恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

文字の大きさ
47 / 153
1章

47話

 ルーカス陛下と神官長は顔を見合わせて、それからぽんぽんとわたしの頭を撫でたり肩を軽く叩いたりした。

「詳細は後で伝える」
「ありがとうございます」

 ……ダラム王国はアルストル帝国の領地になるみたいだけど……平民たちはどうなるんだろう。この国に帰りたいという人たちは、戻るのかな……? 多分、そこら辺も含めて『後で』なんだろうなぁ。……そうなると、わたしが関わるのはここまで、ということなのか……。

「アクア、戻るぞ」
「え、あ、はい」
「……アクアさま、お元気で」
「神官長こそ!」

 すっと頭を下げる神官長に慌てて声を掛ける。ルーカス陛下はわたしの腕を掴むと、またテレポートしてアルストル帝国に帰った。……やっぱり便利だわ、この魔法。

「アクア、あの屋敷が気に入ったのなら、そこに住むか?」
「……へ? あ~……えっと、どうしましょう……?」

 神殿に行くまでにいた、(多分)執務室に戻り、ルーカス陛下に問われた。確かに住むところは欲しいけれど……。……こんな風に一気に色んなことが起きて、ちょっとそろそろ休憩したいと思うのは……ダメかな……。……いや、良いはず。

「ルーカス陛下は、わたしに傍にいて欲しいのですか?」

 ルーカス陛下は目を瞬かせた。それからふっと表情を和らげて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「当然だろう、妹のような存在なのだから」

 記憶を失っているわたしには、前の関係がよくわからないけど……。まぁでも、ルーカス陛下がわたしのことを案じてくれているのはわかるし、わたしの意志を尊重してくれているのもわかる。だって、ダラム王国の平民たちを助けてくれた。……わたしが、そうしたいと言ったから。
 ……だから、これ以上のワガママをいうのはなんだか違う気がして。

「じゃあ、あの屋敷に住みます」
「……そうか。ならば、そう手配しよう」

 その時のルーカス陛下の表情が、とっても優しくて……。思わず目を瞬かせた。それを不思議そうに見ていたけれど、わたしの頭を撫でて執務へと戻ろうとしたから、わたしはどうしようかなと悩んだ。ちりん、と鈴の音が聞こえた。

「お呼びでしょうか、ルーカス陛下」
「アクアを別室へ。明日にはあの屋敷の主だ」
「かしこまりました」

 執事服を着ている、おじいさん。彼はルーカス陛下とわたしに向けて頭を下げると、わたしに向けて微笑みを浮かべ、それから「アクアお嬢さま、こちらへ」と声を掛けてきた。
 ……あ、アクアお嬢さま!?
 ばっとルーカス陛下に顔を向けると、彼はくつくつと喉を震わせて笑っていた。
 聖女として『アクアさま』と呼ばれることには慣れていたけど、これはちょっと……! なにかまずいことを口にしたのかと首を傾げる執事服のおじいさんに、わたしは慌てて「なんでもありませんっ」と両手を振った。うわー、自分がお嬢さま扱いされるって鳥肌立った……。
 ……でも、そうか、……この国では、それが『当たり前』のことなのか……。王族の血が流れているから。……でもこれ、慣れることが出来るのかな、わたし……。
 とりあえず、執事服のおじいさんについて行く。歩きづらそうにしているわたしに気付くと、さっとエスコートしてくれた。ハイヒールはやっぱり慣れない。……そりゃそうだ、初めて履いてから間がないのだから。

「こちらの部屋をお使いください」
「ありがとうございます」
「今、ディーン卿とバーナード卿をお呼びしますね」
「お願いします」

 ディーンとバーナードの名前を聞いて、ちょっとホッとした。……気付かないうちに緊張していたんだろうなぁ。だって、神官長とルーカス陛下の会話って、わたしにはよくわからなかったし……。わたしに理解できたことは、神官長たちはあの場所で暮らしていけるってことくらい。いやもう国のことはわからないと諦めた。神官長が身分の高い人だということはわかったけど。そんなことを考えていると、扉がノックされた。早い。

「はーい」

 返事をすると扉が開いた。ディーンとバーナード、そして……見たことのない人たちもたくさん。だ、誰……? と入ってきた人たちを眺めると、最後のひとりが部屋に入り扉を閉めた途端に、全員がわたしに跪いた。思わず「ひっ」と変な悲鳴が出た。いやだって、わたしよりも背の高い男性たちが一斉に跪くんだよ!? そりゃあ悲鳴も上げたくなるってもんでしょう!

「な、なにごと……?」
「アクア・ルックスさま」

 ディーンがわたしに声を掛ける。……というか、『さま』って……? わたしが驚いてディーンを見ると、ディーンは顔を上げて、ふわりと微笑んだ。

「元王立騎士団魔物討伐隊、我ら一同、アクアさまにお仕えいたします」

 ……そういえば、ディーンの隊がどうのこうのと……いっていた、ね。つまり、この人たちは、ディーンの部下だった人たちということで……。ええと、魔物討伐隊ってこんなにあっさり仕事変更していいの? 頭がパニックを起こしている。

「ほ、本当にいいんですか、どこの馬の骨ともわからない人に仕えるんですよ?」
「ディーン隊長の命の恩人に仕えられるのなら、我らは喜んで仕えます」

 隊員のひとりが、そう言い切った。……ディーン、とても慕われているのね。

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

売られたケンカは高く買いましょう《完結》

アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。 それが今の私の名前です。 半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。 ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。 他社でも公開中 結構グロいであろう内容があります。 ご注意ください。 ☆構成 本章:9話 (うん、性格と口が悪い。けど理由あり) 番外編1:4話 (まあまあ残酷。一部救いあり) 番外編2:5話 (めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?

里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。 そんな時、夫は陰でこう言った。 「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」 立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。 リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。 男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。 *************************** 本編完結済み。番外編を不定期更新中。

婚約破棄の日の夜に

夕景あき
恋愛
公爵令嬢ロージーは卒業パーティの日、金髪碧眼の第一王子に婚約破棄を言い渡された。第一王子の腕には、平民のティアラ嬢が抱かれていた。 ロージーが身に覚えのない罪で、第一王子に糾弾されたその時、守ってくれたのは第二王子だった。 そんな婚約破棄騒動があった日の夜に、どんでん返しが待っていた·····

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。