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1章
17話
「……ってことは、陛下はお前を手放すつもりはないんじゃないか?」
「えっ?」
「陛下はかなりのおばあちゃんっ子だったと聞いたことがあるし、ステラさまに似ているお前を手放すとは考えにくいんだよなぁ……」
「アクアの帰還を喜んでいたしね」
「……あ、本当に喜んでいたんだ……」
陛下の優しい笑みはわたしの気のせいではなかったのね……。それにしても……大聖女ステラ、の孫……。神さまが張り切ってくれるのは、それも関係あるのかな?
「色々提案していただろ? アクアに選択肢を託している」
「だな。……そういえば、ダラム王国ではどんな生活を送っていたんだ?」
バーナードにそう聞かれて、わたしは素直に神殿での暮らしを話した。夜明けと共に起き出して、夜更けと共に寝る。その間に掃除をしたり料理をしたり仕事をしたり。そんなことを話していると、メイドがお茶とケーキを持って来てくれた。……み、見たことのないケーキだわ……! なんて名前のケーキだろう?
お茶を淹れ終わると、「御用の際はお呼びください」と頭を下げて部屋から出て行った。
喉が渇いたのでお茶をひと口。美味しい!
「……そ、それがダラム王国での生活だったの?」
ディーンに問われて小さくうなずく。すると、ディーンとバーナードは視線を交わして、ゆっくりと息を吐いた。
「ちなみにその仕事って?」
「んーと、浄化して欲しいところの確認、祭りなどのイベントで行う儀式の練習、回復魔法が必要な人達を集めて回復、孤児たちに勉強を教える、各地方の災害の確認、手伝い、魔物の被害の確認、被害者には話を聞きに行ったり……」
「ちょっと待て、確実に神殿の仕事じゃないのが混じっている」
「あ、やっぱりそうなんだ?」
ダラム王国の陛下、やっぱり神殿に仕事を押し付けていたのね……! それを知って、やっとスッキリしたような気持ちになった。ずっとこれ神殿の仕事じゃないよね、と思いながらやっていたから。
「神殿に書類が運ばれて来るんだもの。今はちゃんとやってるのかなぁ……」
「……一応伝えておくが、それ、陛下の前で言うなよ……」
「え、なんで?」
「……魔物がダラム王国の結界を破る前に、ダラム王国が滅ぶよ、多分……」
「え、なんで?」
ゆっくりとディーンが息を吐いた。それから、どうしてそう思ったのかを教えてくれた。
「……陛下はずっと、君を探していた。ステラさまと一番容姿が似ているのは、アクアだから。陛下のステラさまへの思いは、心酔って言葉がぴったりなくらいで……ステラさまと重ねているところがある、と思う。そんな君が、ダラム王国でそんな生活をしていたと知ったら――……」
「頼むから言うなよ。騎士団が巻き込まれるから」
……なるほど?
……放っておいてもダラム王国は危険に晒されるだろうけど……なんだか、ずっと自分が守っていた国が危険に晒されるって知っているのって、複雑な気分だわ……。聖女がちゃんと結界を張り直してくれていたらいいのだけど……。どうなんだろう?
「……わたしがダラム王国の様子を見たいって言ったら、協力してくれると思う?」
「……さぁな。……というか、お前を攫った国に情けを掛けるのか?」
「情けっていうか……。そりゃあぶん殴りたい人はいるけれど……。他の人たちがきちんと逃げられているのかが気になるの。あの国の王族は危険が迫ったら民を置いて逃げちゃいそうで……」
……それに……気になるんだよね。神官長のあの笑みの意味が……。もしもまた会えたら、尋ねてみたいことなのよ。
「……国と命運を共にするって、神官長が言っていたの。……でもさ、それに巻き込まれるのはなにも知らない国民なのよね……」
目を閉じれば今でもすぐに思い出せる。お祭りでわたしが聖女として顔を出した時に、聖女さま! といってくれた人たちの姿が……。あと、コボルトたちもわたしに対して友好的だったし。肉球……。……じゃなくて!
「結界はどのくらい持ちそうなの?」
「あと二~三週間くらいかな? 新しい聖女がきちんと結界を張れるなら問題ないんだけどね……」
……あ、なんか頭が痛くなって来た! わたし、難しいことを考えるのには向いてないのよー!
わたしの頭の中がショートしていることに気付いたのか、ディーンが「ケーキでも食べて落ち着いて」とケーキを勧めてくれた。メイドが置いていってくれた、ルビーのように赤くて丸いドームのようなケーキ。食べるのが勿体ないくらい綺麗。食べるけどね!
フォークをすっと刺すと、軽い感触がした。ひと口サイズに切り分けて、ぱくりと食べる。甘酸っぱくて美味しい! わたしが目を輝かせてケーキとディーンを交互に見ると、ディーンは小さく笑みを浮かべて、「美味しい?」と聞いて来た。
「とっても美味しいわ! 初めて食べる食感と味!」
「……はじめて?」
「だってケーキはショートケーキしか知らないもの」
わたしの言葉にぎょっとしたように目を大きく見開くふたりに、わたしは首を傾げた。そして、なぜか憐れむような眼差しを向けられた……。な、なんなのよ……。
「ダラム王国にはショートケーキしかなかったのか?」
「知らない。誕生日……拾われた日にだけケーキを出されていたの。毎年決まって苺のショートケーキだったわ」
「……アクアは、孤児だと思ってこれまで生きていたんだよな。血が繋がった存在が居ることを知って、どう思った?」
「……どうもなにも、驚くことしか出来ないって」
ぱたぱたと片手を振ってそういうと、ディーンが「そりゃまぁ、そうだよなぁ」と呟いた。血の繋がった存在が居るってことも、その人が王族だってことも、大聖女ステラの孫ってことも今日初めて知ったのだから。驚きのほうが強くてあまり深く考えられないってのが現状だ。
「えっ?」
「陛下はかなりのおばあちゃんっ子だったと聞いたことがあるし、ステラさまに似ているお前を手放すとは考えにくいんだよなぁ……」
「アクアの帰還を喜んでいたしね」
「……あ、本当に喜んでいたんだ……」
陛下の優しい笑みはわたしの気のせいではなかったのね……。それにしても……大聖女ステラ、の孫……。神さまが張り切ってくれるのは、それも関係あるのかな?
「色々提案していただろ? アクアに選択肢を託している」
「だな。……そういえば、ダラム王国ではどんな生活を送っていたんだ?」
バーナードにそう聞かれて、わたしは素直に神殿での暮らしを話した。夜明けと共に起き出して、夜更けと共に寝る。その間に掃除をしたり料理をしたり仕事をしたり。そんなことを話していると、メイドがお茶とケーキを持って来てくれた。……み、見たことのないケーキだわ……! なんて名前のケーキだろう?
お茶を淹れ終わると、「御用の際はお呼びください」と頭を下げて部屋から出て行った。
喉が渇いたのでお茶をひと口。美味しい!
「……そ、それがダラム王国での生活だったの?」
ディーンに問われて小さくうなずく。すると、ディーンとバーナードは視線を交わして、ゆっくりと息を吐いた。
「ちなみにその仕事って?」
「んーと、浄化して欲しいところの確認、祭りなどのイベントで行う儀式の練習、回復魔法が必要な人達を集めて回復、孤児たちに勉強を教える、各地方の災害の確認、手伝い、魔物の被害の確認、被害者には話を聞きに行ったり……」
「ちょっと待て、確実に神殿の仕事じゃないのが混じっている」
「あ、やっぱりそうなんだ?」
ダラム王国の陛下、やっぱり神殿に仕事を押し付けていたのね……! それを知って、やっとスッキリしたような気持ちになった。ずっとこれ神殿の仕事じゃないよね、と思いながらやっていたから。
「神殿に書類が運ばれて来るんだもの。今はちゃんとやってるのかなぁ……」
「……一応伝えておくが、それ、陛下の前で言うなよ……」
「え、なんで?」
「……魔物がダラム王国の結界を破る前に、ダラム王国が滅ぶよ、多分……」
「え、なんで?」
ゆっくりとディーンが息を吐いた。それから、どうしてそう思ったのかを教えてくれた。
「……陛下はずっと、君を探していた。ステラさまと一番容姿が似ているのは、アクアだから。陛下のステラさまへの思いは、心酔って言葉がぴったりなくらいで……ステラさまと重ねているところがある、と思う。そんな君が、ダラム王国でそんな生活をしていたと知ったら――……」
「頼むから言うなよ。騎士団が巻き込まれるから」
……なるほど?
……放っておいてもダラム王国は危険に晒されるだろうけど……なんだか、ずっと自分が守っていた国が危険に晒されるって知っているのって、複雑な気分だわ……。聖女がちゃんと結界を張り直してくれていたらいいのだけど……。どうなんだろう?
「……わたしがダラム王国の様子を見たいって言ったら、協力してくれると思う?」
「……さぁな。……というか、お前を攫った国に情けを掛けるのか?」
「情けっていうか……。そりゃあぶん殴りたい人はいるけれど……。他の人たちがきちんと逃げられているのかが気になるの。あの国の王族は危険が迫ったら民を置いて逃げちゃいそうで……」
……それに……気になるんだよね。神官長のあの笑みの意味が……。もしもまた会えたら、尋ねてみたいことなのよ。
「……国と命運を共にするって、神官長が言っていたの。……でもさ、それに巻き込まれるのはなにも知らない国民なのよね……」
目を閉じれば今でもすぐに思い出せる。お祭りでわたしが聖女として顔を出した時に、聖女さま! といってくれた人たちの姿が……。あと、コボルトたちもわたしに対して友好的だったし。肉球……。……じゃなくて!
「結界はどのくらい持ちそうなの?」
「あと二~三週間くらいかな? 新しい聖女がきちんと結界を張れるなら問題ないんだけどね……」
……あ、なんか頭が痛くなって来た! わたし、難しいことを考えるのには向いてないのよー!
わたしの頭の中がショートしていることに気付いたのか、ディーンが「ケーキでも食べて落ち着いて」とケーキを勧めてくれた。メイドが置いていってくれた、ルビーのように赤くて丸いドームのようなケーキ。食べるのが勿体ないくらい綺麗。食べるけどね!
フォークをすっと刺すと、軽い感触がした。ひと口サイズに切り分けて、ぱくりと食べる。甘酸っぱくて美味しい! わたしが目を輝かせてケーキとディーンを交互に見ると、ディーンは小さく笑みを浮かべて、「美味しい?」と聞いて来た。
「とっても美味しいわ! 初めて食べる食感と味!」
「……はじめて?」
「だってケーキはショートケーキしか知らないもの」
わたしの言葉にぎょっとしたように目を大きく見開くふたりに、わたしは首を傾げた。そして、なぜか憐れむような眼差しを向けられた……。な、なんなのよ……。
「ダラム王国にはショートケーキしかなかったのか?」
「知らない。誕生日……拾われた日にだけケーキを出されていたの。毎年決まって苺のショートケーキだったわ」
「……アクアは、孤児だと思ってこれまで生きていたんだよな。血が繋がった存在が居ることを知って、どう思った?」
「……どうもなにも、驚くことしか出来ないって」
ぱたぱたと片手を振ってそういうと、ディーンが「そりゃまぁ、そうだよなぁ」と呟いた。血の繋がった存在が居るってことも、その人が王族だってことも、大聖女ステラの孫ってことも今日初めて知ったのだから。驚きのほうが強くてあまり深く考えられないってのが現状だ。
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