28 / 153
1章
28話
……とはいえ、神さまが本当に存在しているのかどうか、わたしにはわからない。神さまの在り方って人それぞれだから。天上界のことはわからないのよね、だって人間だもの。この地上で生きるわたしたちにとって、神々の世界は謎が多いのよ。
天上界にいった人も、神さまにお会いしたことがあるという人も見たことないし。……ただ、いると信じたいの。……そうじゃないと、浄化の力とか説明できないしね。神殿で働いている人たちは神さまの存在を信じているだろうけれど、他の人たちはどうなんだろう? そんなことを考えていると、扉がノックされた。今度は誰だろ?
「はーい」
「おはようございます、アクアさま。お着替えの手伝いに参りました」
「……え?」
メイド服の女性がにっこりと微笑んでいる。バーナードはぽんとわたしの肩に手を置いてから部屋を出て行った。……え、待って、わたし、またドレスを着るの!? そしてそれを察して出て行ったな、バーナード!
……備え付けのバスタブに魔法でお湯を張り、全身くまなく洗われて、髪も肌もツヤツヤにしてもらってから魔法で髪を乾かして、さらにドレスに着替えさせられた……。薄く化粧もされているけれど、……なにが楽しいのか、にこにこ笑っている人に恐る恐る声を掛ける。
「……せめてヒールの低い靴にしてください」
昨日のハイヒールは無理! と思ってそうお願いすると、女性は困ったように微笑みを浮かべて、
「申し訳ございません。ハイヒールにするように陛下から言付けを頂いております」
「……えっ」
……慣れないハイヒールで、わたしが逃亡しないようにしている?
「今日はこちらのピンクのハイヒールにしましょう。うふふ」
「うふふって……」
「陛下がはしゃいでいるのを、久々に見られて嬉しいのです」
陛下がはしゃいでいる? 昨日の様子を思い出して首を傾げる。とてもそんな風には見えなかったけれど……。
「御髪もリボンでまとめましょう」
そういって手際よくまとめてくれた。ハイヒールと同じピンク色のリボンで。そして、わたしを着替えさせると女性は小さく頭を下げてから部屋を出て行き、ディーンとバーナードが入って来た。
「……そうやっていると、本当にステラさまそっくりだね、アクアは」
「……そうなの?」
大聖女ステラも、こんなに歩きにくいハイヒールを履いていたのかなぁ……?
「ところで、今日はどうするんだ? 屋敷を見に行くのか?」
「あ、そっか……。どうしようかな。……いや、ハイヒールに慣れるためにも歩いたほうがいいかもしれない……?」
万が一の時は浮遊魔法があるし!
「……でもねー、自由に外に出られるほうが良いんだけどなぁ」
「外?」
「だって、屋敷に閉じこもるよりも、旅行したり冒険したりしたーい!」
「……仕事ばかりしていたから、その反動かな?」
「かもしれない。でもさ、大人しくしているわたしなんて、わたしじゃないよ」
ディーンとバーナードが顔を見合わせて、それからぷくくと肩を震わせて笑った。……笑われることはいってないと思うんだけど……このふたりの笑いのツボがわからないわ……。
「屋敷をもらったからって、一日中そこに居るのは確かに飽きるだろうよ」
「確かにアクアらしくはないね」
「ただ、『帰る家』はあったほうが便利だと思うけど?」
……帰る家、か。わたしにとってはダラム王国の神殿が帰る家だった。……でも、この国に、わたしの『帰る家』はないものね……。むむ、確かにバーナードのいうとおり、便利だとは思うけど……それが陛下の所有する屋敷っていうのは、いいのか悪いのか……。
「……わたしに王族の血が流れているのなら、あんまり勝手は出来ないってことよね」
「確定しているだろ、もう」
「全然実感がないわ~……」
こんなに綺麗なドレスを着せてもらっても、聖職者のローブのほうが楽だったな、なんて思うわたしだもの。いやコルセット本当にきつい……。世の中のドレスを着ている人たちを尊敬するわ……ハイヒールも含めて。
「……陛下にさ、冒険者になりたいって言ったらどうなると思う?」
「却下される」
「右に同じ」
ですよねー、知ってた!
アルストル帝国って広いから、色々行ってみたいんだけどなぁ……。わたしがまだ見たことのない景色を巡る旅。……楽しそうだけど、無理かしら?
「……うーん、お金を稼ぐ方法を考えないといけないよね。自立という意味で。わたしになにが出来るんだろう……」
真剣に悩んでいると、バーナードがわたしのことを見てこういった。
「……少なくとも、誰かを助けることに関しては秀でていると思うぞ」
「あれー? なんかバーナードのわたしへの評価が上がってない?」
ニヤニヤと笑みを浮かべて、バーナードの脇腹を肘で突く。『この女』呼ばわりされていたのに、どういう心境の変化なの?
「……昨日、子どもを助けただろう。俺らが気付かなかったことに、あんたはすぐに気付いた。……子どもは国の宝だ。助けてくれてありがとう」
……真顔で礼を言われてしまった。そんなに真剣な表情を向けないで欲しい。どうすればいいのかわからなくなってしまう。
「……ど、どういたしまして……?」
とりあえず言葉を返すと、ぷはっと笑われた。その表情があまりにも幼く見えてびっくりした。……笑うとこんなに幼くなるのか。……十八歳に思うことじゃないだろうけど、そう思ってしまったのだから仕方ない。バーナードはわたしを見て、
「なんだよ、その疑問系」
とおかしそうに言葉にする。わたしはちょっとだけ眉を下げて、バーナードを見た。
「だってバーナードにお礼を言われるとは思わなかったし……」
困惑しているのがわかるのか、ディーンが優しい眼差しを向けていた。……バーナード、最初に会った時の刺々しさ、どこに行ったの!? と問いたいくらいの優しい表情を浮かべているんだけど!
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?
里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。
そんな時、夫は陰でこう言った。
「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」
立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。
リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。
男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。
***************************
本編完結済み。番外編を不定期更新中。
婚約破棄の日の夜に
夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。
ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。
そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。