恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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1章

12話

 そしてなんだかんだと時間が過ぎ、あっという間に謁見の日になった。あの後、ジュリアから色々聞かれたけれど、そんなのわたしが知りたいくらいだ、と言ったら『なーんだ』とばかりに肩をすくめられた。
 メイド服で行くのもおかしな話だし、ここに来る前に着ていた服に着替えて、ディーンとバーナードと一緒に王城へ向かう。なんとノースモア公爵邸の馬車で向かうことになったのだ! ……それだけ王城が遠いってこと? そんなことを考えながら馬車に乗り込む。……ただ、ね。馬車という狭い空間の中で、わたしたちが仲良くお喋りするでもなく、ただただ沈黙が広がっている。……この空間の中で王城まで向かう苦行を強いられることになったのだ!
 話すこともないし、わたしはぼんやりと外を眺めていた。さすが帝国の帝都というべきか、噴水広場で遊ぶ子どもたち、買い物をしている人、行く人行く人に商品を進めている商人、……見回りの騎士? あとなんか、ごろつきっぽい人たちまでさまざまだ。

「なにか気になることでもあった?」
「ううん、ここに来てから外を見るのは初めてだなぁって思っただけ」

 買い出しにも行かなかったし(食材は料理長のジェームズさんが全部自分で選んでいるらしい)、こんな風に賑わっているところを見るのはいつぶりだろう? 去年のダラム王国のお祭りぶりくらい? だからかな、賑わっているのを見るのは好きだ。

「以前に比べて、人同士の衝突が少なくなったんだよ。この一週間くらいで」
「へぇ、良かったね」

 あ、それわたしのおかげね! とは言えない。まさか神さまが張り切りすぎて帝都全体の瘴気を消してくれた、なんて話を誰が信じるのか。

「あと、身体が楽になった、という報告も受けている。お前が来てからな」
「楽?」
「ああ。聖女たちが騒いでいた」

 ……ふっ、強すぎる力を隠すのは難しいわね……。なんて思っている場合じゃないよね、これ。わたしの浄化の力に、そんな作用があるとは思わないんだけど……。

「……ん? 楽になったのって聖女たちなの?」
「そういう報告を受けているな」

 ……ってことは、こっちの聖女は自分の身に宿してから浄化をするタイプか。そりゃあ身体に負担が掛かるだろう。わたしはまとめて消してしまうタイプっていうか……それしか出来ない。身に宿すやり方も試してみたけど、わたしに宿る前に瘴気のほうがイヤです! ってばかりに消えたし。……さすがに瘴気が満ちていたあの森は危ないと思ったからバリア張ったけど。

「それと、瘴気の森から瘴気が消えて普通の……いや、むしろ神聖な力を感じる森になっていると……」
「へぇ、良かったね」
「……あれもアクアの力だろ?」

 はははははは。だって瘴気に満ちた水を使うわけにもいかなかったし……。わたしはノーコメントとばかりに顔を背ける。馬車の窓から流れる風景を眺めていると――……。

「止めて!」
「え、どうした?」
「いいから止めて! 早く!」

 わたしの形相にディーンは馬車を止めるように御者に伝え、わたしは勢いよく扉から出て、走る。ディーンとバーナードがついて来た。

「おい、なにがあった!」
「ついて来なくてもいいのに」
「そうはいくか!」

 走っている途中でそう言われ、わたしは肩をすくめた。ともかく、今は――……先を急がないと。だってさっき見えたのだ。――子どもが、木から落ちてしまう場面を。

「大丈夫!?」

 わたしがそう声を掛けたのは、日陰でおろおろとしている女性だ。恐らく、木から落ちてしまった子どもの母親。ぐったりとしている子どもを見ると、怪我をしているようで顔色が悪い。

「なにがあったか話せるか?」
「木登りをしていて、落ちたみたいで……! わ、私が少し目を離した隙に……っ」
「ちょっとごめんね、みせてね」

 そう言ってわたしは子どもの手を取る。――回復魔法を使った。わたしの回復魔法の良いところは、対象者を全快に出来ることだ。……ただし、全快にしか出来ない。ダラム王国では、それでかなりの人たちを治して来た。子どもってなにをするのかわからないから、よく見ていないといけないって神官長が言っていた。……神官長のいう『子ども』って絶対わたしのことだったよね。神殿で暮らしていた中で、年少はわたしひとりだけだったし。回復魔法を掛けながらそんなことを考えていた。
 子どもの顔色が段々と良くなっていく。痛みが引いたようで目を開けた。そして、自分を心配そうに見ている母親の姿を見ると、「ママ? どうしたの?」と首を傾げた。

「ああ、ああ……っ! ごめんね、ママが目を離しちゃって……、ごめんね、ごめんね……っ!」

 ぎゅっと抱きしめられて、子どもは不思議そうにしていたけれど、母親が泣いているからか一緒になって泣き出した。……良かった、無事で。わたしは大泣きしている子どもの頭を撫でると、土魔法を使ってゴーレムを作り出す。……うん、やっぱり小さいゴーレムしか作れない。その子を子どもに見せると、「わぁっ、かわいいね!」と喜んでくれた。
 わたしは子どもに視線を合わせて、厳しい顔をしてから言葉を掛ける。

「あのね。君は木から落ちたのよ。高いところから落ちたの。いい? 人の身体って弱いのよ。すぐに怪我をするし、打ち所が悪かったら、もうママに会えなくなっちゃう。遊ぶならちゃんと、危なくない遊びをしなきゃダメ」

 子どもは木から落ちたことを覚えているようで、ゾッとしたように表情を曇らせて、ぶるぶると震えていた。そして、こくりとうなずく。

「良い子ね。はい、これあげるからもう危険な遊びをしちゃダメよ?」
「ありがとう、おねーちゃん」
「本当に、ありがとうございます……!」

 わたしは優しく微笑みを浮かべ子どもの頭を撫でてから、土魔法で作ったゴーレムを渡す。小さい子にとっては、まぁ丁度いいおもちゃになるだろう。ディーンとバーナードに声を掛けて、馬車へと戻った。

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