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1章

48話

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 ディーンが慕われているのはなんとなくわかる気がする。いや、今考えるのはそこじゃない。っていうか自分で馬の骨というのもなんなんだけど……。いや、それも今考えることじゃないな!

「……ええと……、じゃあ、よろしく?」
「はい、誠心誠意お仕えいたします、アクアさま」

 ……こうして元魔物討伐隊が仲間に加わった! ……まぁ、あの屋敷ならこのくらいの人数で暮らすには充分すぎるくらいだろうし、……うーん。

「さて、正式にアクアからも許可が下りたし、陛下に報告してくるよ」

 すっと立ち上がってディーンが部屋を出て行こうとして、ぽんとわたしの肩に手を置く。

「アクアは『馬の骨』じゃないよ」

 ……ここでフォローに入るのが、ディーンよねぇ……。と感心しつつ、「ありがと」と答えてディーンを見送った。みんなを立たせて、とりあえず自己紹介をする。

「アクア・ルックスっていうの。みんな、よろしくね」
「よろしくお願いします、アクアさま」

 一斉に頭を下げられて、わたしはぎょっとした。その様子を見ていたバーナードの身体が震えていた。笑っているのがバレバレよ! とりあえずみんなの名前を教えてもらって、魔物討伐隊でどんなことをしていたのかを聞いた。……そして驚いた。魔物討伐ってかなり危険じゃないか……!
 そんなことをしていたなんて……! わたしが胸元をぎゅっと握ると、みんながハッとしたような表情を浮かべて慌ててフォローしてくれた。……わたし、そんなに不安そうな顔をしていた?

「……古傷とか、痛む人いる?」

 恐る恐る尋ねたわたしに、みんな不思議そうに首を傾げて、それからおずおずと手を上げる人がちらほら。その人たちを集めて、「じっとしててね」と声を掛ける。なにが始まるのだろうと不安そうな彼らに、わたしはにこっと微笑みを浮かべてみせた。

「――神よ、の者らの傷を癒したまえ――……」

 目を閉じて胸元で手を組む。身体がぽかぽかとするような感覚。きっと、みんなも感じているのだろう、大きく目を見開き、自分の身体をぺたぺたと触って、おもむろに袖を捲ったりして確認していた。

「……な、治ってる……!」
「こんな古い傷まで治るなんて……」

 驚いている、驚いている。バーナードの呆れたような表情が気になるけど、無視しとこ。

「……あの……、ちょっと気になったんだけど……。ディーンって一体わたしのことを、どう説明したの……?」
「瘴気の森で重傷だった隊長を助けて」
「瘴気の森の瘴気を浄化して」
「隊長の家の瘴気を浄化して」
「王都の瘴気も浄化して」
「……わかった、わかったからもういい!」

 この後、たぶん、子どもを助けたことと、礼拝堂で神の祝福を受けたことに続くだろう。……まさかそんなに話していたとは思わずに、わたしは顔を隠してゆっくりと息を吐いた。

「……みんなにとって、どんな仕事になるかわからないけれど……。不満とかあったらすぐに言ってね。改善できるようにがんばるから」
「……本当、ある意味すごいなお前……」

 バーナードの言葉にわたしが首を傾げると、他のみんなが顔を見合わせて眉を下げて微笑んだ。なんなんだ……。

「あ、でもみんながあの屋敷に住むのなら、色々準備しないといけないよね?」
「……あ~、それは多分、もう出来てる……」
「え?」
「あの屋敷は、ずっと管理されていたから」

 ……ああ、確かに綺麗に掃除されていたっけ。納得していると、ディーンが戻って来た。メイド服の女性も一緒だ。それも数人。みんなわたしよりもちょっと年上くらい。ディーンに視線を向けると、彼はにこやかに、

「この人たちはアクアに仕えるって」

 と、いった。……うん、どうしてそうなった。思わず心の中でツッコミを入れる。

「ど、どういうことなの……」
「陛下が気を利かせてくれたみたい」
「……そう……」

 ルーカス陛下、わたしに対してそんなに甘くていいのか……? なんて思ったけど、男性ばかりの場所にわたしを置いておけないとか? なんてね。

「ええと、じゃあ……」

 また自己紹介から始まった。そして痛む場所がある人には回復魔法を掛けた。みんな痛みがなくなって喜んでくれたみたい。良かった良かった。そして、今日はそのままみんなで色んな話をした。どんな待遇を望むとか、この国のことをわたしは詳しく知らないから、そこら辺も含めて。
 わたしのサイクルに合わせると、早起きすることになることとか、事細かに話し合う。神殿で暮らして来た十年間が、この国のサイクルと合っているとは思わないし……。ただひとつだけお願いした。朝起きたら礼拝堂でお祈りすることを。神を信じていても、信じていなくても、わたしにとっては大事なルーティンだから……。拙い言葉でそれを説明すると、なぜかみんな微笑ましそうにわたしを見ていた。……なぜ?
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