恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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1章

28話


 ……とはいえ、神さまが本当に存在しているのかどうか、わたしにはわからない。神さまの在り方って人それぞれだから。天上界のことはわからないのよね、だって人間だもの。この地上で生きるわたしたちにとって、神々の世界は謎が多いのよ。
 天上界にいった人も、神さまにお会いしたことがあるという人も見たことないし。……ただ、いると信じたいの。……そうじゃないと、浄化の力とか説明できないしね。神殿で働いている人たちは神さまの存在を信じているだろうけれど、他の人たちはどうなんだろう? そんなことを考えていると、扉がノックされた。今度は誰だろ?

「はーい」
「おはようございます、アクアさま。お着替えの手伝いに参りました」
「……え?」

 メイド服の女性がにっこりと微笑んでいる。バーナードはぽんとわたしの肩に手を置いてから部屋を出て行った。……え、待って、わたし、またドレスを着るの!? そしてそれを察して出て行ったな、バーナード!
 ……備え付けのバスタブに魔法でお湯を張り、全身くまなく洗われて、髪も肌もツヤツヤにしてもらってから魔法で髪を乾かして、さらにドレスに着替えさせられた……。薄く化粧もされているけれど、……なにが楽しいのか、にこにこ笑っている人に恐る恐る声を掛ける。

「……せめてヒールの低い靴にしてください」

 昨日のハイヒールは無理! と思ってそうお願いすると、女性は困ったように微笑みを浮かべて、

「申し訳ございません。ハイヒールにするように陛下から言付けを頂いております」
「……えっ」

 ……慣れないハイヒールで、わたしが逃亡しないようにしている?

「今日はこちらのピンクのハイヒールにしましょう。うふふ」
「うふふって……」
「陛下がはしゃいでいるのを、久々に見られて嬉しいのです」

 陛下がはしゃいでいる? 昨日の様子を思い出して首を傾げる。とてもそんな風には見えなかったけれど……。

「御髪もリボンでまとめましょう」

 そういって手際よくまとめてくれた。ハイヒールと同じピンク色のリボンで。そして、わたしを着替えさせると女性は小さく頭を下げてから部屋を出て行き、ディーンとバーナードが入って来た。

「……そうやっていると、本当にステラさまそっくりだね、アクアは」
「……そうなの?」

 大聖女ステラも、こんなに歩きにくいハイヒールを履いていたのかなぁ……?

「ところで、今日はどうするんだ? 屋敷を見に行くのか?」
「あ、そっか……。どうしようかな。……いや、ハイヒールに慣れるためにも歩いたほうがいいかもしれない……?」

 万が一の時は浮遊魔法があるし!

「……でもねー、自由に外に出られるほうが良いんだけどなぁ」
「外?」
「だって、屋敷に閉じこもるよりも、旅行したり冒険したりしたーい!」
「……仕事ばかりしていたから、その反動かな?」
「かもしれない。でもさ、大人しくしているわたしなんて、わたしじゃないよ」

 ディーンとバーナードが顔を見合わせて、それからぷくくと肩を震わせて笑った。……笑われることはいってないと思うんだけど……このふたりの笑いのツボがわからないわ……。

「屋敷をもらったからって、一日中そこに居るのは確かに飽きるだろうよ」
「確かにアクアらしくはないね」
「ただ、『帰る家』はあったほうが便利だと思うけど?」

 ……帰る家、か。わたしにとってはダラム王国の神殿が帰る家だった。……でも、この国に、わたしの『帰る家』はないものね……。むむ、確かにバーナードのいうとおり、便利だとは思うけど……それが陛下の所有する屋敷っていうのは、いいのか悪いのか……。

「……わたしに王族の血が流れているのなら、あんまり勝手は出来ないってことよね」
「確定しているだろ、もう」
「全然実感がないわ~……」

 こんなに綺麗なドレスを着せてもらっても、聖職者のローブのほうが楽だったな、なんて思うわたしだもの。いやコルセット本当にきつい……。世の中のドレスを着ている人たちを尊敬するわ……ハイヒールも含めて。

「……陛下にさ、冒険者になりたいって言ったらどうなると思う?」
「却下される」
「右に同じ」

 ですよねー、知ってた!
 アルストル帝国って広いから、色々行ってみたいんだけどなぁ……。わたしがまだ見たことのない景色を巡る旅。……楽しそうだけど、無理かしら?

「……うーん、お金を稼ぐ方法を考えないといけないよね。自立という意味で。わたしになにが出来るんだろう……」

 真剣に悩んでいると、バーナードがわたしのことを見てこういった。

「……少なくとも、誰かを助けることに関しては秀でていると思うぞ」
「あれー? なんかバーナードのわたしへの評価が上がってない?」

 ニヤニヤと笑みを浮かべて、バーナードの脇腹を肘で突く。『この女』呼ばわりされていたのに、どういう心境の変化なの?

「……昨日、子どもを助けただろう。俺らが気付かなかったことに、あんたはすぐに気付いた。……子どもは国の宝だ。助けてくれてありがとう」

 ……真顔で礼を言われてしまった。そんなに真剣な表情を向けないで欲しい。どうすればいいのかわからなくなってしまう。

「……ど、どういたしまして……?」

 とりあえず言葉を返すと、ぷはっと笑われた。その表情があまりにも幼く見えてびっくりした。……笑うとこんなに幼くなるのか。……十八歳に思うことじゃないだろうけど、そう思ってしまったのだから仕方ない。バーナードはわたしを見て、

「なんだよ、その疑問系」

 とおかしそうに言葉にする。わたしはちょっとだけ眉を下げて、バーナードを見た。

「だってバーナードにお礼を言われるとは思わなかったし……」

 困惑しているのがわかるのか、ディーンが優しい眼差しを向けていた。……バーナード、最初に会った時の刺々しさ、どこに行ったの!? と問いたいくらいの優しい表情を浮かべているんだけど!

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