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1章
64話
「ダラム王国で、コボルトたちの存在を気に掛けてくれたのはアクアだけでした。同じ国に住む者同士が助け合うのは当然という態度で、気に掛けてくれていました。アクアはコボルトにとっても聖女なのです」
え、えーっと、わたしもう聖女って役割ではないんだよなぁ……とツッコミを入れてもいいものか。ダラム王国から追放されたわたしを、コボルトたちは気にしてくれていたのかもしれないね。
「コボルトたちだって、最初からアクアが好きだったわけではありません」
わたしが目を瞬かせると、ララは申し訳なそうにクゥン、と鳴いた。い、いやいや、最初から好かれていたらびっくりだけどね! 後でフォロー入れておこう。
「年に一回でも会ううちに、アクアの人柄がわかり好きになっていったのです」
こっちがフォローもらっている気がする!
最初から好きだったというわけではなく、知って好きになってくれた。それがなんだか、嬉しかった。思わず背後からララに抱き着いた。モフモフの身体をぎゅっと抱きしめるとララの手がそっとわたしの手と重なった。ぷにっとした肉球の感覚でわかる。
「――共存の道を、探したいのです」
ララは優しい口調で、そう話した。
「今日、人間たちがコボルトたちの音楽を聞いて、とても楽しんでいました。その姿を見て、とても嬉しい気持ちになりました。コボルトと人間は、楽しいと思えることが同じなのだと――……」
その言葉を聞いて、おじいちゃんたちはバツが悪そうに口を噤んだ。コボルトのほうが、先を見ていることに気付いたのかもしれない。
ふっ、と軽く笑う声が聞こえた。ルーカス陛下が笑ったようだ。
「――さて、コボルトの音楽も聞いたことがない元老院の方々、週に一度の音楽の日、月に一度は見に行くことを命じる」
ルーカス陛下が驚くべき命令を出した。おじいちゃんたちもびっくりしてぽかんと口を開けちゃったよ!
「どうせなら、聞いてから判断すればいいだろう。そして、しっかりとその目で国民たちの顔とコボルトたちの顔を見てこい。これは勅命だ」
「……そうね、それは良い考えだわ!」
わたしはぱっとララから離れて、今度はルーカス陛下の腕に抱き着いた。国民の顔を見ないで決めるのは待って欲しいし、おじいちゃんたちにもコボルトの音楽を聞いて欲しい。
――きっと、おじいちゃんたちにとっても、コボルトの音楽は胸に響くと思うから。
「な、なぜ……、我々が魔物の音楽を……」
「……頭の固いヤツラめ」
ぽつりとルーカス陛下が、わたしにだけ聞こえるように呟いた。思わず吹き出しそうになってしまったけれど、なんとか耐えた。
「勅命と言ったはずだが?」
自分に逆らう者は許さないとばかりの態度に、おじいちゃんたちはがくりと肩を落とした。ピリピリとした空気が、一気にどっかに行っちゃった感じ。わたしはほっとして息を吐いた。それから、おじいちゃんたちをじっと見つめる。
「――神よ、彼らの瘴気を浄化したまえ――……」
――目を閉じて、そう呟く。わたしの声が届いたのは多分、ルーカス陛下だけだったろう。……すると、驚くことにおじいちゃんたちの中で、わたしの浄化を拒否したように、神力を弾いた人がいた。びっくりしてぎゅっとルーカス陛下の腕にしがみつく。
……わたしが浄化に失敗したの、これが初めてなのよ……。
「アクア? どうした?」
心配そうに尋ねて来るルーカス陛下に、わたしは首を左右に振った。おじいちゃんたちは「時間を無駄にした」といって屋敷から出て行った。……なんなんだ、本当に。
「……アクア? 顔色が悪いよ?」
ディーンが心配そうに声を掛けてきた。わたしは、がしっとディーンの手を取った。それを見ていたバーナードが怪訝そうな表情を浮かべ、それから震えているわたしに気付いたルーカス陛下が、「アクア?」と柔らかい口調で名前を呼んだ。
「――浄化を、拒否された……」
わたしの言葉があまりにも意外だったのか、みんなびっくりしたような表情を浮かべていた。そして、それは誰だった? とルーカス陛下に聞かれたから真ん中のおじいちゃん、と答えた。すると、ディーンとバーナードがハッとしたように顔を上げた。
「……十年前にも、一応容疑に掛かっていましたよね」
「……やはり、な。全く、元老院という名の暴君め……」
ルーカス陛下よりも元老院のほうが権力あるということなのかしら? そんな感じはしなかったけれど、そもそも元老院のことについても知らないしな、わたし。
「……あの、それで結局、ララはどうすれば良いのでしょうか」
「あっ、そうだった! ええと、ルーカス陛下。長老が、ララを紹介してくれました」
「あの子どものコボルトとは、話し方が随分と違うのだな」
ココのことをいっているんだろう。わたしもそれ、びっくりした。長老も流暢に喋るけど、ララはそれ以上に流暢だ。
「ということは、ララ……と言ったか。君が私の話し相手か」
「ご挨拶が遅れました。コボルトの村、長老の娘、ララと申します」
長老の娘だったんだ~……。え、娘? 孫じゃなくて、娘!?
「私は――」
「存じております、ルーカス陛下」
「そうか。……では、細かいことを色々決めようか」
ルーカス陛下の言葉に、わたしたちは顔を見合わせて……ちょっと休憩したいです、とルーカス陛下にお願いした。
え、えーっと、わたしもう聖女って役割ではないんだよなぁ……とツッコミを入れてもいいものか。ダラム王国から追放されたわたしを、コボルトたちは気にしてくれていたのかもしれないね。
「コボルトたちだって、最初からアクアが好きだったわけではありません」
わたしが目を瞬かせると、ララは申し訳なそうにクゥン、と鳴いた。い、いやいや、最初から好かれていたらびっくりだけどね! 後でフォロー入れておこう。
「年に一回でも会ううちに、アクアの人柄がわかり好きになっていったのです」
こっちがフォローもらっている気がする!
最初から好きだったというわけではなく、知って好きになってくれた。それがなんだか、嬉しかった。思わず背後からララに抱き着いた。モフモフの身体をぎゅっと抱きしめるとララの手がそっとわたしの手と重なった。ぷにっとした肉球の感覚でわかる。
「――共存の道を、探したいのです」
ララは優しい口調で、そう話した。
「今日、人間たちがコボルトたちの音楽を聞いて、とても楽しんでいました。その姿を見て、とても嬉しい気持ちになりました。コボルトと人間は、楽しいと思えることが同じなのだと――……」
その言葉を聞いて、おじいちゃんたちはバツが悪そうに口を噤んだ。コボルトのほうが、先を見ていることに気付いたのかもしれない。
ふっ、と軽く笑う声が聞こえた。ルーカス陛下が笑ったようだ。
「――さて、コボルトの音楽も聞いたことがない元老院の方々、週に一度の音楽の日、月に一度は見に行くことを命じる」
ルーカス陛下が驚くべき命令を出した。おじいちゃんたちもびっくりしてぽかんと口を開けちゃったよ!
「どうせなら、聞いてから判断すればいいだろう。そして、しっかりとその目で国民たちの顔とコボルトたちの顔を見てこい。これは勅命だ」
「……そうね、それは良い考えだわ!」
わたしはぱっとララから離れて、今度はルーカス陛下の腕に抱き着いた。国民の顔を見ないで決めるのは待って欲しいし、おじいちゃんたちにもコボルトの音楽を聞いて欲しい。
――きっと、おじいちゃんたちにとっても、コボルトの音楽は胸に響くと思うから。
「な、なぜ……、我々が魔物の音楽を……」
「……頭の固いヤツラめ」
ぽつりとルーカス陛下が、わたしにだけ聞こえるように呟いた。思わず吹き出しそうになってしまったけれど、なんとか耐えた。
「勅命と言ったはずだが?」
自分に逆らう者は許さないとばかりの態度に、おじいちゃんたちはがくりと肩を落とした。ピリピリとした空気が、一気にどっかに行っちゃった感じ。わたしはほっとして息を吐いた。それから、おじいちゃんたちをじっと見つめる。
「――神よ、彼らの瘴気を浄化したまえ――……」
――目を閉じて、そう呟く。わたしの声が届いたのは多分、ルーカス陛下だけだったろう。……すると、驚くことにおじいちゃんたちの中で、わたしの浄化を拒否したように、神力を弾いた人がいた。びっくりしてぎゅっとルーカス陛下の腕にしがみつく。
……わたしが浄化に失敗したの、これが初めてなのよ……。
「アクア? どうした?」
心配そうに尋ねて来るルーカス陛下に、わたしは首を左右に振った。おじいちゃんたちは「時間を無駄にした」といって屋敷から出て行った。……なんなんだ、本当に。
「……アクア? 顔色が悪いよ?」
ディーンが心配そうに声を掛けてきた。わたしは、がしっとディーンの手を取った。それを見ていたバーナードが怪訝そうな表情を浮かべ、それから震えているわたしに気付いたルーカス陛下が、「アクア?」と柔らかい口調で名前を呼んだ。
「――浄化を、拒否された……」
わたしの言葉があまりにも意外だったのか、みんなびっくりしたような表情を浮かべていた。そして、それは誰だった? とルーカス陛下に聞かれたから真ん中のおじいちゃん、と答えた。すると、ディーンとバーナードがハッとしたように顔を上げた。
「……十年前にも、一応容疑に掛かっていましたよね」
「……やはり、な。全く、元老院という名の暴君め……」
ルーカス陛下よりも元老院のほうが権力あるということなのかしら? そんな感じはしなかったけれど、そもそも元老院のことについても知らないしな、わたし。
「……あの、それで結局、ララはどうすれば良いのでしょうか」
「あっ、そうだった! ええと、ルーカス陛下。長老が、ララを紹介してくれました」
「あの子どものコボルトとは、話し方が随分と違うのだな」
ココのことをいっているんだろう。わたしもそれ、びっくりした。長老も流暢に喋るけど、ララはそれ以上に流暢だ。
「ということは、ララ……と言ったか。君が私の話し相手か」
「ご挨拶が遅れました。コボルトの村、長老の娘、ララと申します」
長老の娘だったんだ~……。え、娘? 孫じゃなくて、娘!?
「私は――」
「存じております、ルーカス陛下」
「そうか。……では、細かいことを色々決めようか」
ルーカス陛下の言葉に、わたしたちは顔を見合わせて……ちょっと休憩したいです、とルーカス陛下にお願いした。
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