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1章
35話
「とにかくっ! ここに騎士たちがたくさん集まっているってことは、貴族たちは王城の中なのね! 平民たちを避難させる場所なんて、たくさんあるだろうからさっさと避難させなさい! 彼らはあなたたちの生活を支えている基盤なのよ!」
「お、お前に指図されることではない!」
「ならば死ぬか?」
チャキ、と音を鳴らして剣を抜く陛下に、騎士たちが震えあがった。……ああ、目が本気だこの人……。
……わたし、この人と本当に血が繋がっているんだろうか……。いや、それを考えるのも後!
今は平民たちの安全が第一!
「せ、聖女さま……っ」
「大丈夫よ、わたしがここにいるでしょ?」
助けを求めるように手を伸ばすひとりの手を、そっと包み込むように握る。そして、安心させるように微笑みを浮かべると、城内へと誘導した。騎士たちが騒いでいるけど知るものか!
そして、数多く集まっている貴族たちがわたしたちに気付き、「どうして平民がここに……」とざわつき始めた。……やっぱりわたし、ここの貴族たちは好きになれないわ。
「ダラム王国の陛下はどちらに?」
わたしの問いに答える人なんていなかった。陛下がわたしの隣に立ち、ぐるりと周囲を見渡してパチン、と指を鳴らすのと同時に、どさっと誰かが降って来た。尻もちをついて、痛そうにお尻を擦る人――……ダラム王国の主、ザカライア陛下だ。
「だ、誰だ! ひっ!」
わたしを見て、まるで亡霊にでも会ったかのような短い悲鳴を上げる。陛下はこの王城から抜け出そうとしていたのか、リュックにたくさんの宝石を詰めていたようだ。……国と命運を共にすると言ったのは神官長だから、国王であるザカライア陛下は関係ない、のだろうけど……。覚悟の違いがこんなにも……。
「貴族も平民も残して、どちらに向かわれるおつもりでしたか、ザカライア陛下?」
にっこりと微笑んで嫌味を言ってやる。このくらいの嫌味なら許されるだろう、なんて考えて。
「ど、どこでも良いだろう。それよりも、アクア! この事態をなんとかしろ!」
「国を追放されたわたしが? どうして?」
貴族たちは知っていたみたい。……ううん、知っている人と知らない人がいたみたい。どちらにせよ、わたしが追放されたことはこうやって明るみになった。
「あなたの息子が、わたしを追放しなければ……結界は維持できていたのに」
「……アクア、本当にコレがこの国の王なのか?」
信じられないものを見たかのように、陛下がザカライア陛下を指差した。コレって……。その言い方に思わず吹き出してしまいそうになったけれど、こくりとうなずく。
「なっ、王たるものになんという口の利き方!」
「ああ、自己紹介が遅れたな。アルストル帝国の君主、ルーカスだ」
「あ、アルストル帝国……!?」
……帝国の名を聞いて、ザカライア陛下は顔を青ざめさせた。……そりゃあそうだろう。攫ってきた国の君主が目の前にいるのだもの。
「な、なぜアクアがそんな高貴な者と共に居る!?」
「……十年前、リネットと言う少女がアルストル帝国から姿を消した。彼女は私のいとこで、とても仲の良い子だった」
昔話をするような口調で……ただ、淡々と、感情を押し殺しているような声。聞いているこっちもゾッとするような……そんな声で、ザカライア陛下に語り掛ける。
「十年、ずっと探していた。我が国から攫われた、祖母の孫をずぅっとな」
冷たい視線をザカライア陛下に向ける。……うーん、イケメンの冷たい眼差しってこんなにも怖いものだったのか……。向けられているのがわたしじゃないから、そう思えるんだけど……。これがわたしに向けられたら泣いちゃいそうなくらい鋭い眼差し……。
そして、陛下の言葉にみんながざわざわと騒ぎ出す。わたしが追放されたことではなく、攫われたってことに反応したみたい。そりゃそうだ、わたしのことは捨て子だったと説明していたのだから。
――前神官長が拾い、蝶よ花よと大切に育てた結果、捨て子は神に愛されし『聖女』となった――……。
ダラム王国では、こう公表されているハズだからね。ぜーんぶ嘘だったみたいだけど……。わたしの人生って一体……。いやいや、今はそれどころじゃなかった!
「陛下、ザカライア陛下のことは置いておいて、これからのことを!」
じっとわたしを見る陛下。……そして、ちょっとだけムッとしたような表情を浮かべる。どうしてそんな顔をするのかがわからなくて首を傾げると、陛下が拗ねたようにこう口にした。
「……なぜ、ダラム王国の王の名は呼ぶのだ?」
わたしは思わず口をあんぐりと開いた。……まさか、わたしが陛下の名前を呼んでいないから拗ねたというの……? 二十歳の男性が? いやそんなまさか……。
「まさか私の名を忘れたと?」
「覚えてますっ」
「ならばなぜ名で呼ばない」
なぜと言われても……。……そんなに名前で呼んで欲しかったのか……。えーっと、じゃあ。
「ルーカス陛下?」
「……そなたは身内だというのに……」
いや、あなたにとっては十年ぶりに再会したいとこかもしれませんが、わたしにとっては昨日お会いしたばかりのアルストル帝国の君主ですからね!? とは言いづらい雰囲気……。だけど、ルーカス陛下の言葉は貴族の耳にも、平民の耳にも等しく届いたようだ。あれほどざわついていたのが嘘のように、今度はしんと静まり返った。
「み、身内……?」
ザカライア陛下の言葉が震えていた。……身内という前に、ちゃんと『祖母の孫』といっていたじゃないか……もしかしたら、聞き逃していたのかもしれないけれど。ぶるぶると小刻みに震え上がるザカライア陛下に、わたしはゆっくりとため息を吐いた。
「お、お前に指図されることではない!」
「ならば死ぬか?」
チャキ、と音を鳴らして剣を抜く陛下に、騎士たちが震えあがった。……ああ、目が本気だこの人……。
……わたし、この人と本当に血が繋がっているんだろうか……。いや、それを考えるのも後!
今は平民たちの安全が第一!
「せ、聖女さま……っ」
「大丈夫よ、わたしがここにいるでしょ?」
助けを求めるように手を伸ばすひとりの手を、そっと包み込むように握る。そして、安心させるように微笑みを浮かべると、城内へと誘導した。騎士たちが騒いでいるけど知るものか!
そして、数多く集まっている貴族たちがわたしたちに気付き、「どうして平民がここに……」とざわつき始めた。……やっぱりわたし、ここの貴族たちは好きになれないわ。
「ダラム王国の陛下はどちらに?」
わたしの問いに答える人なんていなかった。陛下がわたしの隣に立ち、ぐるりと周囲を見渡してパチン、と指を鳴らすのと同時に、どさっと誰かが降って来た。尻もちをついて、痛そうにお尻を擦る人――……ダラム王国の主、ザカライア陛下だ。
「だ、誰だ! ひっ!」
わたしを見て、まるで亡霊にでも会ったかのような短い悲鳴を上げる。陛下はこの王城から抜け出そうとしていたのか、リュックにたくさんの宝石を詰めていたようだ。……国と命運を共にすると言ったのは神官長だから、国王であるザカライア陛下は関係ない、のだろうけど……。覚悟の違いがこんなにも……。
「貴族も平民も残して、どちらに向かわれるおつもりでしたか、ザカライア陛下?」
にっこりと微笑んで嫌味を言ってやる。このくらいの嫌味なら許されるだろう、なんて考えて。
「ど、どこでも良いだろう。それよりも、アクア! この事態をなんとかしろ!」
「国を追放されたわたしが? どうして?」
貴族たちは知っていたみたい。……ううん、知っている人と知らない人がいたみたい。どちらにせよ、わたしが追放されたことはこうやって明るみになった。
「あなたの息子が、わたしを追放しなければ……結界は維持できていたのに」
「……アクア、本当にコレがこの国の王なのか?」
信じられないものを見たかのように、陛下がザカライア陛下を指差した。コレって……。その言い方に思わず吹き出してしまいそうになったけれど、こくりとうなずく。
「なっ、王たるものになんという口の利き方!」
「ああ、自己紹介が遅れたな。アルストル帝国の君主、ルーカスだ」
「あ、アルストル帝国……!?」
……帝国の名を聞いて、ザカライア陛下は顔を青ざめさせた。……そりゃあそうだろう。攫ってきた国の君主が目の前にいるのだもの。
「な、なぜアクアがそんな高貴な者と共に居る!?」
「……十年前、リネットと言う少女がアルストル帝国から姿を消した。彼女は私のいとこで、とても仲の良い子だった」
昔話をするような口調で……ただ、淡々と、感情を押し殺しているような声。聞いているこっちもゾッとするような……そんな声で、ザカライア陛下に語り掛ける。
「十年、ずっと探していた。我が国から攫われた、祖母の孫をずぅっとな」
冷たい視線をザカライア陛下に向ける。……うーん、イケメンの冷たい眼差しってこんなにも怖いものだったのか……。向けられているのがわたしじゃないから、そう思えるんだけど……。これがわたしに向けられたら泣いちゃいそうなくらい鋭い眼差し……。
そして、陛下の言葉にみんながざわざわと騒ぎ出す。わたしが追放されたことではなく、攫われたってことに反応したみたい。そりゃそうだ、わたしのことは捨て子だったと説明していたのだから。
――前神官長が拾い、蝶よ花よと大切に育てた結果、捨て子は神に愛されし『聖女』となった――……。
ダラム王国では、こう公表されているハズだからね。ぜーんぶ嘘だったみたいだけど……。わたしの人生って一体……。いやいや、今はそれどころじゃなかった!
「陛下、ザカライア陛下のことは置いておいて、これからのことを!」
じっとわたしを見る陛下。……そして、ちょっとだけムッとしたような表情を浮かべる。どうしてそんな顔をするのかがわからなくて首を傾げると、陛下が拗ねたようにこう口にした。
「……なぜ、ダラム王国の王の名は呼ぶのだ?」
わたしは思わず口をあんぐりと開いた。……まさか、わたしが陛下の名前を呼んでいないから拗ねたというの……? 二十歳の男性が? いやそんなまさか……。
「まさか私の名を忘れたと?」
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「ならばなぜ名で呼ばない」
なぜと言われても……。……そんなに名前で呼んで欲しかったのか……。えーっと、じゃあ。
「ルーカス陛下?」
「……そなたは身内だというのに……」
いや、あなたにとっては十年ぶりに再会したいとこかもしれませんが、わたしにとっては昨日お会いしたばかりのアルストル帝国の君主ですからね!? とは言いづらい雰囲気……。だけど、ルーカス陛下の言葉は貴族の耳にも、平民の耳にも等しく届いたようだ。あれほどざわついていたのが嘘のように、今度はしんと静まり返った。
「み、身内……?」
ザカライア陛下の言葉が震えていた。……身内という前に、ちゃんと『祖母の孫』といっていたじゃないか……もしかしたら、聞き逃していたのかもしれないけれど。ぶるぶると小刻みに震え上がるザカライア陛下に、わたしはゆっくりとため息を吐いた。
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