5 / 153
1章
5話
「さて、これからどうするの、アクア?」
「……お金を稼いで、身分証をゲット?」
「……え、なに、無一文の女を拾ったんですか?」
「仕方ないでしょ。いきなり追い出されたんだから! わたしみたいなか弱い女の子を助けるのが、騎士ってもんでしょーが!」
「……じゃあ、うちで働く?」
そう尋ねてきたディーンに、わたしは飛びついた。職をゲットできるのはありがたい! ありがとうございます、神さまディーンさま! わたし、この国で自分の生き方を見つめ直します!
わたしが職をゲットして拳を握りながら喜んでいる間に、バーナードは「いいんですか、そんなに簡単に決めて」とディーンに声を掛けていた。
ディーンは「人手は多いほうがいいし……」とそんな会話をしていた。がんばって稼いで、身分証をゲットよ!
「それじゃあ、アクア。こっちに来て」
「はーい!」
ディーンが歩き出すのを見て、わたしも歩き出す。バーナードもついて来た。……それにしても、本当に大きなお屋敷。もしかして、ディーンってかなり身分が高い人? そんなことを考えつつ周りをきょろきょろと見渡す。うーん、ちょーっと浄化が必要かな? 人数が多いところって、どうしても瘴気が多くなっちゃうもんね。……七人の聖女や聖者では、国の結界は維持できても街の瘴気を消すのは無理ってことかしら。
ぴたりとディーンの足が止まった。どうやら玄関についたみたい。ディーンが玄関を開ける前に、扉が開いた。そして、そこから年配の男性が恭しく頭を下げてから、ディーンへと声を掛けた。
「お帰りなさいませ、ディーン坊ちゃん」
「坊ちゃんはやめてくれ、アドルフ」
「ふふ。……おや、こちらの女性は?」
仲いいんだなぁ。と思いながらふたりのやり取りを見ていると、アドルフさんが頭を上げて、ディーンの近くにいるわたしに気付くとそう言った。……紳士だ! わたしを見て、女性といってくれた! アドルフさん、あなたの言葉でわたしのあなたへの好感度は一気に上がったわ!
「屋敷で働きたいというので、連れてきた」
「さようでございますか。お嬢さん、お名前は?」
「アクアと申します!」
「元気な子でございますね。それではアクアさん、こちらへ」
わ、本当に紳士だわ……! それにすっごく動きが綺麗。わたしはディーンを見上げた。視線に気付いたディーンが、わたしを見て小さくうなずき、ぽんと背中に手を置いて、「行っておいで」と背中を押してくれた。わたしは、「うん!」と元気よく返事をしてからアドルフさんについて行った。ちらりとディーンとバーナードを見ると、彼らは玄関先でなにかを話し合っていた。……バーナードってディーンのことを隊長って呼んでいたよね。……なんで隊長ひとりだけが、あの森の中であんなに酷い怪我を負っていたんだろう……?
「アクアさん」
「あ、はい!」
「今日は旦那さまと奥さまもいらっしゃるので、メイド長に会い着替えを終えたら挨拶しましょう」
「……あの、わたしが言うのも変かもしれませんが……、普通は面接があるのでは……?」
「ディーン坊ちゃんが連れてきたのですから、大丈夫ですよ」
ディーンが連れてくる人は面接パス出来るってことかなぁ? ディーン効果、すごいわね……。怪しい人間だと思うんだけどなぁ……。
そして、とある部屋でぴたりと足を止めたアドルフさんは、コンコンコンと扉をノックした。
「どうぞ」
厳かな声がした。静かに扉を開けてアドルフさんが入り、わたしも中に入るように促した。
「そちらの方は?」
「ディーン坊ちゃんが連れてきた女性です。名はアクア、と」
「ディーン坊ちゃんが……? はぁ、またですか」
アドルフさんが簡単にわたしのことを紹介してくれた。目の前の女性は頭痛でもするのか、額に手を当ててゆっくり息を吐く。そして、わたしを見ると立ち上がって近付いて来た。……わぁ、背の高い人だなぁ。わたしの頭ひとつ分は確実にある。……ちょっと良くないものも肩に視える。
「……ふむ」
上から下まで確認するように見られた。なんだろう……? と見つめると、彼女はクローゼットの場所に向かい、その扉を開けるとメイド服を取り出した。……え、見ただけでわたしのサイズがわかるの? すごいなメイド長……! メイド服をわたしに渡すと、着替えなさい、と口にした。
それを聞いたアドルフさんは、気を利かせて部屋から出て行った。まぁ、男性の前で着替えるのは恥ずかしいもんね。
「ここで着替えていいんですか?」
「ええ。着替えは自分で出来ますか?」
「出来ます!」
そういってわたしは着ていた服を脱いでメイド服を着る。黒の長袖のワンピース、白いフリルエプロン(大き目)、ワンピースの袖は取り外し可能な作りになっているみたい。こっそり読んでいた小説の挿絵にあったメイド服。まさか自分が着ることになるとはね……。頭にかぶるのは……あれ、これは三角巾?
「見習いのうちはそれを被っていてください」
「なるほど、見習いの印ですか」
納得して三角巾を頭に被せて結ぶ。懐かしい。神殿で掃除する時によく使っていた。
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?
里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。
そんな時、夫は陰でこう言った。
「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」
立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。
リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。
男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。
***************************
本編完結済み。番外編を不定期更新中。
婚約破棄の日の夜に
夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。
ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。
そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。