恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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1章

25話


「……複合魔法ってどんなものがあるの?」

 ディーンが好奇心に負けたのか尋ねてきた。わたしは人差し指を顎に添え、どんな魔法を使ってきたのかを思い出す。

「んーと……、火と風を混ぜ合わせたり、水と風を混ぜ合わせたり、土と風を混ぜ合わせたり……、あ、最後は小さいゴーレムが遊ぶため」
「……聖女じゃなくて魔術師じゃねぇの、お前……」

 バーナードの言葉に、わたしは目をぱちくりと瞬かせる。それから思い切り吹き出した。笑われるとは思っていなかったのか、ふたりはぎょっとしたような表情を浮かべた。

「あははっ、まっさか! わたしはそれなりに使えるだけ。魔術師と呼ばれるほどではないわ!」

 一通り笑ってからそういうと、ふたりは複雑そうに表情を歪めた。……ふと、陛下が護衛を連れて歩いていないことを思い出して、ふたりに聞いてみた。

「陛下は護衛をつけない主義なの? お強いの?」
「強いよ。魔物相手にも、人間相手にも怯まない。一国を滅ぼすほどの強い魔力を持っているし」
「……え、すご……」

 国を滅ぼすほどの魔力って……。ああ、だからひとりで乗り込んでも平気ってことか……。なるほど納得。自分に対しての絶対的な自信を感じていたから……。
 強くなければ帝国をまとめることなんて難しいのかもしれないけれど、……それはそれで孤独なんじゃないかな……。わたしと五歳しか違わないのに、背負っているものが重すぎる気が……。

「……陛下と騎士団の人なら、どっちが強い?」
「陛下」

 ディーンとバーナードの声が重なった。そして、即答だった。……騎士団よりも強いのか……陛下。

「魔法を使わなくても?」
「うん。陛下は鍛錬を欠かさない人だし、剣術だけでもかなりの腕前だ」
「それに魔法が加わると、本当に無敵としか思えねぇ……」

 はー、と息を吐くバーナードに、わたしはディーンを見た。ディーンは首を縦に動かす。……それだけ強さを維持するのは大変そうね……。と思いながら、お代わりした水を飲む。冷たさが、落ち着きを取り戻してくれる感覚。

「……じゃあ、本気でダラム王国を……?」
「アクアが望むなら、そうするだろうね。陛下にとって、ステラさまそっくりなアクアの願いは最優先事項だから」
「……身内だからってそこまでするぅ?」
「するのが、陛下なんだよねぇ。有言実行の人だから」

 有言不実行よりはいいと思うけど。……でも本当に、どうしよう。ダラム王国の平民たちと神殿の人たちは助けたい……。オーレリアン殿下は一発ぶん殴りたい。……でも、わたしがそれを望んだら……。……生死が関わることは、怖い。
 かといって、あの貴族たちを野放しにしておくのも……ちょっと、ね。……どうすればいいのかしら……?

「いや、そもそもなんでわたしが悩んでいるんだろう……?」
「そりゃあ、アクアが関わっていることだからね」
「うーん、ダラム王国のことはなんとかしたいんだけどねぇ……」

 罪のない人は助けたいけど……、一方を見捨てることは果たして正しいのか。……わたしには、重い決断だわ……。

「……っていうか、なんの話だよ、それ」
「……よし、バーナードも巻き込もう」
「ははは、巻き込まれ」

 わたしとディーンが、お昼の話をすると、バーナードの顔色は段々青ざめていった。そして、髪をくしゃりと握り恨めしそうにわたしたちを見る。

「……聞きたくなかった」
「だろうね」
「わたしだって聞きたくなかった……」

 遠い目をして窓の外を見る。暗くなっているから、わたしたちの姿が映っている。……うーん、……うん、なにが最善なのか、ちゃんと考えないといけないよねぇ……。わたし自身が決断を下さないといけないこと、だもの。

「……わたしは、あまり死んで欲しくない。……ワガママかな?」
「それは、貴族や王族も含めて?」
「……心を入れ替えてくれるなら……。……まぁ、無理だとは思うのだけど」

 なんせ、神殿に仕事を押し付ける人たちだ。心を入れ替えるとは思わない。……だからと言って、死んで欲しいかと聞かれると……返答に困る。だってわたしは、国民を護る聖女だったのだ。嫌いな人だから死んで欲しい、なんて……いえるわけがない。

「……記憶がない、というのは良いのか悪いのかわからないな……」
「……え?」
「ディーンに同意する。お前はあの惨劇を知らないから、そう言えるんだろう」

 ……わたしが誘拐された時のことよね? ふたりの目には後悔が宿っているように見えて、「どうして?」と尋ねた。どうして……あなたたちが、後悔しているの?

「……アクアの両親には良くしてもらっていたんだ。それを、あんな形で失うなんて……」
「俺はお前と会ったことはないが、ディーンから話は聞いていた。だからこそ、あの事件が起きて、ディーンが苦しんでいたことを知っている」

 冷たい汗が、背中を流れた気がした。これ以上、その話を聞いていても良いのだろうか。わたしが視線を落とすと、ノックの音が聞こえた。……こんな時間に、誰だろう?

「……はい、どちらさまですか」
「私だ」

 ――なんで、ここに陛下がいらっしゃるの!?

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