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1章
63話
「ええと、じゃああとはふたりに任せていいかな? そして後で遊びに来てもいい?」
「はい、もちろん。お待ちしておりますね」
「その時は、色々なお話をしましょうね」
夫婦は似るらしいけれど、確かにこのふたりの雰囲気って似ているかも。
わたしはララに近付いて、声を掛けた。ララは緊張した面持ちでこくりとうなずいた。
「最後は……ルーカス陛下のところね」
「ああ」
「じゃあ、帰りの馬車に乗って行こう」
コボルトたちに「またね!」と手を振って別れの言葉を口にすると、コボルトたちは「うん!」と元気いっぱいに答えてからぶんぶんと手を振った。見ているだけで和むわ、本当……。
馬車に乗り込んで今度は城へと……向かおうとしたら、鳥が飛んできた。馬車の中に。魔法だってわかっているけれど、一瞬びくっと肩が震えてしまった。
「……ん?」
どうやら城ではなく、わたしたちが住んでいる屋敷に戻ったほうが良さそうだ。ルーカス陛下、そんなにコボルトに会いたかったのかな?
☆☆☆
なんてお気楽に考えていた、数十分前のわたし。緊急事態です。
なんでここに、元老院のおじいちゃんたちがいるのよ……!
セシリーに視線を向けると、彼女は困ったように眉を下げていた。そりゃそうだ。
「ええと、ルーカス陛下、これは一体……?」
とりあえず、説明を求めるために不機嫌そうなルーカス陛下に視線を向ける。その視線を受けて、ルーカス陛下はゆっくりと元老院のおじいちゃんたちを見た。
「コボルトと人間の交流を、反対しているらしい」
「えっ!?」
反対もなにも、もう交流しちゃっているよ!? といいそうになったのをなんとか堪えた。じろじろとコボルトを見る元老院のおじいちゃんたち。その視線は……なんか、イヤな感じだ。瘴気を浄化したのに、ここだけくすぶっているような……こんな、瘴気を微塵も感じない神聖なる場所で!
「……だからといって、大勢でわたしになんの連絡もなく押しかけるのは、大人としてどうなのでしょう?」
――にこり、と微笑みを浮かべて嫌味を口にすると、そう来るとは思わなかったのかちょっとだけおじいちゃんたちがびくりと肩を震わせた。
「そもそも、コボルトは魔物。魔物と人間が共存など、出来るわけがなかろう」
「なぜ?」
「生き方が違うのだ、いつ、こちらに牙を剥くのかわからぬ存在なのだぞ!」
「……それは、人間も同じじゃない?」
わたしは眉を顰めておじいちゃんたちを睨むように見た。魔物が人間を襲う主な理由は、自分の住んでいる場所を荒らされるが一番多い。知らずに魔物の領域に入り込んでしまう人間も多い。魔物も、人間も、生きることに必死なのだ。
「……というか、それだと人間同士の争いはどうなるの? 戦争だって、魔物は関係していないわ」
「よく回る口だこと……」
「おじいちゃんが変なことを言うからでしょ」
おじいちゃん、と呼ばれてぎょっとしたような顔をされた。その顔ちょっと傷つくんですけど!
「わたしがダラム王国に攫われたのだって、人間の仕業でしょ。それに、コボルトたちが人間を傷つけたところを見たことがあるの?」
それは……、とおじいちゃんたちが顔を逸らす。コボルトって森の中でひっそりと暮らしているから、人間たちに会うことも少ない。そして、たとえコボルトの村に足を踏み入れたとしても、コボルトたちは人間を襲ったりしない、平和的な子たちだ。戦士がいるのは、他の魔物からコボルトの村を守るためだし……魔物同士の争いも、人間同士の争いも、結局は――……。
「なにも知らないのに、知ろうとしないのに、受け入れられない、なんて勿体ないわ!」
「……も、勿体ない……?」
ぱちぱちと目を丸くするおじいちゃんたちに、わたしは一気に話す。
「そうよ! 知らないからこそ、知っていくの! 人間だってそうでしょう? 他国の人たちと仲良くなるために、知っていくでしょう? それは、コボルトとだって同じことよ! もしかしたら人間に敵意のない魔物だって、他にもいるかもしれないんだし! 最初からそんな態度だと、敵だと思われるんじゃないかなぁ? ……それとも、おじいちゃんたちは敵対したいの?」
すっと目元を細めておじいちゃんたちを見ると、おじいちゃんたちはなんの反応もしなかった。……無反応ってことは、もしかしたらそう考えていたのかな。
「……ああ、そうだ。ルーカス陛下。コボルトたちと大通りの人たち、既に交流しました」
「音楽を?」
「はい。みんな楽しそうに聞いてくれました」
大通りでのことを話すと、おじいちゃんたちの目つきが鋭くなった。……ああ、もう! なんでそんなに瘴気を纏っているの! わたしはゆっくりと息を吐いて、じっとおじいちゃんを見つめた。見つめられたおじいちゃんたちは、無言でこちらを睨んでいる。
「――残念だったな、国民はコボルトのことを受け入れるそうだ」
「魔物を街に入れるなど、争いの種をまいているのと同じこと」
「……お言葉ですが」
ぽつり、とララが言葉を呟いた。……あれ、ララの話し方は他のコボルトと違い、片言ではない。ララは悲しそうに尻尾を垂らして、それでもおじいちゃんたちに向かい言葉を紡ぐ。
「コボルトは人間と争うことを望んでおりません。コボルトは人間が……いえ、違いますね。こういう場合は個人名を言うべきでしょうか。コボルトはアクアが好きです」
……うん? えっと、ララ……? なぜ、そこでわたしの名が出て来るの……? 困惑しながらララを見つめると、ララは微笑みながら言葉を続けた。
「はい、もちろん。お待ちしておりますね」
「その時は、色々なお話をしましょうね」
夫婦は似るらしいけれど、確かにこのふたりの雰囲気って似ているかも。
わたしはララに近付いて、声を掛けた。ララは緊張した面持ちでこくりとうなずいた。
「最後は……ルーカス陛下のところね」
「ああ」
「じゃあ、帰りの馬車に乗って行こう」
コボルトたちに「またね!」と手を振って別れの言葉を口にすると、コボルトたちは「うん!」と元気いっぱいに答えてからぶんぶんと手を振った。見ているだけで和むわ、本当……。
馬車に乗り込んで今度は城へと……向かおうとしたら、鳥が飛んできた。馬車の中に。魔法だってわかっているけれど、一瞬びくっと肩が震えてしまった。
「……ん?」
どうやら城ではなく、わたしたちが住んでいる屋敷に戻ったほうが良さそうだ。ルーカス陛下、そんなにコボルトに会いたかったのかな?
☆☆☆
なんてお気楽に考えていた、数十分前のわたし。緊急事態です。
なんでここに、元老院のおじいちゃんたちがいるのよ……!
セシリーに視線を向けると、彼女は困ったように眉を下げていた。そりゃそうだ。
「ええと、ルーカス陛下、これは一体……?」
とりあえず、説明を求めるために不機嫌そうなルーカス陛下に視線を向ける。その視線を受けて、ルーカス陛下はゆっくりと元老院のおじいちゃんたちを見た。
「コボルトと人間の交流を、反対しているらしい」
「えっ!?」
反対もなにも、もう交流しちゃっているよ!? といいそうになったのをなんとか堪えた。じろじろとコボルトを見る元老院のおじいちゃんたち。その視線は……なんか、イヤな感じだ。瘴気を浄化したのに、ここだけくすぶっているような……こんな、瘴気を微塵も感じない神聖なる場所で!
「……だからといって、大勢でわたしになんの連絡もなく押しかけるのは、大人としてどうなのでしょう?」
――にこり、と微笑みを浮かべて嫌味を口にすると、そう来るとは思わなかったのかちょっとだけおじいちゃんたちがびくりと肩を震わせた。
「そもそも、コボルトは魔物。魔物と人間が共存など、出来るわけがなかろう」
「なぜ?」
「生き方が違うのだ、いつ、こちらに牙を剥くのかわからぬ存在なのだぞ!」
「……それは、人間も同じじゃない?」
わたしは眉を顰めておじいちゃんたちを睨むように見た。魔物が人間を襲う主な理由は、自分の住んでいる場所を荒らされるが一番多い。知らずに魔物の領域に入り込んでしまう人間も多い。魔物も、人間も、生きることに必死なのだ。
「……というか、それだと人間同士の争いはどうなるの? 戦争だって、魔物は関係していないわ」
「よく回る口だこと……」
「おじいちゃんが変なことを言うからでしょ」
おじいちゃん、と呼ばれてぎょっとしたような顔をされた。その顔ちょっと傷つくんですけど!
「わたしがダラム王国に攫われたのだって、人間の仕業でしょ。それに、コボルトたちが人間を傷つけたところを見たことがあるの?」
それは……、とおじいちゃんたちが顔を逸らす。コボルトって森の中でひっそりと暮らしているから、人間たちに会うことも少ない。そして、たとえコボルトの村に足を踏み入れたとしても、コボルトたちは人間を襲ったりしない、平和的な子たちだ。戦士がいるのは、他の魔物からコボルトの村を守るためだし……魔物同士の争いも、人間同士の争いも、結局は――……。
「なにも知らないのに、知ろうとしないのに、受け入れられない、なんて勿体ないわ!」
「……も、勿体ない……?」
ぱちぱちと目を丸くするおじいちゃんたちに、わたしは一気に話す。
「そうよ! 知らないからこそ、知っていくの! 人間だってそうでしょう? 他国の人たちと仲良くなるために、知っていくでしょう? それは、コボルトとだって同じことよ! もしかしたら人間に敵意のない魔物だって、他にもいるかもしれないんだし! 最初からそんな態度だと、敵だと思われるんじゃないかなぁ? ……それとも、おじいちゃんたちは敵対したいの?」
すっと目元を細めておじいちゃんたちを見ると、おじいちゃんたちはなんの反応もしなかった。……無反応ってことは、もしかしたらそう考えていたのかな。
「……ああ、そうだ。ルーカス陛下。コボルトたちと大通りの人たち、既に交流しました」
「音楽を?」
「はい。みんな楽しそうに聞いてくれました」
大通りでのことを話すと、おじいちゃんたちの目つきが鋭くなった。……ああ、もう! なんでそんなに瘴気を纏っているの! わたしはゆっくりと息を吐いて、じっとおじいちゃんを見つめた。見つめられたおじいちゃんたちは、無言でこちらを睨んでいる。
「――残念だったな、国民はコボルトのことを受け入れるそうだ」
「魔物を街に入れるなど、争いの種をまいているのと同じこと」
「……お言葉ですが」
ぽつり、とララが言葉を呟いた。……あれ、ララの話し方は他のコボルトと違い、片言ではない。ララは悲しそうに尻尾を垂らして、それでもおじいちゃんたちに向かい言葉を紡ぐ。
「コボルトは人間と争うことを望んでおりません。コボルトは人間が……いえ、違いますね。こういう場合は個人名を言うべきでしょうか。コボルトはアクアが好きです」
……うん? えっと、ララ……? なぜ、そこでわたしの名が出て来るの……? 困惑しながらララを見つめると、ララは微笑みながら言葉を続けた。
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