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1章
29話
……はっ、まさか偽物……!? と怪訝そうな視線を向けると、深々とため息を吐かれた。
言うんじゃなかった、みたいに後頭部を掻いているのを見て、……あ、本物のバーナードだわ、と思い肩をすくめた。
「……とりあえず、屋敷を見に行こうか?」
「そうね。そうしましょう! ここから近いの?」
「んー、それなりに?」
それなりに……? と首を傾げてふたりを見ると、すっとディーンが手を差し出した。わたしが不思議そうにディーンを見ると、ディーンも不思議そうにわたしを見た。
「ハイヒールで歩くの慣れていないんだろ」
助け舟を出すように、バーナードが小声で呟く。……ああ! なるほど、補助してくれるってわけね! 納得してディーンの手に自分の手を重ねると、ディーンが小さく眉を下げて微笑んだ。そして、そのまま部屋を出ようとしたところでハッとして荷物へ視線を向けた。バーナードはわたしの荷物をひょいと持つのを見て、その荷物を受け取ろうと手を伸ばす。
「自分で持つよ!」
「いいから、歩くことに集中しろって」
そういってスタスタと部屋の外に出てしまった。……バーナードが親切だと、なんだか変な気分になるわね……。わたしの表情が面白かったのか、ディーンがくすっと笑った。
「それじゃあ、お姫さま。屋敷まで案内いたしましょう」
「う、うわぁ……っ」
「……どういう反応なんだ、それ……」
いやだって、顔を覗き込んでウインクなんてイケメンにしか許されないことじゃない!? ちょっと『お姫さま』って言葉に含みは感じるけれど! ……物語のお姫さましか知らないけれど、これは確かに女の子が憧れるわ……。と、妙に感心してしまった。
綺麗なドレスを着て、豪華絢爛なものに囲まれて、贅沢な食事をする……。貴族なら当たり前のことかもしれないけれど……。昨日、馬車で見た街並みを思い出して、わたしはゆっくりと息を吐いた。
それにしても、ハイヒールって本当に歩きづらい……!
ちらちらとこちらに視線を向けて来る人たちもいる。ここで働いている人たち。突然わたしみたいなのが現れて、ディーンにエスコートされているのだもの、そりゃあ驚くわよね……。もしかしたら、わたしよりもディーンのほうに視線が集まっているのかも、と思ったけれど、わたし自身にも視線を感じるなぁ……。
「……みんな早起きね」
「……アクアもね」
「わたしは習慣だもの」
「働いているやつらも習慣だろ」
あ、そっか。そりゃそうだ。人の出入りが少ないうちに掃除から始めて……。……いっそ王城でメイドでも出来ないものか……無理だよね、知ってる。……そういえば、アルストル帝国の陛下の名前って、わたしが知っちゃって良かったのかな?
思い出す保証もないから教えてくれたのかなぁ……? 今のところ、思い出す前兆なんてものは全然ないのだけれど。そもそも十年も思い出せないのだから……。……わたしと話していて、陛下って結構寂しそうな表情を浮かべるのよね。それがなんだか申し訳ない気がする……。
「足、痛い?」
「え? 平気だよ。なんで?」
「しかめっ面してるから」
ディーンが心配そうにわたしに聞いて来たのに対して、バーナードの言葉よ……。目を瞬かせてそれからふっと表情を和らげた。それを見たふたりが、「大丈夫そうだね」とうなずき合う。心配性だったりするのかな?
ディーンにエスコートされながら、陛下の所有する屋敷へ向かう。そんなに遠くはないみたいだけど、なにせ履き慣れていないハイヒールのため、歩くのはゆっくりだ。……普通の格好ならもっと素早く歩けるんだけどなぁ……。と考えながら一歩一歩しっかりと歩く。下手したら転びそうなんだもん……。
どこをどう歩いているのかよくわからないけれど、建物が見え始めた。あそこが目的地?
歩いて三十分……くらい、かな? いや、体感だからもっと早いかもしれないし、遅いかもしれない……。……っていうか、屋敷じゃなくて城じゃない? とツッコミを入れたくなった。それだけとても立派な建物なのだ。うーん、圧倒される……。
入口? に立っている人が、わたしたちに気付いて挨拶をしてくれた。
「おはようございます、ディーン卿」
「おはよう。陛下から聞いていると思うけど、ちょっと中に入っても構わないかい?」
「はい、お待ちしておりました」
昨日の今日で『お待ちしておりました』?
思わず首を傾げると、門番だと思う男性ふたりが立っていた。その人たちがわたしに視線を向けて、にこりと微笑む。あら、とてもフレンドリー。
「ここは、アクアの祖母が気に入っていた屋敷なんだよ」
「へぇ……!」
大聖女ステラのお気に入りの屋敷! それはちょっと見るのが楽しみかも!
門番? の人たちがすっと横に避けた。
「アクア、この窪みに手を合わせて、魔力を注いでみて」
「うん? ……いいけど……?」
ディーンにいわれて窪みに手を合わせて魔力を注ぐ。
『おかえりなさいませ』
――え? と思った瞬間には、玄関……なのかな? にワープしていた。……なに、今の!
辺りを見渡すとディーンもバーナードもいない! どうなっているの、これ!? おろおろしていたら、ディーンとバーナードが音もなく現れた! いや、本当にどうなってるの、これ!?
「……やっぱり君は、大聖女ステラの孫だよ」
言うんじゃなかった、みたいに後頭部を掻いているのを見て、……あ、本物のバーナードだわ、と思い肩をすくめた。
「……とりあえず、屋敷を見に行こうか?」
「そうね。そうしましょう! ここから近いの?」
「んー、それなりに?」
それなりに……? と首を傾げてふたりを見ると、すっとディーンが手を差し出した。わたしが不思議そうにディーンを見ると、ディーンも不思議そうにわたしを見た。
「ハイヒールで歩くの慣れていないんだろ」
助け舟を出すように、バーナードが小声で呟く。……ああ! なるほど、補助してくれるってわけね! 納得してディーンの手に自分の手を重ねると、ディーンが小さく眉を下げて微笑んだ。そして、そのまま部屋を出ようとしたところでハッとして荷物へ視線を向けた。バーナードはわたしの荷物をひょいと持つのを見て、その荷物を受け取ろうと手を伸ばす。
「自分で持つよ!」
「いいから、歩くことに集中しろって」
そういってスタスタと部屋の外に出てしまった。……バーナードが親切だと、なんだか変な気分になるわね……。わたしの表情が面白かったのか、ディーンがくすっと笑った。
「それじゃあ、お姫さま。屋敷まで案内いたしましょう」
「う、うわぁ……っ」
「……どういう反応なんだ、それ……」
いやだって、顔を覗き込んでウインクなんてイケメンにしか許されないことじゃない!? ちょっと『お姫さま』って言葉に含みは感じるけれど! ……物語のお姫さましか知らないけれど、これは確かに女の子が憧れるわ……。と、妙に感心してしまった。
綺麗なドレスを着て、豪華絢爛なものに囲まれて、贅沢な食事をする……。貴族なら当たり前のことかもしれないけれど……。昨日、馬車で見た街並みを思い出して、わたしはゆっくりと息を吐いた。
それにしても、ハイヒールって本当に歩きづらい……!
ちらちらとこちらに視線を向けて来る人たちもいる。ここで働いている人たち。突然わたしみたいなのが現れて、ディーンにエスコートされているのだもの、そりゃあ驚くわよね……。もしかしたら、わたしよりもディーンのほうに視線が集まっているのかも、と思ったけれど、わたし自身にも視線を感じるなぁ……。
「……みんな早起きね」
「……アクアもね」
「わたしは習慣だもの」
「働いているやつらも習慣だろ」
あ、そっか。そりゃそうだ。人の出入りが少ないうちに掃除から始めて……。……いっそ王城でメイドでも出来ないものか……無理だよね、知ってる。……そういえば、アルストル帝国の陛下の名前って、わたしが知っちゃって良かったのかな?
思い出す保証もないから教えてくれたのかなぁ……? 今のところ、思い出す前兆なんてものは全然ないのだけれど。そもそも十年も思い出せないのだから……。……わたしと話していて、陛下って結構寂しそうな表情を浮かべるのよね。それがなんだか申し訳ない気がする……。
「足、痛い?」
「え? 平気だよ。なんで?」
「しかめっ面してるから」
ディーンが心配そうにわたしに聞いて来たのに対して、バーナードの言葉よ……。目を瞬かせてそれからふっと表情を和らげた。それを見たふたりが、「大丈夫そうだね」とうなずき合う。心配性だったりするのかな?
ディーンにエスコートされながら、陛下の所有する屋敷へ向かう。そんなに遠くはないみたいだけど、なにせ履き慣れていないハイヒールのため、歩くのはゆっくりだ。……普通の格好ならもっと素早く歩けるんだけどなぁ……。と考えながら一歩一歩しっかりと歩く。下手したら転びそうなんだもん……。
どこをどう歩いているのかよくわからないけれど、建物が見え始めた。あそこが目的地?
歩いて三十分……くらい、かな? いや、体感だからもっと早いかもしれないし、遅いかもしれない……。……っていうか、屋敷じゃなくて城じゃない? とツッコミを入れたくなった。それだけとても立派な建物なのだ。うーん、圧倒される……。
入口? に立っている人が、わたしたちに気付いて挨拶をしてくれた。
「おはようございます、ディーン卿」
「おはよう。陛下から聞いていると思うけど、ちょっと中に入っても構わないかい?」
「はい、お待ちしておりました」
昨日の今日で『お待ちしておりました』?
思わず首を傾げると、門番だと思う男性ふたりが立っていた。その人たちがわたしに視線を向けて、にこりと微笑む。あら、とてもフレンドリー。
「ここは、アクアの祖母が気に入っていた屋敷なんだよ」
「へぇ……!」
大聖女ステラのお気に入りの屋敷! それはちょっと見るのが楽しみかも!
門番? の人たちがすっと横に避けた。
「アクア、この窪みに手を合わせて、魔力を注いでみて」
「うん? ……いいけど……?」
ディーンにいわれて窪みに手を合わせて魔力を注ぐ。
『おかえりなさいませ』
――え? と思った瞬間には、玄関……なのかな? にワープしていた。……なに、今の!
辺りを見渡すとディーンもバーナードもいない! どうなっているの、これ!? おろおろしていたら、ディーンとバーナードが音もなく現れた! いや、本当にどうなってるの、これ!?
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