恩を返して欲しいのはこっちのほうだ!

秋月一花

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1章

65話(1章・完)

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 結局、ララもわたしたちと一緒に暮らすことになった。お城で暮らしてもいいけれど、それだとララに負担が多いだろうし、話せる相手が身近にいたほうが良いってことで。陛下の配慮に感謝したララが深く頭を下げるのを見て、わたしもぺこりと頭を下げた。元はといえば、わたしのワガママから始まったことだし……。ララはセシリーたちに連れられていった。多分、部屋を決めるのだろう。そんで、ここから陛下の元に行くことになった。
 なんだか手伝って欲しいことがあるみたい。ララには元魔物討伐隊のひとりが護衛としてつくことになる。
 コボルトに慣れていない人たちがおもだから、ララに敵意はないよって知らせるため……もあるらしい。よくわからないけれど。

「ララを側近に?」
「ああ、信頼できる者はひとりでも多く欲しい。アクアを好きだと言い切ったところを気に入った」

 ルーカス陛下、判断基準そこでいいんですか……? と問いたいけれど、「もちろん」と返される気がして躊躇ちゅうちょした。

「私が即位して五年。まだ、完全に私が把握できているわけではないからな」
「陛下……」

 十五歳の頃に即位したんだっけ。……もしかしたら、わたしが想っている以上に、ルーカス陛下の周りは敵だらけだったのかもしれない。……だから、妹のような存在であったわたしのことを歓迎してくれたのかな、心が安らぐところが欲しかった……とか?
 ……自分で考えてなんだけど、わたしの存在でルーカス陛下の心労が増えるんじゃないかと思った。今だって、色々迷惑かけているわけで……ええと。

「……それに、昨日も言ったが、コボルトの話も気になるしな」
「コボルトの?」
「魔物でありながら、人間を襲わない種族だ。むしろ狩られる側とも言える」

 コボルトを狩る人がいる!? あんなにモフモフぷにぷにの可愛い存在を!? そんなの絶対おかしいよね! わたしの憤りを感じてか、バーナードが思いっきり呆れたような視線を向けた。

「……人間に友好的な存在なら、ララの言った通り、共存の道を探せるから、安心なさい」
「あ、はい……」
「それと、アクアに話がある。ディーン、バーナード、下がれ」

 ルーカス陛下にそう命じられたふたりは軽く頭を下げてから廊下へと出て行った。は、話しってなんだろう……とドキドキしながらルーカス陛下の言葉を待つ。

「……これからのことだが」
「はい!」

 ルーカス陛下はわたしの反応に目を瞬かせて、それから肩をすくめて淡々とこれからのことを話し始めた。前に聞いていた通り、わたしに貴族の勉強をして欲しいということと、コボルトが音楽を奏でる時は、出来るだけ見に行くこと。その時はディーンとバーナードも一緒に行くこと。この屋敷のメイド長を決めること……あとは、好きにして良いと――……。
 この屋敷でどんなことをしてもいいって。遊んでいてもいいし、やりたいことがあるなら手を貸す、と……。どうしてそこまでわたしに甘いのだろう……。

「『リネット』との約束だったからな」
「約束?」
「……アクアは覚えていないだろうな」

 そういうルーカス陛下は、とても寂しそうに見えて……覚えていないことが申し訳なくなった。わたしが失った記憶って、一体どんな記憶だったんだろう? きっと、ルーカス陛下にとってはとても大切なものだったのだろう。
「小さい頃の約束だから、覚えていないほうが当たり前かもしれないが……。私にとっては、果たしたい約束だったのだ」

 微笑みを浮かべるルーカス陛下に、わたしは小さくうなずくしか出来なかった。
 ちりちりと頭の中でなにかがくすぶっているような、そんな感覚。

「……確か、礼拝堂があったな。祈って来る」
「あ、わたしも行きます」

 礼拝堂まで行って、ルーカス陛下と共に目を閉じて神に祈りを捧げる。コボルトたちとなんとか一緒に暮らせそうですという報告も兼ねて。――祈りを捧げると、身体がぽかぽかとしてきた。そっと目を開けると、ルーカス陛下と彼の剣が淡い光を帯びているのが見えた。
 そういえば、この剣の名前ないんだっけ。聖剣なのに? と不思議そうに剣に視線を向けると祈り終えたルーカス陛下と視線が交わった。

「どうかしたか?」
「あ、ええと、その剣、名前がないんですよね。つけないんですか?」
「……元々、この剣はただの剣だったのだ。大聖女ステラが神力しんりょくを捧げたことで聖剣となった」
「え、聖剣を作ったってことですか……?」

 に、人間業じゃない……! びっくりして目を丸くすると、ルーカス陛下がふと思いついたようにわたしにその剣を渡した。思わず受け取ってしまったけれど、これをどうすれば……?

「名をつけてくれ」
「わたしが!?」

 こくりとうなずくルーカス陛下に、わたしはおろおろとした。だ、だって剣の名付けなんてやったことないよ! でも、ルーカス陛下はわたしに名付けて欲しいらしく……。ええええええ、えーっとっ! どうしよう!? ぐるぐると頭の中で考えていると、ふと大聖女ステラの名がぽんっと出て来た。ステラって星って意味だよね。前に神官長から聞いたことがある――……。

「……セイリオス」

 大聖女ステラが神力を捧げて出来た聖剣。――それなら、星の名前を付けても良いよね、きっと。昔、聞いたことがある。どこで聞いたのか忘れたけど……、確か焼き焦がすと輝くって意味。あの日魔物たちを一掃するのを思い出したのだ。

「……セイリオス、か。……気に入った。ありがとう、アクア」
「ど、どういたしまして……?」

 ルーカス陛下に名付けた剣を渡す。彼の手が剣に触れた時、ぱぁっと眩い光が礼拝堂に満ちた。驚いて目をぎゅっと強く閉じると、その光は一瞬で収まった。視線を剣に向けると、剣は輝きを増しているように見えた。……もしかして……。

「……神の祝福……?」
「……の、ようだな。聖剣セイリオスは、この国の国宝になりそうだ」

 ぴかぴかと眩い聖剣をじっと見つめてからルーカス陛下に顔を向けると、ルーカス陛下は肩をすくめながらそういった。……この剣で倒される魔物のことを思い、オーバーキルとはこのことでは……と考えてしまった。だって大聖女ステラの力だけでもかなりの威力だったのに! これが元は普通の剣だったなんて、誰が信じるだろうか……。

「まぁ、魔物退治には丁度いいな」
「……そ、う、ですか……」

 こうしてルーカス陛下は聖剣セイリオスを手に入れたのだった――……。
 いや、聖剣ってもっとちゃんとした手順があるはずだよね!? と、心の中でツッコミを入れた。
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