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1章

52話

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 そんな話をしていると、買い物班が食料やらなにやらを大量に買い込んで来てくれたようだ。……ディーンは買い物班だった。バーナードがディーンに気付くと、荷物を持つのを手伝いに行く。仲が良いなぁとほのぼの眺めていると、ばちっとバーナードと視線が交わった。そして、口パクでなにかいっているみたいだったけど、……わたしが唇の動きだけでわかるわけないじゃん……。

「買い物も終わったようですし、私たちは厨房へ向かいましょうか」
「そうだね」

 セシリーと一緒に厨房に向かった。そこにはすでに食材が運ばれていて……というか、今も運ばれ続けている。こんなに、と思ったけれど考えてみればここにいる人たちは男性だ。成人男性の食欲ってどのくらいなんだろう? 神殿にいた頃は、神官たちと一緒に食べるって滅多になかったし……。さっぱりわからない、ので、聞いてみよう。

「男性陣ってこのくらいの量でどのくらい持つの?」
「えーっと、これでも約三日分くらい、のつもりで買ってきましたが……」

 買い物班の男性をつかまえて、尋ねてみる。すると、そんな返答が来てわたしは「三日!?」と目を丸くした。……たった三日でなくなるの、この食料……? そっちにびっくりした。……成人男性ってよく食べるのね……。

「ええと、じゃあ頻繁に買いに行かないとダメよね……」
「そこら辺もローテで良いんじゃない?」

 背後から声を掛けられた。ディーンだ。くるっと振り返ると、なにかを差し出して来た。

「陛下から、アクアに」
「……鳥?」

 あ、待って違う。鳥は鳥でもこれは……一回見たことのある魔法だ。そっと触れると、鳥は文字になった。ルーカス陛下から、ディナーのお誘いだ。……ふむ、わたしも話したいことがあったし、丁度いいね。

「ディーン、これはどうやって返事をするの?」
「オレから出しておこうか?」
「自分でやってみたい!」

 目を輝かせてそういうと、ディーンは小さく微笑みを浮かべて、魔法の使い方を教えてくれた。
 教わった通りに魔力を使い空中に文字を書く。返事は短めに、是非、とお願いしたいことがあります。書き終わったら、ルーカス陛下に届くように、と文字を閉じ込めるように両手でぎゅっとして、手を離す。――鳥になった! パタパタと飛んでいく鳥を見送って――壁の中を通り抜けていったのは見なかったことにした――……、ディーンに魔法を教えてくれたお礼を口にすると、「どういたしまして」と優しくわたしの頭を撫でた。……彼にとっても、わたしは妹のような存在だったのだろう、たぶん。覚えてなくてごめんね、と考えた瞬間、ちりっと痛みを感じた。

「……なんだろ……?」

 痛みを感じた部分は頭だ。身体は健康なのに……。わたしが額に手をぺたんとくっつけると、ディーンが首を傾げた。

「一瞬頭が痛かったような気がしたんだけど……、気のせいだったみたい」
「……そう? あまり無理はしないようにね。あれだけの神力しんりょく使ったんだから」
「はーい」

 心配性だなぁ。なんて心の中で呟いた。ま、放っておいても大丈夫だろうと判断して(なんせ身体は元気いっぱいだったから)、料理班に混じる。その前に、買い物班が仕入れたエプロンに腕を通した。こういうのも買ってきてくれるなんて、気が利くなぁ!
 額に触れたけど、熱も高くなさそうだったし……うん、きっと気のせい、気のせい。わたしはみんなと料理をすることを選んだ。
 これが大正解! みんなでワイワイと料理を作るのが楽しかった。マッシュポテトを作ったりベーコンとたまごを焼いたり……パンも焼いた。野菜たっぷりのスープもみんなで作って、みんなで食べた。ノースモア公爵家にいた十日くらいは、こうやってみんなで食べていたんだよなぁと懐かしくなる。わたしのワガママに、みんなちょっと戸惑っていたみたいだけど、食欲には勝てなかったようだ。出来立て熱々の料理って、すっごく魅力的だよね!
 神殿にいた頃はほぼひとりで食べていたし……、みんなで食べるのがこんなにも美味しいとは知らなかった。……いや、もしかしたら知っていたかもしれないけれど。
 まぁ、過去の記憶がなくてもこうしてちゃんと生きているし……、正直、知るのが怖いからこのままでも良いかなぁ、なんて思っていたのよ。
 ああ、でも……お父さんとお母さんってどういう人だったのかは、知りたいかも。そんなことを考えながら、みんなで一緒にご飯を食べた。その後は自由時間にすることにして、ディーンは元魔物討伐隊の人たちと話し合うことがあるらしくその人たちを集め、セシリーもまたメイド服の女性たちを集めて話し合うそうだ。今後のことを。
 ……というわけで、わたしをひとりにするわけにはいかない、っていう理由でバーナードと一緒に過ごすことになったんだけど……。

「……なんだよ、その目は……」
「え、いやぁ、……えーっと。バーナードはディーンと同じ隊だったんだよね。魔物討伐部隊って、他にもあるの?」
「俺らより強い部隊はそうはいないと思う。とはいえ、俺らは寄せ集め部隊のようなもんだから、こっち側に来たほうが給料は良い」

 こっち側……わたしの護衛云々、ってことよね。魔物討伐に行くくらいだから、みんな強いんだろうなぁ……。訓練場とか作ったほうが良いのかな、それとももうこの屋敷内にあるのかな。
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