恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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1章

38話

「……なんでゴーレムが人気なんだ」
「わたしが知りたい」

 ぽつりと呟くバーナードの言葉を拾い、遠い目をしながら返した。だってさ、本当に謎なんだよね……。わたしの土魔法は本当にあの小さなゴーレムくらいしか作れないし……。小さいゴーレムを可愛がるコボルトというのも、中々シュールな光景のような……気がしなくもない。

「……ええと、みんなアルストル帝国に移住してくれるの?」
「ふぉっふぉっ、そのようじゃ」

 ……長老、そんなにあっさり決めて大丈夫? と尋ねたいところだけど、魔物が結界に触れずに様子を見ているのを感じて、このままじゃいけない! と強く思い、ディーンに顔を向ける。ディーンは小さくうなずいて、ルーカス陛下のようにパチンと指を鳴らした。

「ダラム王国の平民たちと同じ場所に出るようにしたから、コボルトたちもこの光の輪を潜りぬけて!」

 ディーンの言葉に、戦士のひとりが「自分が先頭!」と光の輪を潜っていく。それを見ていた子どもたちも、勢いよく走りながら光の輪に進む。長老がわたしに近付いて、そっと手を差し出した。その手を取って、肉球……とぷにぷにしたくなるのを堪えて、じっと長老を見ると、「ありがとう」と一言呟いて、長老も光の輪を潜る。全員が移動したのを確認してから、ディーンがもう一度指を鳴らした。

「……その魔法、すごいね……」
「使えるのは限られているけどな。で、どうするんだ、これから」
「……ダラム王国を制するのなら、魔物をこのまま放っては置けないよね」

 ルーカス陛下はどうするつもりなのか……。王族と貴族は助ける気、さらさらないように見えたし……。もしも助けたとしても、彼らが素直に感謝するとは思えない。……それでも、この国はわたしたち、神殿の者が守って来た国だ。魔物に荒らされるのを良しとはしたくない。

「……出来るだけ、多くの魔物を浄化したい」
「……なら、結界を解いてくれる?」
「俺らで出来るだけ数を減らす。アクアはその後一気に浄化すればいいんじゃね?」
「……わたし、あなたたちの強さ知らないんだけど……」

 ルーカス陛下のように一振りで……ってわけにはいかないだろうし。とりあえず聞いてみると、ディーンとバーナードは顔を見合わせて、それから「あの時のようなヘマはしないよ」とディーンが眉を下げて微笑んだ。……たぶん、最初に会った時に怪我していたから、そんなことを口にしたのだろう。

「少しの間、時間を稼いでくれたらわたしががんばるから!」
「あんまり無茶はしないようにね」
「それじゃあ、ちょいと暴れるとしますかね」

 すっと剣を抜いたのを見てから、わたしは結界を解く。わたしたちを囲うようにいた魔物たちが、一斉に襲い掛かって来た。ディーンも、バーナードもわたしを守るように魔物たちを蹴散らしていた。……驚いたのは、動きがすごく滑らかだったこと。……そんなに強かったのに、どうしてあんな怪我をしてしまったのだろうと考えるほどに。
 ディーンも、バーナードも、まるでダンスでも踊っているかのように軽快な動きで魔物を相手にしている。……負けていられないね。
 わたしも、自分に出来る最大のことをしなくっちゃ!
 ゆっくりと息を吐いて、ゆっくりと息を吸う。繰り返す。自分の中の神力しんりょくを高めるように。

「――神にこいねがう。アクア・ルックスの名において、我が前に立ちふさがるものたちに、神の裁きを与えんことを――……」

 杖をぎゅっと握りしめる。身体の中が熱くなる感覚。その熱が杖に移動し、大きな力へと変わっていく。その感覚を、

「――我が声に応えて、敵を滅せよ!」

 杖を上空に掲げて、力を解放させる。杖に移動した熱が光へと変わり、細かく分散して空中に散った。
 ――次の瞬間には、分散した光が魔物を貫き、姿を残さず消失させた。
 消えていく魔物たちを、驚いたような表情を浮かべたディーンとバーナードがわたしを見る。光が収まる頃には、魔物はすべて浄化されて消えていた。ぐらり、と眩暈を起こしたわたしを、ディーンが支えてくれた。

「――あれが、聖女の力……?」
「……アルストル帝国に、これだけの力を持った聖女も聖者もいないと思う。……大聖女ステラの孫、だからなのか……?」

 ディーンとバーナードがそんなことを話しているのを聞いて、わたしはゆっくりと目を閉じた。……きっと、これで……魔物は襲って来ない。ダラム王国は魔物の脅威からは守られた……と、思う。そのことに安堵してしまったのだろう、わたしはそのまま気を失い、ディーンとバーナードを慌てさせた……らしい。
 気を失っている時の記憶なんてないからね!
 だって次にわたしが目覚めた時、覗き込んできたのはルーカス陛下でめっちゃ焦った。
 起き上がるのと同時に「心配させるな」とデコピンされたし!

「……ここは……?」
「アルストル帝国だ。戻って来た。一応、ダラム王国の王族と貴族たちもいるぞ」
「助けたんですか……?」
「いや、全員縄で縛っている」
「どういう状況ですか、それ!?」
「あまりにうるさかったからな」

 ……うるさいという理由だけで縄で縛る……?
 困惑を隠せずにいると、ルーカス陛下はふっと笑みを浮かべてわたしの頭を撫でた。

「一発ぶん殴りたいだろうと思い、オーレリアンも縄で縛っている。殴りに行くか?」
「そんなダンスを誘うかのように……」

 ……いや待った、わたし、ダンスに誘われたことなんて一度もな――……。……? 今、なにか引っかかったような気がする……。首を傾げて目を閉じると、ルーカス陛下が「まぁ、時間はたっぷりとあるからな」と呟く声が聞こえた。……昔、誰かに誘われたことがあるのかもしれない。それが誰かなのかは、わからないけれど……。

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