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1章
45話
「私が十歳の頃、国は他国に攻め入れられました。私は両親たちに逃がされ、この国に辿り着きました。前神官長に拾われて、そのまま身を隠すためにこの神殿で下働きを始めました。……そのうちに、私と護衛たちに神力があることに気付き、そのまま神官の道に……」
……神官長にそんな過去があったとは。護衛がつくということは、かなり良い家柄だったのでは……?
「……なるほど、大体理解した。国に帰る気はないのだな?」
「もう他国ですし……。私が生きていたと知れたら、それこそ騒ぎになるでしょうからね」
「……それで、『聖女』が必要となったわけだ」
そういえば、神官長はわたしを表に出して、自分は裏方ばかりをやっていたような。カモフラージュ?
「アクアさまの神力に、我々は及びませんでしたしね」
困ったように眉を下げる神官長。……ルーカス陛下は、神官長の過去についてそれ以上追及しなかった。……ええと、とりあえず……神官長とルーカス陛下の会話が終わった、の? ふたりの顔を交互に見て首を傾げると、神官長がルーカス陛下へ真剣な表情を向けた。
「私のことはどうぞ、お好きに処分してください」
「……神官長……」
神官長は淡々とした口調でそういった。わたしは、どんな顔をしていいのかわからなくて、困ったように眉を下げる。それを慰めるように、ルーカス陛下が頭をくしゃりと撫でた。わたしのほうなんて見ていないのに、よくここまで正確にわたしの頭を把握しているなぁ……なんて、別の方向に考えをシフトしてしまった。
「ここの結界はあとどのくらい持つ?」
「アクアさまが神力で魔物を一掃しましたからね。数ヶ月は持つでしょう」
「魔法陣使っていないのに!?」
「……ああ、あの魔法陣は結界の範囲を決定するものですので……」
魔法陣は神官たちが用意してくれていたから、その意味がどんなものなのか知らなかった。魔法陣の真ん中に立って儀式をするのはわたしだったけれど……。魔法陣って結界の範囲を決めるためのものだったのか……知らなかった。
「なんでわざわざ、そんなものを……」
「魔法陣を使うようになったのは、アクアさまが聖女になってからですよ」
「そうだったの!?」
「……アクアの神力が強すぎたな」
尋ねるでもなく、確信めいた言葉だった。……わたしの神力はそんなに強いものだったの? わたしが目をぱちぱちと瞬かせると、神官長は「……この子、自分の力に気付いてないんですよね……」とどこか呆れたように肩をすくめる。
頭を撫でていたルーカス陛下が、すっと立ち上がる。そして、神官長のほうへ歩を進め、すっと剣を抜いた。……ひゅっと息を飲む。神官長が静かに目を伏せた。ルーカス陛下は剣を振り下ろした。思わずぎゅっと目を閉じた。
「……なぜ」
神官長の声が聞こえて、そっと目を開けた。そこにいたのは、長かった髪が短くなった、神官長。ルーカス陛下は剣を戻して、ひょいと散らばった神官長の髪をかき集めた。それを丁寧に持って来ていたであろう紐で縛る。……ルーカス陛下のポケットはもしやなんでも入る魔法のポケットなのだろうか……。……いや、空間収納鞄があるのだから、空間収納ポケットがあっても良いのでは……?
「これをあの国に送る。それで終わりだろう」
「……は? ……いえ、待ってください。なぜ……」
「『ヒューイ』の命は私が奪った。それにどうせ、あの国に戻るつもりはないのだろう?」
神官長は口元を隠して、それから緩やかに目元を細めた。ゆーっくりと息を吐いて、くしゃりと自分の髪をかき上げる。それから――俯いたと思ったら肩を震わせて……泣いているの? と思ったら――……。
「あっはっはっ」
お腹を抱えて笑いだした。神官長がこんな風に笑う姿を見たことがない。わたしが目を丸くしていると、神官長は一通り笑い終えたのか、「こんなに笑ったの初めてかも」と呟いた。
「私が国に帰るつもりがないと、どうして気付かれたのですか?」
「悪政を敷いていた場所に、権力者として戻るのはあまりに危険だし、『ヒューイ』という人物を調べたところ、権力に興味はなさそうだった。それに、現在の政治は落ち着いているから、評判も良い。戻ったところで捕らえられて殺されるのがオチだろう」
「正解。さすがアルストル帝国の君主。私が戻ったところで、喜ぶ国民はいないでしょう」
ちらりとこちらを見る神官長。どこか吹っ切ったような雰囲気。……ええと、権力者ってことは、かなりの身分だったということで……。もしかして王子とか公爵の子とか……そんな感じだったのかな? で、悪政を敷いていたのは神官長の身内だったということ? あぁぁあ、こういうの全然わからないっ。思わず頭を抱えそうになった。
「しかし、アルストル帝国からこんなもの送られてきたら大変なことになるのでは?」
「いや、恐らく……今あの国に送れば、正確に理解して処理するだろう」
「え、ど、どうしてですか……?」
「あの国とは今、色々なやり取りをしているからな。しかも、国王は私の友人だ」
「なにそのオチ!?」
思わず叫んだ。それなら神官長の髪を切ることなんてしなくてもよかったのでは……?
「いやぁ、短いとさっぱりしていいですね」
「神官長! ほんっとうに! それで良いのですか!?」
「あの国から逃げた時点で、私にはあの国に帰る資格なんてありませんよ。……というか、元々あの騒動は私たちが謀ってやったことですし」
「えええ……」
意味がわからない……。わたしががくりと肩を落とすと、神官長もルーカス陛下も「わからなくてよい」と言い切った。……なんなの……。
……神官長にそんな過去があったとは。護衛がつくということは、かなり良い家柄だったのでは……?
「……なるほど、大体理解した。国に帰る気はないのだな?」
「もう他国ですし……。私が生きていたと知れたら、それこそ騒ぎになるでしょうからね」
「……それで、『聖女』が必要となったわけだ」
そういえば、神官長はわたしを表に出して、自分は裏方ばかりをやっていたような。カモフラージュ?
「アクアさまの神力に、我々は及びませんでしたしね」
困ったように眉を下げる神官長。……ルーカス陛下は、神官長の過去についてそれ以上追及しなかった。……ええと、とりあえず……神官長とルーカス陛下の会話が終わった、の? ふたりの顔を交互に見て首を傾げると、神官長がルーカス陛下へ真剣な表情を向けた。
「私のことはどうぞ、お好きに処分してください」
「……神官長……」
神官長は淡々とした口調でそういった。わたしは、どんな顔をしていいのかわからなくて、困ったように眉を下げる。それを慰めるように、ルーカス陛下が頭をくしゃりと撫でた。わたしのほうなんて見ていないのに、よくここまで正確にわたしの頭を把握しているなぁ……なんて、別の方向に考えをシフトしてしまった。
「ここの結界はあとどのくらい持つ?」
「アクアさまが神力で魔物を一掃しましたからね。数ヶ月は持つでしょう」
「魔法陣使っていないのに!?」
「……ああ、あの魔法陣は結界の範囲を決定するものですので……」
魔法陣は神官たちが用意してくれていたから、その意味がどんなものなのか知らなかった。魔法陣の真ん中に立って儀式をするのはわたしだったけれど……。魔法陣って結界の範囲を決めるためのものだったのか……知らなかった。
「なんでわざわざ、そんなものを……」
「魔法陣を使うようになったのは、アクアさまが聖女になってからですよ」
「そうだったの!?」
「……アクアの神力が強すぎたな」
尋ねるでもなく、確信めいた言葉だった。……わたしの神力はそんなに強いものだったの? わたしが目をぱちぱちと瞬かせると、神官長は「……この子、自分の力に気付いてないんですよね……」とどこか呆れたように肩をすくめる。
頭を撫でていたルーカス陛下が、すっと立ち上がる。そして、神官長のほうへ歩を進め、すっと剣を抜いた。……ひゅっと息を飲む。神官長が静かに目を伏せた。ルーカス陛下は剣を振り下ろした。思わずぎゅっと目を閉じた。
「……なぜ」
神官長の声が聞こえて、そっと目を開けた。そこにいたのは、長かった髪が短くなった、神官長。ルーカス陛下は剣を戻して、ひょいと散らばった神官長の髪をかき集めた。それを丁寧に持って来ていたであろう紐で縛る。……ルーカス陛下のポケットはもしやなんでも入る魔法のポケットなのだろうか……。……いや、空間収納鞄があるのだから、空間収納ポケットがあっても良いのでは……?
「これをあの国に送る。それで終わりだろう」
「……は? ……いえ、待ってください。なぜ……」
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神官長は口元を隠して、それから緩やかに目元を細めた。ゆーっくりと息を吐いて、くしゃりと自分の髪をかき上げる。それから――俯いたと思ったら肩を震わせて……泣いているの? と思ったら――……。
「あっはっはっ」
お腹を抱えて笑いだした。神官長がこんな風に笑う姿を見たことがない。わたしが目を丸くしていると、神官長は一通り笑い終えたのか、「こんなに笑ったの初めてかも」と呟いた。
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「悪政を敷いていた場所に、権力者として戻るのはあまりに危険だし、『ヒューイ』という人物を調べたところ、権力に興味はなさそうだった。それに、現在の政治は落ち着いているから、評判も良い。戻ったところで捕らえられて殺されるのがオチだろう」
「正解。さすがアルストル帝国の君主。私が戻ったところで、喜ぶ国民はいないでしょう」
ちらりとこちらを見る神官長。どこか吹っ切ったような雰囲気。……ええと、権力者ってことは、かなりの身分だったということで……。もしかして王子とか公爵の子とか……そんな感じだったのかな? で、悪政を敷いていたのは神官長の身内だったということ? あぁぁあ、こういうの全然わからないっ。思わず頭を抱えそうになった。
「しかし、アルストル帝国からこんなもの送られてきたら大変なことになるのでは?」
「いや、恐らく……今あの国に送れば、正確に理解して処理するだろう」
「え、ど、どうしてですか……?」
「あの国とは今、色々なやり取りをしているからな。しかも、国王は私の友人だ」
「なにそのオチ!?」
思わず叫んだ。それなら神官長の髪を切ることなんてしなくてもよかったのでは……?
「いやぁ、短いとさっぱりしていいですね」
「神官長! ほんっとうに! それで良いのですか!?」
「あの国から逃げた時点で、私にはあの国に帰る資格なんてありませんよ。……というか、元々あの騒動は私たちが謀ってやったことですし」
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