恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

文字の大きさ
25 / 153
1章

25話

しおりを挟む

「……複合魔法ってどんなものがあるの?」

 ディーンが好奇心に負けたのか尋ねてきた。わたしは人差し指を顎に添え、どんな魔法を使ってきたのかを思い出す。

「んーと……、火と風を混ぜ合わせたり、水と風を混ぜ合わせたり、土と風を混ぜ合わせたり……、あ、最後は小さいゴーレムが遊ぶため」
「……聖女じゃなくて魔術師じゃねぇの、お前……」

 バーナードの言葉に、わたしは目をぱちくりと瞬かせる。それから思い切り吹き出した。笑われるとは思っていなかったのか、ふたりはぎょっとしたような表情を浮かべた。

「あははっ、まっさか! わたしはそれなりに使えるだけ。魔術師と呼ばれるほどではないわ!」

 一通り笑ってからそういうと、ふたりは複雑そうに表情を歪めた。……ふと、陛下が護衛を連れて歩いていないことを思い出して、ふたりに聞いてみた。

「陛下は護衛をつけない主義なの? お強いの?」
「強いよ。魔物相手にも、人間相手にも怯まない。一国を滅ぼすほどの強い魔力を持っているし」
「……え、すご……」

 国を滅ぼすほどの魔力って……。ああ、だからひとりで乗り込んでも平気ってことか……。なるほど納得。自分に対しての絶対的な自信を感じていたから……。
 強くなければ帝国をまとめることなんて難しいのかもしれないけれど、……それはそれで孤独なんじゃないかな……。わたしと五歳しか違わないのに、背負っているものが重すぎる気が……。

「……陛下と騎士団の人なら、どっちが強い?」
「陛下」

 ディーンとバーナードの声が重なった。そして、即答だった。……騎士団よりも強いのか……陛下。

「魔法を使わなくても?」
「うん。陛下は鍛錬を欠かさない人だし、剣術だけでもかなりの腕前だ」
「それに魔法が加わると、本当に無敵としか思えねぇ……」

 はー、と息を吐くバーナードに、わたしはディーンを見た。ディーンは首を縦に動かす。……それだけ強さを維持するのは大変そうね……。と思いながら、お代わりした水を飲む。冷たさが、落ち着きを取り戻してくれる感覚。

「……じゃあ、本気でダラム王国を……?」
「アクアが望むなら、そうするだろうね。陛下にとって、ステラさまそっくりなアクアの願いは最優先事項だから」
「……身内だからってそこまでするぅ?」
「するのが、陛下なんだよねぇ。有言実行の人だから」

 有言不実行よりはいいと思うけど。……でも本当に、どうしよう。ダラム王国の平民たちと神殿の人たちは助けたい……。オーレリアン殿下は一発ぶん殴りたい。……でも、わたしがそれを望んだら……。……生死が関わることは、怖い。
 かといって、あの貴族たちを野放しにしておくのも……ちょっと、ね。……どうすればいいのかしら……?

「いや、そもそもなんでわたしが悩んでいるんだろう……?」
「そりゃあ、アクアが関わっていることだからね」
「うーん、ダラム王国のことはなんとかしたいんだけどねぇ……」

 罪のない人は助けたいけど……、一方を見捨てることは果たして正しいのか。……わたしには、重い決断だわ……。

「……っていうか、なんの話だよ、それ」
「……よし、バーナードも巻き込もう」
「ははは、巻き込まれ」

 わたしとディーンが、お昼の話をすると、バーナードの顔色は段々青ざめていった。そして、髪をくしゃりと握り恨めしそうにわたしたちを見る。

「……聞きたくなかった」
「だろうね」
「わたしだって聞きたくなかった……」

 遠い目をして窓の外を見る。暗くなっているから、わたしたちの姿が映っている。……うーん、……うん、なにが最善なのか、ちゃんと考えないといけないよねぇ……。わたし自身が決断を下さないといけないこと、だもの。

「……わたしは、あまり死んで欲しくない。……ワガママかな?」
「それは、貴族や王族も含めて?」
「……心を入れ替えてくれるなら……。……まぁ、無理だとは思うのだけど」

 なんせ、神殿に仕事を押し付ける人たちだ。心を入れ替えるとは思わない。……だからと言って、死んで欲しいかと聞かれると……返答に困る。だってわたしは、国民を護る聖女だったのだ。嫌いな人だから死んで欲しい、なんて……いえるわけがない。

「……記憶がない、というのは良いのか悪いのかわからないな……」
「……え?」
「ディーンに同意する。お前はあの惨劇を知らないから、そう言えるんだろう」

 ……わたしが誘拐された時のことよね? ふたりの目には後悔が宿っているように見えて、「どうして?」と尋ねた。どうして……あなたたちが、後悔しているの?

「……アクアの両親には良くしてもらっていたんだ。それを、あんな形で失うなんて……」
「俺はお前と会ったことはないが、ディーンから話は聞いていた。だからこそ、あの事件が起きて、ディーンが苦しんでいたことを知っている」

 冷たい汗が、背中を流れた気がした。これ以上、その話を聞いていても良いのだろうか。わたしが視線を落とすと、ノックの音が聞こえた。……こんな時間に、誰だろう?

「……はい、どちらさまですか」
「私だ」

 ――なんで、ここに陛下がいらっしゃるの!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...