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1章
62話
「アクアさまのことはお兄さまから、多少聞いております」
「王族の血を引いていることも知っております」
え、と小さい声が出た。ぐりんっと顔をバーナードのほうに向けると、彼は自分の髪をくしゃりと掻き上げて、「仕方ないだろ」と息を吐いた。
「アクアのことを説明しようとすると、それは欠かせない情報だ」
「そう、かなぁ……? まぁ、でも確かに差は出るかも……?」
ポジティブに考えてみた。だからこんなに丁寧に接してくれるのか……そう考えるとちょっと複雑?
「ええと、ふたりにはコボルトたちが人間の街でも暮らしやすくなるように、手助けして欲しいの。で、週に一回、コボルト音楽隊が音楽を流すので、それの手助けもして欲しいなって……」
「コボルト音楽隊?」
ディーンに尋ねられた。
「勝手に名付けた。コボルトが週に一回音楽を奏でるから、コボルト音楽隊」
「……そのままだね」
わたしに名付けセンスを期待しないで欲しい。ただ、コボルトたちは嬉しそうに尻尾を振っていたから、多分気に入ってくれたのだろう。
「そう! 音楽!」
いきなりラシードが声を上げた。
「コボルトの音楽がどのようなものなのか、とても興味深い! 是非、一度演奏してみてくれないか!」
目をらんらんと輝かせてコボルトたちを見る。そんなに興味があったのか……とフィロメナへ視線を向けると、「ごめんなさいね」となぜか謝られた。なぜ?
「あの人、魔物の研究をしていますの。コボルトがあの手でどうやって音楽を奏でているのか、とても興味を惹かれたようで……」
コボルトの手って肉球がぷにぷにしていて触り心地がとってもいいんだよね……。でも、確かにちょっと謎かも。あのぷにぷにした手で奏でられる音楽……というか、楽器の扱いが。コボルトの手は気持ちいいんだけど、爪は結構鋭利だ。引っ掻かれたら多分……いや絶対痛いと思う。そんな爪で器用に弦楽器を弾くのだ。……いや、きっとコボルト用に出来ていると思うんだけどね。
「演奏する?」
「どうする?」
「アクア、どうしよう?」
「え、決定権わたしなの!?」
思わず自分のこと指差すと、コボルトたちがこくこくうなずいた。わたしはう~ん、と腕を組んで悩む。……でも、そうね。どうせなら、思いっきり楽しんじゃうのが良いよね!
「じゃあ、最高に楽しい音楽を奏でよう!」
「最高に!」
「楽しい!」
「音楽!」
ワーワーと盛り上がるわたしたちは、早速とばかりに庭へ移動した。あまり人通りもないようで、静かだった。コボルトたちは楽器を構えて音を鳴らす。わたしが『楽しい音楽を』といったからか、コボルトたちは軽快なリズムの音を奏で始めた。……本当、その爪で良く弦楽器が弾けるなぁと感心してしまう。
「……おお、なんて見事な……!」
あまりにもうっとりとした声でそういうから、じっとその顔を眺めてしまった。恍惚としていた。コボルトの可愛さにメロメロになったというわけではなさそうなんだよなぁ。
「なんだか聞いていると元気が出てきそうな、楽しい音楽ですね」
「うん、コボルトたちも楽しそう!」
庭で音楽を奏でていたからか、興味を惹かれた人たちがひょっこりと顔を覗かせた。そして、コボルトに気付くとびくっと肩を震わせてその場から去ろうとする――のを、ディーンが呼び止めた。
「どうせなら近くで聞いて?」
とでもいったのかな? 女性たちはディーンの顔に惹かれたのか、ディーンを見つめながら庭に足を踏み入れた。モテモテだ!
他の人たちも、興味深そうに見ていたらわたしも「近くで聞いてみて?」と誘ってみた。子どもたちはぱぁっと嬉しそうに笑ってコボルトのほうへ駆け寄っていった。それを見ていた両親、なのかな? も、慌てて追いかける。
「……ふふっ」
「なんだよ、いきなり笑って」
「いや、なんか人の縁って不思議だなって思って」
ダラム王国から追放された時は、この後の人生がどうなるのかわからなくて、結構不安でもあったのよね。それが、瘴気の森で出会ったディーンとバーナードを始めとする、親切な人たちに出会えた。それって、すっごく幸運なことだったんじゃないかな、って。そう思ったのよ。
演奏が終わると、しんと静まり返った。演奏を聞かせてくれたコボルトたちに、拍手を送ると他の人たちもぱちぱちと拍手を送っていた。
「ねぇねぇ、どうしてふわふわなの?」
「もっと聞きたーい!」
「もこもこ?」
子どもたちの質問攻めが始まった! コボルトに会うの初めてだろうに……。きっと好奇心が勝ったんだろうな。小さく微笑みを浮かべて、わたしはコボルトたちに近付いた。困ったような顔をしていたから、助け舟を出しておこう。
「コボルトたちの音楽、楽しかった?」
「うんっ! すっごく楽しかった!」
「可愛かった!」
「ふわふわ、もこもこ!」
「うんうん、楽しかったね。コボルトたちはね、今日からこのお屋敷で暮らすんだ。良かったら、仲良くしてね」
にこっと微笑みながらそういうと、子どもたちはきゃーきゃーと楽しそうにはしゃいだ。どうやらコボルトのことも、コボルトの音楽のことも気に入ったみたい。こんな風に、コボルトたちと仲良くなってくれると嬉しいな。
「仲良くするー!」
「明日も聞ける?」
「明日は……うーん、どうだろう? でもね、週に一回は聞けるから、楽しみにしてて」
ぱちんとウインクしてみると、子どもたちも真似してウインクしてくれた。可愛い。
そして、大人たちにはディーンたちが説明してくれたようだ。そして、受け入れてくれたようだ。さすが公爵家の子息。顔が広い。みんな、ディーンがそういうなら……って感じだった。持つべきものは顔の広い友達、なんてね。
それじゃあ、最後は――ララを、ルーカス陛下の元へと送り届けないと!
「王族の血を引いていることも知っております」
え、と小さい声が出た。ぐりんっと顔をバーナードのほうに向けると、彼は自分の髪をくしゃりと掻き上げて、「仕方ないだろ」と息を吐いた。
「アクアのことを説明しようとすると、それは欠かせない情報だ」
「そう、かなぁ……? まぁ、でも確かに差は出るかも……?」
ポジティブに考えてみた。だからこんなに丁寧に接してくれるのか……そう考えるとちょっと複雑?
「ええと、ふたりにはコボルトたちが人間の街でも暮らしやすくなるように、手助けして欲しいの。で、週に一回、コボルト音楽隊が音楽を流すので、それの手助けもして欲しいなって……」
「コボルト音楽隊?」
ディーンに尋ねられた。
「勝手に名付けた。コボルトが週に一回音楽を奏でるから、コボルト音楽隊」
「……そのままだね」
わたしに名付けセンスを期待しないで欲しい。ただ、コボルトたちは嬉しそうに尻尾を振っていたから、多分気に入ってくれたのだろう。
「そう! 音楽!」
いきなりラシードが声を上げた。
「コボルトの音楽がどのようなものなのか、とても興味深い! 是非、一度演奏してみてくれないか!」
目をらんらんと輝かせてコボルトたちを見る。そんなに興味があったのか……とフィロメナへ視線を向けると、「ごめんなさいね」となぜか謝られた。なぜ?
「あの人、魔物の研究をしていますの。コボルトがあの手でどうやって音楽を奏でているのか、とても興味を惹かれたようで……」
コボルトの手って肉球がぷにぷにしていて触り心地がとってもいいんだよね……。でも、確かにちょっと謎かも。あのぷにぷにした手で奏でられる音楽……というか、楽器の扱いが。コボルトの手は気持ちいいんだけど、爪は結構鋭利だ。引っ掻かれたら多分……いや絶対痛いと思う。そんな爪で器用に弦楽器を弾くのだ。……いや、きっとコボルト用に出来ていると思うんだけどね。
「演奏する?」
「どうする?」
「アクア、どうしよう?」
「え、決定権わたしなの!?」
思わず自分のこと指差すと、コボルトたちがこくこくうなずいた。わたしはう~ん、と腕を組んで悩む。……でも、そうね。どうせなら、思いっきり楽しんじゃうのが良いよね!
「じゃあ、最高に楽しい音楽を奏でよう!」
「最高に!」
「楽しい!」
「音楽!」
ワーワーと盛り上がるわたしたちは、早速とばかりに庭へ移動した。あまり人通りもないようで、静かだった。コボルトたちは楽器を構えて音を鳴らす。わたしが『楽しい音楽を』といったからか、コボルトたちは軽快なリズムの音を奏で始めた。……本当、その爪で良く弦楽器が弾けるなぁと感心してしまう。
「……おお、なんて見事な……!」
あまりにもうっとりとした声でそういうから、じっとその顔を眺めてしまった。恍惚としていた。コボルトの可愛さにメロメロになったというわけではなさそうなんだよなぁ。
「なんだか聞いていると元気が出てきそうな、楽しい音楽ですね」
「うん、コボルトたちも楽しそう!」
庭で音楽を奏でていたからか、興味を惹かれた人たちがひょっこりと顔を覗かせた。そして、コボルトに気付くとびくっと肩を震わせてその場から去ろうとする――のを、ディーンが呼び止めた。
「どうせなら近くで聞いて?」
とでもいったのかな? 女性たちはディーンの顔に惹かれたのか、ディーンを見つめながら庭に足を踏み入れた。モテモテだ!
他の人たちも、興味深そうに見ていたらわたしも「近くで聞いてみて?」と誘ってみた。子どもたちはぱぁっと嬉しそうに笑ってコボルトのほうへ駆け寄っていった。それを見ていた両親、なのかな? も、慌てて追いかける。
「……ふふっ」
「なんだよ、いきなり笑って」
「いや、なんか人の縁って不思議だなって思って」
ダラム王国から追放された時は、この後の人生がどうなるのかわからなくて、結構不安でもあったのよね。それが、瘴気の森で出会ったディーンとバーナードを始めとする、親切な人たちに出会えた。それって、すっごく幸運なことだったんじゃないかな、って。そう思ったのよ。
演奏が終わると、しんと静まり返った。演奏を聞かせてくれたコボルトたちに、拍手を送ると他の人たちもぱちぱちと拍手を送っていた。
「ねぇねぇ、どうしてふわふわなの?」
「もっと聞きたーい!」
「もこもこ?」
子どもたちの質問攻めが始まった! コボルトに会うの初めてだろうに……。きっと好奇心が勝ったんだろうな。小さく微笑みを浮かべて、わたしはコボルトたちに近付いた。困ったような顔をしていたから、助け舟を出しておこう。
「コボルトたちの音楽、楽しかった?」
「うんっ! すっごく楽しかった!」
「可愛かった!」
「ふわふわ、もこもこ!」
「うんうん、楽しかったね。コボルトたちはね、今日からこのお屋敷で暮らすんだ。良かったら、仲良くしてね」
にこっと微笑みながらそういうと、子どもたちはきゃーきゃーと楽しそうにはしゃいだ。どうやらコボルトのことも、コボルトの音楽のことも気に入ったみたい。こんな風に、コボルトたちと仲良くなってくれると嬉しいな。
「仲良くするー!」
「明日も聞ける?」
「明日は……うーん、どうだろう? でもね、週に一回は聞けるから、楽しみにしてて」
ぱちんとウインクしてみると、子どもたちも真似してウインクしてくれた。可愛い。
そして、大人たちにはディーンたちが説明してくれたようだ。そして、受け入れてくれたようだ。さすが公爵家の子息。顔が広い。みんな、ディーンがそういうなら……って感じだった。持つべきものは顔の広い友達、なんてね。
それじゃあ、最後は――ララを、ルーカス陛下の元へと送り届けないと!
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