アクア・ルックス! 貴様は聖女を騙った罰として、国外追放の刑に処す!」
……ナニいってんだ、この人……。なんて、内心思いつつ、こちらに向かって来るのを見て慌てて声を掛ける。
「ちょ、いま、儀式の途中……!」
「ええ、そんなもの、こちらにいらっしゃる本物の聖女が継いでくれるわ! さっさと俺の前から消えろ! 目障りなんだよ!」
神官長と司祭の制止を振り切って、ずかずかと魔法陣に上がり込んできた! あぁぁああ、司祭たちが一生懸命用意してくれた魔法陣がっ! 滅茶苦茶にっ! なんてことしてくれてんの、このバカ殿下っ! そんなに大声を上げて儀式に乱入するなんて、……この国大丈夫?
乱入してきたのが王太子なのも悪い。そして、その後ろに優雅に微笑んでいる清楚っぽい女性。
……あー……、この女性を聖女にするために、わたしはお役御免ってワケですか。神官長たちは知っていたのかな……と思ったけど、この困惑具合、知らなかったっぽいね……。
「な、なにを言っているのですか、オーレリアン殿下! アクアさまは立派な聖女で……! ぐぁっ!」
「殿下! 気が触れましたか!」
オーレリアン殿下を止めようとした司祭のひとりを殴り、別の司祭たちが慌ててわたしを庇うように両腕を広げる。……このままじゃ、儀式なんて出来ない。他の司祭たちも殴られて、魔法陣に血が落ちた。……うん、これはもう……儀式は失敗だわ。
「ああ、その前にお前が使っていた道具すべて、王家に渡してもらうからな! アレだけ王家の金を使ったのだ。恩を返してもらわねば!」
「……勝手に持って来ただけじゃん……」
なりたくてなった聖女じゃない。王家はわたしを縛り付けるために、ほいほいと貢いで来た。もちろん、王家からもらった物は一切使っていない。そもそもドレスをもらっても着る機会がないわ。年に数回、祭りのために出掛けるくらい……。それも、聖女としての公務だから、自由時間なんてないのよ、こっちは。おしゃれを楽しむ余裕なんて、わたしは持っていない!
うら若き乙女が仕事でぐったりしているのに気付いてなかったのかね、この王太子は!
……ああ、なんかイラつかせてくれるわね、この人……!
まったく、恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!
誰のおかげで綺麗な水を飲めて、誰のおかげで魔物が襲って来ないと思っているんだ!
「……いいわ、そんなに言うなら出て行ってあげる! 後で泣きついても知らないから!」
オーレリアン殿下はニヤリと笑みを浮かべて、
「ああ出て行け! この俺の前に二度とその面を見せるな!」
と、とっても偉そうに言われた。……わたし、あんたにそんなに嫌われることをした覚え、ひとつもないんだけど……。ともかく、出て行けという大義名分を手に入れたわたしは、儀式を中止して祈りの間から出て行った。
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